乙女ゲームの元ヒロインは恋の相手をさがしてる

月宮明理

文字の大きさ
14 / 17

14.暗雲!水着審査!

しおりを挟む
カバンに入れたはずのスマホがポケットに入っていたことは気になったが、それよりもこの状況をなんとかしなければいけない。
審査中にスマホを鳴らしてしまうのは減点対象だ。
スマホを見ると電話番号が出ている。それはつまり、更紗が登録してる相手ではないことを示していた。

(いったい誰が……あ)

舞台袖の人影が目に入る。スマホを手に持った佳世が更紗に向かって勝ち誇ったように微笑んでいた。
その時、更紗はこの着信相手が誰なのか、なぜスマホが制服に入っていたのかを理解した。
つまり更紗は罠にはめられたのだ。佳世がスタッフを利用して制服にスマホを仕込み、更紗に制服を着るように促した。

(やられた!)

この状況に至るまで更紗は微塵も警戒していなかった。佳世が何かしてくるのは、少し考えれば想像がついたはずなのに。

(考えないと、この状況を打破する方法を……でも、トークの途中にスマホが鳴ったのをもうどうやったってごまかせないし)

「へぇー、あとのお楽しみって言ってたけど、本当にいい曲だねー!」

隣で瑠奈がのんびりとした調子で言い、更紗と目が合うとウィンクをしてみせた。

(そうか!このまま……)

「ね!言った通りだったでしょ」

更紗は言いながら着信を止め、機内モードに切り替えて電話が鳴らないようにした後、ミュージックアプリを起動して画面を司会者に見せる。

「今の曲、ネットで活躍中の作曲家ミカさんが作った曲なんです」
「更紗、ネットでそういう音楽探すの趣味だもんね」

更紗と瑠奈の意図を察した美羽の援護もあって、司会者はすっかりこれが更紗たちの打ち合わせ通りな演出だと思い込んだ。

「如月さんの趣味ってネットクリエイターの曲を聴くことなんですか?」
「そうなんです。特にこのミカさんの曲はうちに秘める感情をメロディにするのが上手な方で、聴き入っちゃいます」
「そういえば最近更紗いっつも彼女の新曲あがってないかチェックしてるもんね」

その後は穏やかにトークが続き、更紗は出番を終えることができた。予期せぬ事態はあったものの、第二審査も上々の出来だ。
舞台袖に戻ると同時に緊張が解けた。

「更紗お疲れ!あと一つだよ」
「そうだね、あと一つ。疲れてる場合じゃないね!それと美羽、天空さん、さっきはフォローありがとう」
「お役に立ててなによりだよ」
「そうだ、さっきのあれ、なんだったの?」
「……黒川先輩が仕掛けてきたみたい」

思えば、直前になって制服に着替えるように言ってきたあのスタッフは控え室に更紗を呼びに来たスタッフだ。ただ本当に道着が禁止というだけなら、控え室に来た時に言うべきなのだ。それをしなかったのは空になった控え室で仕込みをする必要があったから。気付けなかったことが悔やまれる。

「まったく陰湿ー。次の審査ではこっちからかけ直してやろうよ!」

頬をぷくりと膨らませて美羽は怒りをあらわにした。

「まぁまぁ。最後は水着審査だしスマホは持ってないと思うよ」
「うー……悔しい」

更紗と瑠奈で美羽をなだめ、控室へと急ぐ。
更紗の頭の中は次の戦いのことでいっぱいだった。
次の水着審査で決着がつく。
どんな妨害があろうと絶対に勝つ。そんな気持ちでいたのだが。

「……やられたね」

悔しそうに顔を歪ませる瑠奈の視線の先には、水着が着せてあったマネキン。
裸にされたマネキンの傍には布の切れ端になった水着が散らばっていた。
その端切れを手に取り、更紗は肩を震わせる。

「どうしよう……」

水着がなければ審査に出られない。
水着審査の水着はコンテスト主催側が用意したもので、近くで買ってくるわけにもいかない。

「とりあえず、予備がないかスタッフに聞いてみようよ」

瑠奈の言葉で立ち止まっている場合じゃないと思い直し、急いでスタッフに予備を確認した。
そのスタッフは佳世の息のかかった人ではなかったらしく、きちんと予備の水着置き場へと案内してくれた。
だが、そこで別の問題が発生した。

「更紗の抜群のスタイルは武器だと思ってたんだけどさぁ、こういう事態に陥るとある意味欠点にもなるんだね」

更紗の抜群のプロポーションは規格外だった。予備の水着では更紗の身体に合うものはなかったのだ。

「とりあえず……一番合いそうな水着を借りてなんとかしよう!」

更紗は予備の中から一番大きなサイズのものを取って、控室へと踵を返す。
取り合えず着ることさえできればなんとかなる。
控室に戻った更紗はさっそく水着を試着してみた。

「と……留まらない……!」

背中でフックを引っかけて留めるタイプの水着だが、全く届かない。数センチほど長さが足りていなかった。

「更紗は髪が長いから背中は見えないよ。だから布を継ぎ足そう」

美羽は自らのハンカチを水着に結び、足りなかった分の長さを補った。更紗の長く艶やかな髪が背中を覆うと、継ぎ足している部分は完璧に隠れた。

「これなら気付かれなさそうだね……けどさ」

瑠奈は更紗の周りをぐるりと周りその姿を眺めた後、気まずそうに苦笑を漏らす。

「ちょっと刺激的な格好過ぎない?」

もともとサイズが合っていないのはわかっていたことだが、更紗の肉感的な身体を覆うには生地の面積が心もとない。
更紗自身もそれを感じていて、髪の毛で身体が隠れるように手で少し広げてみた。
そうしているうちに水着審査開始の時刻が迫り、スタッフが呼びに来てしまう。

「更紗、いい?後ろはハンカチで結んでるだけなんだから、激しく動いたりしたらダメだからね」
「うん、わかった」

返事をしながら水着審査用のハイヒールに足を突っ込む。

「っつ……!」

一昨日の怪我の痛みが更紗を襲う。奥歯を噛んでうめき声を殺し、更紗は背筋を伸ばした。

――これで最後。絶対に勝つ。



水着審査では出場者が順番にランウェイを歩くことになっている。
一番の出場者から六番目の出場者を眺めて麻也はしみじみとつぶやいた。

「なんかここでの差はあんまりでなさそうだな」
「……なぜそう思う?」
「黒川先輩も含めてみんなそんなに背格好に差はなさそうじゃねか」
「胸に差はあっただろう」
「いや、俺は大きくなくても……っていうか小さい方が好みだ」
「お前貧乳派だったのか……!」

麻也の意外な趣味に慎太郎が驚いた時、周囲でざわめきが起こった。
なんだ、と慎太郎は周囲の視線を追う。そこには舞台に出てきた更紗の姿があった。
慎太郎と麻也がくだらない話をしている間に十一番目の更紗まで順番がまわってきていたらしい。
その姿に慎太郎は瞠目する。押し黙る慎太郎の隣で麻也もまた、声を失っていた。
他の出場者には感じなかった圧倒的魅力。更紗の姿は会場中の視線を一身に集めていた。

「これは……!」

数秒前に貧乳派だと言った男はどこへ行ったのか。麻也は顔を真っ赤にして更紗の肉体美に釘付けになった。
刺激が強すぎた麻也と違い、慎太郎は更紗と他の出場者の違いに気づく。

「……小さいな」

その纏う布の面積から、大方の事情を察した。

「は?どこが?どう見ても巨にゅ……ってどこ行くんだよ、慎太郎!」
「勝敗は決した。これ以上傍観者を演じるつもりはない」

その言葉だけを残して、慎太郎は席を立った。




スマホで動画を見ていたパッショナーズの三人は、更紗が画面に映った瞬間――撃沈した。

――て、天使がヤバい……!

声も上げられず、鼻から血を流しながら机に突っ伏する羽目になった彼方はプルプルと震えている。
その隣で悟は顔を覆って天を仰いでいた。

「お、おいこれが天使だって?サキュバスの間違いじゃないか!?」

蓮司はスマホ画面を指さして興奮気味に言った。

「ガフッ……ガハッ……」

俺の天使をサキュバス呼ばわりするな、と彼方は言い返したかったが、鼻から流れる血が口に入って思うようにしゃべることができない。今回悟は蓮司の意見に一理あると感じていたので、今度は暴力に訴える真似はしなかった。

「彼方……このあとテレビ出演ってこと忘れるなよ」

鼻血まみれで話せなくなっている彼方を、いろんな意味で心底心配する蓮司だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。

柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。 詰んでる。 そう悟った主人公10歳。 主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど… 何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど… なろうにも掲載しております。

モブが乙女ゲームの世界に生まれてどうするの?【完結】

いつき
恋愛
リアラは貧しい男爵家に生まれた容姿も普通の女の子だった。 陰険な意地悪をする義母と義妹が来てから家族仲も悪くなり実の父にも煙たがられる日々 だが、彼女は気にも止めず使用人扱いされても挫ける事は無い 何故なら彼女は前世の記憶が有るからだ

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

猫なので、もう働きません。

具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。 やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!? しかもここは女性が極端に少ない世界。 イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。 「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。 これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。 ※表紙はAI画像です

社畜の私は異世界でも社畜精神が残ったままだった

木嶋うめ香
恋愛
貴族学園の小さな部屋で、私は一人書類仕事に追われていた。 今日も寮には帰れそうにない、机の上には大量の未処理の書類。 せめて空腹を紛らわそうと、ビスケットを鞄から取り出し水を汲んでこようとして立ち上がった途端、視界が暗くなり倒れた。 床に倒れた反動で、頭を床にぶつける。 その衝撃で思い出した、私は前世ブラック企業に勤めていた社畜で、二十三連勤サービス残業付きの末、体調を崩し亡くなったアラサー営業職だった。 他サイトでもアップしています。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

この離婚は契約違反です【一話完結】

鏑木 うりこ
恋愛
突然離婚を言い渡されたディーネは静かに消えるのでした。

処理中です...