ただ一人、男なのに動かせるロボット戦記 ~女嫌いな少年傭兵~

十本スイ

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第九話

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「――――へぇ、それは災難だったね。でも皆が無事で良かったよ」

 診療所に帰ると、リーリラに遅くなった理由を尋ねられたので一連の顛末を伝えた。
 外来の患者はいないようで、たっぷりと話をすることができたのだ。

「それにしてもさすがは傭兵の隊長なんだね。リィズたちを守ってくれて本当にありがとう」
「いや、幼女を守るのは当然だ。気にしなくてもいい」
「あ、ああ、そうだったね君は」

 ちょっと引き気味なのは気のせいだろうか。

「いやぁ、それにしてもその男が死ななくて本当に良かったですよ」

 そう言うのは同じように話を聞いていたエミリオである。

「あのな、オレが誰かれ構わず殺すわけがないだろうが」
「もしリィズたちが傷つけられて血でも流してたら?」
「生きてることを後悔させるために、ありとあらゆる骨を砕き内臓を破壊したあとに首をジワジワと絞める」
「うわぁ……」

 先程より明らかにドン引いているのはリーリラである。
 エミリオは大げさに両手を挙げて「ほら」と苦笑を浮かべていた。
 何だか部下に見透かされているようで少しムッとしたものを感じる。

「そういえばリューカ様に会われたんだって、お綺麗な方だっただろ?」
「何ですって! それは本当ですかセカイ!」

 リーリラの言葉に火が点いたように興奮したエミリオが顔を近づけてくる。

「暑苦しい。離れろバカ」
「おっと、失礼しました。――おほん、それで? 本当にそのリューカさんでしたか、綺麗な女性だったのですか?」
「まあ見た目でいえばお前の守備範囲に入るくらいは、だと思うが」
「おお! これは是非ともお近づきにならねば!」

 また始まった。
 この男の女好きはどうにかならないものだろうか。
 その時、クイクイッと袖を引かれる感触を覚えた。
 見ればロクが上目遣いで見つめている。

「ねえねえセカ兄、ロクはキレイ?」
「? いきなりどうしたんだ?」
「う~ん、何となく気になったのだ!」
「ふむ。そうだな、ロクはどちらかというと可愛いらしいタイプだと思うぞ」
「! ほんと! ロクってカワイイのだ?」

 頷くとロクは嬉しそうに「にはは~」と喜色満面になる。
 すると「ハイッ!」と元気な声で手を挙げた者がいた。

 ――リィズだ。

「あ、あのあの! あたしたちはどうですか?」
「もちろんリィズもストリも可愛いと思うぞ。思わず抱き締めたくなるくらいに天使だ」
「「! えへへ~」」

 やはり女の子だ。褒められると嬉しいものらしい。
 そんな幼女たちを不愛想の塊である少年が喜ばせた光景を不思議そうに眺めていたリーリラが呟くように声を発する。

「……よくもまあこの短期間にあれほど懐かれたものだな」
「ははは、セカイはああ見えて子供には好かれるんですよ」
「そうなのか、エミリオさん」
「はい。良くも悪くも真っ直ぐですから。子供のように純粋なセカイを気に入るのでしょう。その逆に女性には嫌われることが多いですが。主にその性癖のせいで」
「確かに素直過ぎて時折ヒヤッとすることもあるけれどね」
「まあ、そのせいで軍にいた時も上官に何度叱られたか分かりませんしね。先のリューカさんも、この国では偉い人物なのにセカイは取り繕ったりはしませんから」
「それは……ちょっと危険だね」
「それでも何だかんだいって結果的に上手く事が運ぶのですから、あれはセカイが生まれつき持っている人徳みたいなものかもしれませんね」
「ただセカイくんの態度をよく思わない人もいるはずだ。特に女性相手には、ね」
「あー……それは何とも言えませんね。相手が幼女以外だとしたら、セカイの物言いはキツイですし」
「聞こえてるぞエミリオ。そういう女はお前が何とかすればいいって常に言ってるだろうが」

 言ってみれば幼女専門が世廻であり、それ以外の女性はエミリオが担当なのである。

「別に尻拭いは慣れていますからいいですけれど、この【ステラ】は過激な女性も多いらしいのでね。セカイだっていきなり侮辱罪だとか言われて殺されたくないでしょう?」

 それを言われれば確かにそうだが。
 しかし理不尽な物言いをされて黙るなど世廻はできない。
 たとえ相手が偉い立場にあろうとも、その行動が正しいと思ったら世廻は信念のままに動く。

「そういえばリーリラに聞きたかったことがあった」
「? 何だい、セカイくん?」
「前に見たロボット――飛行訓練をしてた蒼い《精霊人機》がいただろ?」
「君が目を覚ました時に見たあれかな?」
「そうだ。あの蒼いのに乗ってたのってもしかして……」
「ふふ、その通りだよ。リューカ様の機体さ」

 やはり、と納得する。
 リューカが空戦部隊と名乗っていたからもしやと思って聞いてみたのだ。

「へぇ、セカイが幼女以外に興味を示すのは珍しいですね」
「別にあの女には興味はない。あるのは奴の乗っていた機体だ」
「……そんなことだと思いましたよ」

 やれやれとエミリオが肩を落とし溜め息交じりに言う。
 世廻は考えても仕方ないことが脳裏に浮かんでいたのである。

 もしあの時――《精霊人機》が傍にあり、自分が操縦できていたらと……。
 そうすればエミリオたちを死なせずに、いや、厳密に死んではいないが、あの戦場で勝利を得られたかもしれない。

 まああんな凶悪とも思える兵器が手元にあったとしても、核と同等の危険視がされているだろうが。
 それでも考えてしまうのだ。あの力が自分にあったら、部下たちを傷つけることもなかった、と。
 現実主義の世廻ではあるが、こうして実際に《精霊人機》を目にしてしまうとIFを考えてしまうのも無理はないと思う。なまじ部下の命を預かっている立場だったのだから。

「――おーい、誰か手伝ってくれーっ!」

 キッチンがある方角からミッドの声が響いてきた。
 夕食の下ごしらえをしている彼だが、どうやら手が足りないようだ。
 世廻たちは一旦話をそこで止めにし、ミッドのもとへ向かっていった。


     ※


 ――【アディーン王国】から東に三十キロメートル地点にある高山の麓。

 周囲は鬱蒼と茂った森で覆われ、上空から見ると緑の絨毯を敷き詰めたような光景を映し出す。
 そんな多くの木々が密集する中に、土色の装甲を纏う人型兵器が六機、二列縦隊で並んでいた。
 兵器の前には七人の人間が顔を突き合わせ言葉を交わしている。
 正確に言うと、一人の女性の話に残りの六人が真剣に耳を傾けていた。

「いいか、今回の任務は【アディーン】が開発したという最新鋭機の奪取、もしくは破壊だ。優先順位はもちろん奪取だよ」

 ウニのように尖った赤い髪を持つ女性が、鷹の眼のように鋭い視線で目前に立つ女性たちを見つめている。
 全身にはピッチリとフィットしたウェットスーツのような服を着用している。そのため女性の豊満な胸が強調され、抜群にスタイルが良いことが一目瞭然だ。

 ただ少し化粧が濃過ぎることが、もしかしたら忌避する男がいるかもしれない。
 ちなみに他の女性たちも同じような格好をしている。

「決行日は本日の夜。事前に潜り込ませていた斥候が狼煙を上げて合図を出す。それを見てすぐにお前たちは空から奇襲をかける。防衛に当たってる奴らを引き付けな。その隙にアタシが格納庫に忍び込み、例の機体を頂戴するって寸法さ。分かったね?」
「「「「はっ!」」」」
「もし奪取が難しいと判断した場合、速やかに格納庫ごと破壊するように指示を出す。情報じゃ、まだ契約は済ませてないらしいからね。その前に奪わないと」
「しかしフリーダ様、このような少人数での侵攻でよろしかったのですか?」

 フリーダというのがウニ頭の女性の名前である。

「今回は国崩しじゃないからね。それに少ない方が、相手に猜疑心を抱かせることもできて動きを単調にできるらしいよ」
「それはもしかして参謀殿の案で?」
「そういうことさ。アタシたちは言われた通りに動き任務を全うするだけさ」

 フリーダはそこからは見えないが、【アディーン王国】がある方角へと顔を向けニヤリと笑みを浮かべる。

「あと十時間後、その平和を脅かしてやろうじゃないか」

 獰猛な瞳が怪しく光り、フリーダの含み笑いが静かに響いていた。


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