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 フッフッフッフッフ。
 思わず笑いが零れ出ちゃうよね。
 だって鉄だよ鉄。

 人間の文明の中で切っても切り離せない素材がこんなにも早く手に入れることができたなんて嬉しさ爆発だって。
 何といっても鉄は幅広いクラフトに使える。
 武具でも家具でも調理器具でも何でもござれだ。
 特に料理はクラフトして作れたら手っ取り早いし最高なのだが、ここでは自炊するしかないのである。
 故に必然的に優れた調理器具はかなり重宝するのだ。

 料理も結構好きな僕からしたらやっぱり調理器具にはこだわりたいしね。

 これで包丁に鍋などの耐久性が高い機具が手に入る。
 ただ当然ながら鉄にも限りがあるので考えて作る必要はあるけれど。

「それに毛皮と油も手に入ったし、これで服やロウソクなんかも……うひひ、いっぱい作れるじゃ~ん」

 もう楽しくて仕方ない。これが物作りの醍醐味だよね~。
 うひ、うひひ、うひひひひひひ。

「……ねえヤタ、ツナギがおかしい」
「放っておいてやれ。たまにああなるのだ」
「「「ピィ……」」」

 僕以外の他の住人たちが失礼なことを言っているみたいだが、そんなの気にしない気にしない。
 僕は次々と新しい素材を使っていろいろなものをクラフトしていく。

 するとそれに従ってレベルも急激に上昇していき、とうとう20の大台に入ることになった。
 ジャイアントスライムをクラフトした時にもレベルが上がったが、こんなにも早く20レベルになれたのも鉄を使ってのクラフトのお蔭である。

 より優れた品をクラフトすれば相応に従い経験値が入るからだ。
 同時に目の前にある表示が浮かび上がる。

『NEW 《青のクラフト紋》が使用可能になった』

 ゲームでも20レベルに至ると解放する条件だったが、このシステムも健在だったようだ。
 これでさらにクラフトの幅が広がる。

「ところでツナギよ、新しい種も手にしたわけだが、そろそろ《マモノ畑》にも手を加えてはどうだ?」

 ヤタが畑の規模を大きくする提案をしてきた。

「ん~そだね。種も植えてやりたいし、今の畑じゃ手狭かも」

 今回のダンジョン探索で手にした種はかなり多い。

 スライムの種:15
 バットンの種:7
 スネークラビットの種:4
 ジャイアントスライムの種:1

 合計で27もの種を入手したはいいが、これを全部埋められるほどの広さは、今の畑にはない。
 特に《ジャイアントスライムの種》は、普通の魔物の種よりも大きくスペースを取るのが、上手く創作する条件にあるのだ。
 だがその前に……。

「うぅぅ…………ツナギィ……お腹減った」

 あ、忘れてた。
 ついつい帰って来てすぐにクラフトの魔力に憑りつかれてしまっていたが、そういえばムトが空腹だった。

「あーごめんごめん。じゃあ畑の拡張の前にご飯にしよっか」

 せっかくだから作った調理器具を使って、【始まりの森】で採取した食材を調理したいと思う。
 《スライム油》は調理用の油としても使えるので、採ってきた野草は素揚げにでもしよう。
 それで塩を振って食べれば結構イケルはず。

 あとは昨日ムトが海に潜って獲ってきた魚や貝などを、野草やキノコ類と合わせて鍋で煮込もう。
 他にはダンジョンで魔物ではなく普通の動物である猪がいたので、ムトに狩ってもらい《イノシシ肉》としてクラフトしてインベントリに入れておいた。
 結構な量があるので、それを使ってステーキでも焼けば信じれないほどの大食漢であるムトも満足してくれるだろう。

 僕は小屋の中でさっそく調理を始めると、ムトが何か手伝えないかと言ってきたので、一緒に料理を楽しみながら作ることにした。

 そういや誰かとこうして料理するっていうのも懐かしいよなぁ。

 いや、他人ということでいえば初めてだ。
 一緒に台所に立っていたのは母親だったから。

 …………そういや母さん、元気かなぁ。

 僕がこの世界に来たことで、地球での自分がどうなっているのかなんて分からない。
 僕自身がこの世界にトリップしてきたのであれば、自宅には自分という存在はいないだろう。
 しかし何かしらの理由で精神だけが、この世界の僕というキャラクターに憑依したというのであれば、きっと自宅には意識がなくなった僕がいるはず。

 前者でも後者でも、両親には心配をかけているかもしれない。
 この世界に来てもう結構経ったが、改めて考えるとやっぱり寂しさと申し訳なさは拭えない。

「……どうしたの、ツナギ?」
「え?」
「何だか悲しそう。……どこか痛い?」

 ムトが心配そうに僕の顔を覗き込んでくる。
 僕はそんな彼女の心遣いに胸があったかくなるのを感じて微笑む。

「ううん、大丈夫。ちょっと考え事をしてただけだから」
「ん……だったらいい。でも、何か悩みがあるなら言ってほしい」
「ムト……」
「ツナギはムトの……家族」
「家族……家族、か」
「ムトにはツナギたちしかいない……から」

 そうだ。この子には記憶がない。
 何の因果かここに流れ着いた彼女だが、この世界では唯一無二の存在であり、恐らくは転生してまだそれほど時間が経っていないとヤタから聞いていた。

 天涯孤独。

 その苦しみを分かることはできないが、寂しいという気持ちは分かる。
 家族が……自分が知っている者たちが傍にいないというのは怖いものだ。

 そして今、この子には僕たち【箱庭】の住人たちだけが頼りなんだよな。

 僕はそっと彼女の頭を撫でてやる。

「安心してムト。僕はずっと君の味方だよ」
「ん……」

 気持ち良さそうに目を細めて身体を預けてくる。

 あれ、なにこの可愛さ。もうギュッと抱き締めてもいいよね?
 妹がいればこんな感じなのかなぁ。

 こんな子のお兄ちゃんならきっと溺愛してしまうこと間違いないと思う。
 せめて僕が帰るその日まで、ううん、この子が僕を必要としない強さを得て、自らの居場所を見つけるまでは傍にいてやろうとそう思った。



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