魔女の喫茶店

たからだから

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――クラゴの誘拐事件編――

匂いを辿らせて

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 ミアは昼間の出来事に恐らく、あの魔術師が邪魔をしに来るのではないかと予想していた。正直、アパタイトバードを追い掛けるだけでも大変であり、相手等している時間すら無い。
 小さく息を吐き、ギルと共に店を出れば外は既に夜になっている。
 モーガンとの約束の時刻は23時であり、現在は22時だ。現場で少し準備する必要がある為、今から出発しようと箒に跨る。

 ミアの箒は店の名前と同じスカーレットの色がメインとなっていて、穂は黒のほうき草と赤いユニコーンの尻尾を混ぜている様だ。
 安定感と丈夫さを重視しているのか柄の部分は太く、とても硬い。ミアがエドガーに箒を作ってもらってから数年経つが、メンテナンスをしてもらっているおかげもあり未だに折れた事が無い。
 いつも無茶をさせてしまっているがそれでも、無事なのだからやはりエドガーの箒は凄いのだと改めて実感する。
「ギル、その荷物絶対に落とさないでね」
「安心して、死んでも落とさないから」
「あら、頼もしいのね~」
 笑うギルは箒の柄にトランクを引っ掛け、ぶら下げていた。ついでと言わんばかりに鎖の呪文チェーンをするが、それは目には見えない鎖だった。

 共に空を飛べば、ミアの長い髪の毛は風に大きく揺らされた。
 ミアの髪は絡まりやすい為あまり、風に揺られるのは好きではないが独自にシャンプーを調合してからは絡まりにくくなり、自分の髪が揺れる姿を見るのがとても、好きになった。
 昼間の魔術師の風に揺らされた時は正直、髪が痛むのではないかと心配していたくらいだ。
 魔法車マジッカーとは違う景色の見え方に、ミアは箒で飛ぶのはとても気持ちが良いと感じていた。
 学生の頃は箒の授業でいつも2位だった。とても速い生徒が居て、その生徒にミアはいつも叶わなかった。
 その人物をミアは思い出そうとしても

 ――あれ……?誰だっけなあ……。

 目的の建物が見えてくると2人は玄関の前に下りて、チャイムのボタンを押すと扉が開き、モーガンに浅く頭を下げ挨拶をした。
「あ、ミアさん。中にどうぞ」
「お邪魔します」
 ミアは案内されるままにとある部屋に来た。
 薄いピンクのベッドが2つ並べてあり、部屋の隅にはクマのぬいぐるみや着せ替え人形が置かれている。天井は真っ白で、壁はベッドと同じ様なピンク色であり、床は濃いピンク色。とても女の子らしい部屋だ。
 そして子供部屋にしては大きな窓にミアは目を向けた。
「ここが、娘の部屋です。それと、ミアさんに言われた通り娘の髪の毛です」
「すみません、ありがとうございます」
 ミアは細く長い髪の毛が数10本入った小さい透明な袋を貰うと、ギルに顔を向けた。
「トランク貸してくれる?」
「はい、どーぞ。因みにその髪何に使うの?」

 ギルはトランクをミアの前に置くと、杖でトランクを開き濃いピンクの液体が入った瓶を出す。その光景を一体何をするのかと不思議そうに見つめた。
「どうやら毎晩子供が行方不明になってるみたいなの。もし、本当にアパタイトバードが連れ去ってるなら、子供の匂いを嗅いで来る筈。だから、子供の匂いをこの髪の毛を使って作るのよ」
 ミアは液体の入った瓶に髪の毛を入れ、呪文を掛ければ蓋をして軽く2、3回振って混ぜた。
 液体はモーガンの娘の匂いを髪の毛から作りだす為、ミアはそれを使って誘き寄せる作戦を立てたのだ。
「なるほど、それで来なかったら犯人は別って事だね?」
「大正解。そういう事よ。……モーガンさん、そこのぬいぐるみお借りしても大丈夫かしら?」
「ええ、大丈夫ですが…♡。娘は無事なんでしょうか……」
「魔力はまだ辿れてるんですよね?それなら大丈夫です、まだ、娘さんは生きてますよ。必ず……必ず、連れ戻しますから安心してください」
 力強くモーガンを見つめるミアの姿にモーガンは、小さく頷きありがとうと優しく答えると、深く頭を下げた。その姿にミアは慌てて頭を上げさせると連れ去る目的が分からない以上正直、どうなっているか分からない。

「そんなに頭を下げないでください!後は、私達がしますし、危ないのでモーガンさんは部屋に戻っていてください」
 ミアの言葉にモーガンは頷き、素直に部屋に戻って行く。背中を見送るとミアはギルを見れば、そろそろ始めようかと部屋の隅に座るクマを手に取った。
「さ、そろそろ鳥さんを誘き出すわよ。睡眠薬沢山作っておいたからこれを口に投げ込むなり、押し込むなりしてね」
「了解しました、師匠」
「私師匠じゃなくて、一応店長よ」
「え~、まだそこ認めてくれないの?」
「当たり前でしょ?私弟子なんて募集した覚えないんだから」
「頑固だなあ~」
 緩く笑うギルに小さく溜息を吐き出すとミアはギルに、錠剤の様な睡眠薬が大量に入った袋を渡した。今回、作る量を考えると液体はいくらモログアワナの汁を入れて匂いを消そうとしても、消しきれなくなってしまう。

 ――鳥さんとの追っかけっこに邪魔者が入んなきゃいいけど……。

 ミアは星が輝く空を窓から見つめたが、すぐにギルへと顔を向けた。
「良い?このぬいぐるみを囮にするわ。まずはアパタイトバードが何処へ連れ去ってるか知る必要があるわ」
睡眠薬これはその場に着いてから、って事?」
「いいえ、追い掛けてる間に睡眠薬を使っても問題無いわ。アパタイトバードは私達の言葉をちゃんと、理解してるから」
 アパタイトバードはとても賢く、人の言葉を理解出来る上に意思疎通が図れる為、人とは上手く共存して生きていける動物でもあるのだ。
 例えば、この子供を連れて行かないでくれと言えば本当に、連れて行かない。聞き分けの良く、温厚で優しい性格のアパタイトバードだ。今回の事はきっと、アパタイトバード個人の事件では無いだろう。
 そして、アパタイトバードは目が見えない。常に匂いを頼りに行動しているのだ。

 ミアは茶色のクマのぬいぐるみに子供の匂いがする液体を全部、かけてしまう。強い匂いだけでも十分だが、確実にこの場所に来てもらうにはもうひと工夫して、手を加える必要があった。
 ミアはクマの口元に自分の唇を静かに重ねると、ぬいぐるみに魔力を流し込んだ。アパタイトバードは元々魔法使いの子供だけを攫っていたのだ。子供の匂いに魔力を感じ取れれば、確実に来てくれる。
「ギル、合図したら箒で飛び出すわよ」
「了解、師匠」
「……役に立ってくれる事を祈ってるわ」
 ミアはぬいぐるみを抱え部屋の真ん中に立つとアパタイトバードが来るのを待った。
 時間は掛からずすぐに、綺麗な鳴き声が空から聞こえてきてはギルと目を合わせる。

 窓は開けておいたのは正解だった、とミアは小さく笑うと目の前の青く輝く綺麗な鳥を見つめた。
 通常より大きな窓だが、アパタイトバードのかなり大きい体に大きな窓が小さく見え、その大きさで入ってくる姿に、とても柔らかいのだろうとミアは呑気に考えた。
「……初めて見た」
 ギルが小さく呟くと、思わずその姿に見惚れてしまった。本等で見たり授業で教わった通り、否、それ以上にとても美しかった。
 毛並みは普段から手入れをしているのかとでも言うほど良く、全体が空色スカイブルーで染まっており眩いくらいに輝いている。まるで、宝石そのものの様な姿にアパタイトバードと名付けた理由が分かった。

 授業で教わった時から1度は見てみたいと思っていたギルは、こんな状況にも関わらず少し感動していた。
「さあ、アパタイトバード!私達を案内しなさい!」
 しかし、ミアの声に我に返ったギルはアパタイトバードの口に投げられるぬいぐるみを目で追いかけた。
 アパタイトバードの大きなくちばしくわえると体の向きを変え始める。ミアはその姿を見て箒を手元に吸い寄せるかの如く、手に取るとギルに合図を送る。
「ギル!行くわよ!」
「は~い!」
 素早く箒に跨ると勢い良く外に飛び出すアパタイトバードに続き、2人も物凄いスピードで夜の空へ飛び出した。
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