能天気男子の受難

いとみ

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目の前に女神様がいる。俺、死んだのかな…。

「しっかりしろ!ルシオン!」

バチーンッと頬を叩かれる。その衝撃で正気に戻る。

「え?あれ、女神様?」
「誰が女神様だ。」

頬を染めたテオルドがいた。いや、俺にとっては女神様なのだが…。
そしてヒューリもいる。
2人が眠り続け俺が監禁され囮になって…と色々ありすぎて会えていなかった。2人とも元気そうだ。

「2人とも良かった。」
「それはこっちのセリフ。気を失いかけてたぞ。」

笑いかければ、ヒューリはそっぽを向いてしまった。
それを見たテオルドは、残念そうに俺を見てくる。俺何かした?
というか、俺はあの苦しみに耐えられなくなり気を失いそうになっていたんだ。だが今は違和感も何もない、普通だ。

「そうだ、マクビルは?それと、セレスとグレース王子は?」
「セレスには敵わないよ。…グレース王子は押さえた。だが、問題はあれだね。」

そう言ってテオルドは、そちらを向いた。
その視線の先には………黒い…人間?人影ではなく、それは闇に呑まれた人間だった。
黒く長い髪の毛は、うようよと触手のようにうねっていて気持ちが悪い。肌は白く人形のようで、生きているのかさえ解らない。
たぶん闇に呑まれ本人の理性は無いのだろう。

『…ユル、サ、ナイ……オマ、エ…コ、ロス…』

その亡霊のような人は、俺に向かって言っている。
背筋が震えるほどの殺意を向けられた。
そして、手から闇魔法で剣を作り出す。その剣は黒く鈍い光を放っている。そして黒い剣を振りかざし、その人はこっちに襲いかかって来た。
だがマクビルが自分の剣で、その剣を防ぐ。
「カキーンッ!」
剣と剣が激しくぶつかり甲高い金属音が鳴り響く。
『クッ!アァァァ!』

俺は知っている、この場面を。
本当なら俺が、あの黒い怪物になっていたからだ。

「ルシオン!下がれ!あいつの狙いはお前だ!」

マクビルは怪物の剣を受け流しているが、俺を守りながらでは本領を発揮できないようだ。
狭い室内では間合いを取ることも、剣を思いっきり振りかざすのもあまり出来ない。
ゲームでは最後にマクビルが勝つが、その過程が思い出せない。どうやったんだっけ?思い出せ俺。
あの強いマクビルが汗をかいて苦戦している。早くしないと、マクビルは防御だけで精一杯で、このままでは殺られてしまう。
ストーリー重視のゲームだったから、難しい事はしていなかったはず。マクビルの剣と…魔法………、そうだ!

俺は思い出した。闇には光。光属性の魔法なら、黒い怪物を倒せたはず。
しかし、なんの魔法で倒したかまではゲームには無かった。光属性の聖女が、光を放って黒い闇を消したのは知っているのだが…。
一か八か、やってみるしかない。俺の精一杯の魔力を込めて浄化魔法を掌に集中して、黒い怪物目掛け放つ。

『グウッ』

やったか!
と思ったが怪物は膝をついて苦しんでいるだけ。黒い闇を消し去ることは出来なかった。
俺の魔力だけでは足りないということか。

「くそっ!」

ゲームなら簡単に出来た事が、俺には出来なかった。やっぱり主人公じゃない俺には無理だったんだ。もう終わりだ。悔しさと諦めが俺を襲う。
そんな時

カンッ、ザスッ!
「くっ、う。」

顔を上げて見れば、マクビルが腕を切られていた。さらに床には血がポタポタと滴っている。それほど傷口が深いという事だ。

「マクビル…ごめん。俺、何も出来ない…もう…。」
「まだだ!俺は諦めない!」

辛いのにまだ剣を構えているマクビルを見て、俺は周りを見た。
テオルドとヒューリは俺を守りながらも魔法で攻撃しているし、セレスは魔法と剣で後衛から攻めている。
1度の失敗で諦めているのは、俺だけだ。
涙が出そうになるのをこらえ、俺はもう1度浄化魔法をかける。1度でダメなら、何度もすれば良いだけだ。
魔力が切れそうになりながら、何度も魔法をかけた。
それでも怪物には大きなダメージを与えられない。

「セレス、テオルド、ヒューリ、手を貸して!俺に魔力を送って、一緒に奴を浄化してくれ!」

「よし、解った。」
「了解。」
「解った。」

3人とも俺の背中に手を置き、魔力を流してくれる。
俺1人だけじゃ足りないが、3人の魔力量を足せば大丈夫なはすだ。
背中に3人の暖かな魔力を感じる。
マクビルも、もう限界だろう。これが最後のチャンスかもしれない。俺は掌に集中して怪物に浄化魔法をかける。

『グウッ、アアァァ…あぁぁ…ああぁ。』

部屋の中が、目を開けられないほどの光に包まれた。

しばらくして、目映い光が落ち着き、辺りを見回すとマクビル、テオルド、ヒューリ、セレスも無事なようだ。そして部屋の中央に、1人の女性が倒れていた。
顔は見えないが、彼女が闇属性に呑まれて人格を失っていたのだろう。今は、黒い闇が彼女からは感じられない。浄化魔法は成功したようだ。
だが、それと同時に生死が気になってきた。俺が彼女に近付くと、マクビルに制される。

「待て、俺が確認する。」
「…うん。」

マクビルが彼女を仰向けに横たわらせると、顔がはっきり見えた。
そこには、光属性しか持たないはずのリビアンがいた。


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