異世界から帰ってきたら終末を迎えていた ~終末は異世界アイテムでのんびり過ごす~

十本スイ

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「……どうやら新入部員はいなかったみたいだな」

 部員表には、三人の名前だけしか記載されてなかったからだ。
 次に日誌をパラパラと流し読みをしていき、最後まで捲り終えてから静かに日誌を閉じた。

「………………マジかよ」

 思わず口から漏れ出たのが驚嘆の言葉だった。
 日誌の最終記帳日は西暦2025年2月10日。

 それは日門が異世界に旅立ってから約半年。そう、たった半年しか経っていないのだ。
 にもかかわらずこの街の荒れ果てようは異常としか言えない。

 部屋の様子から見て、放置されて一年は過ぎていないはず。つまり長く見ても一年、日門が召喚された日から一年半以内の出来事だということ。

「随分ズレてんな……」

 しかし日門の中では、それなりに衝撃を受けてもいた。
 希望としては召喚された日に寸分違わない時間に戻ってきたかったから。ただ数年、十年、あるいは一世紀以上という未来への帰還だけは避けられたようでホッともしている。

 もっとも部室を見た時点で、さすがに数年という時間は経過していないことはすぐに理解できたが。

「けど……俺が召喚された日から半年後に何かが起こったことは事実だな。部長はマメだ。毎日ちゃんと日誌だけはつけてたし。つまり半年前に日誌を書けない何かが起こったってことだよな」

 そのせいで部室に来られない状況となった。

「まだ何が起こったのか分かんねえけど、それを知るためにも生存者と接触する必要があるよな」

 窓の外を見れば、そこかしこにゾンビが闊歩しているような状況だ。もし生存者がいるとしたら、強固な建物内か、ゾンビが寄り付かないような場所だと思う。

「……これ生存者いるんだろうな?」

 それが一番不安である。もしこの世に住むすべての人間が変わり果てていたとしたら、まともな人間はもう自分一人になってしまう。
 世界は終末を迎え、人類は耐えてしまう。それでは何のために戻ってきたのか分からない。

「あ~あ、これじゃあ……向こうの方が平和だったかもなぁ」

 文化レベルは低いし、治安も圧倒的に悪いとはいっても、一歩外に出ることすらままならないほどではなかった。
 しかしココは外は危険だらけであり、生存者すら簡単に見つかりそうにない現状。これでは異世界の方がまだマシだったとも言える。

「でもまあ、探せばゲームとか漫画とかもあるだろうし、食材だってこっちの方が豊富だとは思うし……多分」

 ということで、まずは生存者を探すことにした。その流れでいろいろ物色していこうと思う。

(とりあえずポジティブに考えて行動すっか)

 大きな溜息を吐きつつ、名残惜しさを感じたまま部室を後にした。









「う~~~ん、こうして見ても見事にゾンビばっか」

 現在日門は、半ばから折れてしまっているスカイツリーの頂点まで来ていた。途中から折れているといっても、それでもやはり周りの建物と比べても一番高いので、こうして周囲を見渡すために来ていたのである。

 しかしながらここからでも生存者らしき存在は確認できず、ただただ溢れるほどのゾンビが気持ち悪いくらいに蠢いているだけだった。

「……聖女様がいれば、ここら一体浄化してもらうんだけどなぁ」

 聖女――異世界においてのネームバリューはピカイチ。何せ聖女というのは同じ時代に二人と生まれない、いわゆる勇者と対を成すような存在だからだ。
 神聖魔法という聖女しか扱えない呪文で、不浄なる存在を浄化することができるのだ。その力はアンデッドに絶大な効果を発揮し、一瞬にして無に帰すことが可能。
 つまりこの世界ならば、彼女はまさに神のごとき存在として扱われることだろう。

(まあ向こうでも神扱いされてたけどな)

 そのせいでいろいろトラブルも発生したが、それは今はどうでもいい。
 しかし神聖魔法が使えれば、鬱陶しいゾンビを一掃し、より生存者を探しやすくなるのも事実。ただ無いものねだりではあるが。

「俺が探知呪文を扱えたら一発なんだが、それもまあ無いものねだりだよな」

 いろいろ便利な魔法は存在するが、扱えなければただの知識でしかない。
 結局は虱潰しかと溜息を吐いていると、不意に向けた視線の先に思いがけないものを見た。

 それは一台のバイクで、隆起している大地やゾンビを避けながら器用に運転していたのだ。

「お、見っけ!」

 ようやく元の世界に戻っての初めての生存者かもしれないと期待に胸を膨らませていたが、どうも様子がおかしいことに気づく。
 どうやら何かから逃げているようで、その原因もここからならハッキリと分かった。

「あれはヤベエな。つーことで……」

 日門は足に力を込めると、バイクが走っている場所に向けて跳ねるように移動した。その衝撃で、足場の鉄骨はものの見事にへしゃげてしまっていた。


     ※


 春日咲理九《かすがさきりく》は焦っていた。
 現在進行中で危機に見舞われているからだ。しかも自分一人ならまだしも、バイクを運転しているその後ろには、この世で一番大切な存在が乗っている。何が何でもこの子だけは守り通さなければならない。

 しかし現実は無常。必死で逃げるにも、物凄い速度で背後から〝ヤツ〟が迫ってくる。

「っ……このままじゃ追いつかれてしまう! どこか逃げ道は……!」

 周囲に視線を彷徨わせながら運転していると、タイミングの悪いことに、前方の建物が崩れてしまいブレーキを余儀なくされてしまった。

「ああもう! せっかく逃げて来られたってのにっ!」

 そんな愚痴を零している間に、背後から黒い影が近づいてきた。
 そこにいたのは、全身が腐食した悍ましい物体。外見は犬のように見えるが、まるで異世界ファンタジーに出てくるような巨大狼のようだ。ワニのような口を持ち、人の頭など一口で丸かじりできるだろう。

 どす黒い体液や異臭を撒き散らしながら、獲物を追い詰めたとばかりにゆっくりと接近してきた。
 理九はこれまでかと思いつつ、後部に乗っている存在を守るように抱きしめる。

 そして巨大狼が大口を開けて理九たちを喰おうとしたその時だ。
 理九の背後から何かが飛んできたと思ったら、それが巨大狼をピンボールのように弾き飛ばしてしまったのである。そしてそのまま巨大狼は、先にある建物と激突して瓦礫に埋もれた。

 まさに一瞬の出来事。
 何が起こったのか、思考が止まっていた理九には理解できない。
 ただこれだけは分かる。

 九死に一生を得たのだ。そして、それを成したのは――――いつの間にか目前に立っていた一人の青年だった。




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