魔女の喫茶店

たからだから

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――闇の魔法具編――

ヘンドリックの依頼

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 ギルからマグカップを受け取るとミアは、冷たい水を一気に飲み干す。嫌な汗をかいてしまった為かとても、喉が乾いていた。
「……すみません、ヘンドリックさん。お見苦しい所を見せてしまって……」
「あ、えっと、お気になさらず。……大丈夫ですか?」
「……ええ」
 小さく笑うミアにヘンドリックは少し不安げな表情をしており、申し訳なく感じる。
 闇の魔力を感じなくなったペンダントをヘンドリックに渡すと、横目でギルを見た。ギルが唱えた呪文は光魔法の1つであり、光属性の魔法使いやとても強い魔法使いが使いこなせる呪文である。
 ミアは不思議だった。弟子にしてくれ、と強引に来たのに本人の能力はかなり高いとミアは感じていた。何故、自分の所へ来たのか不思議だったが、今はペンダントの説明をしなければいけないとヘンドリックを見つめた。

「……この魔法具は一種の催眠術と似たようなもので、元々闇属性の魔法使いや魔術師の能力を高める物が物です。……そして、闇に染まる条件が揃っていればこれを付けると、闇に染まってしまいます」
「つまり、兄さんはそのせいであんな風に……?」
「ええ、きっかけはそうでしょう。……ですが、これを付けていないお兄さんは闇に染まりきっていました。恐らく、闇の力が大きくなるとこの魔法具がなくても、闇に染まったままなのではないかと」
 ミアは片腕を切り落とした魔術師おとこを思い出す。何もかも捨てたと叫ぶ姿は、闇に染まっていると言っても正しかった。
 何を思っているかはミアには分からない事だが。

「……兄さんは、元の優しい兄さんに戻れるんですか……?」
「正直そこは何とも……」
「そう、ですか……。……あの、改めてきちんと依頼させてもらっても良いですか……?」
 1度下を向くものの、少しして顔を上げたヘンドリックは覚悟を決めた強い眼差しでミアを見つめていた。
「……兄さんを、兄を止めてください。……例え、死んだとしても」
「本当にそれで、良いんですか……?」
「勿論、生きて元に戻ってくれれば嬉しいですが……。これ以上優しい兄さんを、闇に染まったままにはしたくないんです」
 ヘンドリックは優しい兄の顔を思い浮かべながら、ミアに話す。覚悟は決まっている。ただ、やはり自分の手で解決出来ない事に申し訳なさを感じていた。
「……分かりました。お受けします……」
 ミアは覚悟を決めたヘンドリックに何も言える事は無いと頷く。闇に染まりそうになった自分が救えるか、と不安になるが弱気になってしまったらいけないと気を持ち直す。

「それともう1つ、お願いがあって……」
 ヘンドリックは手に持ったペンダントを見つめたかと思えば、ミアにペンダントを渡した。
「……これを、兄に渡してほしいんです。そして、兄にこう伝えてください――」
 ミアはペンダントを受け取りヘンドリックの言葉をしっかり、頭に刻んだ。



 ――――
 ――――――



 ミアとギルはヘンドリックが帰った後、風によって散らばった物を杖で片付けていた。本棚から落ちた分厚い本、傾いた吊り鉢等を整えていくとミアは先程の出来事を思い出す。
 光属性の魔法を使いこなしていたギルの姿を。
「……ねえ、ギルって光属性の魔法使いだったのね」
「んー、一応ね」
「へえ、一応ねえ……」
「俺の事そんなに気になる~?」
 相変わらずの緩い笑みで近付いてくるギルに、ミアは呆れた様に顔を逸らすとペンダントをローブのポケットへと、しまい込んだ。
 ポケットへ手を入れたままミアは少しばかり考えてしまう。囁かれた言葉を。


 ――闇の魔力を持つ者よ……。


 ミアは自分が闇の魔力を持っているのだろうか、と考える。元々、ミアは校長であるエリザベスから属性を知らされていなかった。
 どんな属性でも魔法を発動出来るミアは勉強をしたおかげもあるが、才能でもあった。だからこそ今まで特に属性を気にした事はなく、相性は炎属性が1番良いと考えていたくらいだ。
 エリザベスが何も言わなかったのは、自分の属性が闇だからなのではないかと考え始める。

 小さく息を吐き出すとミアは考えていても分からないのだ、エリザベスに直接話を聞いた方が早いだろうと思い思考を止めた。
「ヘンドリックさんの依頼はどうするの~?」
「……あの魔術師おとこと会うまでは、こっちから何かを仕掛ける事はしないわよ」
 ミアの言葉にギルは窓の外に目をやるものの、雨は止まない。杖を指先で回しながらミアを横目で見ていた。
「……正気に戻せるかは分からないけどね。……腕切り落としちゃうくらい、正直狂っちゃってるわけだし」
「いや~、あれは凄かったねえ。……俺マジでびっくりしたよ」
 未だに覚えている光景を思い出してはわざとらしく、ギルは両腕を擦る仕草を見せた。そんなギルに少し可笑しく、笑ってしまう。
「まあ、近々また会いそうだもの。……大切な者がまだあるって事、ちゃんと思い出してくれると良いんだけど……」
 少し悲しそうに笑うミアの横顔をギルは黙って見つめていた。


 ――――
 ――――――


 自宅に帰宅した2人はそれぞれ風呂を済ませ、夕飯を食べリビングで寛いでいた。テレビは丁度、バラエティー番組がやっており2人で笑って見ていた。
 マグカップにジュースを入れて、ソファーに座る2人の表情は楽しそうだった。
「普通分かるでしょ~」
「……いや、ギル間違えてたじゃない」
「んー? そうだっけ?」
「……あ! ほらほら! やっぱり私が正解じゃない!」
「流石、師匠~」
「あ、ちょっと子供っぽいとか思ってるでしょ。……その顔」
「そんな事無いけどなあ」
「絶対嘘よ。……あー、もう! ニヤニヤしてこっち見ないでくれる?」
「ごめんごめん、そんなに怒んないでってば~」

 ミアはギルと話していると、とても楽しく落ち着く気持ちになる。不思議で、懐かしい感覚を時々感じるが何も思い出せない。それが何故なのかも分からず、その疑問が解けない事に気持ち悪さを覚えていた。
 だが、ギルの笑った横顔を見ているとまあ、良いかと思ってしまうのだから更に不思議だ。
 ギルを弟子だとは本人が調子に乗るから認めないが、信用しても大丈夫だとミアは思う。きっと、ギルは自分の味方になってくれるのだ、と。

「あ! こら! 人のお菓子勝手に取らないで!」
「え~、良いじゃん。ケチ~」
「もう、分かったから口を尖らせない!」
「やっさし~」
「……ねえ、遊んでるでしょ?」
「ミアちゃんって反応が可愛いよね~。……俺に振り回されてるって感じで、すげえ良い」
「……へえ、そう……? ……調子に乗るなッ!」
「い……っ! え、待って! 魔法使うのはズルいでしょ! あー! ごめん! ごめんってば~!」
「……そうやって振り回せるのも今だけよ」
「ずっと振り回されてくれると、嬉しいんだけどなあ」
「お断りします」
「え~」

 テレビから聞こえてくる笑い声と共に2人も、目を合わせて笑う。ミアは大切なものが1つ、増えてしまったと考えては少し心が温かくなった。
 ギルが弟子になりたい、と言いに来てくれたあの日を少しだけ感謝している。1人ではきっと、闇の魔法具に呑み込まれてしまっていただろう。
 本人には絶対に言う気は無いが、感謝していた。
 ミアは小さく笑いながらテレビに顔を向けた。
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