『狭間に生きる僕ら 第二部  〜贖罪転生物語〜 大人気KPOPアイドルの前世は〇〇でした』

ラムネ

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静かなる暴走

黄泉の国の学校の授業参観をしました

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合宿所を出ると、右手に三途の川の支流らしき幅の狭い川が流れている。中村と夜桜が、火の玉たちがその川に近付かないよう見張っている。

「なあなあ」
俺はズボンのポケットに入っている圭吾に、火の玉も川で溺れたら危ないのか尋ねた。

『死にはしないよ。でも、そのまま流されて三途の川まで行ってしまうと危ないんだ』

圭吾がポケットから出ると、俺の服の皺を使ってよじ登ってきて、左肩に晴馬と並んでチョコンと座った。

『三途の川は琵琶湖みたいに大きいから、探してもらうとなると大変なんだよ』

俺は遥か遠くに薄っすらと見える三途の川に視線を向けた。

なるほど。圭吾の言う通りだ。川幅が広すぎて、向こう岸が見えない。ただ、人が2人乗れるか乗れないかの小舟が何隻かこちらに向かってやって来るのが遥か遠くに薄っすらと見える。

『着いたよ!』
俺は悠馬の声にハッと我に返った。昨日俺達がいた建物の隣に、3階建ての校舎がある。白に僅かなグレーが混ざった色の壁に、薄い水色のサッシの窓がズラリと並んでいる。窓の中から教室の黒板が見えた。

『では、各自教室に分かれてください!何かあれば、すぐに転生受付所まで来るように!』

大量の火の玉が、チョコチョコと門から校舎に入っていく。

中村は火の玉たちが全員校舎内に入ったのを見届けると、一裕と彗星に近付いた。

『楓くんも、他の子どもたちと一緒に今から授業を受けます。どうされますか』

中村が言うには、楓は桜大、晴馬と同じクラスだそうだ。中村は予め学校の先生と連絡を取って、俺達が学校の授業に参加する許可を貰っておいてくれたのだ。一裕と彗星は顔を見合わせて頷くと、楓と一緒に授業を受けさせてくれと中村に頼んだ。

『畏まりました。こちらです』

中村が俺達を、楓のいるクラスに案内し始めた。

『すみません。生者の方の人数が多すぎると、子供たちが集中出来ないといけませんので、いくつかのグループに分かれて頂いてもよろしいでしょうか』

使われていない下駄箱を通り過ぎて渡り廊下に差し掛かったとき、中村がクルリと振り向いて俺達にそう頼んできた。

「えっと、じゃあ…」

楓のクラスには一裕と彗星、そして俺。
悠馬のクラスに蓮とサファイヤ、そしてバット。
圭吾のクラスにエメラルドと峻兄さん。
りこのクラスには佳奈美さんが行くことになった。

俺達は楓のいる教室の扉の前まで着た。教室の中から、火の玉たちの話し声がガヤガヤと聞こえてくる。

俺は楓とは初対面。
夢の中の泣き声しか知らない少年に、俺は今から会う。

ガラガラ…



一裕が教室の後ろの開けた音が廊下に響いた。



一裕が教室の扉を開けると、教室の中の火の玉たちが喋るのを止めた。教室と廊下がシンと静まり返る。チャイムが鳴って間もないからだろうか。先生らしき人物は見当たらない。火の玉たちは俺達の姿を見てどよめいている。

『あれ?ウルフたちじゃん』

晴馬が最後列の左端の席から俺達の方に飛んできて、俺の右肩にちょこんと乗った。桜大は最後列の右端の席にいた。

一裕と彗星は教室の中をグルリと見渡した。自分達の息子、楓を探すためだ。しかし、探すまでもなかった。



最後列の真ん中の席。

他の子供達は皆、火の玉の姿なのに、ただ一人の少年だけが人間姿のままでいる。

その少年の瞳に、一裕と彗星の2人の姿が映っている。

星の無い宇宙みたいに真っ黒な瞳。

人間にしては妙に色白で痩せ細った少年は、一裕を見ている。

「お父…さん…?」

少年は一裕を見て、父親だと言った。



お前が…楓か。



「お父さん!」

少年は満面の笑みを浮かべて席を立つと、一裕に向かって走っていき抱きついた。一裕がよろけたのを、彗星が支えた。

「お父さん、なんでいるの?」

楓は無邪気な笑顔を一裕に向けている。

この少年が、本当に、中村が心配していたあの楓なのだろうか。

一裕も戸惑った様子で、楓の頭を撫でていた。彗星は、二人の様子をただ黙って見守っていた。

「なあ、晴馬」

俺は自分の肩に乗っている晴馬の火の玉に口を近付けて、楓に聞こえない程度の声量で尋ねた。

「なんで楓だけ火の玉じゃないんだ」

晴馬の火の玉が俺の耳に近付いて囁いた。

『生まれ変わろうとしない魂は火の玉にはならないんだよ』

俺は再び楓に視線を向けた。楓は先生がいないのを良いことに、小さな身体で大きな身体の一裕に思い切り抱き着いて甘え続けている。

今の状態の楓からは、中村が心配し火の玉たちが慌てるような豹変ぶりは全く想像すらできない。
それでも、やはり、楓が生まれ変わろうとしないのは事実のようだ。


『はーい、皆さん席に着いて』

前の扉から、夜桜に似ているが声が男の狐人間が入ってきた。この人がこの教室の担任か。

『あ、どうも。担任の旭と申します。中村から話は伺っておりますので、どうぞこちらに』

彼は俺達に気が付くと、予め用意されていた3つのパイプ椅子を子供たちの席の後ろに並べて、俺達を座らせた。

「先生、俺、お父さんと授業が受けたいです」

楓はさっきから一裕の隣にいる彗星には全く関心を示さない。そもそも気付いていないというように。楓は一裕の椅子を自分の席の隣に運んでいって、一裕に座れと促した。

「楓」

楓の隣に置かれた椅子に腰を下ろしがてら、一裕が楓に声を掛けた。

「お父さんの友達と…お母さんを連れてきたよ」

お母さんという言葉に楓の眉がピクッと動いた。

「お母さん…?」

楓はやっと彗星に気付いたようだ。席を立って俺達のところに歩いてきた。彗星は楓に手を伸ばしかけたが、すぐに手を引っ込めて自分の背中に手を隠した。

「あなたが…僕のお母さん?」

真っ黒な瞳が彗星の姿を映す。

「うん…そう。今は諸事情あって男の身体になってるけど、本当はお母さんだよ」

彗星の低くて、落ち着いた声が教室に響く。

「やっと…会えた。やっと…家族が揃った」

楓の両目から涙が溢れる。楓はクラスメイトからまじまじと見られているのにも関わらず、彗星に抱き着いて泣き始めた。一裕は席を立って、彗星と楓を強く抱き締めた。

『ウルフ…どういう状況?』

晴馬が小さな声で俺に尋ねてきたが、正直俺にもよく分からない。

楓よ。

そんなに一裕と彗星に会いたかったなら、直ぐに中村に転生受付をしてもらえば良いものを。

『楓くん、大丈夫かな?授業は辞めとく?』

チャイムがなってから既に10分は経っている。担任の狐が、彗星と一裕に抱き締められたまま泣いている楓の背中を擦った。

「あ…」

楓は彗星の胸に埋めていた顔を上げて、クラスメイトの火の玉たちを見た。楓は流石に恥ずかしくなったのか、涙を腕で拭うと、頬を少し赤らめて俯いた。

『将来のご両親とご友人ですね。どうぞこちらに』

先生は2人の席を楓の横に、俺の席を晴馬の横に置いた。

『はーい、授業を始めますよ!』

担任の狐が教壇に立って両手をパンっと叩くと、火の玉たちは我に返ったように一斉に黒板の方に身体を向けた…と思う。

何せ、こいつらは火の玉だから、後ろを向いているのか前を向いているのか、俺には全く分からないのだ。

しかし担任の狐には分かるようだ。狐は全員が自分の方を見ているのを確認するように教室を見渡すと、何処からともなく教科書を取り出した。厚さは1センチと言ったところか。

『はい、では皆さん。いよいよ教科書が半分を過ぎてきましたよ。今日はここからですね』

火の玉たちが、狐の指示に従って、教科書の丁度真ん中あたりのページを開いた。晴馬も小さな身体を器用に動かして、教科書のページを捲っていく。

今日、子供たちが習う分野を、先生が黒板の隅っこに整った文字で書いた。カッカッと、チョークと黒板がぶつかり合う音が教室に響く。

『命の繋ぎ方』

…子供の作り方?

こんな子供に?

俺の心が汚れているだけだろうか。

俺は3つ隣の席で楓の隣に座っている一裕の様子を見ようと視線を向けた。一裕と目が合った。やはり、一裕も俺と同じ事を考えているようだ。一裕の頬が少しピンク色になっている。

俺の顔も赤くなっていたらどうしよう。

俺は暑くもないのに、顔を手で仰いだ。
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