欠陥色の転生魔王 ~五百年後の世界で勇者を目指す~

十本スイ

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第二十九話

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 ――〝新人祭〟当日。

 今年入学した生徒たちのための歓迎会。
 学院の敷地内という小規模な範囲ではあるが、街の人たちから有志を募って出店を出してくれる。また上級生による催し物などもあり、小さくても確かな祭りが開催されていた。

 その中でもやはり目玉なのが、クラス代表同士で行われる模擬試合である。
 行われる場所は第三演習場とされているドーム型の建物の中だ。
 円形になっている観客席には、上級生や入学生たちが詰め寄って観戦ムードである。

 VIP席も備え付けられてあり、そこには来賓客や学院長など、お偉いさん専用の観覧席だ。
 そしてそんな中、学院長であるオリエッタ・フロル・イースエルは、隣に腰を下ろしている全身を古びれたローブで覆っている人物に向かって言葉を発する。

「しかしたかが〝新人祭〟の模擬試合程度で足をお運びになられるとは、初めてではございませんか?」
「……いやはや、そうだったかのう」

 しわがれた声が、フードの中から響く。
 オリエッタは咳払いを一つすると、スッと探るような目つきでローブの人物を見る。

「さすがのあなた様でも、やはり自分の孫が出場すれば気になりますか――――ギルバッド・ユーダム様?」

 フードの奥に隠された正体は、クリュウの育ての親であるギルバッドだった。

「まさか護衛もなしに、突然訪問された時は驚きましたが」
「いや何、ちょいと気になってのう。こちらこそすまんのう、いきなり観戦したいとの無茶を通してくれて」
「何を仰いますか。あなた様ならいつでも歓迎です。何せかつて勇名を馳せた、かの『六星勇者』のお一人なのでございますから」

 しかし……と、少し残念そうな雰囲気を醸し出しながらオリエッタは言う。

「かの英傑の血筋からでも《黒魔》が生まれるとは、運命とは皮肉ですね」
「運命……のう」
「それとも何か関係があるんですかね。かつてあなた様とともに戦った同じ『六星勇者』のジョヴ様と。あの方も確か《黒魔》だったかと」
「…………」
「あの方に子孫がいたとは聞いていませんでしたが。……まさか」
「ほっほっほ。オリエッタ殿、好奇心は猫をも殺しますぞ?」

 射貫くような視線がギルバッドから放たれ、オリエッタは息を飲む。

「っ……これは不躾でした、申し訳ございません」
「ほっほっほ。なぁに、本当に今日は家族としてただ孫を見に来ただけじゃて」
「そ、そうですか。では英傑の血を引く彼がどこまでやれるか楽しみですね」
「……いやまあ、本当はやり過ぎないか心配で見に来ただけなんじゃがな」
「は? 何か仰いましたか?」
「い、いいや! 何でもないぞ! あー早く始まらんかのう!」

 わざとらしく声を上げるギルバッドに、些か不審なものを感じたようにオリエッタは眉をひそめるが、それも驚嘆するほどの歓声によって意識はそっちに持っていかれた。


     ※


 模擬試合はトーナメント方式で行われる。
 事前に引かされたクジにより、オレとヒナテが所属する【ジェムストーン】は、第二試合目になった。ただその結果に、誰もが勝敗の見えた試合に溜め息を漏らす。

 理由は簡単だ。
 そもそもオレたちに期待するような輩はいないし、よりにもよって最弱とされる《白魔》と《黒魔》だから尚更が。

 さらに追い打ちをかけるように、対戦相手が――【エメラルドタイガー】。
 唯一《銀魔》が出場するクラスに当たってしまったのである。
 せめて他のクラスならと、誰もが思うことだろう。
 クジ運まで見放されたのだと多くの者は笑う。しかし――。

「初っ端から《銀魔》相手ね! 上等だわ!」

 オレの隣に立つパートナーは、怖れも知らずやる気十分である。
 それにしても初戦からアイツが相手とはな……。

 謎の猫娘――ウーナン・アミッツ。

 人懐っこい態度とは裏腹に、何か腹に一物を抱えているのは間違いない。
 一体その腹の中にはどんなものが眠っているのか。
 考えても答えは出ない。すべては相対して初めて分かることだろう。

 今はこの未熟な勇者候補性のために、少しでも他の者たちの戦いを見せるだけだ。
 現在オレとヒナテは、観客席の上の方で試合が始まるのを待っている。
 ふとVIP席を見ると、向こうもこちらの視線に気づいて手を振ってきた者がいた。

 あのジジイ……連絡くらいすりゃいいものを。

 そこに居座るジイを見て、思わず溜め息が零れ出る。
 しかしVIP席に歓迎されるとは、やはり相応の立場にジイはいるようだ。
 すると対面する出口から、それぞれの代表が姿を見せた。

 『ガーネットホーク』 VS 『ダイヤモンドウルフ』

 どちらも《赤魔》で揃えたコンビである。そしてその中には、あのロンの姿も見えた。相変わらず不適そうな笑みを浮かべたままだ。

 やはりアイツ……何か気になる。

 こう初めて会ったようなそうでないような、不思議な感覚なのだ。これは一体……。
 そうこうしているうちに試合のゴングが鳴らされた。
 まず先制攻撃にて試合のイニシアティブを取ったのは『ダイヤモンドウルフ』である。
 二人のコンビプレイが上手く噛み合っているようで、ロンたちは押されていた。

 ロンのパートナーが相手の魔力弾をその身に受けてしまいポイントを失う。
 そう、この試合はポイント制だ。たとえ強力なダメージを受けなくても、有効打だと判断されれば持ち点の10点から減っていく。

 しっかり防御するか回避するかしないと、チマチマ攻撃が当たるだけでも敗北に繋がってしまうのだ。
 観客たちは会場内に設置されたモニターで、各々の現状ポイントを確認することが可能。

 また着用しているバトルスーツの右手首に装着された機械に、残りポイントが映し出されるので、当人たちはそれを見て確認することができるのだ。
 どうやらロンたちのコンビは連携が悪い。互いにフォローもできない距離におり、それぞれ単独で戦っているだけ。

 大して『ダイヤモンドウルフ』は、パートナー同士が着かず離れずで、良い距離感を保ち、互いの視界を共有するかのようなナイスコンビネーションを見せている。
 さらに前衛と後衛とに分かれバランスも良く、なるほど、戦い慣れた見事な動きだ。

 制限時間の三十分が半分を切った頃、終始圧倒していた『ダイヤモンドウルフ』の優勢は揺り動くことなく、ロンたちは窮地に立たされていた。
 とはいってもロンはまだ残りポイントが10だ。問題なのはそのパートナーが残り1ということ。

「お、おいロン! 俺にポイント譲渡を!」

 そうパートナーが願うが、ロンは何事もなかったかのようにパートナーから距離を取る。 
 するとその直後、ロンのパートナーは攻撃を受けてしまいポイントが0。つまり失格となった。

 これで残りはロンだけ。対して相手は8ポイントと7ポイント。どう考えても不利な状況だ。そもそもロンは逃げ回るだけで、一度も攻撃を放っていないのである。
 一体何を考えているのか、オレは気になり奴を注視していると……。

「…………よし、種蒔きは終わった」

 ここからは声までは聞こえないが、口の形でそう呟いたのを目にした。

 種蒔き……? 一体何のことだ?

 そして今まで逃げ回っていたロンが、あろうことか立ち止まり驚くべき行動を取ったのである。

「――――降参です。参りました」

 突然の降参宣言だった。
 対戦相手たちもロンがいきなり両手を挙げたので戸惑っている様子。

 当然だろう。何せまだロンは無傷に等しいのだから。しかし間違いなく誰にも聞こえるような宣告に、審判役の教師から試合終了の合図が出された。
 皆が不思議に包まれる中、ロンは息も乱さずに微笑を浮かべながら踵を返す。そのままざわつく観衆の視線を浴びつつ会場から去ったのである。

「えあ、あ、う、嘘? アイツ、降参って何考えてんのよ!」

 オレもヒナテと同じ気持ちだ。一体アイツは何がしたかったのだろうか。
 最初から奴の戦い方を見ていたが、勝つ気など微塵もない動きだった。
 それに相手の攻撃を見切る目と身体の動きは、容易に相手よりも実力が上だったのだ。

 その気になったら一人でも勝ちを得たであろう。
 そんな力がありながら、どうして何の結果も残さずにリタイアしたのか。
 唖然としていたロンのパートナーも、すぐに彼を怒鳴りながら追いかけていった。

「ったく何よ! 出場するなら全力で勝ちにいきなさいよね!」
「……どうやらやる気は十分のようだな」
「当然よ!」
「……手が震えてるぞ?」
「うぐ……む、武者震い……だから」

 やはりこれだけの人の眼が集中する中で戦うのは不安なのかもしれない。
 こんな大舞台で力を振るったことなどないだろうに。
 それにただ戦うだけではダメというオマケつき。

 オレたちは最低でも一勝しなければならないのだ。
 しかし勝ちをもぎ取らなければならない対戦相手が《銀魔》というのだから、彼女にとって恐怖で振るえてしまうのも分かる。

「緊張するなとは言わん。だがお前が何もしないなら、オレだけで全部終わらせるぞ。それでお前が納得するならな」
「! 冗談じゃないわ! 私だってアンタに修練をつけてもらってから死に物狂いで鍛え上げてきたんだもの! それに……みんなを見返す良い機会よ!」
「その調子だ。じゃあ行くぞ」
「ええっ!」

 オレたちの戦場へと――。



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