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10:愛される人になりたい

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そりゃ、こんなパッと出のド田舎令嬢に、大切な王子を搔っ攫われたら魔女様もキレるわよ。
その上で皺くちゃ婆呼ばわりだもの、呪われるのも道理。

とりあえずそんなことを無理矢理考えていないと、頭がどうにかなってしまいそう。

レオン殿下に恋をするのは簡単だ。
私だって、月夜のバルコニーで告白されたら、無条件で頬が火照る。

でも……

「まぁ、運命ではありました」
「リリアン……!」
「一緒に呪われた仲ですし」

そこよ。
問題は、私の下心よ。

「レオン殿下。私も、打ち明けなければならないことがあります」
「……う、うん」

何を覚悟されているのか存じませんが、緊張すべきは私です。

「私は田舎貴族です」
「それは君の魅力の一つだ」
「この度の祝宴は、一生に一度のチャンスでした」
「いい心意気じゃないか」
「体が入れ替わった時」
「ああ」
「私はチャンスだと思ったんです」

言った。
言ってしまった。

レオン殿下の恋がサッと冷めてしまうだろう、こすい私の根性に、どう反応されるだろう。
緊張しながら待っていると、レオン殿下が少しだけ首を傾げた。

「前向きでいいと思うが?」
「え?」

そっちの方向?
全肯定系王子?

「……がっかり、しないのですか?」
「しない」

即答。

「逆に、どうして僕ががっかりすると思った?」
「レオン殿下の体でいる間に私との婚約を発表してしまえばハートフォード伯爵家は安泰だって理由で既成事実を作ろうとしたなんて、あまりにも真心がないじゃないですか」
「そこまで具体的に」
「あ」

懺悔してスッキリすると、私は気付いた。
あっさりと受け止めてくれたレオン殿下に、私、謝らなくては。

「申し訳ありませんでした」
「何を謝る?」
「お困りだった殿下を利用したので」
「ふむ。利用されたとは思わないが、君が僕を有益に使えるなら使ってみて欲しいよ。今後も」

え?

「今後?」
「リリアン。僕は君が好きだよ」
「……えっ?」

まだ?
意地汚いド田舎令嬢に呆れたりするところじゃないの?

「君は僕に、相手の気持ちを考えることや、過ちを認め心から謝罪する大切さを教えてくれた」

絶対そんな大層なものではないのだけれど。
レオン殿下は、そう思えてしまう性格らしい。

「……」
「君は好奇心と向上心があり、勇気があり、素直で、親しみやすい。君といる一秒ごとにますます君が好きになるよ」
「殿下……」

そんな風に言われると……
なんか、どきどきしちゃう……

まるで本当に、私に恋をしているみたいなんだもの。

「……?」

え?
みたい、というか。

レオン殿下、本当に私に恋をしているっぽい?

「……」

じんわり、胸の奥があたたかくなる。
レオン殿下が私の心に触れた。触れてくれた。

どうか、そのまま……
離さないで……

「……っ」
「気にしてくれたかな?僕は、血筋と顔以外にもいい所があると思うから、少しずつでも好きになってくれたらと願うよ」

私の下心が、いちばん得な形で叶いそう。

でも……
だけど……

これは、愛される喜び。

今度こそは、レオン殿下と、心で触れ合いたい。

「私には、誇れるものは、元気くらいしかありませんけれど……」
「君を好きになるのは僕に任せて、気を楽に、君らしくいてよ。君が好きだよ」
「は、はぁ……」
「僕はカッとなって考えなしに相手を責める悪癖があるから、君に認めて貰えるように、ちゃんと直していくと約束する」
「あ、それは」

頬は熱いけれど、一瞬、理性が私を鎮める。

「それは、レオン殿下が愛情や信頼に重きを置いていらっしゃるからこその怒りでしたし、私のような身分の者の言葉もきちんと聞いてくださる、公平な方だからこそだと思います」

私も、魔女様の呪いの中で、想像とは少し違ったレオン殿下の人物像を知った。

レオン殿下はとても人間味に溢れていた。
相手の心を思いやってくれる。驕りもなく謝罪までしてくれる。

そんな人間性は尊敬できるし、素敵な方だと思った。

神話の中の天使様じゃなくて。
高貴だけれど、偉いけれど、少し強引な優しい人。王子様。

「これからも、君の目を通して見える僕を教えてほしい。君の目を通して見える世界を、僕に見せてほしい。それはきっと王国の民の為にもなるはずだから」
「レオン殿下……」
「僕には、君が必要だ。君に愛されたい。君に愛される僕だったら、国を愛する王子として相応しい人間になれる気がするんだ」
「……勿体ない」

レオン殿下がにこりと笑う。
それから私に手を差し伸べた。

「もし君さえよかったら、発表しに行かないか?」
「え?」
「君がしたかった、ほら、例の」

婚約発表!?

「ええっ!?」
「嫌?」
「いいえ!?」

つい勢いのままに答えてしまった。
するとレオン殿下は跪き、私の手をさっと掴んで手の甲にキスをした。

「!」

密やかな唇の感触。
それからレオン殿下は甘く潤んだ瞳で私を見上げ、夜風の中で囁いた。

「リリアン。僕と結婚してください」
「……っ」

この王子、自分の顔の良さをよく理解しているわね。
抗えない魔力があるわ。

それに、私、少しずつレオン殿下に恋をしている。

もっともっと、彼を愛するようになる気がする。

きっと……

「はい」

恋の魔法は、二人きりで、お互いに掛け合うものなのね。

「ありがとう。大切にする」

レオン殿下がうっとりするような微笑みを刻んで立ち上がり、私の手を引いて歩き出した。

手を繋いで歩くお城の廊下は、長く長く、そして、美しく光り輝いていた。
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