魔女の喫茶店

たからだから

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――闇の魔法具編――

恐怖を救う光

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 ミアはペンダントを紫色の液体が見える瓶に入れると、暫く漬けるかの様に入れたままにしていた。
 魔術を魔法で解くのは簡単では無く、少し時間が掛かってしまうのだ。その間にどんな闇の魔法具へと変わり果てたのかを、本を見ながら調べていた。
「ヘンドリックさんはこのペンダント持ってて何か、感じました?」
「……いえ、特に何も」
「ミアちゃん~、意外と早く終わりそうだよ」
 ギルの言葉に本から顔を上げ、瓶を見つめてはチャーム部分が少し隙間を開ける様に、開こうとしていた。まるで貝に似た動きに小さく笑う。
「ほんとね。……実際に使ってみないと分からないのかもしれないわ」
「……危険じゃない?」
「でも、分からないままにしておく方が危険よ? ……自称弟子なんだから、しっかり師匠を助けなさいよ」
「え~、師匠が守ってくれるんじゃないの~?」
「あのねえ……」
 ミアは溜息を零しながら、杖をペンダントの入った瓶に向けるとペンダントはゆっくりと宙に浮かぶ。ペンダントからは雫が瓶へと落ちていく。

「ん、しっかり魔術は解けてるわね」
 ペンダントを白いタオルで拭き取ると、チャームを開く。まだ火傷の負ってない時の写真があり、思わず先程見た記憶を思い出してしまう。
 卒業してから約4年間世界を旅してきたが、やはりどの国でも差別と言うものはあった。国によって酷かったり、全く無い所もあったが基本的には複雑な距離で関係を保っているような印象だ。
 勿論、仲良くしている魔法使いやノーマジ、魔術師も沢山見てきた。だからこそ、全種族が平和に暮らせる世界をミアは望んでいたが、1人では何も変えれないと言う事を痛い程味わってきた。
 助けたい、と言う気持ちや情報が欲しい気持ちは確かにあるが、ミアの心の奥底には復讐と言う言葉が根付いてしまっている。
 だからこそ、魔術師おとこの気持ちが少しだけ分かってしまうのだ。

 ミアは複雑な表情になりながらもペンダントを見つめる。何が、正解なのか時々分からなくなるのだ。ただ、偽善者のフリをした復讐者なのではないかと。
 ミアは誤魔化すが如く首を横に振ると、闇魔法の本に目を移した。
「……どうしかしたの?」
 いきなりギルに顔を覗き込まれ少し驚きながらも、小さく笑みを浮かべたミアは誤魔化す。
「……何でもないわ」
「……何かあったら、言ってね」
「何よ、心配してくれてるわけ?」
「勿論、俺はいつもミアちゃんの事心配してるよ」
 優しく微笑むギルにミアはよく見ている、と思う。ギルは時々見透かした様に見てくる時があると感じていた。
 何だか照れ臭くなってしまい、ミアは目を逸らし本へと集中する。そんなミアにギルは小さく笑うと、ヘンドリックへと近付いて行った。

 ミアは気を取り直して文字を読み進めていく。闇の魔法具に関する記載がしてあるページを真剣に見詰めていれば、気になるものがあった。
「……闇の魔力を高める魔法具……?」
 小さく呟いたミアは書かれた文字を見ていく。
 どうやら闇の魔法には闇属性の魔法使いや魔術師等の力を高める呪文があるらしく、それは闇に染まるがある者も該当する。
 一種の催眠術でもあり、その魔法具を身に付けた者が該当すれば力を発揮すると言うものだった。それは復讐、恨み、様々な感情から発生する闇の力を強力にする魔法具だと、ミアは解釈した。
 魔術師おとこがこの魔法具になってしまったペンダントを付けていたからこそ、あそこまで闇の力が膨らんでしまったのかと納得したと同時に、ペンダントを外した今でもその力が強いままなのは闇に染まりきってしまったのだろうと考える。

「……該当する者、か」
 ミアは再びペンダントに目を向けた。何故か、呼ばれている気がしていた。ほんの少しの興味と、付けなければと言う謎の感覚に襲われミアは少し戸惑う。
 危険だ、と頭の中では分かっていたものの体は求めている。そのペンダントを。
 ミアは静かにペンダントを首に付ける、胸元で小さく光ると優しく撫でた瞬間、ペンダントが強く光りだした。真っ黒に光るペンダントは、ミアの全身を覆い隠す様で、何も見えなくなってしまった。
「……っ!?」
「ミアちゃん!?」
 ギルは慌てて振り向くと、闇の光に覆われた姿に少し垂れた目を見開く。何があったのか、と考えたがそれはすぐに分かる。
「……まさか! ペンダントを付けたのか!?」
 闇の光に包まれ見えないミアの元へと駆け寄ると、強い風に体が煽られると部屋の中も激しい風に音を立てる。
「持っていかれるな! ミアちゃん、頼む! 気をしっかり持ってくれ! ……君は、そんな人間じゃないだろ……!」
 ギルは杖を手に持つと、叫びながら闇の光に杖を向けたのだった。



 ―――
 ―――――


 痛い、痛い、痛い、苦しい、何も見えない。
 ミアは激しい頭痛に頭を抱えながら、しゃがみ込む。周りは真っ黒で何も見えず襲い掛かるのは恐怖と痛み、そして息苦しさだった。
 何が起きているのかなんて正常に判断が出来ずにいた。
「……お父さん、お母さん……会いたいよ……」
 ミアはあの時と一緒だった。まるで何も出来なかった情けなく、弱い子供の時と。
 顔を上げるとそこには優しい顔をした両親の姿で、ミアは立ち上がり駆け寄る。しかし、霧の様に消えて居なくなり不安な気持ちになったミアは、辺りを見回す。
「やめてくれ! 妻だけは! 妻だけは助けてくれ! 頼む!」 
「アナタ! お願い、主人だけは! 私は良いから、この人は助けて! お願い!」
 ミアは見たくない悪夢に、体が震える。恐怖に負けじとお互いを思いやる姿を、楽しそうに見つめて命を消す魔法使いの姿に何度怒りを、憎しみを感じたか。

「……お願い、やめて……」
 ミアは震える声で小さく、呟きながらその場に立っているしかなかった。
 そして、父の姿は砂になり消えていく。ミアは大きな瞳から涙を零し膝から崩れ落ちる。何も出来ない自分の目の前で死んで、消えていく両親の姿にミアは悔しさに顔を歪めていく。
「……許さない、許さない、許さないッ!」
 激しく湧き上がる怒りは一層辺りの暗闇を深くした。ミアは怒りと共に何か、いつもとは違う力を感じていた。それが何か、薄々分かっていた。
 意識がぼんやり、と薄くなってくる感覚に徐々に目の光を失っていく。思考が上手く働かないミアは、囁いてくる声に耳を傾けていた。
「……闇の魔力を持つ者よ、私ならばお前の望みを叶えてやる。……理想の、世界……お前の、その憎しみを晴らしてやろう……」
 ミアは囁くような男の声が手を差し伸べてくれていると思い、手を伸ばそうとした。

「……ん…っ! ……ミ……んっ! ミアちゃん…ッ!!」
 ギルの声にミアは我に帰る。何をしていたのだと、差し出しそうになった手を見つめては少し震えた。闇に染まりそうになっていたのか、と自分に恐怖を覚える。
「……ギル……。……ギル……何処……?」
 ミアは立ち上がると辺りを見回し、ギルの姿を探す。とても不安で堪らなく、今すぐにギルの姿を見て安心したかった。
「……ミアちゃん、こっちだよ。おいで……。大丈夫、俺は居るよ」
 声が聞こえる方に顔を向けると、出口の様に明るく光る場所を見つけるとミアは走り出す。背後から得体の知れない物体に追い掛けられている感覚に、急いで足を動かした。
「……ギル、ギルっ!」
 ミアは眩しく光る輝きに両手を伸ばしては、ギルの名を無意識呼んでいた。懐かしさを感じる名前にミアは早く、会いたかった。体がギルに会いたいと叫んでいると感じるミアは、必死に手を伸ばすと温かい手がミアの手を握り締め、引っ張る。

「”オーペ・ネス闇よ去れ”!」
 ギルは闇から出てくるミアの姿を確認すると、呪文を唱えた。白く輝く光は闇を包み込むと、弾けるように輝き闇と共に消えた。
「ミアちゃん……っ!良かった、戻って来てくれて……。……本当に良かった……。怖かったね。……もう、大丈夫だよ」
 闇が消えていくと同時に優しく抱き締められるとミアは、とても安心した。ゆっくりとした声と、抱き締められた腕はミアの不安を吹き飛ばすかの様に優しくて、温かいものだった。
「……ギル、私……ごめん……。ありがとう……」
「……良いんだ、君が無事で。……大丈夫、ミアちゃんは闇なんかに負けないよ。……大丈夫」
 優しく背中をゆっくり、撫でられまるで小さい子を宥めるみたいなギルにミアは安心感に包まれた。
 先程までの恐怖や怒り全てが吹き飛び、震えも止まる。

「……ごめんなさい、本当に……ありがとう。……助けられちゃったわね」
「……だって、師匠に助けろって言われたからねえ」
 緩い笑みを浮かべるギルを見上げるとミアは、小さく困った様に笑った。
 懐かしさを感じる感覚に戸惑いながらも、酷く落ち着く感覚にミアは心を落ち着かせていた。
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