俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ

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「何故でしょうか? そもそもせっかくのチャンスだというのに、何故あなたは……籠屋は動かないのですか? あの子供らを使えば、再び世に出ることもできるというのに」

 皇火の言葉にこの場のほとんどの者は顔をしかめる。事実、この場にいる皇火以外は、前回のダンジョンブレイク時を直に経験した者たちだ。だからこそ各々に思うところがあるのだろう。

「それに調査をしてみれば、子供らを管理せずに放置したままではないですか。まさかダンジョンで入手した素材もまた放置ではないでしょうね?」

 咎めるような言い方。そんな皇火の鋭い視線に対し、トキナは真っ直ぐ彼の目を見据えたまま答える。

「確かにナクルたちには自由意志のもと行動させています。ダンジョンを攻略する時には、必ずこちらに一報を入れるという約束のもとで、です」
「はは、一報ですか。それだけ? 子供を自由にさせているというのにそれだけですか? やはり正気の沙汰とは思えませんね。だったら改めて進言しますよ。今後は徹底的に攻略者を管理し、積極的にダンジョンに挑ませ素材を持ち帰らせてください」
「……先ほども言いましたが、あなたの言葉に従うことも、その提案を飲むこともできません」
「っ……理由をお聞かせ願いたいものですね」
「確かにあなたの言う通り、ダンジョンで手にできるモノは私たちにとっても利用価値は非常に高いものでしょう。それこそ富や名声も手にできるかもしれない。そしてかつて栄華を極めていた籠屋家が再び世に出ることも可能でしょう」
「ならば……」
「ですが私はそれを望んでいません」
「! ……望んでいない? それはどうしてでしょうか?」
「今の籠屋は、かつてのような権力闘争の頂点に立っていた存在とは違います。時は流れて占術師も移り変わり、それでも家は潰されることなく平和を維持できています。これ以上何を望みましょうか」
「家には格というものがあります。天徒一族の下克上によって籠屋家と我々四家は格が落ちてしまい、天徒一族の腰巾着であった七宮などのぽっと出があろうことか上位に立った。これが許されることでしょうかね?」

 どちからというと冷静だった皇火だったが、口を開く度にその熱はどんどん上がって行く。そんな彼の様子を見て、トキナは得心したように僅かに頷く。

「……なるほど。あなたがそれほど必死なのは、かの七宮家の存在が気に入らないのですね?」

 トキナの指摘に、バツが悪そうな表情を浮かべる皇火。

「ああ……なるほどじゃぜ。まあ昔からお前さんら藤枝家と七宮家はバチバチやっとったしのう」

 納得したように腕を組みつつ湯のみに入った茶を飲む以蔵。彼だけでなく他の者も同様の様子を見せている。

「あなた方、藤枝家と七宮家の因縁は理解しています。だからといってその事情に回りの家を巻き込むつもりですか?」
「っ………子は親が守るものでは?」
「カーッカッカッカ! よくもまあそんなことが言えたもんじゃぜ!」
「……どういう意味ですかな、羽竹殿?」

 明らかに敵意を含ませた視線を、皇火が以蔵にぶつけた。

「さっきは五家条約を破るような言動をしやがったくせに、立場が悪くなると柱に縋るってのか? だからお前さんは代理でしかねえって言ってんじゃぜ?」
「そ、それは……」
「そうだな。あの子たち……ナクルたちを利用して失った権力を取り戻そうとしているみたいだが、そう上手く事が運ぶとは思えないし、何よりも子供を導くはずの大人である俺たちが、そんな下卑たことはしちゃいかんでしょうに」
「っ……柳守殿まで……!」
「確かに我々五家は、昔のような権力は失いました……が、幸いにもこうしてそれぞれの家が無事に顔を合わせることができています。過ぎた欲は身を滅ぼすだけですよ」
「蔓太刀殿まで…………なるほど。どうやらあなた方はすっかり牙が抜かれた獣に成り下がったようですね。……もういいです、これ以上は話の無駄のようですから」

 そう言って皇火が立ち上がり全員に背を向ける。

「あなた方に少しでも期待した僕が愚かだった」

 そうして皇火が去ろうとしたところに大悟が口を開く。

「おう、何考えてんのか知らねえが、アイツらに手を出したらぶっ潰すぜ?」

 しかしその発言に対し反応を見せることなく皇火はそのまま退座した。

「…………やれやれ、今年もやはり荒れた顔合わせになりましたなぁ」

 困ったように笑いながら言うのは陣介だ。それに賛同するかのように他の者たちも肩を竦める。

「ていうかいつも荒れんのは大体がそこのジジイのせいじゃねえか」
「カカッ、この程度で荒れるなんて言わねえよ。昔の五家会議はもっとピリついておったんじゃぜ? それこそ常に一触即発みてえによぉ」
「よくもまあそんなんで五家の仲を維持できたな」
「それは互いが互いの強さを認めてたからじゃぜ。そうして籠屋を筆頭に、どの家も貪欲に強さを求めていたからこそ栄華を極めておった」
「ふぅん、だったらアンタはどちらかってーと、藤枝家当主代理の気持ちの方が理解できるんじゃねえのか?」

 昔の五家を熟知しているならば、その在り方を認めているような発言をする以蔵は皇火の提案は悪くないものと判断しそうだと大悟は考えたようだ。

「フン、儂らん時とは時代が違うわい。あの時は確かに五家が頂点じゃったが、その代償に平和とは真逆の毎日じゃったしのう。周囲には常に寝首をかこうとする輩ばかり。信頼何てものが掃きだめに溜まるような時代じゃぜ。その点、籠屋家が国家占術師を退いてからは穏やかなもんじゃぜ」
「けどそれが気に食わねえってのが藤枝の意思なんだろ?」
「さあのう。アレが藤枝の総意ってんなら大事じゃが、何せあくまでも代理じゃしなぁ」

 以蔵が喋りながらチラリとトキナを見やった。その意図を察したのか、トキナは軽く頷く。

「確かにこのまま放置はできませんね。できるだけ早急に藤枝家当主の意思を確認しないといけません。ただ……報告では藤枝家当主は大病を患っており、今も寝たきりが続いている様子。なかなか面会もままならないようですから」
「ふむ……あやつめ、不甲斐ないのう。しょうがねえから、からかいがてら儂が様子を見てくるとしようか」
「頼んでもよろしいんですか、以蔵殿?」
「おうよ、御前殿。これも四家の務めじゃぜ」
「ではお手数をおかけしますが頼みます。では少々トラブルがありましたが、改めまして、今後とも五家存続のために皆様のお力をお貸しくださいませ」

 トキナの言葉に、当主の面々たちは揃って頭を下げる。

「では他に何かありましたら挙手を願います。なければこれで終わりとさせて頂きます」

 そうして藤枝家を除いた顔合わせは不穏な影を残したまま終了したのであった。


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