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出現したのは広大な草原が広がっている中でも、透明度の高い綺麗な小川の傍だった。
これだけ澄んだ川ならば、きっと川魚もいるだろう。
そういや釣り竿とボートも一応作っておいたっけ。
深さはそれほどでもない川なので、さすがにボートを浮かべて遊覧というわけにはいかないが、釣りを楽しむくらいはできるはずだ。
ただ今日は釣りが目的で来たわけではないので、名残惜しさを感じつつ草原をムトとともに歩くことにした。
柔らかな風と春のようなポカポカ陽気に、とても気分が高揚してくる。
こんなにも良い天気でのどかなシチュエーションだったら、ついピクニックでもしたくなるのも変じゃないだろう。
「ねえツナギ、これからどこ行くの?」
「町だよ」
確か……と口にしながらマップを開く。
すると【始まりの森】の時のような、未開放のマップが記されほとんど何も分からない。
だがこちらにはゲーム知識がある。
「こっから東に行けば町があると思う」
「へぇ、ツナギはとても物知り」
凄いと言いつつ目を輝かせ見つめてくるが、こちとら自慢するようなことでもないので恐縮してしまう。
それに本当に記憶通りに街があるかも疑わしい。
ところどころゲーム内容とは違っているので、街の配置なども変わっていることも十分に有り得る。
「――ん? お、魔物だよ、ムト」
目前に立ちはだかるようにして出現したのは鬼のような醜悪な顔を持つゴブリンと呼ばれる魔物である。
手にはこん棒を持っているが、これが弓や剣などの場合もあり、肌の色や大きさなども異なっていて、恐らくゴブリンがスライムに次いで二番目に多種多様な生態を持つ種族だったはず。
今回のこん棒を持つ茶褐色の肌を持つゴブリンが、いわば一番ポピュラーなゴブリンだ。
「二体、か。しかも《邪気種》。ムト、戦ってみたい?」
「……面白くなさそうだからいい」
そりゃこのゴブリンは初期設定のゴブリンだしね。ムトにとっちゃスライムとかと変わらないのは当然か。
それを言うなら今の僕にも言えると思うが。
「ギギギィ……!」
鋭い目つきで睨みつけてくる。少し前なら怖かっただろうが、何だか相手がとても小さく見えていた。
本来ゴブリンの討伐レベルは〝5〟程度。スライムなどともそう変わらない。
だから――。
「「ギガァァァァッ!」」
二体一気に僕目掛けてこん棒を振り回しながら突っ込んできた。
僕はすでに装備していた石の剣を一閃し、カウンターで相手に攻撃を繰り出す。
ゴブリンたちが持っているこん棒がどれも真っ二つになり、武器を一瞬で失くした事実に奴らは足を止めて呆然と立ち尽くす。
そのまま身動きを止めているゴブリンたちに向かって、素早く追撃を与え一撃で気力ゲージをゼロにした。
見れば体力ゲージも九割以上が削られている。
「危ない危ない。威力があり過ぎるのも考えものかな」
レベルが上がった上に、攻撃力の高い石の剣での一撃だ。
手加減はしたとはいえ、危うく絶命させてしまうところだった。
致命傷を受けた彼らがそのまま放置して死なないように、さっそく大きく《クラフト紋》を書いて、その上に二体を乗せ邪気を祓っていく。
『NEW 《ゴブリンの種》を二個入手』
『NEW 《ゴブリンの爪》を一個入手』
二体いるからと言って、必ずしも二個入手できるわけではない。
こればかりは運の要素が絡んでくる。ただ種だけは必ず個人個人で手に入る。
それに別にクラフトをしなくても……だ。
僕は傷が完治したが、いまだ倒れたままのゴブリンに近づき、インベントリから《ハサミ》を取り出し、その爪を切り取ってやった。
そうして切った爪を手に取ってやると……。
『《ゴブリンの爪》を五個入手』
このようにクラフト以外でも直接入手することだって可能なのだ。
まあ、当然といえば当然かもしれないが。
そうして彼らから素材を拝借したあと、僕たちは再び歩を進めていく。
ゴブリンだけでなく、スライムや他の魔物と遭遇し戦闘を行っていくが、中には《純粋種》もいて、こちらの存在を見ると怯えたように逃げていく魔物もいた。
こんなふうに臆病な魔物だって多いのである。
それが《邪気種》になることで、一種の暴走状態になるというわけだ。
普段はビクビクして頼りなさそうに見えている人が、酒を飲むと他人に噛みついたり大言を口にしたりする場合と似ているのかもしれない。
それほどの変わり様だということだ。
そんな感じで戦闘を繰り返しながら記憶を頼りに進んでいると、小高い丘の上に辿り着いた先に、お目当てのものを発見することができた。
「おお、良かったぁ。やっぱゲーム知識は最高だな」
その言葉を証明するかのように、目の前には見覚えのある形をした町が広がっていた。
あと五百メートルほど先だろうか。
大体ではあるけれど、〝リターンゲート〟から二キロメートルといったところ。
もしかしたら現実ではもっとかかるかもしれないと思ったが、それほど時間を費やさずに来られてホッとする。
もし到着するのに半日くらいかかるようだったら、途中で引き返す必要があった。
何故なら〝マモノ牧場〟の世話があるからだ。
毎日必ず魔力を注ぐ必要があるので、それを怠らないように計算した行動を心掛けないといけないからである。
これなら十分に日帰りで【箱庭】へと帰還することも難しくない。
僕たちは早々と眼先に見えている街へと急いでいった。
これだけ澄んだ川ならば、きっと川魚もいるだろう。
そういや釣り竿とボートも一応作っておいたっけ。
深さはそれほどでもない川なので、さすがにボートを浮かべて遊覧というわけにはいかないが、釣りを楽しむくらいはできるはずだ。
ただ今日は釣りが目的で来たわけではないので、名残惜しさを感じつつ草原をムトとともに歩くことにした。
柔らかな風と春のようなポカポカ陽気に、とても気分が高揚してくる。
こんなにも良い天気でのどかなシチュエーションだったら、ついピクニックでもしたくなるのも変じゃないだろう。
「ねえツナギ、これからどこ行くの?」
「町だよ」
確か……と口にしながらマップを開く。
すると【始まりの森】の時のような、未開放のマップが記されほとんど何も分からない。
だがこちらにはゲーム知識がある。
「こっから東に行けば町があると思う」
「へぇ、ツナギはとても物知り」
凄いと言いつつ目を輝かせ見つめてくるが、こちとら自慢するようなことでもないので恐縮してしまう。
それに本当に記憶通りに街があるかも疑わしい。
ところどころゲーム内容とは違っているので、街の配置なども変わっていることも十分に有り得る。
「――ん? お、魔物だよ、ムト」
目前に立ちはだかるようにして出現したのは鬼のような醜悪な顔を持つゴブリンと呼ばれる魔物である。
手にはこん棒を持っているが、これが弓や剣などの場合もあり、肌の色や大きさなども異なっていて、恐らくゴブリンがスライムに次いで二番目に多種多様な生態を持つ種族だったはず。
今回のこん棒を持つ茶褐色の肌を持つゴブリンが、いわば一番ポピュラーなゴブリンだ。
「二体、か。しかも《邪気種》。ムト、戦ってみたい?」
「……面白くなさそうだからいい」
そりゃこのゴブリンは初期設定のゴブリンだしね。ムトにとっちゃスライムとかと変わらないのは当然か。
それを言うなら今の僕にも言えると思うが。
「ギギギィ……!」
鋭い目つきで睨みつけてくる。少し前なら怖かっただろうが、何だか相手がとても小さく見えていた。
本来ゴブリンの討伐レベルは〝5〟程度。スライムなどともそう変わらない。
だから――。
「「ギガァァァァッ!」」
二体一気に僕目掛けてこん棒を振り回しながら突っ込んできた。
僕はすでに装備していた石の剣を一閃し、カウンターで相手に攻撃を繰り出す。
ゴブリンたちが持っているこん棒がどれも真っ二つになり、武器を一瞬で失くした事実に奴らは足を止めて呆然と立ち尽くす。
そのまま身動きを止めているゴブリンたちに向かって、素早く追撃を与え一撃で気力ゲージをゼロにした。
見れば体力ゲージも九割以上が削られている。
「危ない危ない。威力があり過ぎるのも考えものかな」
レベルが上がった上に、攻撃力の高い石の剣での一撃だ。
手加減はしたとはいえ、危うく絶命させてしまうところだった。
致命傷を受けた彼らがそのまま放置して死なないように、さっそく大きく《クラフト紋》を書いて、その上に二体を乗せ邪気を祓っていく。
『NEW 《ゴブリンの種》を二個入手』
『NEW 《ゴブリンの爪》を一個入手』
二体いるからと言って、必ずしも二個入手できるわけではない。
こればかりは運の要素が絡んでくる。ただ種だけは必ず個人個人で手に入る。
それに別にクラフトをしなくても……だ。
僕は傷が完治したが、いまだ倒れたままのゴブリンに近づき、インベントリから《ハサミ》を取り出し、その爪を切り取ってやった。
そうして切った爪を手に取ってやると……。
『《ゴブリンの爪》を五個入手』
このようにクラフト以外でも直接入手することだって可能なのだ。
まあ、当然といえば当然かもしれないが。
そうして彼らから素材を拝借したあと、僕たちは再び歩を進めていく。
ゴブリンだけでなく、スライムや他の魔物と遭遇し戦闘を行っていくが、中には《純粋種》もいて、こちらの存在を見ると怯えたように逃げていく魔物もいた。
こんなふうに臆病な魔物だって多いのである。
それが《邪気種》になることで、一種の暴走状態になるというわけだ。
普段はビクビクして頼りなさそうに見えている人が、酒を飲むと他人に噛みついたり大言を口にしたりする場合と似ているのかもしれない。
それほどの変わり様だということだ。
そんな感じで戦闘を繰り返しながら記憶を頼りに進んでいると、小高い丘の上に辿り着いた先に、お目当てのものを発見することができた。
「おお、良かったぁ。やっぱゲーム知識は最高だな」
その言葉を証明するかのように、目の前には見覚えのある形をした町が広がっていた。
あと五百メートルほど先だろうか。
大体ではあるけれど、〝リターンゲート〟から二キロメートルといったところ。
もしかしたら現実ではもっとかかるかもしれないと思ったが、それほど時間を費やさずに来られてホッとする。
もし到着するのに半日くらいかかるようだったら、途中で引き返す必要があった。
何故なら〝マモノ牧場〟の世話があるからだ。
毎日必ず魔力を注ぐ必要があるので、それを怠らないように計算した行動を心掛けないといけないからである。
これなら十分に日帰りで【箱庭】へと帰還することも難しくない。
僕たちは早々と眼先に見えている街へと急いでいった。
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