ただ一人、男なのに動かせるロボット戦記 ~女嫌いな少年傭兵~

十本スイ

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第十話

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 ――虫の音も聞こえないほど夜も更けた頃、【アディーン王国】の周囲を守る外壁で見張りをしている兵士が空に妙な影を発見した。
 雲の隙間から覗く月光によって照らされたその姿を見て兵士は表情を強張らせる。

 それは――六機の《精霊人機》だった。

「未確認《精霊人機》!? て、敵襲ぅぅぅっ!」

 兵士は精一杯声を張り上げながら、携えていた音の出る発煙筒で仲間たちに危機を知らせる。
 同時に兵士の合図を耳にした城の見張り台にいた兵士もまた、空の異変に気付きけたたましいサイレンを鳴らした。

 直後に王城からあちこちから光が溢れ、緊急事態が起きていることが周りにも伝わる。
 そんな中、警備に当たっていたリューカもまた空からの奇襲に舌打ちをしていた。

「六機……だけか? いや、他にも陸路から入ってくるやもしれない。おいっ、陸軍部隊は街の警備を強化し、敵の速やかな排除に努めろ!」

 警備兵たちにそう通達すると、リューカは敵の狙いが何なのかを探る。
 すると六機のうち四機が街中に降り、残りの二機はこちらに向かってきていた。

「四機は陽動か? ならあの二機が本命だな! 狙いは城……我が君か!」

 相手の狙いが自分の主君だと判断したリューカは、そうはさせるものかと懐から一枚のカードを取り出す。

「我が呼び声に応え顕現せよ――《ブルーフォウル》ッ!」

 そのまま持っていたカードを天高く放り投げる。
 するとカードが眩い光に変化し、一瞬にして巨大な魔法陣そのものへと姿を変えた。
 空に浮かぶ魔法陣からズズズズズと、美しい蒼を纏った《精霊人機》が顕現する。

「――リンクッ!」

 そう叫ぶと同時に、リューカの光となって消え、一瞬にして周りの景色が打って変わった場所へと現れた。
 ここは《精霊人機》のコックピットの中である。
 前方には計器やモニターが設置されており、周囲三百六十度が鏡張りになってリューカ自身を映していた。

 灰色の座席に腰を下ろし、両足はそれぞれペダルに触れ、両手もそれぞれ床から円柱状に伸び出ている筒の先に置かれた水晶二つに置く。
 そこへリューカの背後に幽霊のように透過している小さな女の子が浮かび上がる。

「リューカ、いきなり呼び出してどったのさ?」

 その子はフワフワと宙に浮かびながら小首を傾げている。
 紺色の髪を団子に結っている可愛らしい女の子だ。

「見て察してくれ、シュイニャオ! ――起動!」

 鏡張りだった部分が変化し、外の様子を映し出す。

「ん~? あらら、もしかして襲撃受けちゃってる?」
「もしかしなくてもそうだ。今から迎撃する」
「うん、分かった。じゃあ頑張って撃退しっちゃおう!」
「《ブルーフォウル》、敵機を撃破する」

 《精霊人機・ブルーフォウル》は、その声に呼応するかのように瞳の部分が赤く光り、背中に格納されている翼が開き空へと上がっていく。
 その時、空から土色の《精霊人機》が滑空し、その手に持っていた剣を振り下ろしてきた。

「シュイニャオ、《ビークウィップ》だ!」
「オッケー!」

 何も所持していなかった《ブルーフォウル》の右手に、突如として青白い光が出現し、それが紫色の鞭へと変化を遂げた。
 素早く鞭を振るうと、まるで蛇が獲物を仕留めるがごとき速さでうねり動き、向かってきた《精霊人機》の身体を絡め取ってしまった。

「! その機体の造形は、我々が開発した空戦型の第四世代量産機――《クエルボ》と同世代の《グーズ》か!」

 《精霊人機》の量産型は、その作成時期と性能で世代ごとに分けられている。
 現在第四世代と呼ばれる量産型が性能的に最も優秀だと言われており、部下たちが繰る《クエルボ》と同じく《グーズ》も同じ時期に生み出されていた。
 もちろん他国での開発で、だが。

「《グーズ》ということは【アッシュレイ王国】が!? いや、そんなわけが! あそこは同盟国のはずだ!」
「ああっ、リューカ、もう一機がくるよ!」
「むっ!?」

 《ブルーフォウル》の頭上からさらに残りの一機が襲い掛かって来る。
 それを回避すると、その一機はそのまま城の東側にある、王国外縁に設置された巨大な演習場に降り立ち膝をつく。

(何故そこで膝を……? まだ操縦に慣れていないのか?)

 そう思ったリューカだったが、すぐに膝をついたその一機は立ち上がり武器を構えて迫って来た。

「二対一か……舐めるなよ」

 鞭を引っ張り、捉えている《グーズ》一機を蹴り落とし向かってきていた《グーズ》と衝突させる。
 そのまま追撃を加えようとしたが、何故か二機はすぐに体勢を立て直すとその場を離れていく。

「逃げる? いや、他の四機の加勢にでも行くつもりか?」

 すでに他の部隊が残りの《グーズ》を制するために戦っていた。
 ただ相手もなかなかの腕らしく、戦火が徐々に広がっている。

「マズイな。このままじゃ街が……!」

 敵機は六。上空や周囲を見回しても増援らしき気配はない。
 つまり六機を無力化できれば問題は解決できる。

 しかし……とリューカは思わず足が止まってしまう。
 六機という数に疑問を浮かべたのである。
 大国でもある【アディーン王国】を攻めるには、心許ない戦力だ。

 たとえ闇に乗じたとしても、あれだけの数でこちらの《ヴォンド隊》と対抗できるわけがないのである。
 確かに現在空戦部隊の隊長に加え、陸軍部隊の主だった戦力は遠征に出払っていて防衛力は普段よりは劣るだろう。
 それでも敵の十機やニ十機程度ならば撃退できるくらいの防衛力はある。

(確かに攻めるにはこの機を狙うのが一番なのだろうが、それにしても……)

 少数精鋭過ぎる気がする。
 それに城を落とそうとするには些か積極性が足りないように思えた。
 こちらに向かってきた二機もすぐに退いたこともある。

「何か伏兵でもいるのか? ……まさか街中に《宿主》が潜入?」

 だとしたら厄介である。
 量産型と違って、『精霊幼女』と契約している《宿主》で専用機を持っているのならば、先程のリューカのようにいつでも《精霊人機》を召喚することができる。

「……その線が濃い、か。なら問題は何人の《宿主》が潜んでいるかだが」

 この世界において『精霊幼女』という存在は稀少だ。
 その数も億人はいる人間と違い、三百といないとされている。
 またすべての『精霊幼女』が契約できるというわけでもない。

 彼女たちと相性が良く、互いに認め合っていないと契約は施せない。
 故に専用機を持つ人材はさらに稀少であり、各国にそれぞれ数えるほどしかいないのが現状である。
 我が《ヴォンド隊》にも専用機を持つのは三人だ。

 だからたとえこの国に潜入している《宿主》がいたとしても恐らくは一人か二人のはず。
 ただ専用機は量産型と違い甚大な力を有していることもあり、操縦者の腕次第ということもあるが、最低でも量産型の五倍以上の性能を持っている。

「……私はここから離れない方がいいか」

 もしこの近くに《宿主》が潜んでいたら、あっさりと城を落とされてしまうかもしれない。

「ったく、明日は姉様たちが遠征から帰ってきて、そのあとに例の新型のお披露目があり忙しいというのに……!」

 自分で発した愚痴だったが、雷に打たれたかのように全身に衝撃が走った。

「ま、まさか……!?」

 城の東エリアには大きな演習場があり、そこには格納庫が存在する。
 そして格納庫には我が国が誇る技術者が一身を懸けて開発した《精霊人機》があるのだ。

 専用機ではなく、性能的にはやはり劣るものの、従来の量産型を超えるスペックを持っているのは理論的に説明されていた。
 先日完成し、明日にお披露目する予定だったのである。
 上手く起動し計算通りに動けば、それが新たなトレンドとなり他国よりも一歩先に踊りるのだ。
 我が王も明日の披露式を楽しみにしている。当然リューカもだ。

 賊の目的が王を討つことではなく、そんな最新鋭機を強奪することだったとしたら……?

「確かまだパーソナルロックができてないはず」

 パーソナルロックとは、その者しか扱えないように機体に鍵をかけることである。
 新型はある者に与えることが決まっており、その者は明日帰って来る予定だ。
 故に今なら《精霊人機》を動かせる者なら誰でも起動させることができる。

 するとその時だった。
 格納庫の方から爆発が響き渡り黒煙が上がる。
 その瞬間、リューカは自身の予想が的を射ていたことを実感した。



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