symbolic【短文・詩】

End of the beginning

始まりの始まり

春の訪れを待っていたかのように
残雪を掻き分け
とても小さな蕾たちは
孤独に力強く芽吹く
誰にも見つからなかったのに
予見も出来なかった
思いもよらない始まりに
心を奪われたまま
何も考えられなくなる
ただ魅せられていた

始まりの終わり

幸せがこの世に実在することに
気づいてしまった
今までの居場所に後ろ髪を引かれ
臆病になる心に反して
日に日に大きく育つ蕾を持て余す
残雪が溶けこんだ土壌は
不安の理由を依代にして
決断を急かす
「あなたの居場所はここでしょう？」
耳元で囁く優しげな幻聴に連れ戻された

終わりの始まり

以前は平穏だと感じていた日々はいずこへ
幸せを知ってしまった蕾は
もう元には戻れない
葛藤のぶんだけ強さを知った
逞しく真っ直ぐに太陽の光を
全身で吸い込むと
準備は整った
勇気を出して力強く咲き誇るだけ
蕾は蕾では無くなった
大輪の花を咲かせた
咲き誇った花には誘惑がつきまとう
蜜が欲しい昆虫が右往左往と飛び回る
それでも心が囚われたままの花は
ただ一点を見据え想い続ける
「どうか側にいて」
想いが通じた瞬間に
粛々と寿命カウントが始まった

終わりの終わり

振り返ると穏やかな幸せだった
愛すること、愛されること
どちらも知った花達は見つめ合いながら
毎日を噛み締めるように大切に生きる
花達は冷んやりとした夜風に
冬の訪れを感じた
「あなたと一緒に生きて幸せでした」
まだ見ぬ未来へ紡ぐ種をポトリと落として
雲が満月の柔らかな光を呑み込むように
優しく儚く
地面に静かに伏せた

そしてまた
何度目かの再来と春を待つ