欠陥色の転生魔王 ~五百年後の世界で勇者を目指す~

十本スイ

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第三十一話

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 試合会場に足を踏み入れた瞬間、周りから歓声が轟く。
 しかしそれはオレやヒナテに向けられたものではない。
 当然のごとく、現在オレたちの目前に立つ対戦相手に対してのものである。
 誰もが《銀魔》の戦いを楽しみにしているようだ。

「あっ、やっほー、リューくぅん!」

 これから戦い合うというのに、朗らかな表情で手を振ってくる奴がいる。
 言わずと知れた猫娘――ウーナン・アミッツだ。

「え? ねえ、あのネコミミフード、こっちに向けて手を振ってきてるけど? ……リューくんって……知り合い?」
「初対面だ」
「あーっ、そゆこと言うんにゃ! あれだけ身体を寄せ合って語り合ったっていうのにぃ!」

 何て爆撃をしてくる奴なんだ。

「か、かかか身体を寄せ!? ちょ、クリュウ! アンタあの子と何してるの!?」
「別に何もしてない。ただ二度ほど昼休みにあっただけの赤の他人だ」
「そ、そうなの?」
「嘘にゃ! そっちの子、騙されてはいけにゃいにゃ! リューくんは僕に初めての経験をさせたにゃ! あの時は…………もの凄~く痛かったにゃ」

 アイアンクローのことを言っているのだろうが……。

「な、なななななななぁっ!?」

 知ってたが、これ以上喋らせていては面倒ごとが増えるだけらしい。

「ヒナテ、ウーナンの口車に乗るな。これも作戦かもしれないんだぞ」
「!? ……」
「何だその目は?」
「……名前も呼び捨てでずいぶんと仲がよろしいじゃない」
「冗談だろ。オレがあんな色気の欠片もない猫娘に懸想するわけがないだろう?」
「ちょちょちょぉ! 誰が色気がにゃいにゃ!」
「黙れ、色気が欲しいならもう少し背を伸ばし胸をでかくしてみろ。このずんどう体型」

 オレの痛烈な言葉を受け、「ぐふぁっ!?」とウーナンが沈み込んだ。 

「ア、アンタ……さすがに酷いわよ?」

 ヒナテもさすがに同情したのか、ウーナンを憐れんでいる。

「ち、ちくしょぉ……僕はまだ発展途上だというところを見せてやるにゃ! 勝負だにゃっ、リューくん!」
「最初からそう言え、アホウ」

 これでようやく気合を入れることができる。コメディパターンはもう飽き飽きなのだ。

「そうですわよウーナン! あの者たちは敵。それに『劣等色』に『欠陥色』。格下相手にあなたは何を楽しそうに話しているんですの?」

 ウーナンに注意をしたのは、彼女のパートナーである女子生徒だ。その手には《法具》らしき槌を携えている。
 今の発言で分かる通り、コイツは差別主義者で間違いないようだ。

「こらこらエーちゃん、《魔色》なんかで相手を判断したらいけにゃいにゃ」
「そのあだ名で呼ぶなと何度も言っているではありませんか! 私には誇りあるエーミッタ・グリン・フォーラッドという名前があります!」
「うん、知ってるにゃ。だからエーちゃん」
「っ……はぁぁ。とにかくさっさとこのような消化試合は終わらせますわよ」

 言うに事欠いて消化試合ときたか。
 隣にいるヒナテもさすがに……と思ったが、すでに彼女は深呼吸をしながら体内で魔力を練っている様子だ。

 ほう、感情的なコイツが珍しい。

「只今より第二回戦、【ジェムストーン】VS【エメラルドタイガー】の模擬試合を行いたいと思います。両者、構えて!」

 審判の声が響くと同時に、オレはポケットに手を入れたままだが、他の三人は身構える。

「――始めっ!」

 開始した瞬間に、ヒナテはすぐに詠唱をして《具現》で《法具》を身に着ける。

「ふむふむ。やっぱその魔法……古代魔法にゃ?」

 ……? まるで複数回この魔法を目にしているかのような発言である。

「ウーナン、何をぼ~っとしてるの! しゃきっとしなさい!」

 エーミッタがヒナテに向かって駆け出し、その手に持っている槌を彼女目掛けて振り回す。
 ヒナテは相手の攻撃を見極めてダッキングして回避。

 その隙をついて拳を繰り出そうとするが――。

「――《|大地の針(アースニードル)》!」

 エーミッタが持つ槌に嵌め込まれた《魔石》が輝くと同時に、彼女の足元から地面が鋭い針状になって突き出てきて、真っ直ぐヒナテに襲い掛かる。
 虚を突かれたヒナテは、咄嗟にガントレットを立て代わりにして防御をしながら後ろへ飛ぶ。

「……今のを避けた?」

 まるで先の一撃で仕留めようとでも思っていたのか、ヒナテの反応にエーミッタが不思議そうに眉をひそめた。

「まあいいですわ。まずは1ポイントですしね」

 モニターに表示されていたヒナテのポイントは9ポイントになっていた。
 見ればヒナテの腹部に切り傷が入っている。
 確認してみると、突き出た土の塊は、一つだけでなくもう一つあったようだ。

 その第二撃をかわしそこなってしまったらしい。
 人を見下す相手ではあるが、実力は本物なのだろう。少なくとも舐めてかかれば、ヒナテは何もできずに終わってしまう。

「なかなかやるな、お前のパートナーは」
「うにゃ! 当然! この僕が選んだパートナーにゃんだしにゃ!」
「へぇ、さすがは《銀魔》ってことか?」
「にゃはは、そんなこと微塵も思ってにゃいくせにぃ」

 ニヤリとウーナンが笑みを見せる。あの獰猛なハンターのような目つきだ。

「君の噂は学院に入ってからすぐに聞いたにゃ。学院唯一の《黒魔》。世間では『欠陥色』と呼ばれ蔑まれてるけど、僕はそうは思わにゃい」
「ほほう、何故だ?」
「本物の強さってのは、《魔色》にゃんかじゃ測れにゃいからにゃ!」
「!? …………」

 まさかコイツの口からその言葉が出るとは……。
 しかしなるほど、思った以上に楽しめそうな相手らしい。

「さあ、まずは小手調べにゃ」

 するとその場からウーナンの姿が消え、一瞬にしてオレの背後へと現れる。

 ――速い!?

 ウーナンはその手に何も持っていない。しかし――。

「――《具現》」

 呟いたウーナンの言葉に呼応して、彼女の両手にそれぞれ短刀が現れる。

 コイツ、わざわざ《具現》を!?

 電光石火とも呼ぶべき速度で、ウーナンが双刀を振るう。
 恐らく誰もが不意を突かれダメージを受けると思っただろう。他ならぬウーナンでさえ。
 だが相手はオレだ。
 別に後ろを確認せずとも、空気の流れだけで相手の攻撃を予測することも容易い。
 故に双刀を紙一重であっさりと回避してみせる。

「避けた!? にゃら!」

 オレの頭上へと飛び上がったウーナン。

「――《|氷刃(アイスエッジ)》!」

 新たに見せた魔法。自分の周りにニ十本以上のもの刃状の氷を生み出した。そしてそれを弾丸のように射出して、雨のように降らせてくる。
 オレはバク転をしてかわすが、氷の刃はオレを追うように降ってきた。
 それでもバク転を繰り返し、すべての攻撃を回避することに成功する。

「やるにゃ! けど本命はコレにゃ! ――《|千華氷刃(サウザンドエッジ)》!」

 周囲に浮かび上がらせる、文字通り千の刃。

 へぇ、大した奴だ。

 あれだけの数の氷を出現させるだけでも困難なのに、そこに攻撃的造形を持たせて、かつ操作できるのは並大抵の努力と才では不可能だ。
 事実、観客席にいる上級生たちも目を見張って注目している。

 ……さすがにあれだけの数を避けるのは難しいか。 

「いっけぇぇぇーっ!」

 微塵も手加減などせずに一斉掃射してきた。
 オレは両手を魔力で覆うと、スッと姿勢を低くして身構える。

 ――ズババババババババババババババババババッ!

 無数にも思える刃が、オレ目掛けて降ってくる。その弾道を見極め、両手で砕いたり方向をずらしたりして、次々とやってくる攻撃を捌いていく。
 そしてすべての刃の射出が終わった時……。

「そ、そんにゃバカにゃ……っ!?」

 真っ先に声を上げたのはウーナンだった。彼女が驚くのも無理はない。何せあれだけの攻撃をすべてオレに捌かれてしまったのだから。
 当然彼女だけでなく、観客たちも一様に愕然としている様子が見て取れる。
 スタッと地上に降りてきたウーナンは、信じられない面持ちで固まっていた。



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