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第一章 幼少期

3 新しい人生の始まり

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 あれから少しして目を覚ましたところで、どうやら父親が帰ってきたらしい。
 扉の外から母親と野太い男の声がするが、その声の主がどうも俺の父親のようだ。
 扉が開いて父親らしき男が俺の寝ているベッドへやってきた。
 俺はそんな父親であろう男の顔を見て、びびって泣いた。びっくりするくらい泣いた。
 父親の顔は、本当に、物凄くいかつかった。
 しかし俺が泣き始めると、父親は物凄くいかつい顔なのに眉尻をおもっきし下げて困った顔をしていた。
 俺はそれを見てなんだかすごいギャップで可笑しくなってしまい、泣き止んだ。
 途端父親はデレっとした顔になって俺をみていた。
 ギャップが激しすぎる! だが……俺を好きでいてくれるようだ。

 前世では親父とはうまくいってなかった。何かと言えば手をあげる人だったのだ。
 そんな親父が嫌で朝練があって、休みでも練習のある部活を選んだ。
 というのも、うちは自営業だったので、一日中親父が家にいるからだ。
 俺が死んで、親父は泣いているのだろうか。
 どうだろうな、親父が俺に優しくしてくれた記憶がまったくない。
 心配なのは母だ。
 母は弱い、どうして親父と結婚したのだろうか。
 辛うじて母には手をあげていなかったと思うが、それでも母は親父の奴隷だった。
 それでも、母は俺を愛してはくれていた、と思う。
 ただ、とても弱い人だった……。
 俺が理不尽な理由で親父に殴られていても、母は見て見ぬふりをしていたから。
 だけど、母は元々弱い人だ、それはきっと仕方ない。
 それに殴られた後、俺を抱きしめてごめんなさいって泣いていたのだから。

 俺はそんなことを、俺をみてデレデレしている今の父親を見ながら考えていた。
 ……今度こそ、俺は父親とうまくやりたい。

「ルカーパパだぞー」

 そんな風に俺に笑いかける父親に俺も笑みを向ける。

「おあいー」

 親父と言ったがやはりうまく発音はできないようだ。
 というかやっぱり「パパ」って呼ぶべきだろうか。
 そうだな、新しい人生だし、親父とこの人は違うんだ。
 今後はパパ、ママと呼ぶ努力をしよう。
 俺は新しい人生を、長瀬達也ではない、ルカという人生を歩むんだ。

「おお、マリー! ルカが俺に笑いかけてくれたぞ!」
「まぁ、本当ね。良かったわね、ウード」
「うむ! いつも抱っこしたら泣いていたのにな! 嬉しいな!」

 そうか、俺はいつも泣いていたのか。
 まぁそうだろうな、顔が怖ぇんだもんな。
 でも、父親がこんな風に笑顔で喜んでくれているのはなんだか嬉しい。
 だからだろうか、俺は更に笑みを深めて声を出して笑ってしまった。
 そんな俺に父親はとても喜んでくれた。

 暫くそうして父親に抱っこされていたが、俺は生理的現象により抑えることのできない尿意をもよおし、そのまま勢いよく放尿した。
 一歳だ、だから仕方ない、仕方ないが、精神的には俺は十七歳。
 心の底からとても恥ずかしく、そして放尿したことによりとても不快だった。
 そんなことくらいで俺は涙が出てそして声をあげて泣いてしまう。
 感情が抑えきれないのだ。

「マッマリー、ルカが急に泣いてしまった。どうしよう……」

 父親のそんな困った声を聞いて、俺は申し訳なくて泣き止みたいのだが、感情が爆発していてどうにもならない。
 とにかく、不快で、それが嫌なのだ。

「あらあら、どうしたのかしら? ウード、ルカを渡して頂戴」
「う、うむ」
「ああ、ウード、大丈夫よ。貴方が嫌で泣いたんじゃないわ」
「そ、そうなのか?」
「そう、おしっこが出ちゃったみたいね」
「そ、そうだったか、良かった」

 俺は泣きながらもそんな両親の会話を聞いていたのだが、母親が俺を寝かし、俺の下半身のオムツ?のような物を外し始めた。
 待て、待ってくれ。それを外すということは俺のアレが丸見えに!?
 確かに俺は今子供だ、子供だが、精神的には十七歳の健全な男の子なんだよおおお!!






 ………………見られました。それはもうバッチリと。
 恥ずかしくて死にたい……しかもすごく丁寧に拭かれた。
 もうお婿にいけない……。
 ……とにかく、だ。認めろ俺。俺は一歳……多分一歳くらいの子供なんだ。
 だから、母親に下の世話をしてもらうのは当然で、恥ずべきことではない! そう。恥ずべきことではない。
 大丈夫だぞ、俺。
 いいんだ、見られたくらい……まだ子供だし……。

 新しいオムツをつけられた俺は再び父親の大きな手に抱き上げられた。
 そのまま俺を抱っこして父親は部屋を出る。
 俺はそのままぼーっと父親に抱かれながら景色を見ていたが、ふと違和感を覚えた。
 あるべき物がない気がする。なんだ? この違和感は。
 ……あっ! そうだ、アレがない。
 そう、電気がない、電球がないんだ。
 薄暗い家だとは思っていたが……貧乏な家なのかな?
 いやそれでも、電気がない家なんてこの世にあるのか?
 ものすごくこう、アンティーク? 古い生活って言うのか? そういう人たちなのかな。

 俺は父親に抱かれたまま辺りを見回す。
 目に入ったのは、光を発している石? なんだ? あれ?
 よく見たかったが、父親に抱かれたままどこかに移動しているので、すぐに通り過ぎよく見ることができなかった。
 別の部屋に移動した父親が席に着くと母親が何かをよそってテーブルに置いている。
 ここはどうやら食卓のようだ。
 父親はどうも俺を抱いたまま食事をするつもりのようだが、父親が飯を食うために前屈みになるたび、俺は潰されそうになって苦しい。
 とりあえず、これはいつか潰れそうで怖いので母親に助けを求めよう。

「あー! やー!」
「ん? どうした? ルカ」
「クスクス。ウード、ルカを渡して頂戴。多分あなたが前に屈むたびに押されてしんどいんだと思うわ。食べ終わったらまた抱っこしてあげて頂戴」
「! そっそうか! すまなかったな、ルカ。パパを許しておくれ……」

 父親はしょんぼりとして俺を母親に渡した。
 そんな父親が可哀そうで俺は決意して声を出した。

「ぱーぱー」

 俺の声に父親はガバっと顔を上げ満面の笑みを浮かべた。
 だがその顔が驚くほど怖い!!

 俺はその笑顔に恐怖し、泣いてしまうことになった。
 すまない、パパよ……。
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