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 オレが何も言わずに額から汗を流していると、メルヴィスはフッと頬を緩めて、

「いえ、詮索はしますまい。どのような理由があろうとも、あなたが我々を助けてくれたのは事実なのですから」
「……いいの?」
「よくはありませぬが、あなたは悪人ではなさそうなので」
「そう言ってくれると助かるけどさ」
「ふふ、でもいずれは教えてくださると嬉しいです。それにあなたのその強さにも、私のここが疼きました」

 自身の胸を押さえながら、挑発するような彼女の目つきにドキッとする。何か興味を持たれて狙われた獲物のような感覚が走った。
 思わず彼女の胸を見てゴクリと喉を鳴らしてしまったのは不可抗力だ。

「と、ところで回復したのならさっさと行きましょう! オレが先導しますからついてきてください!」

 オレの存在について、怪しいと思っている兵士たちもいるようだが、メルヴィスの命令でちゃんと後を追ってきてくれるようだ。
 オレを先頭に、二列縦隊で突き進みながら地下八階へ下りる。するとすぐにまたモンスターが複数登場。どれも前方からだ。

「――《紅炎拳》っ!」

 炎を纏った右拳を、目にも止まらない速度でモンスターの身体に撃ち抜いていく。たった一撃でSランクモンスターが沈んでいく光景を呆気にとられながら兵士たちは見つめている。

「す、すごいものですな……。イックウ殿のレベルは幾つなのですかな?」
「オレ? オレは……72だね」
「72ですとっ!? 我が“ガラクシアース騎士団”の統括騎士団長様と同じではないですかっ!?」

 ……え、あれ、マズった?
 さすがに100とか言ったらヤバイかなって思って、少し低めに言ったつもりなのに……。もうちょっと低めに言えば良かったかも……。

「そ、それは本当ですか!? い、いや、ですがSランクを一撃で仕留めるというのは、それくらいでないと……! イックウ殿のジョブはもしや《拳王》なので!」
「え~っと……《拳聖》だね」
「やはり王級のジョブ!?」

 兵士たちも彼女の声に呼応するかのように「おお~っ!?」と歓声を上げている。

「私が憧れる王級ジョブの持ち主がこの場にいようとは……これも神の思し召しかもしれぬ! あの、イックウ殿! もしよろしかったら、“第三師団”の師団長を務めてみるのはどうですかな!」
「ぶふっ!? な、何だってっ!?」
「イックウ殿のような強者、何故今まで噂にも広がらなかったのかは不思議でなりませぬが、その実力、一介の旅人で終わらせるには惜しいです! どうか、イックウ殿! どうか!」

 頼むからそんなにグイグイとこないでほしい。凄く良い香りがして思考が定まらないから。何で女の子の汗の香りはこんなにも男心をくすぐるのだろうか。
 いやいや、別にオレは汗フェチとかじゃないからな。

「と、とにかく近い近い、メルヴィス!」
「あ、こ、これは申し訳ありませぬっ!」

 彼女も自分の体勢が、結構問題あることに気づき顔を離してくれた。少し惜しいと思ったし、もう少しでキスできたな~とか思ったのはオレだけの秘密だ。

「で、ですがイックウ殿。私の考えは変わりませぬぞ!」
「う、う~ん……悪いんだけどオレにはさ、夢があってな」
「ゆ、夢ですか?」
「うん。メルヴィスにもあるだろ?」
「もちろんです! 私の夢はいずれ王級のジョブを得て、世界一の騎士になることです!」
「へぇ……、メルヴィスのジョブは何?」

 実際は《鑑定》のスキルのお蔭で知ってるけど。

「私は《神聖騎士》です!」
「おお! 上級ジョブじゃん! メルヴィスこそ、その若さで上級はなかなか凄いぞ!」
「……あなたが申されると嫌味ですぞ?」

 あ、確かに。

 ちなみに《神聖騎士》というのは《剣士》から派生していくジョブの一つ。対比は《暗黒剣士》なのだが、《神聖騎士》になっているということは、中級ジョブで、《魔剣士》ではなく《守護騎士》を選択しているということ。
 《剣士》系は、剣や槍などの武器装備に特化したジョブで、攻守ともにバランスが良い、初心者にとっては極めるのに優しいジョブでもある。

「ごめんごめん。でも本当に凄いと思ってるから」
「幼き頃から、必死に剣の修業をしてきましたから。ですが《神聖騎士》になれたのも、つい最近なのです。まだまだです。それは今日、嫌というほど思い知りましたので」

 まあ、彼女一人だけだったら、中層エリアくらいは行けたかもしれないが。それだけ上級のジョブを取るということは凄いことなのだ。

「まあ、オレは世界中を旅してきて、いろんなモンスターとも戦ってたからなぁ。死ぬ経験も……あ、いや、死にかける経験も何度もしたし」

 実際は何十回も死んだ経験はあるんだけど……ゲームで。

「やはりイックウ殿は凄い。……ですが、まだ聞きたいことは聞けておりませぬぞ?」

 どうやら話は逸らせなかったようだ。


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