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第四章 仲間

79 Bランク試験の説明

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「おはよう、ルカ」
「おはようございます!」
「おはよう、フィーネ、エルナ」

 俺は挨拶をすませると席についた。
 ミハエルはいつも通りまだ起きてきていない。
 それでもあと数分もすれば来るだろう。

 軽く会話をしていると二階から欠伸をしながらミハエルが下りてきた。

「おはよう、ミハエル」
「おはよう」
「おはようございます!ミハエルさん」
「おーう、おはよう」

 ミハエルは眠そうにまた欠伸をして席についた。

「随分眠そうだな? 昨日夜遅くまで起きてたのか?」
「あー、マルセルに酒飲まされた」
「え?」
「いや、一杯だけなんだけどな、これまで飲んだことなかったから結構きちまって」
「ああ、なるほど。ていうかマルセル結構酒飲めるのか?」
「聞いて驚け、あいつザルだったぞ……」
「まじかよ」

 マルセルが遠くにいっちゃった!
 彼女もいるし、酒豪だし……どこまで先に大人の階段のぼっちゃうの!
 あんな可愛い顔して一番大人じゃないか。

「マルセルってあの子よね? ヴェーバー道具屋の」
「そうそう、可愛い顔した赤い髪のやつ」
「人は見かけによらないのね。お酒飲めなさそうに見えたわ」
「俺もそう思ってた」
「俺もだな。水みたいにカパカパ飲むんだぜ、びびったわ」
「わぁ、すごいですね」
「おう、俺はもう酒はいいわ」
「私はお酒嫌いじゃないけど、水で薄めたワインくらいで十分ね」
「私はお酒苦手です」

 そんな会話をしつつ朝食を終えた俺たちは今日で最後となるだろうモーナットビーストの皮集めのためにダンジョンへ向かった。
 ダンジョンに潜り、四十五階へと飛ぶ。

 四十五階へ到着した俺はミニマップを確認した。
 緑の光点はなく、赤い光点と、黄色の光点があった。

「お? 宝箱があるぞ」
「え? 本当?」
「ああ、こんな風にわいてるんだな、宝箱って」
「おー。んじゃ向かうか」
「はいです」

 俺たちはさっそく宝箱にむけて移動を開始した。

 さすがにもう何日も同じ狩場で狩りをしてるだけに、ミハエルのモーナットビーストを倒す速度は最初に比べると天地の差があるといえる。
 今では一瞬で間を詰めてモーナットビーストに逃げる隙を与えない。

 一瞬で距離を詰めたかと思うと、そのころにはすでにモーナットビーストの胸にはミハエルの剣が刺さっている。
 そのあとは素早く剣を引き抜いて次の敵に向かっているのだ。
 心臓を突かれたモーナットビーストは当然ながらハイオークのような強靭な生命力があるわけではないので、あっさりとボフンと音を立てて消える。

 そしてエルナはかなりアースバレットに慣れて二発同時に撃ちだすことができるようになっており、ドライアドの一体の頭部と胸部にそれぞれ撃ち込み倒すことができるようになっている。
 エルナを慣らすために俺は攻撃を控えていたが、今は俺もドライアドの一体にアースバレットを放っている。

 フィーネもかなりテクニカルな攻撃をするようになっていて、モーナットビースト三体のうち一体は毎度フィーネが始末している。
 確かにモーナットビーストの皮は硬いのだが、フィーネの弓矢はコーティングや切れ味アップがかかっているのでかなり深く突き刺さる。
 初弾で心臓を狙った攻撃をするが、さすがに一発では届かないので、最初の一発の矢が時間で矢筒に戻るのに消えた瞬間、次弾の矢が同じ場所に突き刺さり、それは心臓に達するのだ。
 さすがにテクニカル過ぎて俺は初めて見たときポカンとしてしまった。

 そして、それが終わったと同時に、さらに一発矢を放つと、最後に残ってるドライアドの胸部に矢が刺さり、それと同時に俺のアースバレットがドライアドの頭部に撃ち込まれ、そうしてすべての戦闘が終わる。

 まぁ正直に言って物足りないのはある。
 俺一人でもドライアド三体は倒せるので、今のところ戦力は飽和気味といえるだろう。

 サクサクと敵を倒しつつ宝箱へ向かう。
 もう間もなく到着だ。

「今回は何はいってんだろーな」
「何かしらね」

 そんなことを話ながら進む。

「お、あれだな」

 行き止まりの部分に宝箱があった。
 鑑定したけど特に罠はなかったのでそのまま蓋をあける。
 中に入っていたのは布のようだ。
 とりだしてみるとなるほど、魔法の袋か。
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 魔法の袋・中
 状態:良
 詳細:そこそこの容量を持った魔法の袋。大銀貨五枚から金貨一枚の価値がある。
 ---------------------

「ギルドで貸し出ししてる魔法の袋よりも容量のある魔法の袋みたいだ」

 ギルドで借りているのは浅瀬で出る魔法の袋で、実は鑑定するとちゃんと『魔法の袋・小』と記載されているのだ。
 まぁ実際どのくらい入るのか俺は試したわけではないので本当の容量は知らないけれども。

「ふぅん」
「でも価値の幅は大きいな。大銀貨五枚から金貨一枚だって。多分売る場所で変わるんだろうな」
「それはこのパーティの専用の袋にしたらいいんじゃないかしら? 今持ってるのは毎回借りてる袋よね?」
「ああ、清算するたびに延長料金払ってるな」
「あーそうだったのか。すまん、気づかなかった。それなら、パーティの袋にしようぜ」
「私もそれでいいと思います」
「わかった。じゃあそうしよう」

 俺たちは本来はアイテムボックスがあるのでいらないといえばいらないんだが、どうしてもギルドで清算の時に清算アイテムを出すのに魔法の袋がないといけないのだ。
 でも、これで毎回清算後に延長料金を払わなくてよくなるので一つ楽になった。
 安いものではあるのだが、一々手続きをするのがちょっとだけ面倒だったのだ。

「よし、それじゃ、あとは皮だけだな」
「だな。じゃ、行くか」
「そうね」
「はいです」

 そうして俺たちは残り十三枚となった皮集めを再開する。

 昼の三時を過ぎたころにはすでに皮は目標の枚数が集まった。
 なので、そこからはミハエルとフィーネはそのままに、俺とエルナは交互に攻撃をすることにした。
 一体倒すだけじゃ物足りないせいだ。

 そんな狩りを続けていたのだが、最終的にはモンスターパーティ対俺たちの誰か という狩り方になっていった。
 さすがにエルナはサポートが必要だったけど、ミハエルもフィーネも俺も単体で相手どれるようになった。
 俺は身体強化込みでだけど。

 効率は悪いけど、一対多の訓練は悪くない。
 最初に何をして、どれを倒してと倒し方の組み立てをしつつも、臨機応変に変えてすべての敵の動きを把握しながら倒していく。
 中々に神経を使うが実にいい訓練になった。

 こうして夕方まで訓練を兼ねた狩りを続け、俺たちはダンジョンをあとにした。
 ギルドに戻って依頼完了報告と納品アイテムの提出、それ以外に出たアイテムの清算をし、ずっと借りていた魔法の袋の返却をした。

 ギルドマスターが言っていた通り、フィーネとエルナはこの依頼の完了をもってBランク試験を受けれるようになった。
 ただいつもと違うのはこれから軽く説明をすることになるということだった。
 夕食は少しお預けだな。

 俺たちは二階のいつもの部屋に案内され、席に着く。
 どうせくるのはギルドマスターなので、アイテムボックスから全員分の飲み物をとりだして配る。
 ――ただの果実水だけど。

 暫くして扉が開いて予想通りのギルドマスターが入ってきた。
 俺たちが飲み物を飲んでいるのを見て言った。

「ルカ、俺にもくれ」

 言うだろうと思ったのでサクッと取り出して渡す。

「さて、それじゃ簡単にだが説明する。正直あまりやらせたくはないが規則だからな」

 そう前置きをしてギルドマスターが説明をはじめた。
 Bランク試験はモンスターの討伐ではないらしい。
 というのも、もうBランクレベルまで来ているということは実力は疑いようがないからだそうだ。
 そこで今度必要になってくるのが社交だそうだ。

 Bランク以上になると指名依頼が入るようになるらしい。
 それも、富裕層や貴族から。
 当然報酬は破格になってくるのだが、貴族を相手しなくてはならなくなるので、その適正があるかどうかの試験をせねばいけないらしい。

 ここで相手となる貴族に無礼を働いたり言葉遣いがダメだった場合はBランク試験に合格することができないのだそうだ。
 実力があっても社交性がないとBランク以上にはなれないということだな。

 俺もミハエルも平民上りではあるが、きちんと敬語も使えるし、フィーネたちは言わずもがなだ。
 問題は、フィーネたちの肩書だろう。
 相手がフィーネたちを知らなければいいのだが、もし気づかれると厄介だ。

 ギルドマスターもそこは少し懸念しているそうではあるが、避けてばかりいてもどうにもならないことではあるし、むしろさっさとランクをあげてしまえば貴族からの余計な干渉をランクの力でねじ伏せることができる。

「――でまぁ、俺の知り合いの貴族が主催の小さいパーティにお前らを連れて参加することになる。そこには他の貴族も数人やってくる。とはいっても上級貴族は来ないがな。それでも貴族はBランク以上の冒険者と知己を得ようとしてくる。それだけの実力があるのがBランクってもんだ。お前らはそのパーティにおいて無難に会話し過ごすことが求められる。言っとくが余計なことを約束したり言質をとられたりするなよ。特に社交辞令は危険だ。『ぜひ我が家に仕えて下さいよ』『はは、そうですね』これはアウトだからな」

 これは日本人的感覚でいくと危険だな。
 社交辞令がお得意なのが日本人ですよ! 気を付けよう。
 フィーネたちより俺がやばいかもしれないな!

 そうして俺たちはギルドをあとにした。
 ちなみに、さすがにすぐに貴族パーティが開かれるわけではなく、最低でも二ヶ月はかかるそうだ。
 ギルドマスターから知り合いの貴族に話をして、貴族が知り合いの貴族をお誘いをして開催、という流れらしい。
 ――この知り合いの貴族がパーティを開催してくれるのもメリットがあるからこそだ。ギルドマスターに恩は売れるし、Bランクになろうかという冒険者をお披露目できる力を持った貴族というアピールを周囲にできるというのがある――

 一応、このパーティは、二ヶ月でも早い方らしく、簡易なパーティだからこそ、らしい。
 もし本格的なパーティとなると数ヶ月かかるそうだ。

 貴族って面倒だな。
 まぁパーティの日が決まったらギルドから連絡があるらしいのでそれを待てばいいだろう。

 ちなみに一応俺たちも正装をしないといけないらしく、ミハエルは俺に丸投げをしてきたので、めちゃくえちゃカッコイイのにしてやろうと思っている。
 俺は無難でいい。

 フィーネはドレスではなく冒険者らしくパンツルックでいくそうだ。
 というのも、フィーネはかつて社交の場に出たことがあるそうで、知ってる人がいる可能性もあるためわざとそうするらしい。
 エルナは社交の場には出たことがないのでドレスにしてあげるそうだ。
 とはいえ、エルナも美人なのであまり着飾ると貴族がいらない気持ちを抱く可能性がある。

 一応パーティでは四人で固まっている予定ではあるが、分断される場合もあるので、最低限、フィーネと俺、エルナとミハエルがペアで動くことに決めた。
 ま、会話は基本的に笑顔アンド笑顔で乗り過ごすつもりだ。

 こうして俺たちは宿屋へと帰った。
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