マモノの神様 ~魔物を作って育ててのんびりクラフトライフ~

十本スイ

文字の大きさ
16 / 32

15

しおりを挟む
「ふぅぅ~、何だか一仕事終えた気分だなぁ。ムトもありがとね」
「これくらい、わけない」

 こちとら汗をかいてるってのに、彼女は涼し気なままだ。
 本当にドラゴンの力は規格外だなぁ。

「じゃあ粗方探索も終了したし、そろそろ《箱庭》に戻ろっか」
「もう帰るの?」
「あーもしかして物足りない?」

 頷きはしないが、そんな雰囲気を漂わせている。
 まあ彼女にとっては最低ランクのダンジョンなんて遊びにもならないだろうし。

「そうだなぁ。マップも北の方はまだ埋まってないし、せっかくだからもう少し探検する?」
「! ……ん」

 表情には現れないが、きっと尻尾があったら振っているだろう程度のことは、短い付き合いだが分かってきた。
 イチもまだ役に立ちそうな顔をしているので、あと少しだけ探索に時間を割くことにする。
 北へと進路を取ってまだ埋まっていないマップを埋めていく。

 目にする食材などはすでにもうインベントリに入らない限界数まで手にしているので必要ない。
 ただ魔物に関しては結構歓迎ムードだった。
 魔物をクラフトすれば経験値も上がるし、素材だって手に入る。

 特にあまり出くわさないスネークラビットとの遭遇は嬉しい。
 見た目は蛇のように細長いが、全身がフワフワな毛で包まれた長い耳を持つ魔物だ。
 コイツからは《皮》と《獣毛》が手に入る。コレはクラフトでもかなり幅広い創作に適した素材なのだ。

 これまですでに二体分得ているが、いくらあっても足りないほど重宝する。
 そうやってスネークラビットに遭遇しては逃がさないように全力で狩り、《野イチゴ》で腹を満たしながら進んでいく。

 そしてマップの北端近くにまで辿り着いたその時だった。
 前を歩いていたムトの足がピタリと止まり、イチもまた警戒するように低く唸り始めたのである。

「ど、どうしたのさ二人とも?」
「…………何か来る」
「え?」

 直後、僕から見て十一時の方向。そこにある茂みをかき分けて巨大な物体が姿を見せた。

「! あーそっか。やっぱりいるんだなコイツ」

 僕にとっては情報として頭の中にある存在ではあった。
 全身がプルプルとゼリー状に構成されていて、大きさは全長三メートルくらいはある。
 まあ、簡単にいうとイチを巨大化させたような魔物だ。

 ダンジョンにはそれぞれボスが棲息していて、ダンジョンレベルにつれてボスの数や強さもまちまちである。
 そしてこの【始まりの森】にも当然ダンジョンボスがいるとは思っていたが、これまで遭遇しなかったところをみると、もしかしたらいないのかなって考えていた。

 基本的にボスは一カ所に留まっている奴と、ダンジョン内を動き回っている奴の二パターンある。
 このジャイアントスライムと呼ばれるボスは後者の特性を持つ。
 見ればボスもまた《邪気種》のようで全身から黒々としたオーラを放っている。

「……ねえツナギ、あれムトがやっていい?」

 表情は変わらないが、どこかウズウズしている雰囲気を感じ取った。
 今までの戦闘ではずっと僕が一人で戦っていたため、身体を動かしたくなったのかもしれない。

「うん、いいよ。でもできれば殺さないでくれると嬉しいんだけどね」

 ハッキリいってこのジャイアントスライムには一切の情などはないし、殺したらクラフトできないからという理由の方が大きい。
 ただそれでも一応『マモノの神様』を目指している自分としては、できることなら殺さずに元に戻してやりたいという思いもまたある。

 ムトは「頑張って手加減する」と言うと、ジャイアントスライムに向かってゆっくりと歩き出す。
 傍目から見れば、幼女が無謀に接近しているように見えるが、明らかにムトの存在感の方が強い。
 それをジャイアントスライムも感じ取っているのか、いきなり襲うことはせずに少しずつ後ずさって様子を見ている。

 すると一瞬にしてムトの姿が掻き消えた。
 瞬きよりも刹那の間に、ムトはジャイアントスライムの頭上へと跳んでいたのである。
 そのままクルリと身体を回転させてかかと落としを放つ。

 ジャイアントスライムの身体が面白いように頭頂部からペコンと凹み左右に広がる。
 だが直後に凹みは修正し、その反動でムトが上空へ弾き飛ばされた。

「ジャイアントスライムは単純な物理攻撃には強い耐性があったけど、ムトの攻撃も受け切るなんてさすがはダンジョンボス」

 恐らくムトはウォーミングアップ程度の攻撃だっただろうが、それでも並みの魔物ならば瞬殺できるくらいの威力はある。
 あのまま大地にかかとが突き刺さっていれば、大きな亀裂が走っていたことだろう。

「ん、面白い」

 自分の攻撃が効かなかったことが彼女の琴線に触れたのか、楽し気な声音を飛ばすムト。
 そのまま今度は四方八方から拳や蹴りを繰り出すが、やはりジャイアントスライムの身体には傷は生まれなかった。

 体力ゲージも気力ゲージも変動はない。
 これなら勝てるとでも思ったのか、今度はジャイアントスライムがムトを呑み込もうと覆い被さってくる。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔法が使えない落ちこぼれ貴族の三男は、天才錬金術師のたまごでした

茜カナコ
ファンタジー
魔法使いよりも錬金術士の方が少ない世界。 貴族は生まれつき魔力を持っていることが多いが錬金術を使えるものは、ほとんどいない。 母も魔力が弱く、父から「できそこないの妻」と馬鹿にされ、こき使われている。 バレット男爵家の三男として生まれた僕は、魔力がなく、家でおちこぼれとしてぞんざいに扱われている。 しかし、僕には錬金術の才能があることに気づき、この家を出ると決めた。

自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

コンバット

サクラ近衛将監
ファンタジー
 藤堂 忍は、10歳の頃に難病に指定されているALS(amyotrophic lateral sclerosis:筋萎縮性側索硬化症)を発症した。  ALSは発症してから平均3年半で死に至るが、遅いケースでは10年以上にわたり闘病する場合もある。  忍は、不屈の闘志で最後まで運命に抗った。  担当医師の見立てでは、精々5年以内という余命期間を大幅に延長し、12年間の壮絶な闘病生活の果てについに力尽きて亡くなった。  その陰で家族の献身的な助力があったことは間違いないが、何よりも忍自身の生きようとする意志の力が大いに働いていたのである。  その超人的な精神の強靭さゆえに忍の生き様は、天上界の神々の心も揺り動かしていた。  かくして天上界でも類稀な神々の総意に依り、忍の魂は異なる世界への転生という形で蘇ることが許されたのである。  この物語は、地球世界に生を受けながらも、その生を満喫できないまま死に至った一人の若い女性の魂が、神々の助力により異世界で新たな生を受け、神々の加護を受けつつ新たな人生を歩む姿を描いたものである。  しかしながら、神々の意向とは裏腹に、転生した魂は、新たな闘いの場に身を投じることになった。  この物語は「カクヨム様」にも同時投稿します。  一応不定期なのですが、土曜の午後8時に投稿するよう努力いたします。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

処理中です...