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第六章 武器と防具

118 職人とCランク冒険者

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 ハインさんに聞いた皮職人のいる工房へと向かう。
 道から逸れて少し奥へと向かうと目的の工房があった。

 気難しい職人と聞きはしたが、工房は綺麗に掃除されており、こざっぱりとしている。
 工房の中へ入ると、四十代くらいの女性がカウンターにいた。

 女性がこちらに気づき、ニコリと笑みを浮かべる。
 俺はペコリと頭を下げてから声をかける。

「おはようございます。皮鎧の製作をお願いしたくてきました」
「おはようございます。皮鎧の製作ですね、どの皮か見せて頂けますか?」
「はい」

 魔法の袋からヒュドラの鱗皮をとりだし手渡した。

「あら、ヒュドラの鱗皮ですか?」
「はい、そちらを三人分と彼女の分を一部作ってほしいんです」
「なるほど、少しお待ちいただけますか?」
「はい」

 女性はそう言うと中へ入っていった。

「すごいな、あの女性」

 俺の言葉にエルナが首を傾げた。

「なぜです?」
「俺はあれがヒュドラの鱗皮とは言ってないんだよ」
「あ! 確かにです」

 あの女性は俺が皮の種類を告げなくても見ただけで何かを当てたのだ。
 受付にいたということは彼女が職人ではないだろうし。
 かなり優秀な人ということだ。
 普通は俺たちみたいな子供が持ってきた皮をヒュドラの鱗皮だとしてもまず疑うものだろう。
 だけどあの女性は見た目で判断はしなかった。

 しばらくして女性が戻ってきた。

「お待たせしました。依頼を受けましょう。失礼ですが冒険者タグの確認をしても宜しいですか?」
「はい。全員分いりますか?」
「いいえ、あなただけでかまいませんよ」
「わかりました」

 俺は首にかけていた冒険者タグをはずしカウンターの上に置いた。
 女性はタグを確認すると俺に返した。

「ありがとうございます。Bランク冒険者ですね。今年齢はおいくつですか?」
「十三です」
「となるとまだまだ成長されますね。一応、ある程度サイズの微調整はできるようにしましょうか」
「ええ、そうして頂けるとありがたいです」
「では中へどうぞ。まずは体のサイズを測らさせてもらいます」

 女性の案内に従い中へと入り、俺たちは今つけている簡素な鎧をはずしてサイズを測ってもらった。
 フィーネとエルナは布がかけられた場所で測っている。
 寸法を測定し終わったあと、さらに奥へと案内された。

 そこにはガタイのいい四十代くらいの男性と、二十代くらいの若い男性がいた。
 女性は四十代くらいの男性に声をかける。

「あなた、彼らの依頼を受けるわ。測定はもう終わってるから注文を聞いてあげて」
「おう」

 今の言い方からすると、依頼を受けるか受けないは最初にまず決めるのは女性らしい。
 これは予想外だな。

「それと、彼らはまだ十代前半の若い子たちよ、まだまだ成長期だからある程度サイズ調整できるようにしてあげてね。はい、これ測定した紙ね」
「おう」

 女性は俺たちのサイズを記載した紙を男性に渡した。

「さて、それじゃ、あとはこの人と皮鎧の構造については話してください」
「ありがとうございます」

 女性はニコリと微笑むと受付カウンターへと戻っていった。

「驚いたろ?」

 男性の声に俺はそちらを振り向く。

「そうですね、彼女が依頼を受けるか決めているとは思いませんでした」
「普通はな、俺みたいな職人が受けるか受けねぇか決めるもんなんだが、妻は人を見る目はピカイチだからな。妻が懸念を示した相手は全て断ることにしてる」
「素晴らしい奥さんですね。皮も一度見ただけで種類を当てられましたし」
「ははは。そうだろう! あれはいい女だ」
「父さん」
「ああ、すまんすまん。妻のことになるとついな。それでお前らの装備だな、どういうのが希望だ?」

 そこからは職人さんと関節の可動域を邪魔しない構造であること、動きを阻害しない柔らかさであること、重すぎるのは困ることなど色々と話し合った。
 皮の枚数は十分だそうで、問題なく作り上げることができるらしい。

 四人分完成させるのに二ヶ月は必要になるとのことだ。
 帰るのに一ヶ月かかるのでそれならと俺たちは完成するまでこの街に留まることにした。
 話し合いを終えて帰ろうとしたところで受付の方から声が聞こえてきた。

「だからわかんねーかなー? 俺らはCランクだぞ? Cランクが頼んでるってのになんだよ」
「ですから何度も申しておりますが、あなた方の依頼は受けません、お帰りください」
「つーか、おばさんには言ってねぇんだよ。職人だせっつってんだろ。リザードマンの皮だぞ!」
「何度でも申し上げますが、主人にあなた方の依頼は受けさせません。お引き取り下さい」

 何やらトラブルらしい。
 俺が中から出て女性に声をかけた。

「どうしました? 大丈夫ですか?」
「ああ、お見苦しいところを。申し訳ありません。何も問題はありませんよ」
「おいおいおい、そんなガキの依頼受けて俺らCランクの依頼受けれねぇってなんだ? あ?」
「はぁ。ガキではございません。人の見た目や年齢で判断されるのが愚かなのです」
「うるせーよ! いいから職人だせよ、ババア!」

 なるほど、なんともはや。

「女性に対してその物言いは失礼だろ。そんな態度で依頼を受けてもらえると思ってるならおめでたい頭をしているな、お前ら」

 俺の挑発に四人組のCランクだという冒険者は簡単にのってきた。

「ああ!? クソガキが! 誰に口きいてんだ! あ!?」
「とりあえず外出ろよ、相手してやるから」

 俺のわかりやすい挑発にのった四人組は素直に工房の外に出たので、俺は奥さんに謝罪した。

「すいません、勝手に出しゃばって」
「いいえ、ありがとうございます。大丈夫かとは思いますが、気を付けてくださいね」
「ええ、大丈夫です」

 外に出た俺にミハエルが声をかける。

「どうする? 俺がやってもいいけど」
「ああ、まぁ俺がやるよ。問題ないさ」
「おう、わかった」

 そんな俺たちの会話を聞いていたのか、男たちが再び騒ぎ出した。

「ああ!? ガキが一人でってか! ふざけやがって!」

 これで本当にCランク冒険者なのだろうか。
 あとでハインさんに伝えておくべきかもしれないな。
 そう思っているとまさかの状況になった。
 相手が剣を抜いたのだ。

「いや、お前ら街中で普通剣抜くか? 手加減しないぞ?」
「はぁ? ガキがほざいてんじゃねぇよ! 死ねや!」
「はぁ……」

 俺は剣帯から鞘ごとはずした。
 怒りのあまりか周りが見えていない、自称Cランク冒険者へ相対あいたいする。
 しかし、ちょっと挑発が過ぎたかもしれないな、反省しよう。

 とはいえ、すぐにサンダーで麻痺させようかと思ったが、剣を抜いているので少しだけ痛い目をみてもらおう。
 俺は四人相手に鞘つきの剣で捌き、時々彼らの体に鞘で攻撃をする。

「ガッ! くそが! ちょこまか動きやがって!」

 まだまだ元気らしいな。
 本当にCランクなのかもしれない。
 そんなことを考えながら俺は彼らの剣を避けつつ彼らの体に鞘を当てていく。

 そうして十分くらいが経ったころ、四人組はゼーゼーと大きく息をしながら、体のあちこちを押さえていた。

「なん、なんだよ、おまえ……」
「なんで四人がかりでやってあたらねぇんだよ……」

 男たちの文句は無視して告げる。

「そろそろいいか?」

 男たちは苦い顔をしながら、再度剣をかまえた。
 もう意地になっているらしい。

「そうか。なら次で決めようか」
「くそが!」

 上段から強く振り下ろす攻撃を鞘で受け止めて流し、左手で男に弱いサンダーを撃つ。
 男の一人が倒れ、俺は次々と残りへ攻撃をしていく。

「よし、終わりだな」

 俺がそう声を出すころには全員が痺れて麻痺していた。

「さて、悪いがお前らの冒険者タグを調べさせてもらうぞ」

 基本的に冒険者はタグを大体首からかけているので彼らの首元を探る。

「おいおい、お前ら本当にCランクだったのか……」

 これは実に情けない。

「ぐ、がえ……ぜ……」
「返してやるさ。お前らのタグは冒険者ギルドに渡しておく。あとで取りにいけ」

 そこまで声をかけたところで警備兵がやってきた。
 どうやら奥さんが呼んだらしい。
 奥さんが一部始終を話し、俺も軽く説明をして、男達は警備兵に連れていかれた。
 街中で剣を抜いたのだから仕方ないだろう。

 奥さんが俺たちの方へやってきた。

「遅くなって申し訳ありません。ありがとうございました」
「いえ、まさかあの程度の挑発で彼らが剣を抜くとは思わず、俺もすみません。ご迷惑をおかけして」
「いいえ、お客様にあのようなことをさせて本当に申し訳ないです」
「いえ、勝手にしたことですから。本当にもう気にしないで下さい」
「わかりました。本当にありがとうございます。主人にはきっとよい装備を提供させてみせます」
「はは。お願いします」
「お任せください」

 こうして俺は四人組の冒険者タグを持ったままギルドへと向かった。
 ミハエルたちにはいい宿屋がないか探してもらっている。
 やはり料理のおいしい宿屋がいいのだ。

 ギルドに入り、受付嬢さんに声をかける。

「すみません、ギルドマスターにお会いしたいのですが、いらっしゃいますか?」
「はい、失礼ですが冒険者タグをお見せ頂いてもかまいませんか?」
「はい」

 俺がタグをとりだして見せると受付嬢さんは驚いた顔をしていた。

「えっ あ、えっと、はい。少々お待ちください!」

 そう言うと慌てて奥へと向かっていった。
 俺のミスリルのタグが見えていたのか、ざわざわと周囲から声がしてくる。

「え、あの若さでBなの? すごくない?」
「すげーな」
「かわいい顔してるわね。好みだわ」
「貴族の子かなんかじゃねぇの?」
「それにしちゃ装備がしょぼくない?」

 しょぼい……。まぁ確かにしょぼいけども……。

「確かに防具はしょぼいけど、あれ、あの武器相当だぞ」
「なら実力かもな」
「時々いるからな、ほら、シュラハトのレオンとかそうじゃん」
「あーそういやあいつもそうだよな」

 へぇ、レオンも俺くらいのときから高ランクだったのか。
 そんな他人の会話に耳を傾けていると受付嬢さんが戻ってきてギルドマスターの部屋まで案内してくれた。

「ソファーにかけて待っていてくれ」
「はい」

 少しして書類仕事を終えたハインさんがやってきた。

「さて、それで今日はどうした? だめだったか?」
「ああ、いえ。皮職人さんには依頼を受けてもらえました」
「ならどうした?」
「実は――」

 俺はハインさんに今日きた理由を説明した。

「なるほど……。そいつらのタグをもらっていいか?」
「はい」

 金色のタグを四枚取り出してハインさんに渡す。
 ハインさんはタグを一枚一枚見て溜め息をついた。

「はぁ、やっぱりこいつらか……」
「やっぱり?」
「ああ、すまない。いや、こいつら普段から素行が悪くてな。なまじ実力がある分調子にのったタイプなんだ。上には上がいるのを理解しないバカなやつらだ」
「ああ……」
「だがまぁ、もう無理だな。街中で剣を抜いた上に相手を殺そうとするようなやつをギルドはこれ以上庇うことはできない」

 一瞬、ハインさんが冷たい目をした。
 糸のような目だというのにそれを感じる。やはり彼もBランクということか。

 すぐにまた優しい雰囲気に戻り俺に声をかける。

「いや、迷惑をかけたね」
「いえ」
「このタグはこちらできちんと預かっておくよ」
「はい」
「それで、鎧が完成するまでは君たちはどうするんだ?」
「せっかくなのでダンジョンに潜ってみようかと思っています」
「そうか。基本的には鉱山ダンジョンと作りには大きな違いはないよ、ただ鉱石はでないけどね」
「なるほど、ありがとうございます」
「いやしかし、アーロンが羨ましいね。うちを常駐にしてるAランクも気位が高くてね。こいつらみたいなバカではないが、あれもあれで扱いにくいんだよ」

 そう言って金色のタグを弄びながらハインさんは苦笑した。
 暫くハインさんと会話したあと、せっかくなので料理のおいしい宿屋を聞いてみたところ、二軒ほど教えてもらえたので、ミハエルたちと合流したあとに情報のすり合わせをしよう。

「では、失礼します」
「ああ、何かあったらまた来てくれ」
「はい」

 ギルドマスターの部屋を出て、ギルド併設の酒場へと向かう。
 酒場でしばらく待っていると、ミハエルたちがやってきた。
 席にいる俺をミハエルが見つけたので軽く手をあげる。

「よー待たせたな」
「いや、俺もさっき下りてきたとこだ」

 ミハエルたちの情報によると、三軒ほどよさげな宿屋があるらしい。
 ハインさんからの情報も併せて、クルツの宿屋に決めた。
 まぁいまいちだったら残りの二軒へ移ってもいいだろう。

「じゃ、行こうか」
「おう」
「そうね」
「はいです」

 こうして俺たちはクルツの宿屋へ向かった。
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