魔女の喫茶店

たからだから

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――死の使いと魔術師編――

海へのお誘い

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 だるような暑さにミアは魔法で店内を涼しくしていた。外は地面からの照り返しの暑さと、直射日光の暑さで外には出たくなかった。
 あまりの暑さにミアは殆ど、家や店からは出ておらず買い物はギルに任せていた。毎回ジャンケンだ、と言われるが毎回ミアが勝つのだ。
 先読みの呪文を使っているのは、秘密である。

「……あー、ロドリィさん外見てるだけで暑いわ」 「ミアちゃんは暑さに弱いねえ」
「……だって、夏って脱いでも脱いでも暑いじゃない?」
「あー、ミアちゃんそれ語弊生むから~」
 常連客であるロドリィとの会話を聞いていたギルは、ミアの言葉に苦笑いの表情になる。
 女性が言うには少し言葉を選んでは、と思うもののカウンターテーブルにうつ伏せになっているミアを見ては小さく笑った。
「でも、僕はミアちゃんの美味しくて、冷たいコーヒーが飲めるから良いけどね」
「ロドリィさん、本当に優しいわね」
 優しく微笑むロドリィにミアも微笑むと、ミアは体を起こす。窓から見える空は雲一つない晴れで、太陽の陽射しに目が痛くなる。
 窓から顔を逸らすと店内にはロドリィの他に数名、常連客が居た。常連同士で話す事もあり、楽しそうに談話する姿にミアは笑みを浮かべた。

「そう言えば、ミアちゃん達は海には行かないのかい?」
「んー、俺は行きたいんですけどねえ」
 ギルの視線にミアは困った顔のまま愛想笑いを見せると、暑いのも理由だが泳げないのが1番の理由でもある。プール等の足が着く安心した場所なら良いが、海は急に深くなる為正直、怖いと言うのが本音だ。
 浜辺で遊んでいる方がマシだ、と考えるくらいに海の中に入るのは苦手である。
「……何よ、その顔は」
「いいや、何でも~」
 見透かしているとでも言う顔にミアは眉を寄せながら見つめ返すものの、息を吐き出し諦める。
「本当に仲が良いね、ミアちゃん達は」
「俺、弟子ですから」
「……自称よ、自称!」
 自称、の言葉を強調させて言うとギルもロドリィもクスクスと小さく笑っていた。2人の様子に何だか居心地が悪くなりながら、顔を逸らした。
 頑固なのは分かってはいるが、弟子と認めても教える事はあまり無い。寧ろ、助けてもらった事もあり助手ではないかと思ってしまう。

 いきなり激しく鳴る鈴の音にミアはまさか、と立ち上がっては振り向く。
「ミアー! エミリアちゃんが来たよー!」
「……うわ、やっぱり」
「うわって何ー!? 酷いよ~」
「エミリアちゃん、いらっしゃい~」
「ギルくん久しぶりー!」
 笑顔で挨拶を交わす2人を見ながらミアは、エミリアの訪問に少し嫌な予感がしていた。とてもご機嫌な様子で、こう言う時は何かを企んでいる時である。
「うー、暑い~。アイスコーヒー1杯貰って良い?」
「は~い」
 ギルはアイスコーヒー用に仕込んでいたコーヒーを、グラスに氷を入れ注ぐ。
 アイスコーヒーの豆は普段の豆とは違い、苦味が少し強く爽やかな味の豆だ。熱いのを冷やすように氷を入れるのではなく、予めコーヒーを抽出し冷やしておく。故に、ドリッパーを使うわけではなく、大きな道具を使っている。
 夏はとてもアイスコーヒーが売れるのだ、だから多めに作っておき減ってくると営業中に仕込んだりする。

「……で? 何ででそんなにウキウキしてるのかしら? ……正直嫌な予感しかしないわよ」
「え、酷い」
「もう、ごめん……ほら、話聞くから……ね?」
 ミアはショックを受けた様な顔をするエミリアに溜息を零す。わざとやっているのは長い付き合いだ、分かっているがエミリアには弱いのだ。すぐに折れると、カウンター席に座るエミリアの隣に座った。
「ふっふっふっ! 夏休みの有休貰ったんだあ! だからさ、海に行こうよ!」
 ミアもギルもタイムリーな話題に驚きつつ、ミアは予感は当たったと苦笑いを浮かべる。
「……私泳げないのよ?」
「勿論、知ってるよ? でも、中に入らなくても良いから! 折角、休みが取れたんだもん。一緒に何処か行きたいよ」
 ね?と念押しする様に首を傾げるエミリアにミアは言葉を詰まらせる。
 卒業後、旅へと出たミアは連絡を取っていたが会うことは殆ど無く、帰って来たと思えば喫茶店を開き何でも屋までやり始めたのだ。社会人になってからプライベートで何処かに出掛けると言うのがあまり無く、エミリアは少し寂しさを感じていた。
 勿論、ミアはその事には気付いていた。だからこそ何も言えず、エミリアの寂しそうな表情にミアは溜息を吐き出す。
 可愛い親友の頼みだ、気分転換にも良いだろうと小さく笑う。

「……もう、しょうがないわね。ええ、分かったわ。行きましょう?」
「やったー! ありがと、ミア! もー、好き!」
「はいはい。……だから、好きの安売りはやめなさい」
 嬉しそうに笑いながら抱き着いてくるエミリアに、困った様に笑うもののギルから見たらミアも嬉しそうであった。
 ギルは女の子同士の友情を邪魔してはいけない、と緩い笑みを浮かべて話す。
「なら、店の事は俺に任せて2人で楽しんでおいで~」
「……え? ギルくん来ないの?」
「……え?」
 エミリアの驚いた様な言葉にギルも同じような反応を返してしまう。まさか、自分も来るのが前提とは思わずミアに目を向けた。 
「……そうね、人数は多い方が楽しいじゃない?」
「そうだよ。……僕達の事は気にせず遊んでおいで」
 横で聞いていたロドリィは優しい笑みをギルに向ける。ギルは小さく笑うと、少し嬉しそうに見えた。
「よし、決まり! イケメンの男と運命の出会いとかしないかなあ……」
「……アンタ海に何しに行くつもりよ」
「えへへ、冗談! そもそもギルくんが居たら男は寄ってこないよ~。……おまけに彼氏出来ても仕事が忙しくて、それどころじゃなくなりそう……」
 上司を思い浮かべているのか、頭を抱える姿にミアは小さく笑った。
 エミリアは面食いだが意外にもしっかりしている。尻軽でもなければ、イケメンだから付き合うとかではなく毎回選ぶのは優しそうな男性。
 致命的なのは見る目が無い、と言えばいいのか仕事のせいと言えばいいのかミアには少し分からない。毎回、必ず浮気をされてしまうのだからミアも気の毒になってしまう。
 こんなに可愛い彼女が居ても浮気をするのだから恋愛はとてもわからない、とミアは感じていた。

「……あたし、男だったら絶対ミアの事好きになってるし、逆だったら彼女にしてほしい」
「……ごめん、何言ってるのか分かんないわ」
「あ、分かるよ~。ミアちゃん男だったら、更に男前になりそうだよねえ」
「だよねー! 絶対カッコイイし、浮気もしなさそう~!」
 ミアは息が合ったように会話する様子を見て、素直にこの2人が一緒だといつも以上に振り回されそうだと、深い溜息を吐き出した。

「んー! 楽しみ! ねえ、ミア?」
「何?」
「海に行くなら、新しい水着買いに行こうよ!」
「良いわよ、いつ行くの?」
「実はね、明日からなの! お休み!」
 満面の笑み浮かべて嬉しそうなエミリアに、ミアも自然と笑みが零れる。可愛らしく明るい彼女にミアは久しぶりの仕事じゃない、プライベートの外出を楽しみにしていた。
 エミリアはカウンターテーブルに置かれたアイスコーヒーを飲むと、冷たさに喉が潤い小さく笑みを浮かべた。
「……あー、生き返るー」
「仕事に戻らなくていいの?」
「んー、まだもう少し大丈夫かなあ」
 白の可愛らしい腕時計を見ながらエミリアは答えると、遅刻して怒られなければ良いとミアはエミリアを横目で見た。
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