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「しかし納得致しました。このようなものがあるなら、それはイックウ殿があれほどの強さを持ち得ているのも理解ができます」
「ん? ……ああ、オレはあんまりこれを使わねーよ?」
「え?」
「だって、確かに倒せば経験値はもらえるけど、オレって、一度攻略したモンスターって、あんまり興味湧かねーんだよ。これはあくまでに暇潰しに使ってただけで」
「な、何ともったいない……」
「あ、でもやらねーぞ? これ、一個しかねーし、あの子たちの修業にも必要だかんな」
「む……確かに欲しいですが、イックウ殿の仰る通り、いずれ自分の手で手に入れようと思います」
「うん、その方が良いと思う。……お、アイツら、あと一体まで追い込んだな」

 見れば、ポアムとヒノデは見事な連携を見せて、一角ボアを残り一体まで追い詰めていた。

「ヒノデくん! 受け取ってください! 《ファーストヒール》!」

 ポアムの持つ《スチールスタッフ》の先端が光ると同時に、ヒノデの身体も光り、ダメージを受けて減ったHPゲージが少しずつ回復していく。

「忝いでござる! ではさっそく! 《火魔斬り》っ!」

 刀の銀閃が真横に走り、一角ボアの身体に赤い筋を生む。しかし浅かったのか、一角ボアはそのまま大地を蹴り出しヒノデに突進を繰り出す。

「ぐぅっ!?」

 ヒノデのHPゲージが減るが、吹き飛ばされた彼も負けじと、身体を後転させてから、大地を蹴って真っ直ぐ一角ボアへと突っ込む。

「――《トリッキング》ッ!」

 ポアムの援護で、ヒノデの動きに加速がつく。グインッと急激に変化した動きに一角ボアは困惑し身体を硬直させてしまう。

「ござるぅぅぅぅぅぅっ!」

 素早く肉薄したヒノデが、刀を真っ直ぐ振り下ろし見事、一角ボアを撃退することに成功した。そのまま一角ボアは粒子になって上空へと消えていく。

「ナイスだ! 二人とも! 次は一角ボアの亜種だ! 倒してみろ!」

 オレが《仮想戦闘書》を捲って、次なるモンスターを出現させる。
 それは先程の一角ボアより二回りほど大きく、全身が真っ黒に染め上がって威圧感が確実に倍増している。

「ちょ、殿! 連戦ですか!?」
「当たり前だ! 休みなんてねーぞ! 死亡するまで続けるからな!」
「しょ、しょんなぁぁぁ~っ!?」
「諦めてください、ヒノデくん。これはそういう修業ですから」
「ポ、ポアム殿はいつもこんな修業を!?」
「……お蔭でたまにイックウ様の寝込みを襲ってやりたい衝動にかられますが」

 少しだけポアムの闇の部分が出た瞬間だった。

「しかし、この修業のお蔭でわたしも強くなれました。ヒノデくんはわたしよりも強いです。負けませんよ!」
「ポアム殿…………いいえ、殿に追いつくためにも、拙者こそ負けてはおられんでござる!」

 オレはやる気に満ちている二人を見て頬を緩める。

 オレにもあんな頃ってあったよなぁ。……もちろんゲームの中での話だけど。

 必死でレベルを上げるためにいろんなことをやった。寝ずにコツコツとモンスターを倒してのレベル上げなんて、ゲーマーなら誰もが通る道だろう。多分。
 敵わないかもしれない敵と好奇心で戦ってみようと思うことも普通の衝動だと思う。
 別に負けてもいいのだ。負けてもいいから、次に繋がる負けを経験してほしい。

「……あの二人は強くなりますな、きっと」
「へぇ、師団長のお墨付きとあっちゃ、本物なんだろうな」
「何を申す。イックウ殿ほどの練達者であれば、彼女たちの才に気づいておろう」
「はは、才……ね」

 ……いや、そんなことまったく分からん。ポアムたちが武道の才があるのかなんて分かるわけがない。

 ただオレは彼女たちが強くなりたいと言ったから、効率の良い修業方法を試してみているだけ。オレは別に武術をならっていたわけでも、オレ自身に武術の才能があるわけでもない。
 この強さはあくまでもゲームキャラを使用しているからであって、オレの才能ではないからだ。

 だがそれでも、この世界のシステムに則って効果的に強くなるコツというのは熟知しているつもりだ。それを実践すれば確実に誰よりも強くなれる速度が増す。
 オレはただ、道を示すだけ。その道を歩いて頑張るのは、ポアムたちだ。つまりは彼女たちの努力次第。そういう意味では、彼女たちは努力の才能があるといえるだろう。

「けどま……まだ亜種には勝てねーだろうけどな」

 そう思った通り、ヒノデは一角ボア(亜種)のスキル《地震》のダメージを受けてHPゲージを残り10%ほどまで減らしてしまった。また《地震》は、広範囲攻撃でもあり、相手の攻撃範囲を見極められなかったポアムもまた攻撃を受けてしまい転倒してしまっている。

 これではポアムが回復魔法を発動させられない。そして――。


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