魔女の喫茶店

たからだから

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――クラゴの誘拐事件編――

モイラ・アトル

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「さ、準備は出来たわ。ちゃんと荷物持った?」
「バッチリさ」
 ギルは微笑みながら手に持ったトランクをミアに見せる。少し大きいがギルにはなんて事のない普通のトランクだ。茶色で少しお洒落ではあるが。
 中にはミアが準備した薬や魔法罠トラップ等様々な物が詰め込まれている。詰め込んだと言っても、空間を広くする魔法を掛けている故に沢山の荷物が入ってしまう。整理整頓が出来、普通のトランクよりは取りやすいのではないかとミアは考えた。

 そして、2人の手には箒が握ってある。どうやら今回は魔法車マジッカーよりも箒が大活躍するらしい。ミアの推測が正しければ箒で行動するのが、適任だろう。ただ、箒で追い付けるかは別問題だ。
「言っとくけどそれ、給料引きだからね?」
「え、マジ?」
「弟子になりたいって言うんなら、箒の1つや2つくらい持っておきなさいよね」
 悪戯な笑みを浮かべて言ってやればミアは昼間の事を思い出す。





 ――――
 ―――――――


「良い?今回は動物が関わってるわ」
「動物?」
「ええ、恐らくアパタイトバードよ」
「……じゃあ、ミアちゃんはアパタイトバードが子供達を誘拐した、と思ってるのかい?」
 ギルの問い掛けに頷くミアは、現状を考えるとそうとしか思えなかった。ただ、そこに死の使いスノードロップが関わっているのかが重要なのだ。

 アパタイトバードは子供へ餌を与える際、他の動物の子供を餌として狙う。元々人間の子供等を餌として狙ってはいなかったが、どうやら50年前に魔法使いの子供は栄養価があると気付いたらしく、狙ってくるようになった。
 ノーマジには魔力が無い。だからノーマジの子供を餌にする事は無かった、1度も。

 アパタイトバードの仕業であれば今回の誘拐事件はノーマジも巻き込まれている。そこが可笑しいとミアは思っているし、当然その話を聞いたギル含めた誰もが思うだろう。
「アパタイトバードを操っている人物が必ず、居るは筈よ。……それが死の使いスノードロップかは分からないけど。後、目的が見えないのよね。子供を誘拐する目的が」
「ノーマジの子供が多く拐われてるみたいだからね」
「それもあるんだけど……1番は、魔力を辿れる事なの」
「……なるほど。本来、死んでいたら魔力を辿る事が出来ないからね」

 ギルの言葉通り、魔法使いは命を亡くさない限りたとえ途切れようが魔力の気配を感じ取る事が出来る。死んでしまえば、どんなに膨大な魔力を持っていた魔法使いでも綺麗に、魔力の気配は無くなってしまう。
 消滅したのか、魂と共に天に還ったのかは生きている者には分からない。

 アパタイトバードは餌を捕獲したら、新鮮なうちに子へ与える為、魔力を未だに感じ取れている事が矛盾してしまっている。
 恐らく操られていると言うのが当たっているのではないかとミアは考えつつも、念の為他の可能性も考えていた。

「で、操られているとしたらアパタイトバードを捕まえて、呪文を解かなければいけないわ。そうね、弟子になりたいって言ってるんだからお勉強ね」
 小さく笑いながらミアはギルを見つめて問い掛ける。
「アパタイトバードはどうやって捕まえるのかしら?」
「へえ、師匠らしい事ちゃんとしてくれるんだ。優しいよねえ、ミアちゃんって」
「もー、からかわないで」
「照れてるの?あ、そんな怒った顔しないでよ。……アパタイトバードの移動速度はかなり速くて……そうだなあ、ノーマジの世界では新幹線って言う乗り物が速いみたいだけど、それよりもすごーく速い。で、厄介なのがここからなんだよね?」

 ギルは此方を見つめているミアを見ながら話すと、学生の頃勉強した事を思い出す。
 正直あまり動物学に関しては得意、と言うより興味が無かった為覚えているものは少ない。しかし、アパタイトバードは見た目のインパクトから未だに覚えており、この目で見てみたいと思っていたのだ。

「優しい性格だけど怒ると凄いんだよね~。まあ、今回操られてるなら術が解けても怒るだろうし、術を解くために捕まえなきゃいけないんだけど……。速さだけじゃなくて、落ち着かせる方法があるんだよね?」
「正解。じゃあ、その落ち着かせる方法は?」
「眠り薬を飲ませる事。だけど、怒っている状態の時は薬の匂いに敏感になっちゃうんだよね。だから、眠り薬にモログアナワの汁を入れて匂いを掻き消す。そうやって気付かれないように眠り薬を飲ませて、落ち着かせる」
「意外と詳しいのね。正解よ」
 ミアは驚きと共に弟子として志願してくるだけはあると、思わず褒めそうになった。何故褒めないか問われれば簡単だ、ペースを崩されるからと答えるだろう。

 性格がキツいと感じる人は多いだろう。だが、ミアは約3年程旅をしていて様々な出来事を見てきた。人が死ぬ場面を目撃したり、自分の不甲斐なさを感じ、その結果が物言いがキツい人物になってしまった。
 学生の頃はまだ可愛らしいものだったが、大人になってこれではあまり可愛げは無いだろう。それでも、ミアの友人達の理解は嬉し事に得られている。
 ミアの優しさはきちんと溢れているのだから。
「だから今回は魔法車マジッカーで追い付けたとしても飲ませるのに苦労するわ。箒で追い掛けましょう。……ただ、箒でも追い付けるかは分からないわ」
「そこは安心して俺に任せて」
 自信満々、と言う言葉が似合う笑みにミアは首を傾げつつもギルがどこまで出来るか見てみたいと、密かに思っていた。

「じゃあ、箒はあるかしら?」
「……あー、それが……無いんだよねえ」
「そんなに自信満々なのに!?」
「色々あってね、壊れちゃったんだよ」
 苦笑いを浮かべたギルにこれでは結局1人ではないか、と溜息をこぼせば壁に掛けてある黒くて長いローブを浮かせ、羽織ってはギルの方へ振り向いた。
「仕方ないわね。着いて来て」
 何処に行くのか、と表情から読み取れてしまえばミアはクスクス笑った。
 1人より2人の方が良いに決まっている。それならば箒をギルに持ってもらわないといけない。
「付いて来たら分かるわよ」
 そう口にしたミアは両手を胸の前に持ってくると、手のひらを地面に見せながら目を瞑ると同時に、円形に床が光りだした。
 ギルは術が分かると円形の輪の中に入る。
「”ムーヴ移動せよ”」
 ミアとギルは眩い光に包まれたと同時に、その場から姿を消した。





 ――――
 ――――――


 着いた先に広がった光景にミアは普段から訪れている為特に変わらず、だったがギルはとても懐かしい気持ちを思い出した。
 春になるとよくこの場所に来ていた、新学期の道具を求めに。
 魔法使い達で賑わうこの場所はモイラ・アトルと言う魔法界だ。ノーマジがこの場所に足を踏み入れる事は必ず無いと言えるのには理由があった。
 まず、モイラ・アルトに来る為には移動魔法で来る必要があり、箒や魔法車等で来る事は不可能なのだ。
 そもそも魔法界と人間界は同じ空間では無く、別空間と考えた方が良く、街に電車で行くと言うのとはまた、違う。

「懐かしいなあ、最近は全く来てなかったよ」
 ギルの懐かしむ声に小さく笑うミアは目的の場所へと足を進め始めては、その横をギルが歩く。
 特別な宝石が混じった石畳の道は、人間界で言うと黒い大理石のようなものだろうか。魔法界特有の雰囲気で、不思議な動物を連れた魔法使いも居る。
 建物も見た目は似ていたりするものの、人間界とは素材が少し違う。頑丈で魔法が掛かっておりその場の匂いも違う。
 ミアはすれ違う時の鼻の奥が痛くなり、胃の底から何か込み上げてくるような匂いに思わず顔を顰めてしまう。匂いの強い香水はとにかく苦手なのだ。

「さ、目的の店はここよ」
「ここって、箒屋?」
「ええ、そうよ。箒が無いんじゃ何も出来ないでしょ?だから、好きなの選んで良いわよ」
 ニッコリ、と効果音が似合うミアの笑顔にギルは嬉しかった。
 ギルは昔から箒に乗って飛ぶ事が大好きだったのだ。どのメーカーの箒だとか、この箒の素材は何かとか、乗り心地やどんなのに向いているか等かなりの知識があるくらい大好きなのだ。
 ほうき草の独特な匂いが広がる店内に入るギルの胸は、踊るように高鳴っていた。
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