能天気男子の受難

いとみ

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今日は光魔法の経験値を上げるため、教会に行く。
はずなんだけど………誰も来ない。
おかしいな…集合場所が間違ってるのかな?

数分前、珍しくリビアンが伝言があると言いに来ていた。

「ルシオン………ネフィル先生が、集合場所は教室だそうよ。」
そっけ無く、言うだけ言って去っていった。

そして俺は1人で教室で待っている状況。
窓の外を眺めながら、今日は天気が良くて風が気持ちいいな…とそんな呑気な事をぼんやり考えていた。

うーん、皆遅いな…。眠くなってくる。
でも、リビアンが話しかけてくるなんて初めてかもしれない。俺に伝言があったとしても、無視するんだと思ってた。
ちょっと見直したな。

そんな事をのんびり考えていると…。

ガチャっと教室のドアが開いて、ネフィル先生達が来たのかと思い、そちらを振り向くと

「へへへっ、腕試しにしては物足りねぇな。」
「ひひっ、俺はこいつでも良いぜ。」
「俺、こういうイケメン嫌いなんだよ。ぼこぼこにしようぜ。」

男達が不穏な事を言いながら入ってきた。
その男達3人は背が高く筋肉もりもりのマッチョだ。
3人はニヤニヤしながら、俺に近づいてくる。

「あ、あのー、…どうしたんですか?」
後ろに後退りながら、聞いてみる。心当たりがないと思うけど…俺つり目だから『睨まれた』って言われるのか?俺の態度が気に入らないとかで、恨みを買う事もあるかもしれない。

「お前に恨みはねぇよ。頼まれたから、仕方なくやってんだよ。」
「あはははっ、仕方なくって言いながら、やる気満々じゃん。」
「早くしようぜ。騒がれたら面倒くせぇし。」

えぇぇぇえ!それって、俺目当てか!
「な、何で…そんな……。」
怖くて、声が震える。

「へへへ、これは聖女様の為なんだぜ。」
「聖女様が、お前は邪魔なんだとよ。」
「聖女様は俺達みたいなブサイクにも優しくしてくれた。」

「そうだ、俺は誰にも相手にされなかったが、聖女様だけは相手してくれた。」
「俺も…優しく…ムフフ。」

何だ?3人とも何かを思い出してニヤけてる。
もしかしたら、今逃げられるかも…と横に避けて出入口に行こうとすると、筋肉隆々の身体が目の前に現れ行く手を阻まれ、囲まれてしまった。
この3人…本当に同じ学園の学生?背も高くて筋肉の盛り上がりが凄い。顔もおじさんっぽいし…。

俺………生きて出れるかな。
いや、いくらなんでも殺しはしないはず。少し殴られるくらいなら…剣術も習ってるし、なんとかなるかも。

「聖女様は、殺しても良いって言ってたな。」
「ああ、もし殺したとしても誤魔化してくれるそうだ。」


聖女様ー!殺人はダメだって!


そして1人が、俺に向かって拳を叩き付けてきた。
とっさに俺は腕でガードするが…。

『バチっ!!』

殴りかかってきた男は、静電気のような音と共に、弾かれ飛ばされてしまった。
男達3人は何が起こったのか理解していないようだ。

セレスがかけてくれた守護魔法が発動したようだ。

さらに、別の男が俺に向かって殴りかかってくるが、またしてもバリアに阻まれる。
もう1人の男は火魔法の火炎砲を放ってきたが、それも俺に当たる事なくバリアによって消え去った。

凄い…守護魔法。完全に俺を守ってくれてる。

「ぜぇぜぇ、はぁはぁ、何で当たらねぇんだ?」
「これじゃ、話が違うぜ。弱くて簡単にボコれるって言ってたじゃねぇか。」
「これじゃ、俺達が聖女様に殺される。」


はい?聖女様って怖い人?
聖女っていうから、優しい人なんじゃないの?さっき優しくされたって言ってたのに…殺す殺されるって………どこの刺客なんだよ。

「あのー、殺されるとかは無いんじゃ………。さっき優しくされたって言ってましたよね?」

男達は床に手を付いて項垂れてしまった。
「いや………俺達は、もう終わりだ…。」
「聖女様の命令を果たせなかった……。」
「死ぬか、貴族を辞めるか…どっちかだ………。」

何ですと!死ぬか貴族を辞めるかって………どんだけ重要な任務なんだよ。俺に、そんな価値ないから。

『ガチャっバンッ!!』
タイミングが良いのか悪いのかそこに、ネフィル先生が入ってきた。

「ルシオン!大丈夫かい?………これは…どうなっているんだ?」
ネフィル先生が驚くのも無理もない。

襲われたと思えば俺は無傷で、襲った男達は何故か項垂れて落ち込んでいる。

「あー、何でも無いです。………たまたま空いている教室で彼らはサボりに来て…俺は、集合場所を間違ったみたいで……。」
言い訳にも無理があるけど、俺は無傷で彼らも無傷。何も問題が起こっていない。

ネフィル先生は、それを信じてはいないようだが、この場では罪を暴く事は出来ない。
「そう、か…君たちは、もう教室に戻りなさい。」

男達3人は気落ちしたまま教室を出ていった。

あの3人、大丈夫かな。聖女様に殺されないと良いんだけど。

「ルシオン…守護魔法があったから良かったものの。心配したんだよ。」

「はい…すいません。」

………ん?守護魔法があるって何で知ってるんだろう?
ネフィル先生の顔を見ると

「ふふふ、その顔は何故、守護魔法が見えるのかと言う事かな?私は、これでも魔法の研究者です。解りますよ。」

そうだった!やっぱり魔法省の人は凄いんだな。俺の事を好きじゃなくても解るなんて。

「それに………魔法省からセレス様に依頼があったんですよ。」

「はい?」
セレスに魔法省から依頼?それって俺に関係ある事なのかな。

「セレス様に聞いていませんか?」
ネフィル先生は、考えるようにして困った顔をする。

「すみません。これはルシオンには言わない方が良かったですね。」

嫌な予感がする。聞きたいのに聞いちゃいけないような感じで、鼓動が激しい。

「何ですか?聞かせて下さい。」
どうしても聞かないといけない気がしてくる。

「ルシオン、貴方は光属性です。怪我をしたら危険だ。だから魔法省としては、貴方を守るため、守護魔法をお願いしたんですよ。セレス様に。」


え?セレスに………。お願い?魔法省が?

「セレス様も嫌々でしたが快諾して下さって………今回の事のような出来事が起これば、貴方は死んでいたかもしれないですからね。」

ネフィルはルシオンの様子を伺いながら、そっと手を出す。ルシオンはショックだったのか、ネフィルの手に自身の手を重ねると、身体をもたれ掛かけてきた。

「いくら義理とはいえ、兄弟ですし…セレス様も、貴方と身体を繋げたんでしょう。」

ネフィルはルシオンの肩を抱き、優しく髪を撫でる。
ルシオンはもう、何も考えられないようでされるがまま、自分で動こうとはしなかった。

「今度は、私が守護魔法をかけますからご心配なく。セレス様も2度目は…流石に、拒否されるかと………。私が居ます、大丈夫。」

ネフィルの囁きは、悪魔のように甘く脳を洗脳していく。

ルシオンの瞳はもう何も写さなかった………。




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