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第三章 新米冒険者
51 冒険者というもの
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階段を下りて二十五階について、転移柱に触れる。
ミニマップには五パーティがこの階にいるのを表示している。
トイフェルアイは本当に嫌われているようだな、俺ももう行きたくはない。
そして二十五階で最初の敵に会った。
クリンゲマンティス――刃の蟷螂――とフランメモス――炎の蛾――だ。
クリンゲマンティスは文字通り鋭い刃である鎌での攻撃で、フランメモスは火魔法を撃ってくるようだ。
厄介なのは、フランメモスは接近すると自身の体から鱗粉を飛ばし、それを吸い込むと麻痺にかかるうえに、死ぬ間際に鱗粉をまき散らすらしい。
実に嫌なものを思い出す相手だ。
「――てことで、俺はフランメモスをやるから、ミハエルはクリンゲマンティス頼む」
「おう、任せとけ」
クリンゲマンティスはとても大きく、体高は二メートルはあるだろうか。
高い位置からの鎌の振り下ろしは中々に素早く危険だ。
それでもミハエルは危なげなく、クリンゲマンティス二匹を相手取って戦っている。
一方俺はフランメモス二体に氷結槍を撃ち込んでいた。
確実に一回で始末できるというのと、鱗粉対策だ。
氷結槍が刺さった体長三十センチのフランメモスはすぐさま体が凍り付いていく。
完全に氷に覆われたので、もう鱗粉をまき散らす心配もない。
凍り付いたフランメモスは地面に落ちると、落ちた衝撃で砕け散りポンと音を立てて消えた。
その数分後には、クリンゲマンティスもミハエルに倒され消えている。
「さすがに段々強くなってきたな」
ドロップ品の銅鉱石を拾ったミハエルが俺にそう声をかけた。
「そうだな、厄介なのが増えてきたな。クリンゲマンティスはどうだった?」
「あいつら両手が鎌だからな、そういう点では手数で面倒ってのはあるな。ただ、単純な攻撃を繰り返すだけだからそういうとこでは楽だぞ。あと鎌は硬いけど、体は柔らかいから切りやすいな」
「そうか。クリンゲマンティスも大変だが、この階でやばいのはフランメモスってとこか?」
「だなぁ。接近したら鱗粉撒いて麻痺で、死に際もだろ?結構やばいな。でもまぁルカに任せれば問題ねーからな。頼りにしてるぜ、相棒」
ミハエルのそんな言葉に俺は笑みを浮かべる。
「おう」
そうして二人して拳を打ち付け合うと、そのまま先へ進んでいった。
何事もなく、順調に下りてきていたが、二十六階に下りたところで、冒険者パーティの数を見ていた俺は嫌なものを見てしまう。
ちょうど目にした三人らしきパーティのうち一人の光点が消えたのだ。
消えたということは死んだということだ。
これはまずい状態かもしれない。
比較的近い場所にいるので、ミハエルに事情を話してそちらへ向けて俺たちは走り始めた。
走りはじめて五分後、さらにもう一つ光点が消えた。
まずい。
「ミハエル、また一人死んだ!まずい!」
「くそっ」
俺たちは全速力で走る。
道中の敵はすべてスリープで眠らせて無視する。
なんとか生き延びてくれ、そう思いながら最後の一つとなった光点を目指して走った。
そして、さらに五分ほどしてなんとか光点が消える前に辿り着けたようだ。
「ミハエル、あそこだ!頼む!」
ミハエルにそう声をかけると同時に俺はスリープでは間に合わないので、倒れ伏している冒険者にシールド魔法をかけた。
ちょうど鎌を振り下ろしたところだったようで、クリンゲマンティスの鎌がシールドにはじかれる。
「おう!任せとけ!」
ミハエルの頼もしい声と同時に、クリンゲマンティスの一匹の細い胴体がミハエルによって切断される。
そして俺もこのパーティの壊滅理由であろう、フランメモスに氷結槍を撃ち込んだ。
フランメモスが凍り付き地面に落ちて砕け散ったすぐあとに、最後の一匹であるクリンゲマンティスも死んだ。
俺は倒れている冒険者に近寄るとすぐさまハイヒールをかけた。
サーチをしている余裕がないほどに血を流していた。
そして、このパーティは三人パーティではなく四人だったようだ。
どちらにしろ、全員が時間が経ちすぎていてどうにもならなかった。
リザレクションも万能ではない。
以前スライムで実験したが、五分以上経つとどうやっても蘇生できなかったのだ。
俺は悔しくて地面に拳を打ち付ける。
「くそっ俺がもっと早く来ていれば!」
そんな俺にミハエルが声をかける。
「おまえのせいじゃねぇよ。冒険者ってのはこういうこともある。それを覚悟してなってんだ。こればっかはどうしようもねぇ」
分かってはいても、俺なら助けられたのにと思ってしまう。
だけど、結局は間に合わなくて助けられなくて、自分を情けなく思ってしまう。
「ルカ、背負い込みすぎんな。お前なら助けれたかもしんねぇって思うかもしれねぇけど、限度ってもんがある。せめて一人でも助けれたことを喜ぼうぜ」
そんな風に気遣ってくれるミハエルの言葉に俺は心を救われた。
そうだ、俺は神でもなければヒーローでもない。
俺が全てを救うことなんて出来るはずもないし、そんな考えは傲慢だ。
「すまん。ありがとう、ミハエル」
「気にすんな」
そうして二人で笑い合う。
倒れていた冒険者の女性は未だ意識を失っているので、その間に死んだ男たちのタグを回収した。
血のついたタグは銀色に光っていた。
彼らは俺たちと同じDランク冒険者だったようだ。
遺体を連れ帰ることはできないが、せめて、と彼らの体を並べる。
一人は炎にまかれたのだろう、ひどい火傷状態で死んでいて、もう一人は肩から腰にかけてざっくりと切り裂かれ、そして最後の一人は背中からどうも鎌で一突きされたようだ。
そうして遺体を並べ終えて、具現化魔法で作り出した布で覆ったところで、気を失っていた冒険者の女性が目を覚ましたようだった。
「ん……」
俺はすぐにそばにいき声をかけた。
「大丈夫か?」
目が覚めた彼女は戦闘で乱れたのだろう、金色の長い、緩くウェーブした髪をかきあげ、綺麗な緑色をした目で周囲を見回した。
少し大人びて見えるが、年齢は俺たちと同じか少し上くらいか。
多少汚れているが、それでも彼女の美貌は隠せないようだ。
「え……あれ……私クリンゲマンティスに……あ、三人は?」
「残念ながら助けられなかった」
「そう……」
俺は女性のその反応を訝しく思った。
仲間が死んだというのに、悲しんではいるが、そこまででもなさそうなのだ。
「彼らはあんたの仲間じゃないのか?」
「え?ああ……仲間、といえば仲間ね」
「どういうことだ?」
「彼らとは昨日誘われて臨時パーティを組んだところだったの」
そんな風に語る彼女にミハエルが声をかけた。
「んでも、あんたらここまで来てんだ、そんな弱くなかっただろ?何があった?」
「……そうね、弱くはなかったと思うわ。でも連携が出来なかったの――」
彼女が話すには昨日彼らと臨時のパーティを組み、今日初めてのダンジョンだったらしい。
彼女は元々ソロの弓使いだったが、腕がよかったために、頻繁にダンジョンに誘われて臨時パーティメンバーとしてよく活動していたそうだ。
そのおかげで三十階までダンジョンにもぐれていた。
でも、ある理由でパーティへの加入は断っていたらしい。
そんなよく誘ってくれていたパーティが別のところへ移動することにしたらしく、当然彼女にも一緒にいかないかと誘ってきてくれたが、彼女はある理由があってそれを断った。
そんなある日、彼らが彼女に声をかけたのだ。
別に悪い感じはなかったので、彼女は了承した。
そして今日、彼女は彼らに、最初は二十階で連携するために少しならそうと提案をした。
彼女自身は弓を得物にしているから、前衛の動きを把握したかったらしいのだが、彼らはそんなの必要ないと言った。
自分たちは三人でも二十五階で狩りをしているから問題はないと。
――彼女はその時知らなかった、本当は彼らは元々四人で、二十五階までは四人で来ていたこと。
その四人目が二十五階で戦闘中に死んでしまい、命からがら彼らは転移柱に戻ったこと
そして、彼女をパーティにいれたくて普段は二十五階で狩りをしているとウソをついたこと――
彼女は連携の重要さを無視するこのパーティはだめだと思った。
一応今日はお義理で行くけど、次からはないな、とそう思っていた。
もちろん、三人で二十五階で狩りをしている、というのを信じていた。
だから一応大丈夫だろうとも思っていた。
実際最初は問題なく倒せていた。
狩りもとても順調で彼らがいけるから二十六階に行こうと言い出し、二十六階へ行った。
彼女もそれは別に止めなかった。
だって、彼らは普段二十五階で狩りしていると聞いていたから。
狩りをはじめて二時間くらいしてからだろうか、段々と彼らは戦闘が雑になっていった。
彼女の腕が良かったがゆえに、危険なフランメモスをすぐ倒してくれていたがために、彼らは自分たちは強いと、余裕だと。あいつが弱かったのだと。
そこで初めて、彼らが元々四人だったこと、二十五階で狩り中に弓使いが死んだということを話された。
しかも、あいつの腕が悪かったからだと、死んだ仲間を咎めはじめた。
彼女はとても不愉快だった。
今すぐ抜けたかったが、一人では転移柱のあるところまで戻れない。
だから仕方なく一緒に行動していた。
でも、その時はすぐに訪れた。
気付けば前衛の一人が無駄に突出してフランメモスの魔法を受けて倒れ、助けようと近寄ったもう一人が麻痺し、もう一人はクリンゲマンティスを一人で支えきれず切り裂かれて死んだ。
全てが一瞬の出来事だった。
彼女はなんとか助けようと、フランメモスを攻撃しようとしたが、クリンゲマンティスが攻撃をしてきてどうにもならず、なんとか避け、攻撃をして耐えていたが、弓使いには無理があった。
最終的にクリンゲマンティスの攻撃を受けて倒れたのだ。
そこまで語り終えた時、彼女が不思議な顔で自身の体を触った。
「あれ?私確かに攻撃を……」
そして俺とミハエルを見て、もう一度俺を見た。
多分気づいただろう、俺が深い傷を治せるほどのヒール使いだと。
「……きっと気のせいね。ありがとう、あなたたちのおかげで私は生きてるわ。だけど、私一人じゃ戻れないから、一緒にいてもいいかしら?」
彼女はヒールについて知らないふりをしてくれるようだ。
「ああ、俺たちはかまわない。歩けるか?」
「ええ、多分大丈夫よ」
彼女が立ち上がったところで俺は彼女に三つのタグを見せた。
「君がギルドに提出するか?別に俺たちがしてもいいが」
それは死んだ男たちの冒険者登録タグだ。
冒険者ギルドでは、冒険者仲間の遺体を見つけた際は、荷物や金目の物などは発見者の物としていいが、代わりにタグを提出してくれるようにとお願いしている。
もちろん荷物とタグの両方を提出してもいい。
ギルドが知っていれば、家族にその死を伝えたりすることが可能だからだ。
「いいえ、私が提出するわ。臨時とはいえ、パーティメンバーだったんだもの。彼らの最期を私はギルドに報告しないと」
「そうか。一応俺たちはタグ以外は彼らの荷物には触れていない。君はどうする?」
「私もいいわ。でもギルドで借りた魔法の袋は持って帰らないと」
彼女がそう言うと、遺体の近くにいたミハエルが布をめくって魔法の袋であろう物を持ち上げて聞いた。
「これか?」
「ええ、それよ。ありがとう」
そうして俺は彼女に声をかけた。
「ここからなら二十五階の方が近いから、そっちへ行くか」
「もしかしてあなたたち三十階目指してたのかしら?」
「ああ、でも別に明日また行けばいいからかまわないさ」
「そうだな。俺もかまわねーぞ」
「ありがとう、この恩は必ず返すわ」
「別にいいさ。冒険者同士助け合いだ」
そんな事を話しつつ、俺はミハエルに視線を向けて軽く耳を叩いた。
それを見たミハエルは小さく頷く。
これは通話魔法を使うという合図だ。
ザザッという音が一瞬だけしたあと、ミハエルに繋がった。
『彼女を送るにあたってだが、俺は強い魔法を撃てなくなるし、フランメモスの鱗粉対処もできなくなる』
『ああ、そっか。そうだな。了解、ちっと気ーつけるわ』
『悪いな、頼む』
『ああ、任せとけ』
そうして通話魔法を切った俺は彼女に声をかけた。
「とりあえず転移柱までは臨時パーティということで宜しく。俺はルカだ」
「俺はミハエルだ。よろしくな」
「私はフィーネよ、短い間だけど、宜しくね」
そうして俺たちはフィーネと共に二十五階にある転移柱を目指して移動をはじめた。
予想外というか、なんというか、フィーネの弓の腕前は本当に素晴らしいものだった。
連携の訓練もしていないのに、俺の攻撃の邪魔を一切しない位置取りを常にしているし、ミハエルが気を付けているのもあるが、決してミハエルの邪魔になるところでフランメモスを倒さないのだ。
正直、俺よりもそこの配慮はうまく、まさかここまでとは思いもしなかった。
亡くなった彼ら三人が大胆にならず、慎重な行動をずっと心がけていれば、きっと今も生きていただろうに。
そう思わずにはいられない。
ミニマップには五パーティがこの階にいるのを表示している。
トイフェルアイは本当に嫌われているようだな、俺ももう行きたくはない。
そして二十五階で最初の敵に会った。
クリンゲマンティス――刃の蟷螂――とフランメモス――炎の蛾――だ。
クリンゲマンティスは文字通り鋭い刃である鎌での攻撃で、フランメモスは火魔法を撃ってくるようだ。
厄介なのは、フランメモスは接近すると自身の体から鱗粉を飛ばし、それを吸い込むと麻痺にかかるうえに、死ぬ間際に鱗粉をまき散らすらしい。
実に嫌なものを思い出す相手だ。
「――てことで、俺はフランメモスをやるから、ミハエルはクリンゲマンティス頼む」
「おう、任せとけ」
クリンゲマンティスはとても大きく、体高は二メートルはあるだろうか。
高い位置からの鎌の振り下ろしは中々に素早く危険だ。
それでもミハエルは危なげなく、クリンゲマンティス二匹を相手取って戦っている。
一方俺はフランメモス二体に氷結槍を撃ち込んでいた。
確実に一回で始末できるというのと、鱗粉対策だ。
氷結槍が刺さった体長三十センチのフランメモスはすぐさま体が凍り付いていく。
完全に氷に覆われたので、もう鱗粉をまき散らす心配もない。
凍り付いたフランメモスは地面に落ちると、落ちた衝撃で砕け散りポンと音を立てて消えた。
その数分後には、クリンゲマンティスもミハエルに倒され消えている。
「さすがに段々強くなってきたな」
ドロップ品の銅鉱石を拾ったミハエルが俺にそう声をかけた。
「そうだな、厄介なのが増えてきたな。クリンゲマンティスはどうだった?」
「あいつら両手が鎌だからな、そういう点では手数で面倒ってのはあるな。ただ、単純な攻撃を繰り返すだけだからそういうとこでは楽だぞ。あと鎌は硬いけど、体は柔らかいから切りやすいな」
「そうか。クリンゲマンティスも大変だが、この階でやばいのはフランメモスってとこか?」
「だなぁ。接近したら鱗粉撒いて麻痺で、死に際もだろ?結構やばいな。でもまぁルカに任せれば問題ねーからな。頼りにしてるぜ、相棒」
ミハエルのそんな言葉に俺は笑みを浮かべる。
「おう」
そうして二人して拳を打ち付け合うと、そのまま先へ進んでいった。
何事もなく、順調に下りてきていたが、二十六階に下りたところで、冒険者パーティの数を見ていた俺は嫌なものを見てしまう。
ちょうど目にした三人らしきパーティのうち一人の光点が消えたのだ。
消えたということは死んだということだ。
これはまずい状態かもしれない。
比較的近い場所にいるので、ミハエルに事情を話してそちらへ向けて俺たちは走り始めた。
走りはじめて五分後、さらにもう一つ光点が消えた。
まずい。
「ミハエル、また一人死んだ!まずい!」
「くそっ」
俺たちは全速力で走る。
道中の敵はすべてスリープで眠らせて無視する。
なんとか生き延びてくれ、そう思いながら最後の一つとなった光点を目指して走った。
そして、さらに五分ほどしてなんとか光点が消える前に辿り着けたようだ。
「ミハエル、あそこだ!頼む!」
ミハエルにそう声をかけると同時に俺はスリープでは間に合わないので、倒れ伏している冒険者にシールド魔法をかけた。
ちょうど鎌を振り下ろしたところだったようで、クリンゲマンティスの鎌がシールドにはじかれる。
「おう!任せとけ!」
ミハエルの頼もしい声と同時に、クリンゲマンティスの一匹の細い胴体がミハエルによって切断される。
そして俺もこのパーティの壊滅理由であろう、フランメモスに氷結槍を撃ち込んだ。
フランメモスが凍り付き地面に落ちて砕け散ったすぐあとに、最後の一匹であるクリンゲマンティスも死んだ。
俺は倒れている冒険者に近寄るとすぐさまハイヒールをかけた。
サーチをしている余裕がないほどに血を流していた。
そして、このパーティは三人パーティではなく四人だったようだ。
どちらにしろ、全員が時間が経ちすぎていてどうにもならなかった。
リザレクションも万能ではない。
以前スライムで実験したが、五分以上経つとどうやっても蘇生できなかったのだ。
俺は悔しくて地面に拳を打ち付ける。
「くそっ俺がもっと早く来ていれば!」
そんな俺にミハエルが声をかける。
「おまえのせいじゃねぇよ。冒険者ってのはこういうこともある。それを覚悟してなってんだ。こればっかはどうしようもねぇ」
分かってはいても、俺なら助けられたのにと思ってしまう。
だけど、結局は間に合わなくて助けられなくて、自分を情けなく思ってしまう。
「ルカ、背負い込みすぎんな。お前なら助けれたかもしんねぇって思うかもしれねぇけど、限度ってもんがある。せめて一人でも助けれたことを喜ぼうぜ」
そんな風に気遣ってくれるミハエルの言葉に俺は心を救われた。
そうだ、俺は神でもなければヒーローでもない。
俺が全てを救うことなんて出来るはずもないし、そんな考えは傲慢だ。
「すまん。ありがとう、ミハエル」
「気にすんな」
そうして二人で笑い合う。
倒れていた冒険者の女性は未だ意識を失っているので、その間に死んだ男たちのタグを回収した。
血のついたタグは銀色に光っていた。
彼らは俺たちと同じDランク冒険者だったようだ。
遺体を連れ帰ることはできないが、せめて、と彼らの体を並べる。
一人は炎にまかれたのだろう、ひどい火傷状態で死んでいて、もう一人は肩から腰にかけてざっくりと切り裂かれ、そして最後の一人は背中からどうも鎌で一突きされたようだ。
そうして遺体を並べ終えて、具現化魔法で作り出した布で覆ったところで、気を失っていた冒険者の女性が目を覚ましたようだった。
「ん……」
俺はすぐにそばにいき声をかけた。
「大丈夫か?」
目が覚めた彼女は戦闘で乱れたのだろう、金色の長い、緩くウェーブした髪をかきあげ、綺麗な緑色をした目で周囲を見回した。
少し大人びて見えるが、年齢は俺たちと同じか少し上くらいか。
多少汚れているが、それでも彼女の美貌は隠せないようだ。
「え……あれ……私クリンゲマンティスに……あ、三人は?」
「残念ながら助けられなかった」
「そう……」
俺は女性のその反応を訝しく思った。
仲間が死んだというのに、悲しんではいるが、そこまででもなさそうなのだ。
「彼らはあんたの仲間じゃないのか?」
「え?ああ……仲間、といえば仲間ね」
「どういうことだ?」
「彼らとは昨日誘われて臨時パーティを組んだところだったの」
そんな風に語る彼女にミハエルが声をかけた。
「んでも、あんたらここまで来てんだ、そんな弱くなかっただろ?何があった?」
「……そうね、弱くはなかったと思うわ。でも連携が出来なかったの――」
彼女が話すには昨日彼らと臨時のパーティを組み、今日初めてのダンジョンだったらしい。
彼女は元々ソロの弓使いだったが、腕がよかったために、頻繁にダンジョンに誘われて臨時パーティメンバーとしてよく活動していたそうだ。
そのおかげで三十階までダンジョンにもぐれていた。
でも、ある理由でパーティへの加入は断っていたらしい。
そんなよく誘ってくれていたパーティが別のところへ移動することにしたらしく、当然彼女にも一緒にいかないかと誘ってきてくれたが、彼女はある理由があってそれを断った。
そんなある日、彼らが彼女に声をかけたのだ。
別に悪い感じはなかったので、彼女は了承した。
そして今日、彼女は彼らに、最初は二十階で連携するために少しならそうと提案をした。
彼女自身は弓を得物にしているから、前衛の動きを把握したかったらしいのだが、彼らはそんなの必要ないと言った。
自分たちは三人でも二十五階で狩りをしているから問題はないと。
――彼女はその時知らなかった、本当は彼らは元々四人で、二十五階までは四人で来ていたこと。
その四人目が二十五階で戦闘中に死んでしまい、命からがら彼らは転移柱に戻ったこと
そして、彼女をパーティにいれたくて普段は二十五階で狩りをしているとウソをついたこと――
彼女は連携の重要さを無視するこのパーティはだめだと思った。
一応今日はお義理で行くけど、次からはないな、とそう思っていた。
もちろん、三人で二十五階で狩りをしている、というのを信じていた。
だから一応大丈夫だろうとも思っていた。
実際最初は問題なく倒せていた。
狩りもとても順調で彼らがいけるから二十六階に行こうと言い出し、二十六階へ行った。
彼女もそれは別に止めなかった。
だって、彼らは普段二十五階で狩りしていると聞いていたから。
狩りをはじめて二時間くらいしてからだろうか、段々と彼らは戦闘が雑になっていった。
彼女の腕が良かったがゆえに、危険なフランメモスをすぐ倒してくれていたがために、彼らは自分たちは強いと、余裕だと。あいつが弱かったのだと。
そこで初めて、彼らが元々四人だったこと、二十五階で狩り中に弓使いが死んだということを話された。
しかも、あいつの腕が悪かったからだと、死んだ仲間を咎めはじめた。
彼女はとても不愉快だった。
今すぐ抜けたかったが、一人では転移柱のあるところまで戻れない。
だから仕方なく一緒に行動していた。
でも、その時はすぐに訪れた。
気付けば前衛の一人が無駄に突出してフランメモスの魔法を受けて倒れ、助けようと近寄ったもう一人が麻痺し、もう一人はクリンゲマンティスを一人で支えきれず切り裂かれて死んだ。
全てが一瞬の出来事だった。
彼女はなんとか助けようと、フランメモスを攻撃しようとしたが、クリンゲマンティスが攻撃をしてきてどうにもならず、なんとか避け、攻撃をして耐えていたが、弓使いには無理があった。
最終的にクリンゲマンティスの攻撃を受けて倒れたのだ。
そこまで語り終えた時、彼女が不思議な顔で自身の体を触った。
「あれ?私確かに攻撃を……」
そして俺とミハエルを見て、もう一度俺を見た。
多分気づいただろう、俺が深い傷を治せるほどのヒール使いだと。
「……きっと気のせいね。ありがとう、あなたたちのおかげで私は生きてるわ。だけど、私一人じゃ戻れないから、一緒にいてもいいかしら?」
彼女はヒールについて知らないふりをしてくれるようだ。
「ああ、俺たちはかまわない。歩けるか?」
「ええ、多分大丈夫よ」
彼女が立ち上がったところで俺は彼女に三つのタグを見せた。
「君がギルドに提出するか?別に俺たちがしてもいいが」
それは死んだ男たちの冒険者登録タグだ。
冒険者ギルドでは、冒険者仲間の遺体を見つけた際は、荷物や金目の物などは発見者の物としていいが、代わりにタグを提出してくれるようにとお願いしている。
もちろん荷物とタグの両方を提出してもいい。
ギルドが知っていれば、家族にその死を伝えたりすることが可能だからだ。
「いいえ、私が提出するわ。臨時とはいえ、パーティメンバーだったんだもの。彼らの最期を私はギルドに報告しないと」
「そうか。一応俺たちはタグ以外は彼らの荷物には触れていない。君はどうする?」
「私もいいわ。でもギルドで借りた魔法の袋は持って帰らないと」
彼女がそう言うと、遺体の近くにいたミハエルが布をめくって魔法の袋であろう物を持ち上げて聞いた。
「これか?」
「ええ、それよ。ありがとう」
そうして俺は彼女に声をかけた。
「ここからなら二十五階の方が近いから、そっちへ行くか」
「もしかしてあなたたち三十階目指してたのかしら?」
「ああ、でも別に明日また行けばいいからかまわないさ」
「そうだな。俺もかまわねーぞ」
「ありがとう、この恩は必ず返すわ」
「別にいいさ。冒険者同士助け合いだ」
そんな事を話しつつ、俺はミハエルに視線を向けて軽く耳を叩いた。
それを見たミハエルは小さく頷く。
これは通話魔法を使うという合図だ。
ザザッという音が一瞬だけしたあと、ミハエルに繋がった。
『彼女を送るにあたってだが、俺は強い魔法を撃てなくなるし、フランメモスの鱗粉対処もできなくなる』
『ああ、そっか。そうだな。了解、ちっと気ーつけるわ』
『悪いな、頼む』
『ああ、任せとけ』
そうして通話魔法を切った俺は彼女に声をかけた。
「とりあえず転移柱までは臨時パーティということで宜しく。俺はルカだ」
「俺はミハエルだ。よろしくな」
「私はフィーネよ、短い間だけど、宜しくね」
そうして俺たちはフィーネと共に二十五階にある転移柱を目指して移動をはじめた。
予想外というか、なんというか、フィーネの弓の腕前は本当に素晴らしいものだった。
連携の訓練もしていないのに、俺の攻撃の邪魔を一切しない位置取りを常にしているし、ミハエルが気を付けているのもあるが、決してミハエルの邪魔になるところでフランメモスを倒さないのだ。
正直、俺よりもそこの配慮はうまく、まさかここまでとは思いもしなかった。
亡くなった彼ら三人が大胆にならず、慎重な行動をずっと心がけていれば、きっと今も生きていただろうに。
そう思わずにはいられない。
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