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「……うん。素質はありそうだけど、まだまだにょ。ボクとやりたいなら、せめてオウカのオッチャンを超えてからね~」
「う……」

 正論を突かれてしまい、押し黙ってしまうヒノデ。確かに今の彼が戦ったところで、リョフの実力の半分も引き出せずに終わるだろう。

「ヒノデを苛めるのはそれくらいにしろ。ヒノデも、今は我慢しれくれ。コイツにはいろいろ聞きたいことがあるしさ」
「……分かり申したでござる」

 渋々といった感じだが、ヒノデは引き下がってくれた。

「さてと、リョフも今は勘弁してくれ。オレはメルヴィスに何が起こってるのか、調べなきゃならねーし、元に戻してやりてーしな」
「ええ~! そんなのどうでもいいじゃ~ん」
「あのな。一応コイツとはある約束をしててな。このままじゃ、約束を破っちまうことになる。それはさすがに……さ。それともお前は、オレに約束を破れって言うのか? リーダーに言いつけちまうぞ?」
「はうわ!? そ、それだけは勘弁してにょ~! リーダーのお仕置きは嫌だしぃ~っ!」
「……自らと同等とイックウ様が認められているリョフさんがこんなに怯えるなんて……。つまり余程凄い人なんですね、イックウ様!」
「あ? ま、まーな。いろんな意味で凄い人だったよ……」

 もしかしたらあの人もコッチの世界に来てるかもしれねーけど……。そうだとしたら絶対に会いたくねえ。
 ポアムやヒノデは、一度会ってみたいとか言っているが、あの人の凄さはきっと常人には理解できないだろう。

「ああ、そういやリョフ。今更だけど、お前もコッチに来てたんだな。いつからだ?」
「ん~一か月くらい前?」
「んじゃ、オレよりも長くこの世界にいるんだな」
「あれ? 三週間前だったかも」
「はあ? どっちだよ?」
「う~ん、もしかしたら二週間半前?」
「…………お前って本当にバカだよな」
「どうでもいいことは憶えない主義だだけだにょ~」
「……変わらねーな、お前は。まあいいや。お前、もしかしたら他の奴らにも会ったりとかしたか?」
「ううん。ボク以外ももしかしたらいるかもしれないと思って探したけど、いなかったにょ。イックウが初めて初めて。だからその子がイックウの名前を言った時、一緒に行こうって思ったんだし~」
「なるほど。メルヴィスにとっては幸運だったってわけだ」

 もしそのDとの戦闘時にリョフが来なかったら、そのまま殺されていたかもしれない。彼女が来てくれたから、まだこの状態で済んだ可能性がある。

「……とりあえずポアム、ヒノデ」
「「はい!」」
「メルヴィスを元に戻すためにも、修業はちょっち中断してもいいか?」
「もちろんです、イックウ様!」
「我々にとってもメルヴィス殿は友でござるゆえ!」

 本当に二人は優しい。だから好きである。

「ん~けどなぁ、どうすりゃ元に戻せるのか……。メルヴィスが起きれば、今どんな感じなのか聞けるんだけど」
「あ、それ無理無理」
「はあ? 何でだよ、リョフ?」
「だってその子、ほとんど記憶ないし~」
「……記憶がない?」
「うん。憶えてたのは、イックウのことだけ。イックウのところに連れてけ連れてけって言うから、最初は何のことか分からなかったけど、まさかと思って、イックウって人がどんな人か聞いてみたら、あらビックリ。ボクが知ってるイックウとそっくりだし、これはもしかしたらと思ってここまでその子の案内で飛んできたにょ~」

 そういうことだったのか。
 けど記憶がないってのはどういうことだろうか……?

「…………対象の時間を奪う力ということでしょうか?」

 ポアムの言葉によって閃きが走る。

「時間を……奪う? そういやリョフ、クエストで“時間泥棒の謎を解け”ってあったよな?」
「ん~? おお~、そういやあったねぇ! 確かあれってタイムロブスターってモンスターの仕業だったんだよね~」

 ある村を襲った悲劇。その村に住む者たちすべてが子供や赤ん坊に姿を変えられた。
 調べてみると、タイムロブスターというモンスターの仕業であり、討伐依頼を受けてイックウは村を悲劇から救い出したことがある。

 とはいってもRON時代の話ではあるが。

「確かあれはモンスターを倒しても元には戻せなかったはずだ」
「そうだっけ?」
「そうだよ。あの時間を奪うって能力は、一種の呪いみたいなもんで、確か《清浄の湧き水》を使わなきゃ、元には戻らなかったんだ」

 段々思い出してきた。

「……そうだ。確かその時も、状態異常って括りじゃなかったはず。確か……」

 オレはもう一度メルヴィスを鑑定してみる。
 本来状態異常ならば、表記される名前の後ろに状態異常のアイコンが生まれる。毒、麻痺、火傷などなど、それぞれのアイコンがあるのだ。

 呪われている時は、名前の後ろにアイコンが現れるのではなく、レベルの前に黒いバツ印のアイコンが出現するはず。

「…………あった。やっぱりメルヴィスの症状は呪いだ」
「それって、状態異常ではないんですか?」
「ポアムの言う通り、普通はそうなんだけどさ。呪いは状態異常のカテゴリーに入っていないんだよなぁ。だから見落としてた」

 だがこれで、メルヴィスを戻す方法は見つけられた。
 最悪《願望の紙片》を使えば元に戻せるけど、これはポアムの時にでもとっておいてやりたいしな。できるだけ使いたくねえ。

 彼女もまた記憶喪失という異常を抱えている。しかし彼女はまだ記憶を戻すのは怖いということなので、心が決まるまで、最後の《願望の紙片》は温存しておこうと思っているのだ。

「……よし。ならさっそく《清浄の湧き水》を取りに行くか」
「あ、イックウ様! ポアムも行ってもいいですか?」
「せ、拙者も!」
「あ、ボクも暇だし行くからね~」
「リョフはまあいいけど。これから行くとこは危険度ランクでいうとB相当はある。少しの油断が死に繋がる場所だぞ」
「…………ダメ、ですか?」
「…………行きたいでござるぅ」

 おお……二人の美少女(一人は美男子だが)が、破壊力抜群の上目遣いをしてくる。
 これは男として断れない力を宿している……。

 ……ま、まあ、リョフもいるし、何があっても大丈夫だとは思うしな。

「…………分かった。けどオレの言うことはちゃんと守ること、いいな?」
「「はい!」」

 嬉しそうに破顔する彼女たち。

「あ、でもここから近いんですか? 明日はお店がありますし……」
「まー行けない距離じゃねーさ。明日までには帰って来られる。というか、最近そこに行ったこともあるし……な」
「へ? そうなんですか」
「そうなんですよ……」

 本当に偶然なのだが……。
 ここから二十キロほど東。

「まさか立て続けに行くことになるとはな、【ジャクトン湿原】に――」

 それはメルヴィスと一週間前に行った場所であった。



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