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「一応弁明を聞こうか、オキト・ウナバラよ」
痛いほど静まり返る現状で、真っ先に口火を切ったのはヴィクス王だった。
「オレは……やっていません」
「ほう。あのような状況でまだ惚ける気か?」
「惚けるも何も、オレには身に覚えなんてありませんよ」
必死にどうすればこの冤罪を証明できるか考察する。
せめて誰か一人でも味方がいてくれればと思うが、どうも周りは敵しかいない。
「こちらには目撃者がおるのだがな」
「! ……目撃者だって?」
「そうだ。その証言により、貴様が我が娘――ラランの婚約者であるクライドを殺したのは明白」
「違うっ! オレじゃないっ! オレは何もしてないんだっ!」
どうにか分かってもらうために声を荒らげるが、
「いいや、僕は見たよ。君が――姫様の婚約者と激しく口論をしているところを。そして絶対に殺すと口にしているところもね」
「なっ!? 嘘を言うな矢垣っ!」
明らかなデタラメで、オレにトドメを刺そうと兵士たちを割って入ってくる。
「嘘じゃない。あの日の出来事が起こる数時間ほど前、君がクライド様と口喧嘩をしていたのを見ている。君はこう言っていた。『姫との婚約を破棄しろ、さもないと痛い目を見るぞ』と」
「お前……よくもそこまで……っ」
虚言を吐けるなと、あまりの言葉に思わず言葉が詰まってしまう。
「大方君は姫様に一目惚れでもしたんだろうね。無理もない。あの方の美しさは天下一品だ」
「そ、それはお前だろっ!」
「嫌だな。罪から逃れるためにしても見苦しい言い訳だね。僕にも言っていたじゃないか、姫様に認められ、いずれは彼女の夫になりたいと」
コイツ……どこまで……っ!
何故こんな在りもしない事実を、さも当然のように口にできるのか。
まるで凶悪な詐欺師と会話をしている気分だ。
「だがクライド様には拒絶された。当然さ。よく分からない者に婚約者を渡すわけがないからね。そして君は立ち去っていくクライド様を睨みつけながら『絶対に殺してやる』と言っていた。その言葉を聞いた時は、一時の感情が発した言葉だから、さすがに冷静になれば落ち着くと思ったから放っておいたけれど、まさか本当に実行するなんてね」
「矢垣……恥ずかしくないのか? こんなことをして」
「ん? それは君のことだろう?」
不敵に笑みを向けてくる矢垣。
コイツはもうダメだ。何を言ったところで良心なんてもんが残ってない。
いや、そもそもこんなバカげたことを計画し実行するような奴だ。まともな人格者であるわけがない。
恐らく今、コイツが語ったことは全部コイツ自身が思い至ったことだろう。
王女に一目惚れをしたが、クライドという断固とした恋敵がいることを知り絶望した。
失恋に荒れた矢垣は、憂さ晴らしに侍女を犯そうとしたが、そこをオレに止められる。
そこでコイツは一計を案じた。
オレを利用したクライドの殺害。そしてこの国で、確固たる自分の地位を築く。
そのためにこの場にいる全員を欺いたのだ。
…………完全に見誤っていた。
学園にいた頃は、誰にも認められ、誰にも優しい人格者だと思っていた。
オレみたいな日陰者に対しても、別に忌避するような人間でもない。積極的に話しかけるようなこともしないが、一方的に拒んだり避けたりはしない。
しかしこの世界に来て、徐々にコイツの正体が明らかになっていった。
皆に求められるヒーローのような存在を見せ続けるコイツにもストレスが溜まることもあるだろう。
それが失恋で少し過剰な行動に出てしまっただけ。そんなふうに思っていた。
だがそれは間違いだったのだ。
コイツは――――悪党である。
心の底から軽蔑できるほどの、悪意の塊のような存在だ。
自分の思い通りの世界を望み、それが叶わなければ、どんな悪辣な手段を講じてでも叶えるような異常者。
「矢垣ぃ……!」
するとゆっくりと矢垣がオレのもとへ近づき、耳元でぼそっと言う。
「ふっ、ここで消えてもらうよ。すべては僕の理想のためにね」
思わずカッとなり突進しようとするが、兵士に押さえられてしまう。
「おー怖い怖い。……王様、ご判断はあなた様の心のままに」
「……良いのか。それでも同郷の志であろう」
「目には目を。歯には歯を。罪には罰を。正義を為すためには致し方ありません。それに……姫様のご心痛を思えば、僕の想いなど路傍の石と同等です。残念なことですが、この者と姫様、どちらかを選べと言われれば、僕は迷わず姫様を選びます。それが――この国の将来を背負う者としての役目だと思っておりますから」
胡散臭い言葉に騙され、周りから「おぉ……!」と感嘆の溜め息が零れる。
さすがは『御使い』様だと誰もが尊敬の眼差しを向けた。
王女もまた、真っ直ぐにイケメンスマイルを向けられ頬に赤が差す。
この男は、オレを陥れることで、見事に自分の地位を向上させたのだ。
「本来ならば問答無用で首を刎ねる」
王の首を刎ねるという言葉に、オレは真っ青になる。
もう、どうしようもないのか……!
「しかしこの者に関して、こちらにも負い目はある」
それは召喚に巻き込んでしまったことに対してと彼は言う。
「彼にも家族や友人がいたはずだ。かけがえのない生活を一方的に奪ってしまったのも事実。故に――第一級刑罰の死刑ではなく、第二級刑罰の〝流刑〟に処す」
こうしてオレは、無実の罪によって絶海の孤島へと流刑に処されることになった。
痛いほど静まり返る現状で、真っ先に口火を切ったのはヴィクス王だった。
「オレは……やっていません」
「ほう。あのような状況でまだ惚ける気か?」
「惚けるも何も、オレには身に覚えなんてありませんよ」
必死にどうすればこの冤罪を証明できるか考察する。
せめて誰か一人でも味方がいてくれればと思うが、どうも周りは敵しかいない。
「こちらには目撃者がおるのだがな」
「! ……目撃者だって?」
「そうだ。その証言により、貴様が我が娘――ラランの婚約者であるクライドを殺したのは明白」
「違うっ! オレじゃないっ! オレは何もしてないんだっ!」
どうにか分かってもらうために声を荒らげるが、
「いいや、僕は見たよ。君が――姫様の婚約者と激しく口論をしているところを。そして絶対に殺すと口にしているところもね」
「なっ!? 嘘を言うな矢垣っ!」
明らかなデタラメで、オレにトドメを刺そうと兵士たちを割って入ってくる。
「嘘じゃない。あの日の出来事が起こる数時間ほど前、君がクライド様と口喧嘩をしていたのを見ている。君はこう言っていた。『姫との婚約を破棄しろ、さもないと痛い目を見るぞ』と」
「お前……よくもそこまで……っ」
虚言を吐けるなと、あまりの言葉に思わず言葉が詰まってしまう。
「大方君は姫様に一目惚れでもしたんだろうね。無理もない。あの方の美しさは天下一品だ」
「そ、それはお前だろっ!」
「嫌だな。罪から逃れるためにしても見苦しい言い訳だね。僕にも言っていたじゃないか、姫様に認められ、いずれは彼女の夫になりたいと」
コイツ……どこまで……っ!
何故こんな在りもしない事実を、さも当然のように口にできるのか。
まるで凶悪な詐欺師と会話をしている気分だ。
「だがクライド様には拒絶された。当然さ。よく分からない者に婚約者を渡すわけがないからね。そして君は立ち去っていくクライド様を睨みつけながら『絶対に殺してやる』と言っていた。その言葉を聞いた時は、一時の感情が発した言葉だから、さすがに冷静になれば落ち着くと思ったから放っておいたけれど、まさか本当に実行するなんてね」
「矢垣……恥ずかしくないのか? こんなことをして」
「ん? それは君のことだろう?」
不敵に笑みを向けてくる矢垣。
コイツはもうダメだ。何を言ったところで良心なんてもんが残ってない。
いや、そもそもこんなバカげたことを計画し実行するような奴だ。まともな人格者であるわけがない。
恐らく今、コイツが語ったことは全部コイツ自身が思い至ったことだろう。
王女に一目惚れをしたが、クライドという断固とした恋敵がいることを知り絶望した。
失恋に荒れた矢垣は、憂さ晴らしに侍女を犯そうとしたが、そこをオレに止められる。
そこでコイツは一計を案じた。
オレを利用したクライドの殺害。そしてこの国で、確固たる自分の地位を築く。
そのためにこの場にいる全員を欺いたのだ。
…………完全に見誤っていた。
学園にいた頃は、誰にも認められ、誰にも優しい人格者だと思っていた。
オレみたいな日陰者に対しても、別に忌避するような人間でもない。積極的に話しかけるようなこともしないが、一方的に拒んだり避けたりはしない。
しかしこの世界に来て、徐々にコイツの正体が明らかになっていった。
皆に求められるヒーローのような存在を見せ続けるコイツにもストレスが溜まることもあるだろう。
それが失恋で少し過剰な行動に出てしまっただけ。そんなふうに思っていた。
だがそれは間違いだったのだ。
コイツは――――悪党である。
心の底から軽蔑できるほどの、悪意の塊のような存在だ。
自分の思い通りの世界を望み、それが叶わなければ、どんな悪辣な手段を講じてでも叶えるような異常者。
「矢垣ぃ……!」
するとゆっくりと矢垣がオレのもとへ近づき、耳元でぼそっと言う。
「ふっ、ここで消えてもらうよ。すべては僕の理想のためにね」
思わずカッとなり突進しようとするが、兵士に押さえられてしまう。
「おー怖い怖い。……王様、ご判断はあなた様の心のままに」
「……良いのか。それでも同郷の志であろう」
「目には目を。歯には歯を。罪には罰を。正義を為すためには致し方ありません。それに……姫様のご心痛を思えば、僕の想いなど路傍の石と同等です。残念なことですが、この者と姫様、どちらかを選べと言われれば、僕は迷わず姫様を選びます。それが――この国の将来を背負う者としての役目だと思っておりますから」
胡散臭い言葉に騙され、周りから「おぉ……!」と感嘆の溜め息が零れる。
さすがは『御使い』様だと誰もが尊敬の眼差しを向けた。
王女もまた、真っ直ぐにイケメンスマイルを向けられ頬に赤が差す。
この男は、オレを陥れることで、見事に自分の地位を向上させたのだ。
「本来ならば問答無用で首を刎ねる」
王の首を刎ねるという言葉に、オレは真っ青になる。
もう、どうしようもないのか……!
「しかしこの者に関して、こちらにも負い目はある」
それは召喚に巻き込んでしまったことに対してと彼は言う。
「彼にも家族や友人がいたはずだ。かけがえのない生活を一方的に奪ってしまったのも事実。故に――第一級刑罰の死刑ではなく、第二級刑罰の〝流刑〟に処す」
こうしてオレは、無実の罪によって絶海の孤島へと流刑に処されることになった。
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