魔女の喫茶店

たからだから

文字の大きさ
46 / 48
――魔女裁判編――

魔法政府機関

しおりを挟む
 ギルの元に手紙が届いたのはミアが連行されて10日が経った頃だった。
 普通ならば監視付きで自宅待機ではあるが、ミアはまるで犯罪者の様に拘束されてしまっている。連日魔法新聞や週刊誌、魔法海のテレビではミアについて報道され、様々な憶測が飛び交った。
 1番注目されていたのは、ミアが死の使いスノードロップに所属しているのではないかと言う事であり、拘束されている事から確実だろうと言う者、何かの間違いだと擁護する者で分かれた。
 ギルは店を開く訳ではないが、スカーレットに来ていた。オスカーに餌を与える為でもあるが、1人ミアの自宅に居るのが寂しく落ち着かなかった。

 オスカーの頭を優しく撫でると、ギルはスーツを着ていた。裁判と言う場に私服で行く訳にはいかず、慌てて用意したが誰もが見惚れてしまう姿だ。
 そして、裁判当日の今日はルークとエミリアと共に裁判所に行こうとしており、集合場所は勿論スカーレットである。
 やり取りは監視されている事もあり、ルークの部下が事情聴取と言う名目で来ては手紙を渡したり、伝言をしたりしていた。
 勿論、気付かれる事は無かった。

 ギルは時間まで手持ち無沙汰なのかぼんやりと、天井を見つめていれば鈴の音が静かな店内に響く。
「……エミリアはまだ来てないのか」
「多分そろそろ来るとは思いますよ」
 小さく笑みを浮かべればギルは立ち上がるが、ルークに「コーヒーはいらない」と言われ再び座る。
 普段の警察の制服とは違うスーツ姿に横目で見れば、ルークはポケットから煙草を取り出し、慣れた様に指で火をつけた。
「……部下に調べさせたが、やはりオブリはミアを死の使いスノードロップとして地獄の檻へぶち込む気だ」
「……犯罪者が収容される、ニューゲート刑務所ですよね」
「ああ、ほぼ脱獄不可能な地獄だ」
 ルークの言葉にギルは少し、眉を寄せては犯罪者に容赦の無い刑務所を思い出す。お目にかかる事は無いが、学生時代に習った事がありとても怖い場所だと教師の話を聞きながら思ったのは、今でも覚えている。
 オブリが偽造した証拠を作ったおかげでミアを擁護していた魔法政府関係者も、手のひらを返したのだろう。
「ミアちゃんを護衛する人はもう、居ないって事ですか?」
「全員ではないが、かなり少ない。オブリの偽造した証拠は良く出来てる。……しかも、かなりの数だ」
 ギルは溜息を零しながらルークを横目で見ると、問い掛ける。
 ナルシスの母親の件だ。

「……そう言えばナルシスのお母さんの遺体って、見付かったんですか?」
「それがだな、全く情報が降りて来てないんだ。……オブリは必ず知ってる。母親を出されてしまったら、事件が明るみで出てしまうからな」
「あの人はそれ、知ってるんですか?」
「ああ、任せとけつってたから大丈夫だろ」
 ルークは煙草の灰を灰皿に落としながら煙を吐き出すと、ミアの自宅に泊まった時の事を思い出す。
 何かを話していた事は覚えているが、内容は分からず寧ろ話している最中に寝ていたと記憶している。
 少し気まずそうにルークは口を開く。
「……この前、ミアの家で話してる途中で寝ただろ。……すまん」
 ギルは記憶を消したあの日を思い出しては小さく笑う。本来ならば自分が謝る場面ではあるが、これは秘密だ。
「ああ、気にしてないですよ~。……仕事で疲れてるから仕方ないです」
「……そう言ってもらえて良かった。次からは気を付ける」
 真面目なルークに眉を下げて笑えば、店内に鈴の音が響く。2人して振り返るとエミリアがスーツ姿で店内へと入って来ていた。
「おはよう、ギルくんルークさん」
「エミリアちゃん、おはよ」
「……遅刻しなかったな」
「わ、ルークさん意地悪だ」

 いつもより少し元気の無いエミリアを横目で見たギルは、壁に掛けられた時計に目を移す。そろそろ行かなければ、と立ち上がればトランクを手に持つ。
「あれ? それミアのだよね?」
「……役に立つかもしれないからね~」
 小さく笑うギルの横顔をエミリアは不思議そうに見つめながら、どんな表情をしても整った顔に苦笑いを浮かべた。
「さ、行こうか」
 ギルの言葉に頷くエミリアと煙草を灰皿に押し付けたルークは、店を出た。




 ――――
 ――――――



 夏のスーツは正直暑さが籠り、あまり好きでは無い。それは3人が思っている事であり、エミリアは上着を手に持ち、歩く。
 首都ロアーグにはノーマジの政府機関があり、ホワイトホールと呼ばれた地区は様々な政府機関の建物が建ち並び、大通りでもある。
 ギル達はノーマジ同様、地下鉄で訪れるとスーツ姿で出勤する人々が歩いている。
「……何だか、出勤する気分」
 嫌そうな顔で小さく呟くエミリアに余程、仕事が嫌なのだろうと片方の眉を下げて小さく笑う。
「ギルくんは来るの初めて?」
「……いや、何度か来た事はあるよ」
「えー、何か意外だねー」
 エミリアは今はもう慣れた道を歩き、ある建物へと入る。

 入口にはビッグ・ベンの時計塔が少し遠くに見えるが、ギル達の目的は財務省だ。白い建物はまるでお城の様にも見え、大通りに面している為車の通りも多い。
 中は出勤する人々で多く、大きなホール奥にあるエレベーターに乗る。
 ギル達が乗るエレベーターは魔法使い専用であり、扉が閉まると移動術が発動される仕組みになっている。
 着いた先はオリード・ガバメントと呼ばれる魔法政府機関の建物に繋がっていて、扉が開いて見える景色は先程とは違う内装のホールだった。
「じゃあ、次はこっちね」
 エミリアは方向を確認すると2歩程先を歩く。
 ギルは辺りを見渡すように視線を動かすと、エレベーターに顔を少し向けては見る。
「……俺、魔法使いだけど魔法ってほんと、凄いよね~」
「ほんとだよねー! ノーマジは許可証が無いと乗れない仕組みだし、考えた人天才だよねえ」
「まあ、不便なのは自宅から直接通えない事だな。……わざわざホワイトホールまで行かなきゃならねえ」
 面倒くさそうに話すルークにギルもエミリアも苦笑いを浮かべる。
「そこはしょうがないよ。そんな事しちゃったら、誰でも来れちゃうしね」
 エミリアは首に掛けた社員証を見せては笑う。

 常に監視されており、怪しい人物を発見したら警備員がすぐに飛んで来るのだからセキュリティ面はしっかりしている。
「えーっと、法廷は最上階だったよね?」
「……覚えてねえのかよ」
「だって、法廷よりも拷問室に行く事が多いんだもん」
「物騒だな」
 可愛い顔から拷問と言う言葉が出てくればルークは思わず、苦笑いを浮かべてしまう。
 情報部の仕事もそうだが、エミリアの仕事は勿論知っている。しかし、実際見ると不釣り合いな容姿で驚く人は多いだろう。
「あら、ベネットさん今からミア・リードの裁判かしら?」
 エミリアは一緒にエレベーターへと乗って来た女性に声を掛けられれば、内心面倒くさそうするも表には出さずにいた。
 身なりを綺麗にしているつもりだろうが、スーツの色合いが派手であり化粧は濃い為綺麗、とは言えない。
 歳も50代だろう。若作りしているのが伝わってきてしまい、エミリアは何とも言えない気持ちになる。
「……はい、そうです」
「あてくしは、魔女が死の使いスノードロップだと分かってましたわ。……これで漸く、魔法界も安心出来ますわね~」

 独特な喋り方をする女にエミリアは正直、腹が立っていた。しかし、我慢だと拳を作ると笑顔を浮かべた。愛想笑いだが。
「そうなんですね~。それは凄いですね~」
 いつもより声のトーンを上げて喋る姿にギルもルークも、こっそり目を合わせて苦笑いを浮かべた。
 大変そうだと見つめる2人を他所に、エミリアは対抗してくるが如く声のトーンを上げる女に、耳障りな声だと眉を寄せそうになり眉が小さく動いていた。
「どんな判決が下るか、あてくし楽しみですわ~。それではまたお会いしましょう~、オホホ」
「ごきげんよう~」
 9階で降りた女に笑みを浮かべていたエミリアだが、扉が閉まると同時にしかめっ面になっていた。
 深く息を吐き出すとエミリアは腕を組み、怒りを爆発させそうになっておりギルは優しく宥める。
「……何アイツ! ちょーッ! ムカつくんだけど!? 何があてくし、よ! ……もー、ムカつく」
「まあまあ、落ち着いて~。ミアちゃんは無実なんだから、気にしなくて良いんだよ」
「それは分かってるよ! ……でも、ムカつく」

 チーン、と音が鳴るとどうやら最上階の30階に着いたらしく3人はエレベーターから降りる。
 法廷は1つだけではなく、何部屋かあり入る前のホールは薄暗くソファーが何個か置いてあるだけだった。
「……ヤバイ、あたしの方が緊張してきちゃったよ……」
「深呼吸、深呼吸~」
「あー、煙草吸いてえ」
「……ルークさん、ここ禁煙だからね!」
「うん、いつも通りみたいだね。行こうか」
 笑顔を浮かべるギルは傍聴者専用の扉を開き、中に入ると席は殆ど埋まっている状態だった。記者や魔法使いで溢れており、少しザワついていた。
 今回の裁判はかなり注目されており、傍聴したい者が殺到し抽選式にしたくらいだ。
 空いた席に3人は並んで座ると、既に裁判官達が座っており険しい顔を浮かべていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

七日後に神罰が落ちる。上層部は「下を切り捨てろ」と言った——私は全員を逃がす

蒼月よる
ファンタジー
七日後、この港に神罰が落ちる。 追放された元観測士イオナだけが、その事実を知っていた。 しかも災害は自然現象ではない——誰かが、意図的に引き起こそうとしている。 港の上層部はすでに手を打っていた。「下層区画を緩衝被害区として切り捨てる」秘密契約。被害を最小限に見せかけ、体制を守る冷徹な計画だ。 イオナは元護送隊長ガルム、荷運び組合長メラとともに動き出す。 犯人を暴き、証拠を公開し、住民を逃がし、工廠を止める——すべてを七日で。 被害を「選ぶ」管理か、全員を「残す」運用か。 追放観測士の、七日間の港湾カウントダウン・サスペンス。 この作品は以下の箇所にAI(Claude Code)を利用しています。 ・世界観・設定の管理補助 ・プロット段階の壁打ち ・作者による執筆後の校正

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った

五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」 8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

処理中です...