ステータスなしの元人気メンタリスト、異世界の最強ドラゴンをお手だけで服従させる~目を見ただけで思考が読めるので、魔法使いが詠唱してくれません

マーマー

文字の大きさ
87 / 91

第6章第7節 豪華な監獄と、深夜のコール音

しおりを挟む
 教皇との謁見を終え、レンたち一行にあてがわれたのは、離宮の中でも最も格式高いとされる「月の間」だった。磨き上げられた大理石の床、壁一面を飾る宗教画のタペストリー、そして天井から吊るされた巨大なシャンデリア。何もかもが超一級品で、ロムレス王国の王宮すら霞むほどの豪華さだ。

 だが、現在のレンにとって、ここは「世界一豪華な監獄」でしかなかった。

 「……レン様、お食事のご用意が整いましたわ♡ ……今宵は、教皇猊下が特別に手配された、聖教国伝統のフルコースですのよ♡」
 エリナが、満面の笑みでレンをダイニングルームへと促す。彼女は、レンの隣にぴったりと寄り添い、その腕に自分の豊かな胸を押し付けてくる。

 「……ああ、ありがとう、エリナ。……だが、少し、距離が近すぎないか?」
 レンは、引きつった笑顔でやんわりと抗議した。

 「……あら? ……監視の方々がいらっしゃるのですもの。……私たちが『深い愛』で結ばれていることを、しっかりとアピールしておかないと♡」
 エリナが、小悪魔的なウィンクを投げかける。

 (……いや、アピールしなくていいから! ……余計な誤解を招くだけだから!)

 レンは心の中で叫びながら、ダイニングルームへと足を踏み入れた。

 そこには、すでにセシリアとアリアが席に着いていた。そして、部屋の四隅には、まるで彫像のように微動だにしない、白銀の鎧に身を包んだ聖教騎士たちが四名、直立不動で監視の目を光らせていた。彼らの兜の奥からは、感情の読めない冷徹な視線が、常にレンの一挙手一投足に向けられている。

 (……うわぁ、この空気……。……メシが不味くなる要素しかねぇ……)

 レンは、指定された上座の席に、重たい腰を下ろした。
 目の前には、見たこともないほど豪華な料理が次々と運ばれてくる。だが、レンの胃袋は、それらを受け入れることを拒絶していた。ストレス性胃炎の鈍痛が、空腹感などとうの昔に駆逐している。

 「……いただきます」
 レンは、震える手でカトラリーを手に取った。フォークとナイフが皿に触れてカチャカチャと鳴る音が、静まり返った部屋に不必要に響き渡る。

 騎士たちの視線が、その音に反応して微かに動くのを、レンの観察眼は捉えていた。
 (……やめろ、こっち見るな。……ただ肉を切ってるだけだぞ……)

 レンは、脂汗を浮かべながら、味のしない高級肉を口に運んだ。咀嚼するたびに、監視の視線が喉に突き刺さるような錯覚に陥る。

 「……レン様、お口に合いまして? ……もしよろしければ、私が『あーん』して差し上げますわ♡」
 エリナが、自分の分の肉を切り分け、フォークに刺して差し出してくる。

 ブフォッ!
 アリアが、飲んでいたスープを吹き出しそうになった。
 セシリアが、カシャンと音を立ててナイフを落とした。

 騎士たちの一人が、わずかに身じろぎした。その鎧の擦れる音が、レンの神経を逆撫でする。

 (……エリナ、お前マジで空気読めよ! ……監視の前で何やってんだ! ……これは『公開処刑』か!?)

 レンは、必死のポーカーフェイスでエリナの申し出を丁重に断り、地獄のようなディナータイムを何とかやり過ごした。

 食事を終え、自室に戻ったレンは、ようやく一人になれた……わけではなかった。

 「……国師殿。……我々は、扉の外で警護にあたります。……何かあれば、すぐにお呼びください」
 警護隊長の騎士が、事務的な口調で告げ、部屋の外に出て行った。

 バタン、と重厚な扉が閉まる音がした。だが、レンは知っている。扉一枚隔てた廊下には、常に二名の騎士が張り付いていることを。彼らの気配は、壁を通してレンの肌にピリピリと伝わってくる。

 「……はぁぁぁぁ…………。……プライバシーって言葉、知ってるか……?」

 レンは、豪華な天蓋付きベッドに倒れ込んだ。ふかふかの羽毛布団も、今の彼には棘のむしろのように感じられる。
 教皇の監視下での二重スパイ生活。それは、レンが想像していたよりも遥かに過酷な精神的拷問だった。トイレに行くのさえ、騎士に付き添われなければならないのだ。

 (……こんな生活、一日で限界だ……。……魔王の野郎、とんでもない任務を押し付けやがって……。……絶対に許さん……)

 レンが、魔王への呪詛を心の中で呟いていた、その時だった。

 ブブブブブ……。

 レンの懐ポケットに入れていた「何か」が、微かに振動し始めた。同時に、肌に触れている部分が、じんわりと熱を帯びてくる。

 (……えっ? ……まさか……!?)

 レンは、飛び起きるようにして上体を起こした。心臓が早鐘を打ち、冷や汗が一気に噴き出す。
 彼は、震える手で懐からその物体を取り出した。

 それは、黒曜石のように滑らかで、中心に深紅の宝石が埋め込まれた、手のひらサイズの石だった。魔王から渡された、緊急連絡用の「通信石」だ。
 今、その深紅の宝石が、ドクン、ドクンと脈打つように、妖しく明滅していた。

 (……嘘だろ!? ……今!? ……ここで!? ……監視が扉の向こうにいるってのに!?)

 レンは、パニックに陥った。この石は、魔力を込めれば念話ができるアイテムだ。つまり、魔力ゼロのレンには使えないはずの代物だ。
 だが、魔王は「貴様なら、魔力以外の方法で起動できるだろう」と、不敵な笑みで言い放ったのだ。

 (……どうすんだよ、これ! ……まさか、魔王側から一方的に通信を繋げてくるタイプか!?)

 レンが狼狽えている間にも、石の振動と発熱は強まっていく。まるで、早く応答しろと急かしているようだ。

 ブブブブブブブッ!

 振動音が、静まり返った部屋に響き始めた。微かな音だが、扉の外の騎士たちには、奇妙な物音として聞こえるかもしれない。

 (……やばい、バレる! ……何か、音を消さないと……!)

 レンは、咄嗟に通信石を枕の下に押し込んだ。だが、振動音は枕を通してくぐもった音になり、かえって不審な響きを帯びてしまった。

 コンコン。
 扉がノックされた。

 「……国師殿? ……何か、異音がしたようですが……。……どうかされましたか?」
 警護騎士の声だ。

 レンの心臓が、口から飛び出しそうになった。全身の血液が逆流し、指先が氷のように冷たくなる。喉がカラカラに乾き、声が出ない。

 (……終わった……。……完全に、詰んだ……)

 だが、レンの生存本能が、最後の瞬間に火事場の馬鹿力を発揮した。彼は、深呼吸を一つし、震える声を必死に抑え込んで、こう叫んだ。

 「……あ、ああ! ……すまない! ……少し、寝言を言ってしまったようだ! ……魔王との対話の夢を見ていてな……! ……気にするな!」

 苦し紛れの大嘘だ。だが、今のレンにはこれしか思いつかなかった。

 扉の外で、少しの間、沈黙が流れた。騎士たちが顔を見合わせている気配がする。

 「……さようでございますか。……失礼いたしました。……どうか、安眠を」
 騎士の足音が、遠ざかっていった。

 「……ふぅ…………。……死ぬかと、思った……」

 レンは、枕から顔を上げ、全身の力が抜けてベッドに沈み込んだ。枕の下では、通信石がまだブブブと振動を続けている。

 (……おい、魔王。……お前、絶対に面白がってるだろ……。……このタイミングでかけてくるとか、鬼か悪魔か……いや、魔王だったわ……)

 レンは、涙目で通信石を睨みつけた。これから始まる二重スパイ生活の前途は、漆黒の闇に包まれていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

筑豊国伝奇~転生した和風世界で国造り~

九尾の猫
ファンタジー
亡くなった祖父の後を継いで、半農半猟の生活を送る主人公。 ある日の事故がきっかけで、違う世界に転生する。 そこは中世日本の面影が色濃い和風世界。 しかも精霊の力に満たされた異世界。 さて…主人公の人生はどうなることやら。

クラス全員が転生して俺と彼女だけが残された件

兵藤晴佳
ファンタジー
 冬休みを目前にした田舎の高校に転校してきた美少女・綾見(あやみ)沙羅(さら)は、実は異世界から転生したお姫様だった!  異世界転生アプリでクラス全員をスマホの向こうに送り込もうとするが、ただひとり、抵抗した者がいた。  平凡に、平穏に暮らしたいだけの優等生、八十島(やそしま)栄(さかえ)。  そんな栄に惚れ込んだ沙羅は、クラス全員の魂を賭けた勝負を挑んでくる。  モブを操って転生メンバーを帰還に向けて誘導してみせろというのだ。  失敗すれば、品行方正な魂の抜け殻だけが現実世界に残される。  勝負を受ける栄だったが、沙羅は他クラスの男子の注目と、女子の嫉妬の的になる。    気になる沙羅を男子の誘惑と女子の攻撃から守り抜き、クラスの仲間を連れ戻せるか、栄!

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

前世で薬漬けだったおっさん、エルフに転生して自由を得る

がい
ファンタジー
ある日突然世界的に流行した病気。 その治療薬『メシア』の副作用により薬漬けになってしまった森野宏人(35)は、療養として母方の祖父の家で暮らしいた。 爺ちゃんと山に狩りの手伝いに行く事が楽しみになった宏人だったが、田舎のコミュニティは狭く、宏人の良くない噂が広まってしまった。 爺ちゃんとの狩りに行けなくなった宏人は、勢いでピルケースに入っているメシアを全て口に放り込み、そのまま意識を失ってしまう。 『私の名前は女神メシア。貴方には二つ選択肢がございます。』 人として輪廻の輪に戻るか、別の世界に行くか悩む宏人だったが、女神様にエルフになれると言われ、新たな人生、いや、エルフ生を楽しむ事を決める宏人。 『せっかくエルフになれたんだ!自由に冒険や旅を楽しむぞ!』 諸事情により不定期更新になります。 完結まで頑張る!

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

異世界にアバターで転移?させられましたが私は異世界を満喫します

そう
ファンタジー
ナノハは気がつくとファーナシスタというゲームのアバターで森の中にいた。 そこからナノハの自由気ままな冒険が始まる。

趣味で人助けをしていたギルマス、気付いたら愛の重い最強メンバーに囲まれていた

歩く魚
ファンタジー
働きたくない元社畜、異世界で見つけた最適解は――「助成金で生きる」ことだった。 剣と魔法の世界に転生したシンは、冒険者として下積みを積み、ついに夢を叶える。 それは、国家公認の助成金付き制度――ギルド経営によって、働かずに暮らすこと。 そして、その傍で自らの歪んだ性癖を満たすため、誰に頼まれたわけでもない人助けを続けていたがーー 「ご命令と解釈しました、シン様」 「……あなたの命、私に預けてくれるんでしょ?」 次第にギルドには、主人公に執着するメンバーたちが集まり始め、気がつけばギルドは、愛の重い最強集団になっていた。

処理中です...