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第16話「蛇口とタオル」
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蛇口から噴き出る冷水が髪を襲い、首の付け根にまで伝った水流が少し前の試合で暑くなった体温を奪っていく。
(……気持ちいいな)
あの試合は自分が想像していた以上に動き回ってしまったため、一回戦でBチームと対戦した時とは打って変わって疲れてしまった。
試合を応援しに来てくれていた花園も、自分のクラスメートが汗を流して一生懸命走り回っている姿を見る事ができて満足だっただろう。
「……だけど、何で俺はあんなに活躍したいと思ったんだろう」
冬馬は冷水を流しっぱなしにしていた蛇口を閉めて、額に張り付いた濡れている髪を一気に後ろにかき上げた。
「そんなの私が見てるからに決まってんじゃん!」
誰も周りにいないと思っていた冬馬は驚いて、慌てて声がした方に振り向こうとしたが、急に視線に飛び込んできた白くてふわふわしたものによって妨げられてしまった。
「うわっ! え、え?」
「タオルだよ……なんでそんなに狼狽えてるの……ふふっ」
顔面に覆いかぶさったタオルをどけて一番最初に目に映ったのは、口元を抑えて笑いを溢している花園の姿だった。
「あ、いや、べ……別に活躍したいと最初から思ってないし! ただチームのみんなの為に頑張ろうと思っただけで……」
「あーはいはい、私が見てるからってことね」
精一杯言い訳をしようとしたが、誰が見ても苦し紛れなのは明らかだ。それもそのはず、試合中……試合が終わってからも花園のことを少しでも気にしていたのは否めない。
冬馬は結局、頭の中のどこを探しても返す言葉が見つからず、ぐうの音も出ずに花園に丸め込まれてしまった。
「それと、さっきの試合見たけど、水城があんなにスポーツができたなんてびっくりしたよ」
「あの試合は偶々だよ。てかこのタオルどうすれば……」
「全然使って良いよ」
「拭くもの持ってきてなかったから助かった、ありがとう」
うっかりしていて忘れていたが、花園がタオルを持ってくれていてとても助かった。
それより試合が終わって一段落ついている今の状態でも、何故一か八かの大事な場面でヒールリフトやバイシクルシュートをしたのか理解ができない。
いつもの日常の中での冬馬だとすれば、プロのスポーツ選手がテレビに出て活躍しているのを見ると「凄いなぁこの人」で終わってしまう事がほとんどだ。
だが今日あの試合だけ「やらなければ勝てない」と思ってしまった。こんなにも自分の決断力を高めてくれている根拠は一体自分の身体のどこからやってきたのだろうか。
純の負けられない気持ちに同情している……ではないと思うが、本当に自分自身が良く分からない。
「……どうしたの水城? ぼーっとして」
「あ……いや、ちょっと次の試合はどうやって攻めに行こうかなって考えてた」
「おお、凄いやる気だね……じゃあ次の試合で水城が点数を取って勝ったら一つだけお願いを聞いてあげる。ただお金かかるのは無しね」
「んー別にお願いなんてないんだけどなー。まーいいや、一応貰っておくね」
クラスの人気者なんかでもなく、交流の人脈が広いわけでもない底辺の冬馬が、高嶺の花の存在である花園に一つだけお願いを聞いてもらえるという事自体がプレミアものだ。
別にお願いする事なんて一つも心当たりもないが、後々見つかるかもしれないので貰っておいて損は無いだろう。
「あと十五分くらいしたら私の試合が始まるから体育館に来てよ。水城次の試合まであとどのくらいあるの?」
「あとお昼を挟んで一時間くらい余裕あるから応援しに行くよ。次の相手どこ?」
「次はね、なんと三年生のAチームらしいよ。周りのみんなはここが正念場って言ってるくらい」
確かに花園たちはまだ二回戦で、恐らくサッカーと同じように多数のBチームが敗退してしまっている事だろう。だから強いところと当たる確率は自然と増えてくるし、逆にそのチームに勝って士気が底上げささった状態のまま決勝までトントン拍子という話もよく聞くことだ。
自分の応援がどこまで届くかは分からないが、少しでも花園のモチベーションアップにつながるのであれば満身で応援に励もう。
「水城もう体育館行くでしょ? 行くなら一緒に行こう」
「あーいいよ、じゃあ行こうか」
冬馬は半ば花園に手を引かれる形で水飲み場をあとにした。ずぶ濡れになっていた髪の毛は、花園から貰ったタオルのおかげで大分乾いてきていた。
(……気持ちいいな)
あの試合は自分が想像していた以上に動き回ってしまったため、一回戦でBチームと対戦した時とは打って変わって疲れてしまった。
試合を応援しに来てくれていた花園も、自分のクラスメートが汗を流して一生懸命走り回っている姿を見る事ができて満足だっただろう。
「……だけど、何で俺はあんなに活躍したいと思ったんだろう」
冬馬は冷水を流しっぱなしにしていた蛇口を閉めて、額に張り付いた濡れている髪を一気に後ろにかき上げた。
「そんなの私が見てるからに決まってんじゃん!」
誰も周りにいないと思っていた冬馬は驚いて、慌てて声がした方に振り向こうとしたが、急に視線に飛び込んできた白くてふわふわしたものによって妨げられてしまった。
「うわっ! え、え?」
「タオルだよ……なんでそんなに狼狽えてるの……ふふっ」
顔面に覆いかぶさったタオルをどけて一番最初に目に映ったのは、口元を抑えて笑いを溢している花園の姿だった。
「あ、いや、べ……別に活躍したいと最初から思ってないし! ただチームのみんなの為に頑張ろうと思っただけで……」
「あーはいはい、私が見てるからってことね」
精一杯言い訳をしようとしたが、誰が見ても苦し紛れなのは明らかだ。それもそのはず、試合中……試合が終わってからも花園のことを少しでも気にしていたのは否めない。
冬馬は結局、頭の中のどこを探しても返す言葉が見つからず、ぐうの音も出ずに花園に丸め込まれてしまった。
「それと、さっきの試合見たけど、水城があんなにスポーツができたなんてびっくりしたよ」
「あの試合は偶々だよ。てかこのタオルどうすれば……」
「全然使って良いよ」
「拭くもの持ってきてなかったから助かった、ありがとう」
うっかりしていて忘れていたが、花園がタオルを持ってくれていてとても助かった。
それより試合が終わって一段落ついている今の状態でも、何故一か八かの大事な場面でヒールリフトやバイシクルシュートをしたのか理解ができない。
いつもの日常の中での冬馬だとすれば、プロのスポーツ選手がテレビに出て活躍しているのを見ると「凄いなぁこの人」で終わってしまう事がほとんどだ。
だが今日あの試合だけ「やらなければ勝てない」と思ってしまった。こんなにも自分の決断力を高めてくれている根拠は一体自分の身体のどこからやってきたのだろうか。
純の負けられない気持ちに同情している……ではないと思うが、本当に自分自身が良く分からない。
「……どうしたの水城? ぼーっとして」
「あ……いや、ちょっと次の試合はどうやって攻めに行こうかなって考えてた」
「おお、凄いやる気だね……じゃあ次の試合で水城が点数を取って勝ったら一つだけお願いを聞いてあげる。ただお金かかるのは無しね」
「んー別にお願いなんてないんだけどなー。まーいいや、一応貰っておくね」
クラスの人気者なんかでもなく、交流の人脈が広いわけでもない底辺の冬馬が、高嶺の花の存在である花園に一つだけお願いを聞いてもらえるという事自体がプレミアものだ。
別にお願いする事なんて一つも心当たりもないが、後々見つかるかもしれないので貰っておいて損は無いだろう。
「あと十五分くらいしたら私の試合が始まるから体育館に来てよ。水城次の試合まであとどのくらいあるの?」
「あとお昼を挟んで一時間くらい余裕あるから応援しに行くよ。次の相手どこ?」
「次はね、なんと三年生のAチームらしいよ。周りのみんなはここが正念場って言ってるくらい」
確かに花園たちはまだ二回戦で、恐らくサッカーと同じように多数のBチームが敗退してしまっている事だろう。だから強いところと当たる確率は自然と増えてくるし、逆にそのチームに勝って士気が底上げささった状態のまま決勝までトントン拍子という話もよく聞くことだ。
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