最強勇者、最弱種族の為にスローライフを

一条おかゆ

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第五話 相手が悪いよ

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 馬車は南門をくぐる。
 すると、目の前に広がるのは所狭しと家屋が立ち並ぶ、圧倒的な街並み。
 そのおおよそが二階建て、ないし三階建て。
 ベージュ色をした漆喰の壁に、直線的な見せ木が走る三角屋根の建造物ばかりだ。

「ここが帝都なのね」

 リーヌは開いた馬車の窓から身を乗り出して、景色を堪能している。
 帝都に来るのは始めてなのだろう。

 だがその事に配慮する暇も無く、馬車はすぐに止まった。
 馬車の待合所が門をくぐってすぐの所にあるからだ。

「……っと。さ、こちらへどうぞ」

 スクナは先に馬車から降りて、お辞儀をするように手のひらを差し出す。

「あら、どうやらレディーの扱いに慣れているようね」

「"魅力的な"が抜けていますよ、リーヌ嬢」

「うふふ、上手ね」

 リーヌはスクナに手を重ね合わせ、エスコートされる形で馬車から下りた。
 その様子はまるで幼い婚約者同士のようだ。
 だがそんな彼らの旅もここまで。
 元々、偶然出会ったに過ぎないからだ。

 だからスクナは、馬を待合所近くの馬小屋に預けるなり、リーヌ達に頭を下げた。

「僕はこれで失礼しますね」

「ちょっと待って」

 しかし背を向けたスクナを、リーヌは呼び止めた。
 それによって、スクナは襟を引っ張られたかのように止まる。

「どうしました、リーヌ嬢」

「出来れば宿屋まで荷物を持って下さらないかしら。護衛の兵士が一人亡くなってしまったから、人手が足りないの」

「是非やらせて貰います」

 流石勇者といった所か。
 スクナは笑顔を浮かべ、快く引き受けた。
 そして馬車に積まれた袋のいくつかを受け取り、担いだ。

「ににても、どこに泊まるとか決めてるんですか? 護衛の方々もいるようですし、その辺りの小さな宿では不都合でしょう」

「安心して頂戴、抜かりないわ。ついて来て」

 リーヌは待合所近くの路地へと先導する。
 四人の兵士と魔術師はそれについていく。

「……はーい!」

 スクナは何故か顔に笑顔を浮かべ、元気に後ろを追った。

「夕方とはいえ、暗いですね」

「そうね」

 彼らが通る路地は、夕方という事を差し引いても暗い。
 更に時間も時間なので人通りもなく、怪しい。

 そんな路地を数分ほど歩いていると、

「どうしたんですか、急に止まって」

 先導するリーヌの足が止まった。

「私が強くなりたいって言ってたのを覚えてるかしら」

「え? まぁ覚えてますけど、それがどうかしたんですか?」

「一度しか言わないわよ、よく聞きなさい」

 明るい金の髪を手でかきあげながら、リーヌは振り返る。

「あなたの力の秘密を私に教えなさい、小指の勇者」

 リーヌの言葉はお願いではない、命令だ。
 スクナの周囲には武装した兵士が四人、魔術の使える神官が一人いる。
 この状況が、恐喝や脅迫でなければ何と言うのか。

「……」

「あなたの詠唱は明らかに既存の詠唱とは異なっているわ。どういうカラクリかは分からないけど、私達が平和的な内に教えて貰えるかしら?」

 (助けた時に大声で詠唱したから、聞こえてたか...)

 魔術というものは「神への賛辞によって、自身の精神力と引き換えに世界改編の許可を神に得るもの」と考えられている。
 だが、スクナはそれを『フォルティテゥードコンフォルタンス』という明らかに賛辞とはかけ離れすぎた文言で行ったのだ。
 それはあまりにも背信的で冒涜的。
 だが力を欲する者ならその方法を知りたくもなるだろう。

「教えてもすぐに出来るようなものじゃないよ」

「いいから教えなさい、さもなくば……分かっているわよね」

 静かな路地に立ち込めるピリついた空気。
 スクナはそれを一切気にした様子もなく、口を開いた。

「分かったよ。教えてあげるよ」

「本当!? それはよか──」

「──なーんて」

 ──シュンッ!!

 ノーモーションで行われるダーツの投擲。
 それは、この場にいた誰も捉える事が出来ないほど速く、そして確実に兵士達の喉元に突き刺さる。

「っがあぁっ!!」

 漏れる兵士達の呻き。
 即効性の毒が塗られていたのか、彼らはすぐに動かなくなる。

「なっ!? ち、超越者たる……」

 神官は魔術の詠唱を始めるが、

「やりあうの?」

「む、無理だああぁぁ!!」

 短剣の双剣を抜いたスクナを見て、この場から逃げ出した。
 そして最後に残ったのは、

「わ、わたしは殺さないでっ!」

 腰を抜かして座り込むリーヌだけだ。

「殺すとはいかないまでも、僕を痛めつけようとしてたのによくそんな事が言えるね」

 スクナはリーヌの元へと歩き、目の前でしゃがみこんだ。

「ひぃっ! お、お願いしましゅ!」

 目には涙を浮かべ、命乞いをするリーヌ。
 先程までの気品は微塵も感じられない。

 こんないたいけな少女を許さない者がいるとしたら、そいつは鬼だ。
 だが残念ながらスクナは、小さな鬼だった。

 ──プスリ。

 リーヌの首筋にダーツの矢が刺さる。
 そして、

「……な、なんで……」

 リーヌは暗澹とした路地に、倒れ込んだ――
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