俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ

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「っ…………な、何だって? い、いいい今、何て言ったんだ、ナクル?」

 冷静さを装おうとしながらも、頬をプルプル震わせながら問い質してきた銀河。

「だ、だから! オキくんはボクのと~っても大事な人ッスよ!」

 ナクルが懐いてくれるのは正直にいって嬉しい。こんな愛らしい子なのだから、沖長も彼女を妹のように可愛がっているつもりだ。だから決して否定はしないのだが……。

「だ、大事な人……? どういうことだ? 原作にはあんな奴いなかったじゃんか……これってもしかしてバタフライ効果ってやつなのか? いやまだ原作は始まってないし、その間の出来事は俺も知らない。だからこれは慌てるようなことじゃないのか? 原作が始まったら自然とアイツがいなくなる? そういう流れなら放っておいても問題ないってことなのか? ああでもここがパラレルワールド的なやつですでに原作から離れてるってこともありで……だとするならコイツは俺の敵!?」

 何やらブツブツ言い出した。ただ耳が良い沖長にはほぼほぼ何を言っていたのか聞こえていたのである。

(原作……ね。はい、転生者確定)

 そんな言葉が出てくることが証明そのもの。ただ彼の言葉を真に受けるなら、原作とやらはまだ始まっていないらしい。いつから始まるのか聞いてみたいが……。

(うわぁ……ものすっごい睨んできとる)

 まるで視線で人を殺すような勢いの眼差し。そこには怒りや妬みなどのどす黒い感情が隠しようもなく溢れているのが分かる。
 これは赤髪少年のように問答無用で殴りかかってきてもおかしくないかと、一応身構えたその時だ。

「――――こんのバカ銀河ぁぁぁ!」

 突然銀河がピンボールみたいに弾け飛んでいった。その理由は、一人の女子生徒にあった。その少女が銀河の頭部に某特撮ヒーローのような飛び蹴りを放ったのである。
 それを無防備に受けた銀河は、面白いように地面を転がっていく。

 皆が唖然としている最中、その少女は怒りに満ちた表情で、銀河に対し人差し指を突きつけた。

「ま~ったく! 騒がしいって思ったらやっぱりアンタだったのね!」

 どうやら知り合いのようだが……。

「痛つつ……一体何が……って、あ、あ、姉貴っ!?」

 頭部を擦りながら現状を把握しようと、周りを見回した銀河が、その目に映った女子に対し目を丸くして声を張り上げた。

(姉貴? それじゃ……姉弟ってことか?)

 確かにそこにいる少女は、銀河のような銀髪でどことなく顔立ちも似ている。腰まで伸びた銀の髪に、ロシア美少女のような透明感のある雰囲気と白い肌。銀河もイケメンだが、こちらは本当にお姫様のようなルックスだ。

「い、いきなり何するんだよ、姉貴!」
「うっさい! これでもアタシは美化委員なのよ!」
「…………それが何か関係あるのか?」

 銀河がそう口にしたが、確かに沖長もそう思ってしまった。

「当然よ! 美化委員は学校の汚れやゴミをお掃除するのがお仕事なの!」

 するとそのままビシッと、再び銀河に対して指を突きつけながら言い放つ。

「そしてアンタはゴミみたいに性格が汚い!」

 その痛烈な言葉が銀河に与えた痛みは強かったようで、「ぐはぁ!?」と胸を抑えて銀河は蹲った。

「聞いたわよ。アンタさっそくいろんな女の子に声かけてるでしょ! それにこんな正門の前で女子を口説こうとしたらしいわね。マジでキモイから! この見た目だけの星クズ野郎!」

 そう言いながら、銀河に駆け寄り何度も拳骨を繰り出す少女。

「い、痛っ、痛いって姉貴! ごめっ、ごめん! マジで謝るからぁぁ!」

 もう涙目で先ほどのイケメンスタイルが完全崩壊している。というかちょっと同情するくらいに折檻を受けていたので……。

「あ、あの、もうそのくらいで許してやってください」

 沖長が仲介に入ることにした。

「え? ……いいの? アンタたちでしょ、この子に迷惑かけられてたのって」
「ま、まあ……でも直接被害があったわけではないので。それにナクル……この子もそんなに怒ってないと思います。そうだよな、ナクル?」
「は、はいッス。ただちょっと……気持ち悪かっただけで」

 そのナクルの正直な呟きに「ぐふほぁ!?」と、さらにトドメを刺された銀河。間違いなくライフがゼロになったであろう。

(コイツ……態度はデカイし自分勝手だけど、めちゃくちゃ打たれ弱いんじゃ……)

 実際赤髪少年にも一発でのされていたし。

「……そう? 分かったわ。じゃあ……おいこら、アンタもちゃんと謝りなさい!」

 首根っこを掴まれた銀河は、「ふげぇぇぇ」と情けない声を出している。それでも「ほら早くしろ!」と言われ、銀河は素直に頭を下げてきた。

「ご、ごべんざさいぃ……」

 まさか本当に謝るとは思わなかったので、その意外性に驚くも、謝罪を受けてさすがにそれ以上何かを言うつもりは沖長もナクルもなかった。
 それから今度は少女の方がナクルや、その周りにいる人たちに謝罪をした後、そのまま銀河を引き攣れて去って行った。

(台風が過ぎ去った後みたいだな……)

 その場はしばらく沈黙が流れていたが、すぐにまた活気が戻っていく。
 それまで事の成り行きを見守っていた両親たちも、沖長たちに近づいてきて、そろそろ家に帰ろうかと歩き始めた。

 話題は当然さっきの銀河についてだ。赤髪少年の件があったので、修一郎はナクルに注意するようにと必死に言い聞かせている。
 葵は「本当にナクルちゃんはモテモテねぇ~」と相変わらずであり、ユキナは呆れたように修一郎の親バカっぷりを見ていた。

 そして悠二はというと、「これからちゃんとナクルちゃんを守ってやるんだぞ」と沖長に言ってくる始末。

(でもあの銀髪……何となくだけど赤髪よりも扱いやすい気がしたなぁ)

 そんな推測に少しばかりホッとしながらも、それでもやはり今後は厄介な事態に巻き込まれそうという思いもあって溜息が漏れる沖長であった。




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