魔女の喫茶店

たからだから

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――interlude――

はじめてのお留守番

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「じゃあ、ギル留守番よろしくね」
「は~い、安心して俺に任せて~」
「……何だか心配だわ」
「いや俺もう24なんだけど……」
 ギルは心配そうに見つめてくるミアの顔を苦笑いで見詰め返すと、薄い水色のスキニーを履きこなし黒のヒールを履いているミアをじっくり見ていた。
 初めて来た時からギルは思っていた、スカートを履かないのだろうかと。

 ――いや、これじゃ俺、変態……。

「じゃあ、行ってくるわ。何かあったら連絡してね」
「は~い、行ってらっしゃい。気を付けてね」
 手を緩く振りながら見送ると、ギルは小さく息を吐き出しながら店の中を見渡した。暖色系の照明で少し暗い店内は、落ち着く雰囲気だとギルは思う。
 誰も居らず暇なギルは店内の掃除でもしようと杖を軽く振る。
 静かな店内に聞こえてくるのは鳥の鳴き声と、風に窓が揺れる音、木々がざわめく自然の音に溢れていた。ギルはそんな音を聞いていると静かだとは思わなかった。

 ミアの家に上手く転がり込み、事件も無事解決した。犯人には逃げられてしまったがギルは順調だと安心すると共に、少し不安だった。
 自分の行動は本当に正しいのか、守れるのか。それでも自分を信じて出来る事をしなければと窓の外を見つめていた。
 鈴の音にギルは扉へと目を向ければ週に3日程来る常連客だった。
「あれ?ミアちゃんはお出掛け?」
「はい、買い物に行ってますよ。コーヒー飲んで行かれますか?」
「ああ、お願いしようかな。弟子くん」
 カウンター席に座ってもらうと、ギルは早速コーヒーを杖で淹れ始めた。

「ギルくんはコーヒー淹れるの上手だね。似合うし、本当に色男だねえ」
「いえいえ、そんな」
 ホッホッ、と独特な笑い方をする50代の男は思い出した様に問い掛けてくる。
「そう言えばギルくん、ミアちゃんと同棲してるんだよね?……襲わないでね」
 優しい笑みかと思えば、急に鋭い眼差しになるのだからギルは少しばかり驚いてしまう。すぐに苦笑いの表情かおになるとギルはコーヒーポットからお湯をドリッパーに注ぐ。
「……そこは大丈夫ですよ。まあ、襲いたくても無理ですからね~。寝室には入れないよう強力な空間魔法、それにミアちゃんは俺より強いんで例え杖を奪って、押さえ付けたとしても、杖を使わずに魔法が使えますからね」

 ギルはそう話すとコーヒーカップにコーヒを注ぐ。
 ミアは膨大な魔力と共にそれをコントロール出来る為、強力な魔法を使える上に杖を使わなくても魔法を発動させれるのだ。
 ギルは徹底的な防御と強さに安心するが、少し残念な気持ちがあるのは事実だ。
 だが、ギルも理性はきちんとある。人の道を踏み外す気は無い。
「さ、どうぞ」
「ああ、頂くよ」
 コーヒーカップに口を付けると常連の男は笑顔を浮かべて、美味しいと一言口にした。その言葉にギルは緩い笑みを浮かべて、ドリッパーを杖で洗う。

「確かにミアちゃんはとても優秀で、強い魔法使いだけど何で弟子に?」
「……んー、強くなりたいって思ったのと、後は……捨てきれなかったからですかね」
「捨てきれなかった?」
「良い心と学生時代の気持ち、って言うんですかね」
 ギルの言葉に常連の男はギルを真剣に見ると小さく、笑う。
「……若いねえ。人って全ての良い心を捨てれる訳じゃないんだよ。良い心と悪い心の2つを持ってるから、面白いんだよ。僕はね、ギルくんが後悔しない選択が出来るように祈ってるよ。まだまだ、若いんだからきっと、大丈夫」
 ギルは優しく微笑みながら語り掛けてくれる常連の男に小さく、嬉しそうに笑う。その顔はいつもより幼く、子供の様に見えた。

 ギルはスカーレットにやって来る客はとても優しいと感じていた。優しく見守ってくれる様な感覚に、ギルはあまり慣れていないのか少しむず痒くなってしまうが、嫌いではなかった。
 ミアが優しいからだろうか、とミアの後ろ姿を脳裏に浮かべた。
 久しぶりに出会ったミアの性格は少し変わっていた。悪いものでは無いがミアなりに何かを見てきて、感じて、変わったのだろう。
 を知りたいミアの姿はとても必死で、心配でもあった。だが、ギルには何も出来る事は無かった。交わってはいけないのだから。
 それでも、交わってしまったのはギルの決意からだ。必ず、守ると決めたからには守り抜かなくてはならない。

 ぼんやり考えていれば扉が開き、鈴の音が鳴る。客が来たのかとギルはドアを見たが、姿を表したのは髪を靡かせたミアだった。
 魔法を使って小さな鞄に荷物を詰め込んだのか、中に入って来てはすぐに鞄の中から買った物を出そうとしていた。
「ふう、取り敢えず必要な物は買ってき……た、って、トムさん!来てたのね!」
「やあ、お邪魔してるよ。大きな荷物だねえ、何買ったの?」
「薬草とかもそうだけど、そろそろ新しいティーカップとか欲しくて買っちゃったのよね。ギルはちゃんと留守番出来てた?」
「勿論、僕が見てたからね」
 慣れたようにウィンクするトムと呼ばれた常連の男は、茶目っ気があり思わずミアは笑う。
「なら良かったわ、ありがとうギル」
「俺だって留守番くらいちゃんと出来るよ……。……おかえり、ミアちゃん」
 2人のやり取りを困った様に見つめていたが、ギルは微笑みながらミアを見つめた。
 春が終わり、梅雨がやって来る。外は良く晴れているが少し、雨の匂いがした。
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