乙女ゲームの元ヒロインは恋の相手をさがしてる

月宮明理

文字の大きさ
15 / 17

15.決着!美女子高生杯!

しおりを挟む
ランウェイでのアピールを終えてステージ上に待機する佳世は、舞台袖にこっそり視線をやった。そこには佳世の命令を聞くスタッフが打ち合わせ通りに動いている。

(準備は出来ているわ。怪我か、恥か……選ぶが良いわ、如月更紗!)

ちょうどランウェイを歩いている更紗の頭上で、照明の留め具が外れた。
ガキン、という音に気付いて更紗はすぐに上を見上げる。
更紗の反射神経をもってすれば避けることなどたやすいことだった。
しかし更紗は動けなかった。最小限の動きでかわそうと足に力を込めた瞬間、怪我の痛みに襲われたのだ。
それでも身体全体を使って大きくかわすことなら可能だったが、美羽の言葉が頭をよぎり身体が硬直する。

――更紗、いい?後ろはハンカチで結んでるだけなんだから、激しく動いたりしたらダメだからね。

(今激しく動いたら、水着が脱げちゃう!)

水着がずれないように胸元を押さえたまま――更紗は動くことができなかった。




スマホを見つめたまま、三人は映像の中で起こったことが信じられず言葉を失った。
照明が落下したことで埃が立ち、画面がよく見えない。

「い……今、何が起きたの?」

悟が喉を引きつらせながら声を絞り出すと、それに蓮司が答える。

「照明が天使さんの上に落下したみたいだけど……」

自分たちもステージで歌い踊ることがあるので照明器具の重さにもある程度詳しい。そんなものが人体に当たれば、大けが……場合によっては死ぬことだってあり得る。

「嘘……だろ」

照明が落ちたその瞬間の記憶が頭の中でグルグルと回る。
更紗の無事を祈りながらスマホを見つめていると、埃が収まり、徐々に画面が鮮明になっていく。
そこに映し出された状況に、彼方は息をのんだ。

「な、んで……なんでシンがそこにいるんだよ……!」

シン――慎太郎がステージの上で更紗を姫抱きにして抱え上げている。更紗の身体の上には男物の上着が掛けられているが、おそらく慎太郎のものだろう。

『え……いきなり乱入してきて何?下ろして……』
『勝負はついた。これ以上続ける続ける必要はない』

更紗と慎太郎は言い争いを続けた。慎太郎の腕から抜け出そうともがく更紗だったが抵抗むなしく、更紗を抱えたまま慎太郎は舞台から姿を消した。

「シン!」
「いや、スマホに向かって叫んでも届かないだろ。ともあれ、天使さん無事だったみたいで良かった」

慎太郎がどうして会場にいるのかについては慎太郎が女子高生杯出場をけしかけたのだからいいとして、更紗をお姫様抱っこして救い出したことには納得できない。あれは物語的に言えば正ヒーローがやるやつだ。どう頑張ってみてもアンチヒーロー止まりの慎太郎がやってはいけないやつなのだ。

「今すぐ電話で……!」
「パッショナーズの皆さん、スタジオに移動お願いします」

タイミング悪く、収録の時間になってしまった。
仕事だ、待っている人がいる。という責任感でどうにか彼方は楽屋を後にするが、頭の中は更紗と慎太郎のことで埋め尽くされていた。

(あいつ――マジで天使に手を出すんじゃないぞ!!!!)




「ちょ……いいかげん下ろしてよ」
「ダメだ。下ろしたらお前、ステージに戻ろうとするだろ」

舞台袖を通り、更紗を抱えたまま慎太郎は廊下を歩く。スタッフとすれ違う度に奇異の目を向けられるが、それに構っている場合ではない。

「当たり前でしょ。まだ決着はついてないもの」
「決着なら着いた。如月――お前の勝ちだ」
「え……?」

どういうことだろうか。うーん、とはてなマークを頭に浮かべていると慎太郎は説明を加えた。

「その水着。また黒川先輩に妨害されたんだろ」
「分かるの?」
「お前自身は気づいてなかったのか?身体に合ったサイズじゃないせいで、破廉恥度が異様に高かったぞ」
「破廉恥……!」

(うわぁ恥ずかしい。穴があったら入りたい!)

顔を覆って自分の格好を羞恥している更紗を見下ろし、慎太郎は言葉を続ける。

「そんな格好でステージに立たされてんのを知ってて見逃したんなら、如月が勝っても負けても後味が悪い。ってことであっちの反則負けだ。黒川先輩には親衛隊なんかもうやめとけってバスケ部の総意として伝えとくから、気にすんな」

だいぶ歩いただろうか。人の気配のない場所で、ようやく慎太郎は更紗を下ろした。
下ろしたときに更紗の髪の毛が乱れ、肩から背中にかけて素肌が露わになる。二か所のあざを認め、慎太郎は眉間にしわを寄せた。

「これも黒川先輩のせいか?」

滑らかな素肌に痛々しい青あざ。指でなぞりながら、慎太郎は少し後悔していた。

(怪我をさせたんじゃ、俺の提案は何の意味もなかったのか)

佳世は強い。だからこそ更紗と真っ向からぶつかることのない勝負を提案したのだが、更紗が怪我をしてしまってはその気遣いは全く無駄だったことになる。

「気にしないで、千元くん」

慎太郎の考えを読んだように更紗は言った。

「私が勝負を受けたかったから受けただけ。それにね、私も黒川先輩のやり方は頭にきてたし、怪我だって大したことないから」
「……そうか。如月がそう言うなら、そうなんだろうな」

(ったく、どこまでお人よしなんだこいつは)

更紗の善良さに呆れていると、彼女は看過できない言葉を口にした。

「じゃあ私はステージに戻るから」
「は?……もう決着はついたから必要ないと言っただろう?」
「それは千元くんの事情でしょ。私は黒川先輩にちゃんと勝ちたいの」
「待て」

すぐにステージに駆けていきそうな更紗を捕まえ、慎太郎はどうしたものかと思案する。
更紗には伝えなかったが、慎太郎としてはその姿で人前に立ってほしくないと強く感じていた。とても価値のあるものが、目利きができない者の手でたたき売りにされているような感覚――要するにもったいないと感じていたのだ。

「行かせない」

更紗を自分の方に向き直らせ、その身体を強く強く抱きしめた。

「えええぇぇぇぇぇ!?!?」
「うるさいな」
「せ、せせせ千元くん!?」

突然抱きしめられて更紗は硬直した。

(近い――!)

「あのあのあの……」
「行かないでくれって頼んでもお前は行くのか?更紗」
「っ!」

(初めて名前で呼ばれた!)

色々な面でパニックになっているが、更紗の意志は変わらない。

「……い、行くよ!」
「そうか……ならしょうがないな」

意外に感じるほどあっさり慎太郎は離れた。
とたん身体から力が抜ける。

(あれ?なんか千元くんに抱きしめられる前よりも解放感があるような……?)

「その格好で出られるものならステージに戻るがいい」
「えっ!」

視線を胸元に下ろすと、胸を支えていたはずの水着がたゆんでいる。

「まさか……」

背中で結ばれていたハンカチを確認しようと手を伸ばすと、想像通りほどけてしまっていた。
自分の状況を理解して、更紗は顔を真っ赤にして叫んだ。

「千元くん!っさいっってぇぇぇぇぇ!」
「ハハハハハ」

すごく楽しそうに笑いながら慎太郎は去って行った。
結局更紗は水着を着直すことができずステージに戻るのは叶わなかった。




「そんなことがあったんだ。コンテストは棄権扱いになっちゃったけど、千元くんがそう言ったなら親衛隊の問題は解決ってことでいいのかな」

控室に戻ると、美羽と瑠奈が更紗を心配して待っていた。慎太郎とのやり取りを伝えると瑠奈はどこかホッとした様子を見せた。

「千元慎太郎ねぇ……更紗への暴挙の責任は絶対取らせてやるから」
「いいよ、美羽!そんなに怒らないで!ほら、照明が落ちてきた時は助けてくれたわけだし!」

美羽が今にも慎太郎をりにいきそうだったので、更紗はフォローを入れる。

「更紗は怒ってないの!?」
「いやー……」

正直更紗基準で言えば”激怒”の域に達していたのだが、美羽をなだめているうちに怒りが少しずつ減ってしまったのだ。
コンテストはすっきりしない結末を迎えてしまったが、目の前の問題は解決した。更紗は帰り支度をして二人に頭を下げる。

「二人とも今日はありがとう。二人の手助けのおかげで私なんとかやり通すことができたよ」

その姿に美羽と瑠奈が顔を見合わせる。

「顔を上げてよ、如月さん。お礼なら私がするのが筋でしょ。……ありがとね、如月さん」
「天空さん……」
「あとね、一つお願いがあるの。私のことは”瑠奈”って呼んで。私も”更紗”って呼ぶから……だって私たち、もう友達でしょ?」

瑠奈は握手を求めて手を差し出す。それを更紗は喜んで握り返した。
異変はその時起こった――。

「え……」

突然空中を見つめた瑠奈は数秒で意識を失ってしまう。

「っ……瑠奈!」

瑠奈の華奢な身体を更紗は余裕で抱き止めた。

――ボク、サラちゃんとお友達になりたいんだ。

その時更紗の頭に響いた声は、今よりずっと昔に聞いた声だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜

具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」 居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。 幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。 そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。 しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。 そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。 盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。 ※表紙はAIです

この世界に転生したらいろんな人に溺愛されちゃいました!

キムチ鍋
恋愛
前世は不慮の事故で死んだ(主人公)公爵令嬢ニコ・オリヴィアは最近前世の記憶を思い出す。 だが彼女は人生を楽しむことができなっかたので今世は幸せな人生を送ることを決意する。 「前世は不慮の事故で死んだのだから今世は楽しんで幸せな人生を送るぞ!」 そこからいろいろな人に愛されていく。 作者のキムチ鍋です! 不定期で投稿していきます‼️ 19時投稿です‼️

猫なので、もう働きません。

具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。 やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!? しかもここは女性が極端に少ない世界。 イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。 「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。 これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。 ※表紙はAI画像です

老け顔ですが?何かあります?

宵森みなと
恋愛
可愛くなりたくて、似合わないフリフリの服も着てみた。 でも、鏡に映った自分を見て、そっと諦めた。 ――私はきっと、“普通”じゃいられない。 5歳で10歳に見られ、結婚話は破談続き。 周囲からの心ない言葉に傷つきながらも、少女サラサは“自分の見た目に合う年齢で学園に入学する”という前代未聞の決意をする。 努力と覚悟の末、飛び級で入学したサラサが出会ったのは、年上の優しいクラスメートたちと、ちょっと不器用で真っ直ぐな“初めての気持ち”。 年齢差も、噂も、偏見も――ぜんぶ乗り越えて、この恋はきっと、本物になる。 これは、“老け顔”と笑われた少女が、ほんとうの恋と自分自身を見つけるまでの物語。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日7時•19時に更新予定です。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

能天気な私は今日も愛される

具なっしー
恋愛
日本でJKライフを謳歌していた凪紗は遅刻しそうになって全力疾走してたらトラックとバコーン衝突して死んじゃったー。そんで、神様とお話しして、目が覚めたら男女比50:1の世界に転生してたー!この世界では女性は宝物のように扱われ猿のようにやりたい放題の女性ばっかり!?そんな中、凪紗ことポピーは日本の常識があるから、天使だ!天使だ!と溺愛されている。この世界と日本のギャップに苦しみながらも、楽観的で能天気な性格で周りに心配される女の子のおはなし。 はじめて小説を書くので誤字とか色々拙いところが多いと思いますが優しく見てくれたら嬉しいです。自分で読みたいのをかいてみます。残酷な描写とかシリアスが苦手なのでかかないです。定番な展開が続きます。飽き性なので褒めてくれたら続くと思いますよろしくお願いします。 ※表紙はAI画像です

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

処理中です...