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第二章 少年期 前編

29 防護の魔法

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 俺は二人の言葉に胸を暖かくさせながらも話し始めた。

「さっき骨折してたって言ったけど――ミハエルは正直一歩間違えれば死んでたんだよ」

 俺の言葉にミハエルもマルセルも驚き、詳しく聞きたがった。

「腕の骨折だけならまだしも、ミハエルは胸の骨もひびが入ってた。もし折れて肺――胸の大事な部分に刺さってたらミハエルは死んでた」
「まじかよ」
「そんな……ミハエルが死んじゃうなんて嫌だよ……」

 驚き眉を顰めるミハエルと、泣きそうになっているマルセルを見つつ俺は話を続ける。

「正直、ミハエルの親父さんの殴り方というか、頻度が少しエスカレートしてないかなと思ってな」
「そう、かもしれねぇ。最近は売り上げが落ちてるらしくて、前よりもちょっとしたことで手上げてくるし、殴り方もつえー気がする」
「そっそんなの……どうしたらいいの……?」
「どうしようも……ねぇだろ……」

 二人して俯いてしまう。

「だから、俺のさっきの話になるわけだ。秘密の追加だな」

 ミハエルは訝し気に俺を見て、マルセルは何か期待する目で見ている。

「俺は防護の魔法をミハエル用に開発したんだよ」
「え?魔法を、開発?作ったってことか……?」
「わぁ!ルカ、すごいね!」

 マルセルは魔法に詳しくないのでただ感心していたが、ミハエルは威力なんかは知らないが魔法については少し知っているので驚いていた。
 作れるというのは黙っていた方が良かったかもしれないが、それ以外に俺には説明のしようがない。
 それに俺はこいつらを信頼している。

「ああ、だから、秘密を追加しておいてくれ」

 マルセルはニコニコとしながら頷き、ミハエルは自分のために秘密を明かしてくれたのだと真剣な顔で頷いた。
 そんな二人を見て俺は笑みを浮かべる。

「それじゃあ、ミハエル、魔法かけていいか?」
「それはどんな魔法なんだ?」
「そうだな、例えば親父さんに限らずだが、過度な暴力による攻撃は、衝撃は感じるだろうが、決して傷もつかなければ痛みもない。ただそれだと変に思われるから、殴られた所は数日は青痣のようになるけどな」
「なるほど、どういう仕組みとかわかんねぇけど、それ俺のために作ったんだよな?」
「そうだな。他に流用することも出来はするが、ミハエルにはこれ以上傷ついてほしくなかったからな」

 ミハエルは俺をじっと見てから一度目を瞑ると、頭を深く下げた。

「ありがとう、ルカ」

 俺は慌ててミハエルの頭を上げさせる。

「やめろよ、ミハエル。俺達は友達だろ。友達のために何かしたいのは当たり前だろ」

 俺の言葉にミハエルは笑みを浮かべてお礼を言い、マルセルは嬉しそうに笑っていた。
 そうして俺はミハエルに防護の魔法をかけた。
 この魔法は言葉通りどれだけ殴られようが、殴られる衝撃はあってもミハエルには傷一つつかない防護の魔法だ。
 もちろん、過度な暴力を防ぐものであって、デコピンとか、転んだ程度では威力を発揮したりはしない。
 ただ、殴った後が綺麗なままというのは不自然になるので、殴られた箇所は暫く青痣のように映るようになっているのだ。
 もちろん、実際には痣一つないのではあるが。

 魔法をかけるとミハエルは薄青い膜に包まれていたが、次第にそれはミハエルに吸収されるように消えた。
 マルセルが少し恐る恐るという感じでミハエルに触れる。

「だ、大丈夫? なんともない?」
「ああ、特に何か変な感じもしねーし、これ本当にかかってんのか?」
「おう、俺が本気で殴ってもいいなら証明できるぞ」

 俺の言葉に少し悩んだミハエルだったが、頷いた。

「実際心構えがいるから頼むわ。ルカ、本気で殴ってみてくれ」
「わかった」
「マルセルはちょっと目を閉じてろよ」
「え? う、うん」

 俺自身に防護の魔法をかけ、そのまま思いっきり振りかぶるとミハエルを本気で殴った。
 俺の手に強い衝撃がかかったのがわかる。
 ミハエルは殴られた衝撃で吹っ飛んだが、驚きで目を見開いていた。
 ちなみにマルセルは手で顔を覆って見ないようにしている。

「うお、まじか……確かに衝撃で吹っ飛んだけど、全然痛みがねぇ」
「だろ?」

 とはいえ、今ぶん殴ったので、ミハエルの頬に青痣ができていて俺の手にも青痣が浮かんでいる。
 なので一度魔法を解除してから再度かけなおした。

「もういい? 目開けてもいい?」
「いいぞ、マルセル」

 ちょっとだけ涙目なマルセルは俺と座り込んでいるミハエルを交互に見て説明を求む!みたいな顔をしている。

「俺がおもっきりミハエルをぶん殴ったけど、今ミハエルは全然痛くないから驚いてるところだ」
「ああ、本当に全然痛くないんだぜ、マルセル」

 笑みを浮かべるミハエルを見てマルセルもパッと笑みを浮かべた。

「そっか! 良かった! これでもうミハエル痛い思いしなくてすむ?」
「そうだな、とはいえ、過度な暴力に対してしか効果はないから、しっぺには効果ないぞ?」
「まじかよ。それも効果ありにしといてくれよ」
「ダメに決まってんだろ。ゲームで負けたらしっぺはルールだからな」
「あはは」

 俺達は一頻ひとしきり笑い合った。

「あ、そーだ! これ! ミハエルこれお土産! ルカと買ったんだ!」

 そうしてマルセルが粗い紙に包まれた甘いパンを差し出した。
 首を傾げながら受け取ったミハエルがその紙を開けて驚く。

「え、これ、甘いパンじゃん。いいのか?」
「ああ、お前の分だ、食べてくれ」

 俺たちは食べてはいないが、そうでも言わないときっとミハエルは遠慮するだろう。
 ミハエルは笑みを浮かべて、甘いパンを三つに割ると俺たちにそれぞれ差し出した。

「一緒に食おーぜ」

 そんなミハエルの言葉に、俺もマルセルも笑みを浮かべ分けられた甘いパンを受け取った。

「ああ」
「うん!」

 そうして俺たちは小さくなった甘いパンを一緒に食べ、暫く言葉を交わしてからそれぞれ家へと帰った。
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