マモノの神様 ~魔物を作って育ててのんびりクラフトライフ~

十本スイ

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 この世界にも季節などの時間の流れはあり、当然朝や夜という時間帯も訪れる。
 現在は日も沈み、小屋の中にある木製のベッドに腰かけながら、昼間に採取した《モモタンの実》などの食材で腹を満たしていた。
 ちなみにベッドといっても掛布団や敷布団は《羽毛》や《羊毛》などもないことからクラフトできずに、葉っぱで代用したのである。

 意外にも温かいもので、しばらくはお世話になりそうだ。
 そしてイチ以外のスライムたちは、昼間の素材集めで疲れたのか葉っぱで作った揺りかごの中でスヤスヤと夢の中である。

 マジで葉っぱ大活躍。重宝するわぁ。

 イチは小屋にあった斧で木を切り倒してクラフトで作った木のテーブルの上で、《モモタンの実》の上に乗っかり少しずつ溶かして食べている。

「そういやヤタ、他の種を手に入れるためにはどうしたらいいの?」

 これも当然知ってるけど、聞かないと不自然だろうしね。

「うむ。では次のステップについて説明しておこうか。まず魔物という存在は大きく二つに分けられる」
「二つ?」
「そう。一つはツナギが誕生させるような魔物――《純真種(イノセント)》。赤子のような純粋な身と心を持つ存在のことだ」
「うん。もう一つは?」
「《邪気種イビル》――負のエネルギーに侵されてしまい、凶悪な本能の支配下に置かれた魔物のことを言う」

 うん。この《純真種》は、魔物ならば誰もが最初に通る道。生まれた瞬間はすべてのものがコレなのだから。ただし例外もまた存在するが。

 そして、世界に蔓延る瘴気や邪気などに当てられ、理性を失う魔物たちがいる。
 それが《邪気種》と呼ばれる魔物のこと。

「基本的に《マモノの種》は《邪気種》からしか入手することはできぬ」
「ふぅん。どうすれば入手できるのさ? もしかして殺すってこと?」
「いいや。【箱庭】の管理人だけに許された能力――《クラフト》を使う」
「……それって物作りだけに特化したものじゃないの?」
「その通りだ。言うなれば《邪気種》が纏う邪気そのものをクラフトして、《マモノの種》を生成する。ただし《邪気種》は決して大人しくしてはおらん。こちらに牙を剥き襲い掛かって来る。クラフトするには、相手を気絶、もしくは捕縛して動けなくする方法が必要になってくるのだ」

 故に管理人には相応の強さが求められるのだと彼は言う。
 確かに説得できるならば、《クラフト紋》の上にしばらく立っててといえば事足りる。 
 しかし相手は聞く耳を持たない。

 邪気を祓うには、一度相手が動けない状態を作って、その上でクラフトするしかないのだ。
 また相手の強さや、僕のレベルによってもクラフトできない場合もある。
 当然相手を殺してしまった時もクラフトはできない。

「スライムなどの低ランクの魔物ならばともかく、ドラゴンなどの高ランク相手では20や30程度のレベルでは瞬殺されてしまうのがオチだ」

 実際にゲームでも試しに35レベルでドラゴン討伐に向かったが、相手のHPを半分も削れずに殺されてしまったのを覚えている。

 あ、そっか……。
 今気づいたけど、こっちの世界で死んだらどうなるんだろ?

 ゲームじゃその時に所持していたアイテムなどをすべて失ってしまうけれど、ここ【箱庭】で復活することができた。

 でも今は……?

「あ、あのさ、もしその……魔物に殺されたりしたらどうなるんだ?」
「は? 死んだらそれで終わりであろうが」
「で、ですよね~」

 何でそこは現実リアルなんだよっ!
 できればそこにこそゲーム要素が欲しかった!

 僕は思わず考え込む時の癖である、上唇を右手の親指と人差し指で挟む仕草をしてしまう。
 死んだら終わり――。

 当然と言えば当然なのだろうが、その現実に一気にゲームとしての楽しみさがほとんど消し飛んだ。
 いや、ここはゲームの世界であってゲームではない。
 紛れもない現実だということ。

「……べ、別に強い魔物と戦う義務とかないもんな?」
「確かにそうだが、それだと侵略にあったらどうするのだ?」
「し、侵略だって!?」

 驚きのあまり立ち上がり大声を上げたことで、イチもそうだが他のスライムたちも目を覚まして「ピィ!?」とビックリしている。

「ど、どういうことだよ侵略って!」
「む? 別に驚くようなことではないだろう。この世界にも海賊や災害などが存在する。ココはこれからツナギの手によって大きく、そしてどんどん便利化していくことだろう」

 僕はそれを知っている。
 管理人レベルが上がるにつれて、どういうわけかこの島自体もまた成長していくのだ。
 今は直径が三百メートル規模の島だが、成長すればこの十倍以上の大きさへと変貌する。

 山や草原、また川なども誕生し、魔物たちの集落なども作ることが可能になるのだ。
 上手く成長させれば、自然豊かな一つの〝国〟として成り立つ。

「そのうち島の存在は気づかれるだろうし、必ず訪れる者も出てくる。そしてそれは人だけではなく、《邪気種》だって十分有り得る。天災だって起きるのだ。そうなった時、何もできずに略奪、あるいは凌辱されてもいいのか?」
「うぐっ……!」

 そう言われても、人や魔物と戦ったりするのは怖過ぎる。
 こちとら平々凡々な生活を送ってきた高校生なんだぞ。
 ただ確かに30もレベルを上げれば、ゴブリンやトロルなどの凶悪性の高い《邪気種》でもゲームではあっさりと勝てた。ほぼ無傷で。

 でも侵略なんて……聞いてないよなぁ。

 ゲームではそんなイベントなどなかった。
 精々オンラインで、他のプレイヤーを【箱庭】に招待できるくらいだったのに……。
 しかし確かに何もない島が、急な発展を遂げ始めたら普通気になるもんね。

 あれはゲームだったからこそ許された平和だったらしい。

「……今すぐこの島が襲われる危険は……ないんだよね?」
「メリットはないだろうからな。襲ったところで何も得られん。それに気づくほどの文明も低い」

 だがそれは可能性の話であって、絶対じゃないとヤタは言った。

「だから出来得ることならば吾輩としては、この【箱庭】を守る管理人として強くあってもらいたい」
「守る……」
「そう。お主が生み出したその子たちの未来を守るためにもな」

 ヤタがイチたちを見ながらそう言った。
 そうだ。ここが襲われれば、イチたちもまた危険に晒される。
 下手をすれば殺されてしまうかもしれない。

 ……………………それはヤダな。

 彼らを生み出したのは僕だ。
 つまり僕は親に等しい。
 自分の子供たちが殺されるのを黙ってることなんてしたくない。

「吾輩からの頼みだ。ツナギにはここに魔物たちの楽園を築く――〝神〟になってほしい」

 【箱庭】の神様……いや、魔物を生み出すのだから『マモノの神様』ってところか。
 そんな設定もゲームにはなかった。ただのんびりと魔物を作ったり、クラフトをするだけのスローライフ系の遊びだったのである。

「ずいぶん大仰なことを頼み込むもんだね」
「吾輩のパートナーならば成せると見込んだだけだ」
「うわぁ、信頼が重いぃ」
「フフフ、お主が育てる【箱庭】がどう未来を作っていくのか、是非ともこの目で見たいものだ」

 僕は大きく溜め息を吐き出す。
 僕自身、もしここを襲われたら、今のままでは生き残る自信はない。
 海賊にしろ魔物にしろ、戦う術がほとんど皆無だからだ。

 生きて元の世界に戻るためには、戦い抜く強さが必要らしい。
 何で僕がこんな目に遭ってるかなんて分からないけど、嘆いててもしょうがないし、ジッとしてても生産的じゃない。

 なら――やるしかない。

「分かったよ、ヤタ。僕は――『マモノの神様』になってみせる」

 この世界で生き抜くためにも強くなろう。
 そして少なくとも自分が作り出したこの子たちくらい守れるくらいには――。



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