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第十話
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――三日後。
新しい街に少し慣れ始めた今日、オレはいよいよ勇者を育成する機関――【ブレイヴクス学院】へ足を踏み入れる。
一体どんな場所で、どんな教育が施されているのか興味はある。
無知は敗北に通じる罪だと考えているオレは、この学院であらゆることを学ぼうと思っていた。
元々未知への探求心が強いこともあり、久しく見ないほど授業が楽しみで心が躍っていたのである。
学院は王都の東に位置しており、その規模は一つの町のように広い。学び舎として使用する校舎や、地方から通う生徒のための寮、豊富な訓練施設など様々に充実した設備が整っている。
学院は巨大な外壁に囲まれていて、何よりも驚いたのは正門の荘厳さであろう。
現在、件の正門の前にいるのだが……。
「まるで巨人が住む【ヴェルフ郷】にあった城門みたいだな」
過去の記憶から似たような門構えを思い出して感嘆の溜息を漏らす。
それほどまでに大きくて重厚、それでいて見栄えの良い高尚な造りの門であった。
両開きのその門が、生徒たちを出迎えるために開いている。
そしてオレと同じ制服を着用した者たちが、次々と門を潜っていく。
「……む?」
オレの脇を軽やかに通り抜けていく人影。
相手はヒナテだった。女性用の制服に身を包んだ姿は初めてみたが存外似合っている。
ただ不機嫌そうな顔に、明らかに近づくなオーラを醸しながら歩いているので、すれ違う者たちも、その異様な雰囲気に引いていた。
外見はあのクーの血筋であり、トーカにも似ていることから悪くはない。いや、むしろ美麗な顔立ちだし男の目を惹きつけることだろう。
しかし今の彼女とお近づきになろうとする者はいそうにない。
「おい、待て」
「! ……何よ?」
「クーから一緒に行けと言われただろう?」
「だから仕方なくここまで一緒に来てあげたでしょ。目的地には着いたわ。だからはい、さよなら」
相変わらずのツンケンぶりである。
初めて邂逅した日から、その姿をほとんど目にすることはなかった。
何せこの三日間、彼女が部屋から出てくるのを見たことがなかったからだ。必要最低限、風呂やトイレなどの事情があった時だけ、部屋から出ていたようだが、少なくともオレと対面し会話をした記憶はない。
クーも何とかしたいと言ってはいたが、ちゃんとメイドが部屋に届けた飯も食うし、クーとは自室で会話などもしているようで、結局そのままにしたというのが現状だ。
やれやれ、これじゃ先が思いやられるな。
クーに彼女のことを頼むと言われたが、ああまで距離を取られるとマジで厄介である。
とりあえず立ち止まっているわけにはいかないので、オレも学院の敷地内に入ることにした。
ぞろぞろと集まってくる子供たちを見て内心では驚いていた。
まさかこれだけの人材を集め、魔法や戦闘を教育する機関があるとはな。
昔ではとても考えられないことである。
それに多くの者たちが笑顔を浮かべ、平和な日常を満喫している様子だ。
外ではまだ魔人族と戦争しているというのに、この光景は一体どうして生まれるのだろうか。
ジイ曰く、それも現行の勇者たちが頑張っているお蔭だというが。
……本当に時代は変わったんだな。
オレは五百年前との明らかな時代の違いに肩を竦め、入学生を集めた講堂とやらに急ぐことにした。
行動にも多種多様なガキどもが鬱陶しいくらいまでに集まっている。
全部が今年入学した生徒だけではなく、他の学年――つまり上級性もいるらしい。
見分けるポイントとしては、右肩部分に入った〝Ⅰ〟、〝Ⅱ〟、〝Ⅲ〟の記号だ。
この学院は三学年まであり、オレは一学年として〝Ⅰ〟の刺繍が入っている。
また〝Ⅱ〟と〝Ⅲ〟を背負う生徒たちだが、オレたちとは違い、左肩にはそれぞれ色のついた線が袖まで伸びている。
銀、赤、緑、青、白……なるほどな。
恐らく《魔色》によって区分けされているのだろう。一目見て誰がどの色なのか分かるようにするためらしい。
そんな上級生だが、入学生たちを値踏みするかのように見つめている。
クーにも聞いたが、この学院は完全な実力主義であり、当然《魔色》によって優劣が決められているという。
まだ入学生は〝線〟を持たないが、上級生はライバルになるであろう者たちを注視しているのだろう。
自分たちの立場を守るために出る杭を叩くか、あるいは仲間に引き入れるか、それ以外にもいろいろ思惑があって観察しているに違いない。
壇上では学院長と名乗る女性が立って挨拶をしている。
こうして入学生を歓迎する式は、どこかピリピリと空気の中、滞りなく終わった。
上級生たちはそのまま自分たちの教室へと向かうが、オレたち入学生はこれから検査がある。
――《魔色》を調べる判別検査だ。
そこでこれからの学院生活の大半が決定するといっても過言ではない。
だからこそか、自信満々に胸を張っている者、そわそわと落ち着くの無い者、見るからに不安を表情に出している者など様々だ。
自分の《魔色》などすでに知っている故の、それぞれの反応だろう。
講堂には、幾つかのブースが用意され、そこには各々に教師らしき人物たちが着き、恐らく生徒たちのプロフィールが載っているであろう資料を持って待機している。
生徒は一人一人、ブースに入って教師の前で《魔色》を見せるのだ。
そうして判別され、相応のクラスへと配属されるというシステムらしい。
面倒だが、ここを通らなければ自分の所属クラスさえ決まらないので、オレも一つのブースに並ぶ。
「「「「おおぉぉぉぉぉ~!」」」」
するとその時、一つのブースから歓声が響いてきた。
見ると、一人の生徒が衆目の興味を一身に受けていたのである。
「ほう……《銀魔》か」
現代世界において《銀魔》というのは貴重とされている。多くの魔石に順応する万能性に富んだ魔力で、これを持つ勇者は例外なくトップクラスに位置しているという。
百人いれば一人いるかいないかとされる確率だ。
ま、五百年前も《銀魔》は確かに珍しかったがな。
オレが知っている《銀魔》の使い手というのは、その多くは『精霊族』だったからだ。
もしくは彼らの加護を持つ種族。
つまりただの一般人では、それこそ滅多にお目にかかれない《魔色》ではあった。
そんな稀少な力を持つ奴が……あの女か。
視線の先にいるのは、周囲の注目を浴びても凛然としている女子生徒だ。
佇まいはまるで騎士のような風格を持つ彼女だが、腰まで伸びた銀髪は輝きを放つほど美しく、顔立ちも男だけでなく女ですら見惚れるほどに整っている。
まさに才色兼備といった風体だ。事実、心を奪われた男女たちが、口をポカンと開けて魅入ってしまっている。
ちなみに彼女の左肩を見ると、ひとりでに銀色の線がくっきりと袖まで浮き上がっていく。
どうやら《魔色》に反応する素材らしく、対応した色に染まるようだ。
面白い原理だと思っていると、そこへもう一度大きな歓声が轟く。
視線を向けると、そこには魔力を天井まで立ち昇らせている男子生徒がいた。
こちらは先程の女とは違い、爽やか笑顔を浮かべながら両腕を広げて、まるでデモンストレーションでもしているかのようだ。
その表情には明らかな自信と優越感が宿っている。
さらに他に二人も同じように銀色を魔力を放つ生徒がいた。
「すげえ、《銀魔》なんて初めて見たぜ。しかも四人なんて今年はどうなってんだ?」
「ああ、毎年一人いるかいないだって話だしな。それに見ろよおい」
野次馬どもが視線を向けると、その先には《赤魔》を放出させる生徒たちが次々と発見される。
「あんなに《赤魔》もいるなんて、今年は豊作過ぎるだろ……俺……やってけるかな」
「うっ……だ、大丈夫だって! 見ろよほら!」
そう言って彼らが今度のターゲットに選んだのは――。
「……くっ!」
悔し気に歯を食いしばりながら魔力を放つヒナテの姿があった。
「あんな身の程知らずだっているんだぞ。少なくとも俺らは落ちこぼれなんかじゃねえって」
「だよな。あー良かったぁ。《白魔》なんてイコール無能と一緒だしな。一般人と変わらねえ。つーか、よくもまあ伝統あるこの学院に通おうって思ったよな」
「マジそれな。俺だったら勇者なんて諦めて農夫にでもなるわ」
彼らだけでなく、ヒナテを見た者たちは口々に卑下するようなことを言っている。
ずいぶん口だけが達者な奴が多いらしい。
ヒナテも自分が憐憫の情を受けていることに気づいたのか、一層悔しそうに拳を震わせると、そのまま講堂を走り去っていってしまった。
アイツ……逃げたところで何も変わらんというのに。
オレはやれやれと肩を竦めると、何やら視線を感じてそちらを確認する。
そこには眠そうに欠伸をしている小柄な女生徒がいた。こちらは見ていない。しかも今話題に上がっている《銀魔》の一人でもある。
……気のせい、か?
そこでちょうどオレの番に来たので教師の前に立つ。
「クリュウ・A・ユーダム……? ユーダム? いや、まあいい。君の《魔色》を見せなさい」
オレに指図するなと言いたいが、ここは黙ってポケットに手を突っ込みながら魔力を身体から放出した。
「っ!? こ、これは――っ!?」
教師が驚嘆すると同時に、周りの生徒たちも一様に視線を向けてくる。
「えっ、嘘!? あれってまさか!?」
「黒い……魔力? おいおい、マジかよ!?」
「《黒魔》……よねアレ? ていうか本当にあんな《魔色》ってあったんだ……!」
などなど、ヒナテと比べても明らかに一回りも二回りも大きい反応が周囲から起こる。
例の《銀魔》たちも、オレを見て言葉を失っているようだ。
やはり相当《黒魔》というのは珍しいらしい。
左肩から袖にかけても、くっきりと確かな黒い線が走っていた。
「ク、クリュウ・A・ユーダムといったね? それが君の魔力……かい?」
「見て分からないのか? さっさと判別してくれ。いつまで晒し者にしておくつもりだ?」
「……! す、すまない! 判別は終了だ!」
教師が慌てながらも、手持ちの資料に何かを書き込んでいく。
オレは魔力を消失させると、そのまま好奇の視線を風のように受け流しつつ、踵を返して講堂をから出る。
先程ヒナテが出て行った出入り口から――。
まだ帰宅するには早いので、恐らく人気のない場所にでも言ったのだろうと思い探してみると、講堂の裏手の方からヒナテの魔力を感じたので向かってみた。
すると案の定誰もいない場所で、行動の壁に背を着けて屈んでいる彼女を発見した。
声をかけようと近づいてみるが……。
「……分かってたことじゃない」
彼女から声が漏れ聞こえてきたので、足を止めて息を潜めた。
「こんなことで諦めるわけにはいかないわ。そうよね――ミミ」
ミミ……?
明らかにヒナテは誰かを想って声に出した。
「――よし! 暗くなるのは終わり! 見てなさいよ、《白魔》だって《銀魔》に負けないってところを見せつけてやるんだからっ!」
……どうやら下手な気を回す必要はなかったな。
オレは音を立てずにその場から離れていく。
そうして再度講堂に戻ると、ちょうど全員の判別が終わったのか、教師が入学生たちを集め始めた。
その際にヒナテも戻ってきて、同じように列へと並ぶ。
当然というか、オレもそうだが一人戻ってきたヒナテも他の生徒たちの注目を浴びるが、どこ吹く風のように毅然としていた。
本日は入学式と判別だけで予定は終了だと教師は言う。
明日は、校内掲示板にクラス発表が書かれた紙が貼られるので、それを見て該当するクラスへと向かうようにとのこと。
これで解散ということで、オレたち生徒は各々の住まいがある場所へと戻っていった。
新しい街に少し慣れ始めた今日、オレはいよいよ勇者を育成する機関――【ブレイヴクス学院】へ足を踏み入れる。
一体どんな場所で、どんな教育が施されているのか興味はある。
無知は敗北に通じる罪だと考えているオレは、この学院であらゆることを学ぼうと思っていた。
元々未知への探求心が強いこともあり、久しく見ないほど授業が楽しみで心が躍っていたのである。
学院は王都の東に位置しており、その規模は一つの町のように広い。学び舎として使用する校舎や、地方から通う生徒のための寮、豊富な訓練施設など様々に充実した設備が整っている。
学院は巨大な外壁に囲まれていて、何よりも驚いたのは正門の荘厳さであろう。
現在、件の正門の前にいるのだが……。
「まるで巨人が住む【ヴェルフ郷】にあった城門みたいだな」
過去の記憶から似たような門構えを思い出して感嘆の溜息を漏らす。
それほどまでに大きくて重厚、それでいて見栄えの良い高尚な造りの門であった。
両開きのその門が、生徒たちを出迎えるために開いている。
そしてオレと同じ制服を着用した者たちが、次々と門を潜っていく。
「……む?」
オレの脇を軽やかに通り抜けていく人影。
相手はヒナテだった。女性用の制服に身を包んだ姿は初めてみたが存外似合っている。
ただ不機嫌そうな顔に、明らかに近づくなオーラを醸しながら歩いているので、すれ違う者たちも、その異様な雰囲気に引いていた。
外見はあのクーの血筋であり、トーカにも似ていることから悪くはない。いや、むしろ美麗な顔立ちだし男の目を惹きつけることだろう。
しかし今の彼女とお近づきになろうとする者はいそうにない。
「おい、待て」
「! ……何よ?」
「クーから一緒に行けと言われただろう?」
「だから仕方なくここまで一緒に来てあげたでしょ。目的地には着いたわ。だからはい、さよなら」
相変わらずのツンケンぶりである。
初めて邂逅した日から、その姿をほとんど目にすることはなかった。
何せこの三日間、彼女が部屋から出てくるのを見たことがなかったからだ。必要最低限、風呂やトイレなどの事情があった時だけ、部屋から出ていたようだが、少なくともオレと対面し会話をした記憶はない。
クーも何とかしたいと言ってはいたが、ちゃんとメイドが部屋に届けた飯も食うし、クーとは自室で会話などもしているようで、結局そのままにしたというのが現状だ。
やれやれ、これじゃ先が思いやられるな。
クーに彼女のことを頼むと言われたが、ああまで距離を取られるとマジで厄介である。
とりあえず立ち止まっているわけにはいかないので、オレも学院の敷地内に入ることにした。
ぞろぞろと集まってくる子供たちを見て内心では驚いていた。
まさかこれだけの人材を集め、魔法や戦闘を教育する機関があるとはな。
昔ではとても考えられないことである。
それに多くの者たちが笑顔を浮かべ、平和な日常を満喫している様子だ。
外ではまだ魔人族と戦争しているというのに、この光景は一体どうして生まれるのだろうか。
ジイ曰く、それも現行の勇者たちが頑張っているお蔭だというが。
……本当に時代は変わったんだな。
オレは五百年前との明らかな時代の違いに肩を竦め、入学生を集めた講堂とやらに急ぐことにした。
行動にも多種多様なガキどもが鬱陶しいくらいまでに集まっている。
全部が今年入学した生徒だけではなく、他の学年――つまり上級性もいるらしい。
見分けるポイントとしては、右肩部分に入った〝Ⅰ〟、〝Ⅱ〟、〝Ⅲ〟の記号だ。
この学院は三学年まであり、オレは一学年として〝Ⅰ〟の刺繍が入っている。
また〝Ⅱ〟と〝Ⅲ〟を背負う生徒たちだが、オレたちとは違い、左肩にはそれぞれ色のついた線が袖まで伸びている。
銀、赤、緑、青、白……なるほどな。
恐らく《魔色》によって区分けされているのだろう。一目見て誰がどの色なのか分かるようにするためらしい。
そんな上級生だが、入学生たちを値踏みするかのように見つめている。
クーにも聞いたが、この学院は完全な実力主義であり、当然《魔色》によって優劣が決められているという。
まだ入学生は〝線〟を持たないが、上級生はライバルになるであろう者たちを注視しているのだろう。
自分たちの立場を守るために出る杭を叩くか、あるいは仲間に引き入れるか、それ以外にもいろいろ思惑があって観察しているに違いない。
壇上では学院長と名乗る女性が立って挨拶をしている。
こうして入学生を歓迎する式は、どこかピリピリと空気の中、滞りなく終わった。
上級生たちはそのまま自分たちの教室へと向かうが、オレたち入学生はこれから検査がある。
――《魔色》を調べる判別検査だ。
そこでこれからの学院生活の大半が決定するといっても過言ではない。
だからこそか、自信満々に胸を張っている者、そわそわと落ち着くの無い者、見るからに不安を表情に出している者など様々だ。
自分の《魔色》などすでに知っている故の、それぞれの反応だろう。
講堂には、幾つかのブースが用意され、そこには各々に教師らしき人物たちが着き、恐らく生徒たちのプロフィールが載っているであろう資料を持って待機している。
生徒は一人一人、ブースに入って教師の前で《魔色》を見せるのだ。
そうして判別され、相応のクラスへと配属されるというシステムらしい。
面倒だが、ここを通らなければ自分の所属クラスさえ決まらないので、オレも一つのブースに並ぶ。
「「「「おおぉぉぉぉぉ~!」」」」
するとその時、一つのブースから歓声が響いてきた。
見ると、一人の生徒が衆目の興味を一身に受けていたのである。
「ほう……《銀魔》か」
現代世界において《銀魔》というのは貴重とされている。多くの魔石に順応する万能性に富んだ魔力で、これを持つ勇者は例外なくトップクラスに位置しているという。
百人いれば一人いるかいないかとされる確率だ。
ま、五百年前も《銀魔》は確かに珍しかったがな。
オレが知っている《銀魔》の使い手というのは、その多くは『精霊族』だったからだ。
もしくは彼らの加護を持つ種族。
つまりただの一般人では、それこそ滅多にお目にかかれない《魔色》ではあった。
そんな稀少な力を持つ奴が……あの女か。
視線の先にいるのは、周囲の注目を浴びても凛然としている女子生徒だ。
佇まいはまるで騎士のような風格を持つ彼女だが、腰まで伸びた銀髪は輝きを放つほど美しく、顔立ちも男だけでなく女ですら見惚れるほどに整っている。
まさに才色兼備といった風体だ。事実、心を奪われた男女たちが、口をポカンと開けて魅入ってしまっている。
ちなみに彼女の左肩を見ると、ひとりでに銀色の線がくっきりと袖まで浮き上がっていく。
どうやら《魔色》に反応する素材らしく、対応した色に染まるようだ。
面白い原理だと思っていると、そこへもう一度大きな歓声が轟く。
視線を向けると、そこには魔力を天井まで立ち昇らせている男子生徒がいた。
こちらは先程の女とは違い、爽やか笑顔を浮かべながら両腕を広げて、まるでデモンストレーションでもしているかのようだ。
その表情には明らかな自信と優越感が宿っている。
さらに他に二人も同じように銀色を魔力を放つ生徒がいた。
「すげえ、《銀魔》なんて初めて見たぜ。しかも四人なんて今年はどうなってんだ?」
「ああ、毎年一人いるかいないだって話だしな。それに見ろよおい」
野次馬どもが視線を向けると、その先には《赤魔》を放出させる生徒たちが次々と発見される。
「あんなに《赤魔》もいるなんて、今年は豊作過ぎるだろ……俺……やってけるかな」
「うっ……だ、大丈夫だって! 見ろよほら!」
そう言って彼らが今度のターゲットに選んだのは――。
「……くっ!」
悔し気に歯を食いしばりながら魔力を放つヒナテの姿があった。
「あんな身の程知らずだっているんだぞ。少なくとも俺らは落ちこぼれなんかじゃねえって」
「だよな。あー良かったぁ。《白魔》なんてイコール無能と一緒だしな。一般人と変わらねえ。つーか、よくもまあ伝統あるこの学院に通おうって思ったよな」
「マジそれな。俺だったら勇者なんて諦めて農夫にでもなるわ」
彼らだけでなく、ヒナテを見た者たちは口々に卑下するようなことを言っている。
ずいぶん口だけが達者な奴が多いらしい。
ヒナテも自分が憐憫の情を受けていることに気づいたのか、一層悔しそうに拳を震わせると、そのまま講堂を走り去っていってしまった。
アイツ……逃げたところで何も変わらんというのに。
オレはやれやれと肩を竦めると、何やら視線を感じてそちらを確認する。
そこには眠そうに欠伸をしている小柄な女生徒がいた。こちらは見ていない。しかも今話題に上がっている《銀魔》の一人でもある。
……気のせい、か?
そこでちょうどオレの番に来たので教師の前に立つ。
「クリュウ・A・ユーダム……? ユーダム? いや、まあいい。君の《魔色》を見せなさい」
オレに指図するなと言いたいが、ここは黙ってポケットに手を突っ込みながら魔力を身体から放出した。
「っ!? こ、これは――っ!?」
教師が驚嘆すると同時に、周りの生徒たちも一様に視線を向けてくる。
「えっ、嘘!? あれってまさか!?」
「黒い……魔力? おいおい、マジかよ!?」
「《黒魔》……よねアレ? ていうか本当にあんな《魔色》ってあったんだ……!」
などなど、ヒナテと比べても明らかに一回りも二回りも大きい反応が周囲から起こる。
例の《銀魔》たちも、オレを見て言葉を失っているようだ。
やはり相当《黒魔》というのは珍しいらしい。
左肩から袖にかけても、くっきりと確かな黒い線が走っていた。
「ク、クリュウ・A・ユーダムといったね? それが君の魔力……かい?」
「見て分からないのか? さっさと判別してくれ。いつまで晒し者にしておくつもりだ?」
「……! す、すまない! 判別は終了だ!」
教師が慌てながらも、手持ちの資料に何かを書き込んでいく。
オレは魔力を消失させると、そのまま好奇の視線を風のように受け流しつつ、踵を返して講堂をから出る。
先程ヒナテが出て行った出入り口から――。
まだ帰宅するには早いので、恐らく人気のない場所にでも言ったのだろうと思い探してみると、講堂の裏手の方からヒナテの魔力を感じたので向かってみた。
すると案の定誰もいない場所で、行動の壁に背を着けて屈んでいる彼女を発見した。
声をかけようと近づいてみるが……。
「……分かってたことじゃない」
彼女から声が漏れ聞こえてきたので、足を止めて息を潜めた。
「こんなことで諦めるわけにはいかないわ。そうよね――ミミ」
ミミ……?
明らかにヒナテは誰かを想って声に出した。
「――よし! 暗くなるのは終わり! 見てなさいよ、《白魔》だって《銀魔》に負けないってところを見せつけてやるんだからっ!」
……どうやら下手な気を回す必要はなかったな。
オレは音を立てずにその場から離れていく。
そうして再度講堂に戻ると、ちょうど全員の判別が終わったのか、教師が入学生たちを集め始めた。
その際にヒナテも戻ってきて、同じように列へと並ぶ。
当然というか、オレもそうだが一人戻ってきたヒナテも他の生徒たちの注目を浴びるが、どこ吹く風のように毅然としていた。
本日は入学式と判別だけで予定は終了だと教師は言う。
明日は、校内掲示板にクラス発表が書かれた紙が貼られるので、それを見て該当するクラスへと向かうようにとのこと。
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