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第三章 新米冒険者

55 廃鉱山へ

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 翌朝、少し早めにギルドの酒場へ向かう。

 酒場に座りミハエルを待った。
 数分ほどしてミハエルが来たので朝食をとったあと、待機することになった。

 現在の時刻は六時三十分、朝の鐘が鳴るのは大体七時頃だ。
 ギルド前で待機していると、暫くしてギルドマスターがやってきた。
 見送りだろうか?

「よし、ちゃんと来てるな!」
「おはようございます」
「おう、おはよう! もうしばらくすれば馬車が来る予定だ」
「はい」
「その間に確認でもするか。お前ら何を準備した?」

 ――やはりこれも試験内容だったか。
 俺たちは準備したものをギルドマスターに説明しはじめた。

 全てを説明し終えた頃には、ギルドマスターは満足そうに頷いていた。

「そこまで用意してたか。偉いぞ! 坊主!」

 俺とミハエルの頭を、ギルドマスターはわしゃわしゃと撫でた。
 おっふ、止めて下さい、ギルドマスター。
 苦笑しつつ、俺たちはグシャグシャになった髪の毛を手櫛で直した。

 その後しばらくして幌馬車がやってきた。
 俺たちはこの馬車に乗って廃鉱山に向かうことになる。

 とはいえ、まだ試験官が来ていないので俺はギルドマスターに聞いてみた。

「ギルドマスター、試験官の方はまだ来ないんですか?」
「ん? ああ! 忘れてたな! 今回の試験官は俺だ。よろしくな、坊主ども!」

 まじでええええ! ギルドマスターって大変なんだな……。
 大変いい笑顔で笑うギルドマスターと共に、俺たちは馬車に乗り込んだ。

 そこからの一週間は中々に苦行だった。

 道中敵は出なかったのだが、浄化魔法を使えないので水で体を拭くしか出来ず、馬車からくる振動でケツが悲鳴をあげた。
 一週間後にくだんの廃鉱山近くの村についた頃には俺たちは大変グロッキーだった。
 ――ギルドマスターは元気いっぱいだったけど。

 そこでギルドマスターは一日だけ村で休憩をとることにしてくれたので、俺たちはありがたく休むことにした。

 そして、翌朝。

「おし、もう回復したな?」
「はい、ご迷惑をおかけしました」
「ははは! 馬車が初めてなら仕方ないことだ!」

 件の廃鉱山は、この村から歩いて六時間ほどの場所にあるそうだ。
 俺としては鉱山のすぐそばに町があるものだと思っていたが、その鉱山はかなり昔に枯れて、それに伴い、町も寂れていき、随分昔に町から人は消えたらしい。
 そもそも鉱山以外には畑に適した場所も少なく、鉱山が枯れた時点でそうなる運命だったのだと。

 そんな話をギルドマスターから聞きながら廃鉱山に向けて移動した。

 村を出発して六時間ほど、廃鉱山が見えてきた。
 そこには確かにかつて町があったのだろうという名残があった。
 ただ建物はほとんどが崩れ、壁もほとんどが崩れている。
 自然に崩れたというよりは壊したようにみえる。

 それをギルドマスターに聞いたところ、ここはかつて山賊が住み着き、街道を通る馬車などを襲ったりといったことが何回かあって、山賊は討伐はされたが、また新しい山賊が住み着いても面倒なのでその時に破壊されたのだそうだ。

 そんな廃墟で昼食をとったあと、廃鉱山の入り口へと向かった。
 廃鉱山の入り口についたところでギルドマスターから声がかかった。

「よし、こっから俺は何も言わん。お前らだけで全ての判断をしろ。とはいえ、お前らの手に負えないようなのがもし出たら俺が助けてやるから安心しろ。これでも俺はBランクだからな」

 そう言ってニッと笑った。
 さすがギルドマスターというところだろうか。

 俺たちは頷きあうとミハエルを先頭に廃鉱山へと足を踏み入れた。
 一応鉱山内はあちこちに光る石が生えていたり置かれているので多少薄暗い程度だ。
 それでもこの薄暗さはCランクモンスターをやるのにマイナス要素だ。

 ギルドマスターは少しだけ離れて後ろにいるので、俺は暗視魔法を俺とミハエルに発動する。
 薄暗かった洞窟内はぱっと明るくなった。
 そして俺はミニマップに映る赤い光点を見つつも、ミハエルに先導を任せる。
 敵に接近した時は簡単なハンドサインをする予定だ。

 鉱山の中はあちこちに横道があり、下がったり上がったりと起伏も激しいが、枯れた道は板が打ち付けられて封鎖されているので、いうほどの苦労はなさそうだ。
 今回の試験の目的であるヴェルクフェは鉱山内をうろうろとしているようで、あちこちにいる。
 こんな鉱山に棲んで、何を食べて生きているのだろうか。

 そんなことを考えつつも、俺はミハエルの肩を叩き、ハンドサインで右の枝道に二体のヴェルクフェがいることを伝えた。
 ミハエルは頷くと慎重に右の道を進み始めた。

 少し進んだところでミハエルが止まり曲がり角の先を見ている。
 俺もそっと覗いてみた。
 ヴェルクフェ、山の妖精と呼ばれるモンスターだが、俺は言いたい。
 何を見て、妖精だと思ったのか。

 ヴェルクフェは身長百三十センチほどの大きさで全身が岩のような肌をしていて、所々に緑色の光る線が走っている。
 二足歩行だが、手は四本生えており上側の二本が長く、手足の爪は鉤状になっている。
 目は大きなアーモンド型で、吊り目になっていて白目はない。
 耳は魚のヒレのような形をしていて、口は円形の丸い形をしている。
 口内にはびっしりと牙が生えているようで、石を拾ってはその口の中に放り込んでボリボリと食べているようだ。
 実に気持ち悪い。

 確認したところでミハエルがハンドサインで俺に少し遅れてくるようにと伝えてからヴェルクフェへ向かっていった。
 一拍遅れて俺も向かう。

 ミハエルを見たヴェルクフェは――ギイイイ――とドアの軋み音のような声をあげて四本の手に生える鉤爪で攻撃しはじめた。
 通路は広いわけではないでの、ミハエルは動きにくいらしく、避けずに全てを剣で受け流している。

 ヴェルクフェは大変素早く、ミハエルに攻撃しつつもちょこまかと動き回っている。
 ミハエルが相手していないもう一匹は鉤爪を利用して壁や天井に駆け上がっているので、俺はそれに魔法を撃ちこむ。
 あくまでも牽制程度ではあるが。

 俺が牽制している間にミハエルが一匹目の胸に剣を突き刺して倒し、すぐに二体目へと攻撃を開始した。
 Dランクモンスターなので強さはそこまでではないが、素早い上に狭い場所なのでかなり面倒ではある。
 それでもさすがのミハエルでそう時間をかけずに二匹目も倒し終わった。

 この枝道はここで終わっているので戻って本道を進むことにした。
 ギルドマスターをチラリと見たが、何を考えているのかよく分からない目でこちらを見ているだけだ。
 道中は常に笑っていた人なので、なんだかガラリと印象が変わったようにみえる。
 さすがギルドマスターになるくらいの人ってことだな。

 俺たちは問題なく順調に討伐を続けていた。
 ミハエルももう慣れたもので、俺も軽く牽制する程度でよくなった。

 途中で簡単に食事をとったり休憩はしているが、今は廃鉱山に入ってから七時間が経っている。
 だが、マップ内には赤い光点があと一つあるだけだ。
 さりげなくミハエルを誘導しているので、そう時間をおかずに辿り着くだろう。

 最後の赤い光点のある場所はどうやら広場になっているようだ。
 最後の一匹を見つけるために通路から中を伺うが、土山や大きな岩が広場内にそれなりにあって姿を見つけることができない。
 そこで仕方なく広場にゆっくりと侵入し、最後の一匹に近づくことにした。

 あんなことが起きるなんてその時は思いもしていなかった。
 だけど、確実にその時は近づいていた。
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