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 このまま圧し潰される形になれば、そのまま身体の中に吸収されて、いずれは養分と化してしまう。
 しかし幼少とはいえ、そんな攻撃が伝説のドラゴン相手に効くはずもない。

 ――ドボゥッ!

 これまでよりも強い一撃をアッパーに込めて放ったムトの拳は、いつの間にか炎を纏っていた。
『炎の化身』とも呼ばれた『紅竜』なので、その力に驚きはない。そもそも薪に非をくべる時に、彼女の火には何度も世話になっているのだ。
 そんな炎の一撃を受けたジャイアントスライムは、

「ギィィィィィィィィッ!?」

 と、初めて苦悶の声を上げながら上空十メートルくらいにまで吹き飛んだ。
 しかも殴られた部分がジュゥゥ……と焦げている。

 す、凄いなムト……。
 あんなデカイもんを片手で……!

 そしてムトはすぐに跳び上がり、追い打ちとばかりにジャイアントスライムの頭上まで行くと、地面に向けてサッカーボールを蹴るようにして、これまた炎を纏ったキックを放った。
 ジャイアントスライムは成す術なく攻撃を受け、一直線に地面に落下し突き刺さる。

「う、うわぁ……」

 何だか非現実的なバトル漫画でも見ている気分になってきた。
 とてもじゃないけど、今の僕にあんな動きはできない。
 レベルが上がればもしかしたらできるようになるのかもしれないけど、まったくもってあんなバトルセンスの塊のような動きができるビジョンが思い浮かばない。

 地面に激突したジャイアントスライムは、ベチャ~ッと潰れたように大地に広がっているが、徐々に元に戻っていく。
 見れば体力ゲージも気力ゲージもかなり減っている。

 どうやら先の攻撃は、耐性を大きく超えた威力だったようだ。
 そのままムトは落下の勢いのままにジャイアントスライムの頭上から、初期に放ったかかと落としを食らわせた。

「ギィィィィィィィィィィィィィッ!?」

 まるで断末魔の叫びに聞こえて、殺してしまったのかと焦ったが、体力ゲージはまだ少し残っており、気力ゲージだけがゼロになっていた。

「おおっ! ナイスだよムト!」
「ピィピィピィ~!」

 カッコ良く地面に降り立ったムトが、僕たちの声を受けてVサインを向けてくる。
 僕はそのまま彼女のもとへイチとともに駆け寄った。

「さすがムト。楽勝だったみたいだね」
「ちょっと楽しかった」

 あれでちょっとなんだ……はは。

 じゃあ全力で戦ったら……とか考えて怖くなったのでイメージは即時終了した。

「あとはクラフトすれば終わりだけど……」

 問題は描いた紋の上にどうやってこの巨体を乗せるか。
 ゲームでは魔物にピントを合わせるとドラッグして軽々と持ち運べるシステムだったが、ここではそんな能力はない。

 いやまあムトに頼んで運んでもらえばいいんだろうけど……。

「あ、そっか。じゃあこれならどうだろ」

 あることを思いつき、僕はインベントリからある物を取り出した。
 それは小さな木の筒。
 蓋があり、それを取って筒を傾けると中から黒い液体が流れてくる。

 これは――墨だ。
 以前波打ち際に流されていたイカからクラフトした墨を筒の中に保管しておいたのである。
 僕はそれを人差し指につけて、ジャイアントスライムの身体に《クラフト紋》を描いていく。

「――よし、っと、完成!」

 実際に試したことはないが、ちょうどいい機会だ。

「――クラフト!」

 もしかしたらウンともスンとも言わなくて若干気恥ずかしい思いをするハメになるかもしれないと思ったが、何と《クラフト紋》が輝いてくれたのだ。

『NEW 《ジャイアントスライムの種》を一個入手』
『《スライムの油》を一個入手』
『NEW 《攻略者の証》を一個入手』

 良かったぁ。期待通りの効果を発揮してくれたよ。

 これで魔物の身体に直に《クラフト紋》を描けばクラフトすることができることが分かった。
 ただそれよりも表示された文字を見て思わず眉をひそめてしまったのは、最後の《攻略者の証》である。
 ゲームではそんなものはなかった。
 手に入れたものを確認するためにステータス画面を開いてアイテム欄を見る。
 その中の《貴重品》というカテゴリーにはソレはあった。

「《攻略者の証》……ダンジョンをクリアした者に与えられる証明書。使用方法は不明だが、いずれ必要になる時が来るかもしれない……か。…………どういうこと?」

 まったく意味が分からない。
 とりあえずもらっておいて損はなさそうなネーミングだけど。
 あとでヤタにでも聞いてみよう。

「さて、それじゃこの子が起きる前に僕たちは帰ろうか。ムトも満足した?」
「ん、お腹減った。早く帰ってご飯」
「あはは、分かった分かった。今日は二人とも頑張ってくれたから豪勢にするよ」

 彼女たちのお蔭でダンジョン攻略がスムーズに行けたのも事実だしね。
 一人だったら素材集めもあったからもっと時間がかかってたと思うし。
 そうして僕たちは意気揚々と〝リターンゲート〟がある場所へと向かい、我が拠点である【箱庭】へと帰還したのであった。


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