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3 まとまりのよいクラス
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工藤の、そして天狗の水内のいる1-Dはまとまりが良いクラスだとよく言われる。工藤もそう思う。実際学祭でも架空の文明との激戦を再現した1-Dの展示「一学期における地底文明との戦闘報告」はバカバカしいながらも結構受けた。クラス展示について学祭運営委員会からよかったで賞的なものを貰った。運営委員会は五クラスくらい毎年表彰しているが、例年は経験と暇さのバランスが良い二年が伝統的に独占しているだけに1-Dが表彰ラインに食い込んだことはかなりの快挙と言っていい。
その、快挙の立役者は明らかにクラス委員の斉田雪だった。クラス一小さいが成績はクラスというか学年一位。トレードマークはフチの赤いフレームのメガネ。進路希望に財務省主計局長と書いたらしい。
工藤は学祭とかどうでもよかった。一応浮かない程度に手伝いはするが、めんどい。しんどい。そう思ってお茶をすすって学祭はやり過ごした。大体展示ものはアイディア勝負で、後は物造りが得意なやつが率先してやってくれる。アイディアも器用さもないやつは邪魔にならないよう隅で何か単純作業をしているか、たまにガムテープでも買いにお使いに出ればいいのだ。それで買出しついでに差し入れのお茶とお菓子でも持ってくれば何も問題ない。それでいいのだと工藤は思っていたし、学祭に輪をかけて鬱陶しい真冬体育祭とかいう無意味にアグレッシブなイベントもそれで乗り切れろうと心に誓っていたのだが。
「工藤。あんたやる気無いでしょ」
一週間ほど前、体育祭の種目分けのためのHR直前。斉田は赤眼鏡を押し上げ、工藤の机の前に立つなりそう言い放った。昼休みで、工藤は食後のほうじ茶を楽しんでいたため斉田の接近に気付かなかった。気付いたら逃げられたかもしれないのに。
地味なチビ女と四月五月には思われていた斉田だが、今では1-Dのまとまり、つまり栄光と繁栄の中心であり実質的支配者として1-Dに君臨している。通称執政官閣下。
その閣下が工藤に話し掛けてきた場合、面倒臭いことになる。それは経験上明らかなことだった。
「いや、何をおっしゃいます斉田委員。私は常に1-Dの繁栄を心がけてまいりました。私のクラスへの忠誠をお疑いでしょうか」
「しゃべり方がうざい」
工藤の必死の抗弁を無表情に切り捨てる。
「ごめんなさい」
「いいけど。それより、体育祭。あんたまた楽なハンパ仕事で乗り切ろうと思ってないでしょうね」
「いや、それは」ハンパ仕事とまで言われる覚えはないぞ普通に。「ちょっと言い過ぎじゃないか?」
「そうかな」
「そうだろ。普通に協力してたろうが。お前の工具毎日家で保管してやったろ」
「そうか、忘れてた。ごめん悪かった。じゃあそれはいい。とにかく、次の体育祭も1-Dは取りに行く。体育祭は賞を貰ったとかそう言うことじゃなく、総合優勝。今度は仲間うちでの審査とかじゃなく、純粋なポイント勝負だからトップも取れる。勝利以外は何の価値もない」
「あんた海兵隊か何かか」
「私は常に私がいるクラスを最高のクラスにするの。欠けたところのない完璧な」工藤の冴えない突っ込み程度当然のように踏みつぶし、斉田は両手を広げて演説する。「完璧で、無欠で、内心点がザクザク湧いて来るようなクラス。例えて言えば貧乏子沢山大家族みたいな絆と依存が混ざり合ったようなクラスよ。あぁ」
どんなクラスだよ。理想のクラスを想像してうっとりする斉田だが、工藤は目をそらし見ないふりをする。何なんだこの野心は。おとなしく稼業の布団屋を継げばいいのに。
「あのさ、ご存じないなら教えてあげるけど人生って結構長いんだぜ? 二十歳まで生きられない持病とか抱えてる訳じゃないんだろ?高校時代くらい気楽に過ごせばよくね?」
「黙れ。凡人にはわからんのだ。天狗やその仲間ごときがどうして鴻鵠の志を知らんや」
何を言ってるんだコイツは。
「で?」
「うん。お茶ボケのあんたのことだから、多分お遊びのドッジボールかなんかでごまかそうと考えてると思うけど」工藤が狙ってたのは組み体操だがそれは言わないことにする。「今回はあんたにも貢献する機会を用意してあげるから。あんたには棒倒しに参加してもらう。いや参加させてあげる」
「えっ、俺が?いやそれは死ぬよ」
体育祭は競技ごとに決められたポイントがあり、真面目に攻略を狙うのならガチで狙う競技と切り捨てる競技を選別する必要が出てくる。しかしまあ、こんなのレクリエーションなのだからもっと普通に楽しめばどうか的なことを工藤は述べてみたのだが単語七つ目くらいで「甘い。そんなんじゃ生き残れないから」無残に却下。何と戦ってるんだこのクラス。
棒倒し。その名の通りグラウンドの真ん中に設置された棒を全周囲を囲んだ各クラス五人の代表がわっー!と駆け寄って押し倒す、荒々しくも勇壮な競技である。プログラムの最後であり祭りのフィナーレを飾る象徴的な種目だ。それだけにポイントは厚く配分されている上、棒が引きずり倒された時一番上に乗っていたクラスがポイント総取りとなる。本気で優勝狙うなら他のクラスに対して純粋にアドバンテージになるポイントは相当にごつい。演技さえすれば一ポイント、最高でも三ポイントの組み体操なんかとは違う。
が、しかし。棒倒しはその荒々しさからラグビー部だの柔道部だの、ガタイ自慢系部活の草刈り場であり工藤のごときお茶飲み生物が迷いこんだら原形もとどめぬほど潰されてしまう可能性がある。
「大丈夫。購買でパン買うようなものだから。あんたそれ得意でしょ」
お前にパシらされてるからな、とは権力者には言えない。
「それに今度は作戦があるの。ほら、うちのクラス空を飛ぶやつがいるでしょ」
「ああ」
渋い顔で工藤は頷く。
「あれを使う」物みたいに斉田は吐き捨て「あれが倒れる時に上にセミみたいに飛び付けば、労せずして棒倒しはうちのクラスの勝利。で、あれどんくさいからあんたが飛びつくタイミングを指示する係。それだけでいいから。これで大した駒を使わず棒倒しを制するってわけよ。たまらないわね」
「つくづく何なんだよあんた、斉田委員。そもそもあんた水内嫌いだろ」
「天然物の山の幸は使わない手はない」山菜か。
「あのな、俺だって天狗は好きじゃない。いっそあんたがやったらどうだ。あんただって大して他の競技が得意な訳じゃないだろ」
「嫌。私は司令塔なの。それに、組み体操好きだし」
あ、組み体操を取るんだ。
「と言う訳で、あの水内の特訓もよろしくね。下手打ったら連帯責任だから」
その、快挙の立役者は明らかにクラス委員の斉田雪だった。クラス一小さいが成績はクラスというか学年一位。トレードマークはフチの赤いフレームのメガネ。進路希望に財務省主計局長と書いたらしい。
工藤は学祭とかどうでもよかった。一応浮かない程度に手伝いはするが、めんどい。しんどい。そう思ってお茶をすすって学祭はやり過ごした。大体展示ものはアイディア勝負で、後は物造りが得意なやつが率先してやってくれる。アイディアも器用さもないやつは邪魔にならないよう隅で何か単純作業をしているか、たまにガムテープでも買いにお使いに出ればいいのだ。それで買出しついでに差し入れのお茶とお菓子でも持ってくれば何も問題ない。それでいいのだと工藤は思っていたし、学祭に輪をかけて鬱陶しい真冬体育祭とかいう無意味にアグレッシブなイベントもそれで乗り切れろうと心に誓っていたのだが。
「工藤。あんたやる気無いでしょ」
一週間ほど前、体育祭の種目分けのためのHR直前。斉田は赤眼鏡を押し上げ、工藤の机の前に立つなりそう言い放った。昼休みで、工藤は食後のほうじ茶を楽しんでいたため斉田の接近に気付かなかった。気付いたら逃げられたかもしれないのに。
地味なチビ女と四月五月には思われていた斉田だが、今では1-Dのまとまり、つまり栄光と繁栄の中心であり実質的支配者として1-Dに君臨している。通称執政官閣下。
その閣下が工藤に話し掛けてきた場合、面倒臭いことになる。それは経験上明らかなことだった。
「いや、何をおっしゃいます斉田委員。私は常に1-Dの繁栄を心がけてまいりました。私のクラスへの忠誠をお疑いでしょうか」
「しゃべり方がうざい」
工藤の必死の抗弁を無表情に切り捨てる。
「ごめんなさい」
「いいけど。それより、体育祭。あんたまた楽なハンパ仕事で乗り切ろうと思ってないでしょうね」
「いや、それは」ハンパ仕事とまで言われる覚えはないぞ普通に。「ちょっと言い過ぎじゃないか?」
「そうかな」
「そうだろ。普通に協力してたろうが。お前の工具毎日家で保管してやったろ」
「そうか、忘れてた。ごめん悪かった。じゃあそれはいい。とにかく、次の体育祭も1-Dは取りに行く。体育祭は賞を貰ったとかそう言うことじゃなく、総合優勝。今度は仲間うちでの審査とかじゃなく、純粋なポイント勝負だからトップも取れる。勝利以外は何の価値もない」
「あんた海兵隊か何かか」
「私は常に私がいるクラスを最高のクラスにするの。欠けたところのない完璧な」工藤の冴えない突っ込み程度当然のように踏みつぶし、斉田は両手を広げて演説する。「完璧で、無欠で、内心点がザクザク湧いて来るようなクラス。例えて言えば貧乏子沢山大家族みたいな絆と依存が混ざり合ったようなクラスよ。あぁ」
どんなクラスだよ。理想のクラスを想像してうっとりする斉田だが、工藤は目をそらし見ないふりをする。何なんだこの野心は。おとなしく稼業の布団屋を継げばいいのに。
「あのさ、ご存じないなら教えてあげるけど人生って結構長いんだぜ? 二十歳まで生きられない持病とか抱えてる訳じゃないんだろ?高校時代くらい気楽に過ごせばよくね?」
「黙れ。凡人にはわからんのだ。天狗やその仲間ごときがどうして鴻鵠の志を知らんや」
何を言ってるんだコイツは。
「で?」
「うん。お茶ボケのあんたのことだから、多分お遊びのドッジボールかなんかでごまかそうと考えてると思うけど」工藤が狙ってたのは組み体操だがそれは言わないことにする。「今回はあんたにも貢献する機会を用意してあげるから。あんたには棒倒しに参加してもらう。いや参加させてあげる」
「えっ、俺が?いやそれは死ぬよ」
体育祭は競技ごとに決められたポイントがあり、真面目に攻略を狙うのならガチで狙う競技と切り捨てる競技を選別する必要が出てくる。しかしまあ、こんなのレクリエーションなのだからもっと普通に楽しめばどうか的なことを工藤は述べてみたのだが単語七つ目くらいで「甘い。そんなんじゃ生き残れないから」無残に却下。何と戦ってるんだこのクラス。
棒倒し。その名の通りグラウンドの真ん中に設置された棒を全周囲を囲んだ各クラス五人の代表がわっー!と駆け寄って押し倒す、荒々しくも勇壮な競技である。プログラムの最後であり祭りのフィナーレを飾る象徴的な種目だ。それだけにポイントは厚く配分されている上、棒が引きずり倒された時一番上に乗っていたクラスがポイント総取りとなる。本気で優勝狙うなら他のクラスに対して純粋にアドバンテージになるポイントは相当にごつい。演技さえすれば一ポイント、最高でも三ポイントの組み体操なんかとは違う。
が、しかし。棒倒しはその荒々しさからラグビー部だの柔道部だの、ガタイ自慢系部活の草刈り場であり工藤のごときお茶飲み生物が迷いこんだら原形もとどめぬほど潰されてしまう可能性がある。
「大丈夫。購買でパン買うようなものだから。あんたそれ得意でしょ」
お前にパシらされてるからな、とは権力者には言えない。
「それに今度は作戦があるの。ほら、うちのクラス空を飛ぶやつがいるでしょ」
「ああ」
渋い顔で工藤は頷く。
「あれを使う」物みたいに斉田は吐き捨て「あれが倒れる時に上にセミみたいに飛び付けば、労せずして棒倒しはうちのクラスの勝利。で、あれどんくさいからあんたが飛びつくタイミングを指示する係。それだけでいいから。これで大した駒を使わず棒倒しを制するってわけよ。たまらないわね」
「つくづく何なんだよあんた、斉田委員。そもそもあんた水内嫌いだろ」
「天然物の山の幸は使わない手はない」山菜か。
「あのな、俺だって天狗は好きじゃない。いっそあんたがやったらどうだ。あんただって大して他の競技が得意な訳じゃないだろ」
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