マモノの神様 ~魔物を作って育ててのんびりクラフトライフ~

十本スイ

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 ――【農耕の町・トットリア】。

 円形の外壁に囲まれており、町の右半分が住民たちが住む居住エリアで、左半分が田畑という面白い形をしている。
 農耕の町に相応しく、様々な農作物を育てており、ここで生産された作物は確か皇帝が住まう宮中にも献上しているという。

 それだけ量、品質ともに優良なのである。
 外壁の南にある門へと到着すると、普通に開いているのでそのまま中へと入っていく。
 夜はこの門を閉めて、魔物たちの侵入を防ぐようにしているらしい。

「これからどうするの、ツナギ?」
「そうだね。とりあえずは店に行こう」

 面白いことに、南門から北門にかけて、ただただ真っ直ぐな道路が延びており、そこを境にして居住エリアと田畑で別れている。
 田畑の規模もこうして近くで見ればまさに壮観という言葉がピッタリだ。

 正式な大きさは不明だが、大体でいうならば平面で見て縦が百メートル、横が三百メートルくらいの長方形で、そこには当然区分けされて多種多様な作物が栽培されている。
 まだ昼前だということもあって、農耕に勤しむ住民たちで溢れて活気づいていた。

 それにしても……と思うことがある。

 それは――自分以外の人間という種族がいることだ。
 何だかとても懐かしい気分が胸に込み上げてくる。
 まだ人型であるムトがいたからかもしれないが、もしこれが初めての人間との出会いなら、涙ぐむくらいしていた可能性だってある。

 もうかれこれこの世界に来て一ヵ月は経つのだから。
 時間があったら、この田畑をグルリと一周しながらいろんな人と話とかしてみたいな。
 という欲望もあり、さっそく居住エリアに入り、住民に店が建ち並ぶ場所を聞いて向かうことになった。
 路地を歩いていると、目的地のある方向から良いニオイが漂ってくる。

「あっ、ちょっと待ってムト!」

 そのニオイにたまらずといった感じで、突如ムトが走り出してしまった。
 慌てて追いかけると、商店街のような場所へと足を踏み込んだ。

 そこでは多くの露店が開かれており、間違いなくここから漂ってきたニオイだということを理解した。
 さすがは農耕の町とでもいうべきか、野菜や果物が豊富で、思わず目移りしてしまうほどである。

 その中でもムトは、果物を使った《クレープ》のニオイに意識を奪われたようで、その店の前でジ~ッと穴が開くほど見つめ出した。
 何とも店主がやりにくそうに苦笑を浮かべている。

「ムト、もしかしてアレ食べたいの?」

 コクコクと今にも涎が落ちそうな表情で何度も頷く。

「あーでもお金が必要だしね。とりあえずそれを手に入れるためにある店に行くから、もう少し我慢できる?」

 残念そうにシュンとなったものの、「分かった」と大人しく納得してくれた。
 僕が探しているのは武具屋、もしくは雑貨屋か質屋である。
 知識上ではこの町に武具屋と雑貨屋があり、そこでなら買い取りも行っていたはず。

 先に辿り着いたのは武器や防具などを売っている店である武具屋であった。
 魔物の襲撃から身を守るためにも武具は欠かせない代物となっている。
 武具屋の中へ入ると、木や鉄の独特なニオイが鼻をつく。

 こじんまりとした空間には、360度見回しても視界に映るように所狭しと武具が陳列している。
 一見するとかなり物々しい雰囲気であり、少し気圧されるものを感じてしまう。

 まあ、いわゆる兵器として扱われるものばかりで囲まれているのだからしょうがないかもしれないけれど。

 僕はそんな武具には目もくれず、真っ直ぐ奥にあるカウンターへと向かう。
 そこにはかなりガタイの良い、丸坊主の男性が似合わないエプロン姿で雑誌を読んでいた。
 色黒の彼が店主なのだろう。

 僕の接近に気づいた店主は、「お?」と声を漏らすと、ジッと訝しげに睨みつけてきた。
 こんな場所に出入りする少年というのが物珍しいのかもしれない。

「すみません。ここって買い取りやってますか?」
「……ああ、やってるぜ」

 予想を裏切ることなく野太く低い声音だ。

「じゃあこれを買い取ってほしんですけど」

 予め用意しておいた大きな袋には、クラフトした新品の武具が入っている。
 かなりの重さで、20レベルの身体能力じゃなかったら、持ち上げることなんてできなかったと思う。
 そのまま袋ごとカウンターに置く。
 中身を確認し始めた店主が「ほう」と感心めいた声を出す。

「坊主、これどうしたんだ?」
「僕が造ったんですよ」
「あぁ? おめえが?」

 明らかに疑わしい目つきで見つめてくる。
 その視線がチラリと僕の手へと向かう。

「嘘吐きやがれ。鍛冶師ならそんなキレイな手してねえよ」

 ごもっとも。
 火を扱うし、毎日ハンマーを握っている手は、幾つものマメが潰れてゴツゴツとして、まさに職人の手をしていることだろう。
 しかしこちらにも言い分がある。

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