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第五章 出会い

95 観光

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 翌朝、今日は朝食を食べたら観光に向かうことになっている。

 基本的に安宿以外は大体の宿屋の一階は食堂があるのでそこで朝食を食べる。
 今回泊っている宿屋の料理は残念ながらさほどおいしいものではなかった。
 微妙な顔になりつつも食べ終えた俺たちは街へと繰り出した。

「あんまだったなぁ」

 ポツリとミハエルが呟いた。

「そうだな、味はいまいちだったな」
「そうね、お世辞にもおいしいとは言い難かったわね」
「あまりおいしくなかったです」

 そんなことを話つつ昨日いけなかった武器防具屋にまずは行くことにした。
 数件店を回ってみたが、特に変わり映えもせず、珍しい物があるわけでもなかった。
 質に関してはどちらかというとシュルプの方がいいと言える。
 やはりそのあたりは鉱山ダンジョンがある街なだけあるのだろう。

 まだ武器防具屋はあったけども、特にもう見なくても変わらないと思い、他を見て回ることにした。
 さすがに都市だけあって本当に広い。

「しかし人も多いしひれぇなー」
「だな。シュルプも人が多いと思ってたけど、ここほどじゃないな」
「本当に人が多いのね。エルナ、離れちゃだめよ」
「うん」

 次に俺たちが来たのはシュルプにもありはするが、そう数が多いわけではない服飾関係の店が並ぶ通りだ。
 さすがにシュルプとは比べるまでもなく店の数が多く、普通の店から高級店まで様々あるようだ。
 俺たちが見るのは普通の店ではなく少し高級な店だ。
 モンスターの糸で作られたサラリとした生地の服なんかもあって、適当に見て回る。

 普段着る服として俺は二枚ほど服を購入した。
 チュニック系の服が多い中、襟なしのシャツ系があったので買ったのだ。
 ミハエルはボタンをいちいちとめるのが面倒くさいと、チュニック系の服を購入していた。
 似合うのになぁ。

 次の店ではフィーネとエルナが服を見ていて、時折俺たちに意見を聞いている。
 正直どれも似合っていて、可愛いなとしか思えないのではあるが、前世の雑誌で、女性が服を聞いてきても、すでに女性の心の中では決まっていて、男性に求めているのは自分が選んでいる方を勧めてくれることだと見たことがある。

 そんなのどうやって察すればいいのか俺にはまったく分からない……。
 なので、基本はどちらも似合うというのを前提で言っておいて、あとはフィーネの視線が多くいってる方の服を選択してどちらかといえばそれかな、と伝えている。
 今のところは外れてないようだが、なんとも色々な意味でドキドキする時間だ。

 色々と見た結果、フィーネは一着ワンピースを購入し、エルナはスカートとチュニックを購入していた。
 一応フィーネが購入した服は俺が選択した色のワンピースだったようだ。
 淡い水色の半袖タイプのワンピースで、袖部分はドレープ状になっている。
 ウエストの部分をリボンで結ぶタイプのようだ。
 前で結べば可愛らしく演出できて、後ろで結べば少し清楚系、横で結べば可愛さの中に大人っぽさも入る。
 結び方でも色々と雰囲気は変わるらしい。

 俺としては可愛くても清楚系でも大人っぽくてもどれも似合うとは思うのだが、女の子は気分でその辺も変わるのだろう。
 こうしてその後も色々と店を見て回り、あとは城を近場で見てみることにした。

 近場といっても、そこまで近くまでは近づけはしないが、見えやすいところから見るといった感じだ。
 城へいくまでには貴族街へ行く第一門があり、そこを超えてから、城へ行く第二門を超えないとたどりつけないようになっているらしい。

「すげーな、よくあんなでけぇ建物作れるよなぁ」
「だよな。どうやって作ってるんだか」
「そうね、すごいものよね」
「おっきいですねー」

 全体が見えるわけではないが、上半分くらいは見えるので俺たちは壁ごしに城を見ながらそんなことを言い合う。
 日本の城などもそうだが、人の技術というのはすごいと思う。
 大きな重機もない時代からあのような高くて細かい建造物を建てれるのだから本当にすごい。
 重機がないからもちろん素手で作り上げているうえ、切り出した岩などを運んでこなくてはいけないのだ。
 ――俺としてはあんな高い場所に上がるなんて怖くて飛行魔法なしでは無理だな。

 城は元はきっと真っ白だったのだろうが、今は経年劣化などで随分とくすんでいる。
 蔦もはっているが、これはこれでなんとも言えない重みがあるというか。
 歴史があるんだというのが伺えて俺は結構好きかもしれない。
 城の観光を終えた俺たちは再び街へ戻っていった。

 これといったトラブルもなく、昼も夜も外で食べた俺たちは宿屋へと戻ってきた。
 宿屋の裏庭で軽い打ち合いをミハエルとしたあと、さすがのミハエルも明日が試験本番なのでそれ以上は剣の訓練をせずに俺と一緒に部屋へと戻った。

 お互い風呂に入ったあと、のんびりとしているとふとミハエルから声がかかった。

「そういや、ルカのその服、売ってるのみたことねぇけどどこで買ってんだ?」
「あー、これか」

 もうミハエルにも俺の前世について話してもいいかもしれない。

「これは自分で作ったんだよ」
「へぇ。見たことねぇよな、そういうの。フィーネの弓もそうだけど、変わったのよく考えるよな」
「ミハエル、実はな――」

 俺は自分の前世について話した。
 俺には前世の記憶があること、前世はこの世界とは違う世界であること。
 だからこの世界では思いつかないことも思いつけること、色々とこの世界にない知識があることを説明した。

「ふぅん、なるほどな。驚きはしたが、それもある意味ルカの知識だろ。いいんじゃねぇか?」

 ミハエルはあっさりとそう言ってのけた。
 そして、ニッと笑うと、いたずらっぽく言った。

「つーか、俺にもその服とか作ってくれよ」

 俺は少し笑みを浮かべて言う。

「はは。いいぞ。ぶっちゃけこの世界の服はゴワゴワしてて結構辛いんだよな。ミハエルも俺の作った服と下着に変えたら多分驚くぞ?」

 俺はそう言うとスウェット上下と、俺が前世で履いていたボクサーパンツを数枚作った。

「ほら、これ。これがパンツな。こっち側が前だ」
「うわ、これが? すげぇサラサラだし伸びるな。おもしれぇ」

 パンツをみょんみょんと伸ばして面白がるミハエルに俺は苦笑しつつ言った。

「あんま伸ばすなよ、伸びきって戻らなくなるぞ」
「おう、まじか。すまねぇ」
「せっかくだから履き替えてくれば?」
「そーだな。ちょっと着替えてくるわ」

 そう言ってミハエルは脱衣所へと向かった。
 しばらくして、俺と同じスウェットを着たミハエルがやってきた。

「すげぇな。これ。これまで着てた服はなんだったんだって思うぞ?」
「だろ? 下着とかもっと作っておくか?」
「おう、頼んでもいいか?」
「ああ、かまわない」

 俺はついでに肌着なども作っておいた。
 ミハエルにはそれぞれについて説明しつつ渡した。
 実に大変感謝された。

「しかしあれだな。これだけいいもんだと、エルナたちにもってつい思っちまうなぁ」
「ああ。まぁな……。でもさすがに女の子の下着は……」

 思わず頬を赤くすると、ミハエルも想像してしまったのか、赤くなっている。

「そ、そうだな……」
「で、でもまぁ、スウェットとか、寝間着ならな」
「そ、そうだな」

 しばし俺もミハエルも口を閉じる。
 いらない想像をしてしまった。

「まぁ、いずれ……」

 俺の言葉にミハエルも頷いた。
 さすがに女の子の下着や肌着を作って渡すなど恥ずかしすぎて無理すぎる。
 せいぜいできるとすれば寝間着くらいだろうが、寝るときの服について話すというのもやはり恥ずかしい。

 恥ずかしくなったところで寝ることにした。

「ま、もう寝ようぜ」
「そうだな、明日は試験だしな」

 朝食についてはそれぞれ部屋でとることにしている。
 さすがにこの宿屋でまた食事をとる気はないのだ。

 明日の試験では会場でレオンと会うことになるが、きっとレオンは貴族に群がられて俺たちの方にくることはできないだろう。
 そんなことを考えつつ、俺は目を閉じた。
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