魔女の喫茶店

たからだから

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―レッド・ブラットの兄妹編―

ミアの悪夢

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「お兄ちゃん!やめて!本当にこの人達は、助けに来てくれたんだよ?」
「……マリア……。……分かった、中に入れ。何か不審な動きをしたら、俺は、お前らをすぐに殺すからな!」
 マリアと呼ばれた少年は、兄に抱き着くと落ち着くように宥める。
 ダークブロンドの髪をツインテールに結った可愛らしい少女と、マリアと同じ色の髪を持つ少年はとても似ていた。まだ、幼さの残る少年が必死に妹を守ろうとしている姿に、ミアは安心した。
「ええ、分かったわ。ありがとう」
「俺はギル・ベックフォード。俺も魔法使いだよ~、よろしくね」
「あたしは、エミリア・ベネット!魔法政府の情報部って言うところから来たの!……今は、信用出来ないかもしれないけど、保護しに来たからね!」
 3人は自己紹介をすると、未だに警戒心剥き出しの少年に付いて行く。ミアはその様子を見て、人間不信なのだろうと考えていた。



 まさか、その様子をに見られていたとは気付かずに。



「私はマリア・マクブライドだよ! こっちが、お兄ちゃんのビル! とっても強くて、カッコイイんだよ!」
 満面の笑みで自慢するマリアの姿にミアは微笑ましくなると、言われた本人ビルは少し照れているようで、小声で「……言うなよ」と呟いていたのをミアは聞こえていた。
 中に入ると、木製の可愛い家が見える。白いウッドデッキがあり、芝生の地面。小さな畑は自家栽培しているのか様々な野菜が見えた。
 ミアはゆっくり見渡すと鶏を飼育していたりと、どうやら買い物等にはあまり出ていないようだ。寧ろ、全く出ていない雰囲気があった。
 しかし、マリアの可愛らしい白のワンピースを見ると服はきちんとしている様で安心する。

「ねえ、もしかしてマリアちゃんって動物とお話が出来るの?」
 エミリアは家の中に入れてもらえると、笑顔で問い掛ける。先程の心の声は明らかに、動物の言っているこ事や思っている事が分かっていた様子だった。
 自分と同じ心眼術の持ち主なのではないかとエミリアは思う。
「うん!そうだよ! 動物さんが何言ってるか、何を思ってるのか分かるの」
「そっかあ、ならあたしと同じだ!」
「え!? お姉ちゃんも動物さんとお話が出来るの!?」
 飛び跳ねる様にエミリアに近付くマリアにエミリアは優しく笑いながら、目線を合わせる様にしゃがみ込む。
「ん~、お姉ちゃんの場合は動物さんが何を思ってるのか、感じてるのかが分かるんだ。だから、お話出来るんだよ」
「わー!すごーい!」

 瞳を輝かせたマリアは人との関わりが殆ど、無く自分と同じ人が居るのかと嬉しかった。
「おい、マリアそいつに近付くな。……お前、人の心も分かるんだろ」
 マリアの腕を引くとビルはエミリアを睨み付ける。
 何故分かったのかと、3人は驚きビルの顔を見た。
「……貴方、分かるの?」
「さっき、マリアの心を読んでいた。だから、分かったんだろ……動物と話せるのが」
「へえ、頭良いんだね~。これで学校に行ってたら、優秀な魔法使いだったのにね」
 ギルは関心しながらビルを見ていた。とても、賢い子供だと。
「俺はッ!学校なんて行かねえ!……人と関わるとろくな事にならない……」
「学校が1番安全、って言っても?」
 エミリアは立ち上がりながら拳を強く握るギルに問い掛けた。下を向くビルがどんな表情をしているか分からなかったが、何かを思い出しているのだろう。
「……お前らには分からねえよッ!どうせ、お前達も俺らを利用する!何も、何も失った事無い奴に、俺の気持ちが分からねえだろッ!!親だって、誰も、誰も居ねえんだ!」

 顔を上げて叫ぶように、辛そうに言葉にするビルにギルとエミリアはビルがどんな思いで生きてきたのか、と想像してしまう。そして、何も言えなかった。ただ、1人を除いて。
「……分かるわよ」
「嘘言うな!そんな言葉、俺はしんじ……」
「私も、両親と一族全て殺されたわよ」
 ミアの淡々とした言葉にビルは思わず目を見開き驚いたまま、ミアを少し見上げる形で見つめた。
 ミアの表情は読み取れなかった。何を思い、何を考えているのか。
「……ねえ、少し私とお話、しましょう?ギル、エミリア、マリアちゃんの事お願いね」
「ああ、分かったよ」
「う、うん……」
 ミアはそう言うと家から出る。きっと、付いて来てくれると分かっていて振り向きもしなかった。
 ギルの複雑な表情もエミリアの心配そうな表情も見る事は出来なかった。

 ミアは庭のように作られた芝生の地面に座ると、無言で隣に座るビルを横目で見ては小さく笑う。
「驚いた?」
 問い掛けるミアに小さく、小さく頷いたビルは気まずそうに横目で見る。
「……さっきの、本当か?」
「ええ、本当よ。……私の親が殺されたのは学生時代よ、13歳の時」
 ミアは思い出す様に空を見上げて話し出した。自分の、境遇を。

「私ね、魔法学校に通ってたの。とっても、楽しかったわ。……冬休みに実家に帰ると、笑顔のお父さんとお母さんが居たわ。凄い豪華なご馳走を用意して、食べて、話して、その日は寝たの」
 ゆっくりと話すミアの横でビルはただ、黙って聞いていた。
「とても良い夢が見れるわ、って寝たのは良いんだけど……逆だった。リビングの方が騒がしいと思ったら、闇の魔法使いに襲われてた」
 ミアは今でも鮮明に覚えている。何を食べて、何を話したのか。頭を何度撫でられたかも、何もかもが全て鮮明だった。悪夢の瞬間も。



 ―――
 ―――――


 ミアは何が起きているか分からなかった。ただ、唯一分かったのは両親の顔がとても焦っていると言う事だけだった。
 リビングの中は魔法が飛び交い、必死に抵抗する両親と不気味に笑う魔法使い。何が起きているか分かっていなくても、ミアはとても怖かった。足が震え、動けず、ただ見ているだけだった。
「っ!……何が目的なの!?」
 叫ぶ母の耳元で何か言っているがミアに聞こえる事は無かった。

 ミアの両親はとても強く、優秀な魔法使いだったがそれでも分が悪かった。2人に対して5人の魔法使い。守るのが精一杯だったものは等々、攻撃魔法が当たり吹き飛ばされる。
「じゃあ、じっくり話を聞かせてもらおうか……なぁ?」
 髪の毛を掴まれる母にミアは堪らず飛び出そうとしたがそれは叶わなかった。父がミアに気付き、部屋に入れないように魔法を掛けていた上に、防御魔法によりミアの存在を分からない様にしていた。
 両親は魔法で拷問されていたが何も喋らず、ひたすら耐えているのをミアは見ていられず両耳を塞いでしゃがみ込んでいた。何も出来ない自分を責めながら。
「……おい、あの方が待ってる。喋らないならさっさと殺れ」
 ミアは反射的に顔を上げるとすぐに察した、殺されてしまうと。しかし、ミアの手元には杖が無い。杖無しでは魔法を使えないのだから今のミアは無力だった。
「……お願い……やめて……」
 ミアの小さな声は誰にも届かなかった。

「やめてくれ!妻だけは!妻だけは助けてくれ!頼む!」
「アナタ!お願い、主人だけは!私は良いから、この人は助けて!お願い!」
「うるせえなあ、どうせ天国あっちで会えんだからよ。じゃあな、”デシィース死ね”」
 ミアは母親に向けられた、紫と黒が混じった禍々しい光に目を見開く。死の呪文だ。痙攣を起こし、心臓を抑えながら息苦しい表情をする母の顔はとても見ていられなかった。
「やめてくれ!お願いだ!!やめてくれ!!」
「あらぁ~、そんなにやめてほしいのねえ」
 色気のある女の声はとても楽しそうだった。
「そうね、なら貴方は天国《あっち》に行けないようにしてあげるわ。”デシィ・ピューア魂よ消えろ”」

「……え?」
 闇の魔法等まだ知らないミアは、何が起きているのか分からなかった。体が砂になり、崩れ落ちていく父親の姿にミアは悪い夢でも見ているのだかと、腕を強く握る。
 どんなに赤くなろうが痛いと思っても、目は覚めない。痛みはあるのが分かっていても、この現実を夢にしたかった。
 ミアの大きな瞳からはずっと、大粒の涙が零れ落ちていた。泣き叫ぶ気力すら無くなるくらいの出来事に、ミアはそのまま意識を手放した。
 夢から覚めたらきっと、笑顔の2人が待っていると信じて。
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