欠陥色の転生魔王 ~五百年後の世界で勇者を目指す~

十本スイ

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第三十話

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「おい待てよ! 待てって言ってんだろ、ロンッ!」

 無視して歩き続けるロンの肩を掴んだのは、先程までともに戦っていたパートナーの男子生徒だった。

「……何か?」
「何かじゃねえよ! 何でポイント譲渡しねえ! そうすりゃまだ俺は戦えたんだぞ! いや、んなことより途中リタイアって何考えてんだよ!」

 鼻息荒く怒鳴りつける男子生徒に対し、ロンはわざとらしく大きな溜息を吐く。

「仕方ないなぁ。一つ一つ説明してあげようか」
「な、何を……」
「まず一つ。明らかに向こうの実力の方があなたよりも上だったし、たとえ僅かながらの延命措置をしたところで無意味」
「んなっ!?」
「一つ、そもそも僕は最初からリタイアするつもりでしたし」
「は、はあ!? あのな、お前が出られなくなったうちのエースの代わりに出たいって言ったんだろうが!」
「まあね。出ることが目的だったからね。勝つことじゃない」
「っ!? お、お前何言ってんだよ……!」

 男子生徒にとってロンの言い分は、とても理解できるものではなかったのだろう。

「つーかロン、お前ってそんな淡白な奴だったか?」
「……は?」
「だってお前、もっとこう自意識過剰な奴っていうか……好戦的だったよな?」

 男子生徒の見解では、目の前にいるロンは不可思議な変わり方をしている様子だ。

 するとロンは呆れたように頭を振ると――。

「――――え?」

 男子生徒の胸を、自身の手刀で貫いたのである。

「がふぁっ!? なっ……にを……っ!?」
「いやぁ、好戦的なロンが好みだったようなのでつい」

 ロンが腕を抜くと同時に、夥しい血液が噴出する。
 男子生徒はそのままガクッと両膝をつき、口からも大量の血を吐く。

 何かを訴えかけるように口をパクパクと動かす男子生徒を、冷酷なまでの眼差しで見下ろすロン。
 そして血に塗れた右手をおもむろに高く上げて、

「ああそうそう。もう一つ教えておこうか。――お前って誰に言ってんだ小僧」

 振り下ろした瞬間、男子生徒の首はいとも簡単に切断された。

「あ、しまった。これじゃ惨殺事件が起きたって丸分かりか」

 するとロンは、自分の指を噛み切って、傍の壁に擦り付けた。

 ――ズズズズズズズ……。

 血液が付着した壁が、徐々に黒々と歪み始め、それが次第に広がったかと思うと、不気味な光がそこから放たれた。
 それと同時に、遺体と血液が徐々に石化し始める。

 そして空間の歪みから、ぬぅ……っと、おもむろに何かが伸び出てきた。
 毒々しい紫色をしたそれは――巨大な舌だ。

 ウネウネと動きながら涎を滴らせ、石化した部分を舐め回していく。
 血液も一緒に男子生徒も舌に舐めとられ、そのまま舌は満足したかのように歪みへと戻っていった。
 気づけば先程まで惨殺現場だったのに、何事もなかったかのような光景に戻っている。

「これでよし、と。さあ――これから楽しいパーティの時間だ」

 それまでのロンとは打って変わったような邪悪な笑みを浮かべながら、彼は静かにその場を去って行った。




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