花嫁はオニ娘

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花嫁はオニ娘

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佐渡に住む佐吉は、子どもの頃からたくさんの夢がありました。
でも、何一つ叶えられたことはありませんでした。

一生懸命学んで、大人になったら父ちゃん母ちゃんに恩返ししよう・・でも、恩返しする前に親は亡くなってしまいました。

それでは何か手に職をつけて世のため人のためになることをしよう・・でも不器用な佐吉は何をやっても身につくものがありませんでした。

ではせめて野良仕事に精を出し、自分のことだけでも自分でまかなっていけるようにしよう・・でも、のんきな佐吉はそれすらうまくいきませんでした。

そして、最も願うことの一つに嫁とりがありました。
が、佐吉には浮いた話のひとつもなく今もって独り身でした。

毎日さみしくて、どうして自分には嫁のひとりもいないのかと深く悩んでいました。 

「あ~あ、おらにも嫁っこがきてくれんかのう・・
たった一人でいいのにそれすら叶わん!」

佐吉の周りにいる男たちはすでに嫁をもらい、子も授かっていて家族楽しそうに暮らしています。

佐吉は、どうしても嫁が欲しく神様、仏様、そしてなんと閻魔様にいたるまで願いをかけるようになりました。

神社と見れば、手を合わせ・・
お寺とわかれば、手を合わせ・・
様と名の付くものがあれば手を合わせ・・

そんな日々を過ごす中、諸国漫遊をしているというお坊様に偶然出会いました。
様がつくお坊様ともなれば、手を合わせてお願いするしかありません。

話を聞いたお坊様は、佐吉の力になろうと耳寄りな話を教えてくれたのです。

山を3つほど超えた向こうにある大きな山に嫁を授けてくれる社があるというのです。

「ただ・・・・」
と、お坊様は口ごもります。

「その社はその名も嫁ごい神社という。本当に願いが叶うそうじゃが、なかなか近づくのがやっかいなのだ。
その嫁ごい神社のすぐ隣には、オニの館がある・・
なんでも、噂によると人間と見ればあっというまに食っちまうそうだ・・」

「えぇぇぇ~・・・!
うまい話には、落とし穴があるということなんけ?
嫁をとるか、命をとるかをえらべっつうことかいな・・・」

お坊様は、それだけ伝えるとそのまま漫遊の旅に行ってしまいました。

それから、佐吉は考えました。

嫁か、命か・・
命か、嫁か・・

考えて考えて考え抜いたあげく、このまま独り身では さみしいまま一生を終えてしまう。
それならば、イチかバチかオニの館の隣にあるという嫁ごい神社に出向こうと腹をくくりました。

腹をくくれば、一日でも早い方がいい・・
佐吉はさっそく嫁ごい神社に向かいました。

山を3つ超えると嫁ごい神社はすぐにわかりました。
そして、その隣には本当にオニの館がそびえたっていました。

佐吉はおそるおそる嫁ごい神社に近づきました。

なんとか無事にたどり着き、ありったけの持ち金を賽銭箱に投げ入れると、一心不乱に手を合わせて
「どうか、嫁を授けてくんろ・・
どうか、どうかお頼みもうしあげます。」

佐吉が、そう念じているとふいに後ろから青い手がにゅうっ!と伸びてきて首根っこをつかまれてしまいました。

「ひぃぃぃぃ~~。」

佐吉は、心の臓が口から飛び出るほどに驚いてしまいました。

“オニに食われる・・
こりゃ、嫁をもらうめぇにオニの食い扶持になっちまう”

心の中で、佐吉はこの世の終わりとばかりに身体の力が抜けてしまいました。

ところが、後ろで こん棒をガシッと持ち仁王立ちしている青オニが こう言いました。

「なんだ、おまえは・・
嫁ごいに来たのか・・」

「へっ、へぇ・・」

「ほう!そりゃ、度胸のいったことじゃな・・
その肝っ玉に免じて、わしが嫁を授けてやろうか??
どうじゃ??」

佐吉は、食われるとばかりに思っていたので思いもがけない言葉に勝手に口が動いていました。

「おねげぇしますだ・・」

青オニはさらに続けます。

「ほぅ・・覚悟はいいんだな・・」

「へ、へぇ!」
佐吉はもうどうにでもなれという心境でした。

青オニは、こう言いました。
「では、こちらへ・・」

連れていかれたのは青オニの館でした。
青オニはどうやらオニ一族の大将のようでした。

連れていかれた青オニの館に着くと、あっちもこっちも見渡す限りオニだらけです。

赤ちゃんオニから年寄りのオニまで わんさか居ました。

青オニは、佐吉をこれ以上ないほどのきらびやかな部屋に案内しました。

そこには、赤オニとオニではあっても とてもかわいらしいオニが一緒にいました。

そのオニはよく見ると、ほんのりとした桃色で佐吉が部屋に入ると目を伏せポッと頬を赤く染めました。

佐吉はそのかわいらしいオニに一目ぼれしてしまいました。

ポゥ~となっている佐吉に青オニは言いました。

「実はこの子は、わたしたちの娘じゃ。
もう婿をもらってもいい年なのだが、どんなにいいオニ男を連れてきてもウンとは言わぬのだ!
よくよく娘に話を聞いてみると、人間の男とめおとになりたいそうなのだ・・
そんな時におまえを見つけたのさ。
こんな物騒なところまで、嫁ごいにきたお前を見込んでわたしたちの娘を嫁に授けようという訳だ!」

佐吉は、こんな話は今までに聞いたことなどありませんでしたが、青オニの話など うわのそらになっていました。
それほどオニの娘にぞっこんになってしまっていました。

青オニは、続けます。

「この嫁ごい神社に来たからには、どんな嫁でももらう覚悟は出来ていると見た!
まさか今さらイヤとは言わぬな!!」

佐吉は、勢いに押されたこともありますが このオニ娘を嫁に出来るなんて願ってもないことでした。

「へぇ・・嫁にします!」

佐吉は声を大にして言いました。

青オニからはさらに大事なことを伝えられました。

「この娘の名はサナという。
めおとになったからには添い遂げる覚悟で、いつまでもかわいがってくれ・・

それから一つ大事なことを伝えておく。
オニと人間がめおとになったら、三年は誰にも会わせてはいけない。
誰にも会わず、誰にも見られることなく三年が過ぎればオニは人間になることが出来る。

そして、サナが人間の姿になりその後に産まれる子はまぎれもなく人間の赤子だ。生まれながらの人間なのだ・・

それまでの間、なんとかサナを守ってやってくれ。
サナは人間になりたいのだ・・
どんな苦労があっても人間の暮らしを望んでいるのだ。

そんなに人間がいいのかのう・・

わたしにはサナの気持ちがわからぬが・・
一緒にここにおれば、親の元で幸せに暮らせるものを・・」

そこまで聞いた佐吉は大変な責任がおおいかぶさったようで、気軽に嫁にすることを受けてしまい肝が冷えてしまいました。

“もうこうなったら、迷っている場合じゃない!
おらの嫁がようやく見つかったんだ!
オニだろうとなんだろうとかまうもんか!
なんとしてもこのサナと一緒に幸せになるんだ!
もう、さみしいのはイヤだ・・”

決意も固く、佐吉はサナをじっと見つめました。

見つめ返してくれるサナの目にも決意が溢れているようでした。

それからというもの、善は急げと3日後に婚礼の儀がオニの館でとりおこなわれました。
大将の娘の婚礼とあって、それは豪華なものとなりました。

ただ、青オニは婚礼の儀の間中 オイオイと泣き続けていました。

「サナァァ~・・幸せになれよ・・
グズッ!グズッ!
いつでも戻ってきていいからな・・・」

こうして佐吉はめでたくオニ娘のサナと めおとになったのでした。

しかし、二人にとっての本当の苦難はこれからです。

三年間は、誰にもオニの姿を見られることはあってはならないからです。

人間になることはサナの大きな夢なのです。

村に戻った二人は、寄り添いながらも息を潜めひっそりと暮らしました。

佐吉は、これから二人分の食い扶持を稼がなくてはなりません。
朝から晩まで働き続け、貧乏ながらもサナと幸せな日々を過ごしていました。

そんなある日、どこからうわさを聞きつけたのか村の男たちがやってきました。

「お~い佐吉!嫁をもらったそうじゃねぇか・・
祝いを持ってきたぞ!
どれどれ、嫁さまにも会わせておくれよ。」

びっくりした二人は、どうにかしてこの場を取り繕わなければなりません。

サナは頭から布団をかぶって身を隠し、佐吉は入口の戸を開けて外に出ると皆に言いました。

「すまんのぅ・・嫁は身体が弱いんじゃ!
最近ではずっと臥せっておる。そっとしておいてやりたいんじゃ。

それに、ひどく人見知りでな。

だんだん村の暮らしにも慣れてきたら、お披露目もするでな!
しばらくは見守っていてくんろ!」

村の男たちは、とても残念そうに
「そりゃえらい嫁さまをもらったもんじゃ・・
大変じゃのう・・
しかし、やっときてくれた嫁さまじゃ。大事にしておくれ!」
そう言って、お祝いの品をおいて帰っていきました。

佐吉の嫁は、身体が弱く人見知り!

そんな話が広まっていつしか誰も佐吉の家には寄りつかなくなりました。

それでも、二人は念には念をと用心深く日々を過ごしていき、婚礼から二年が過ぎた頃サナが身ごもったことが分かりました。

三年が過ぎれば人間の赤子が産まれる・・

赤子の誕生がサナが嫁いでから三年過ぎるかどうかは、どうにも不確かなところでした。

でも、佐吉は心を決めサナに言いました。

「サナ・・赤子がもしオニの姿で産まれたとしても おらとサナの子にはちげぇねぇ・・
二人で元気な子に育ててやろうな・・」

サナは涙ぐむと、うなずきました。

そして、月日が流れサナが産気づきました。

おりしも今日は婚礼から三年目です。

明日になれば、人間の赤子が産まれる。
でも、今日産まれればオニの姿の赤子が産まれる。

サナは苦しそうに、声をあげ続けています。
その声はだんだん弱弱しくなっていくようです。

佐吉は、これは産婆に来てもらわなければサナの命が危ないと感じました。

「サナ、もういいじゃねぇか・・
サナや赤子がオニのままでも おらは二人の命の方がでぇじだ・・
産婆にきてもらおう・・」

そう言うと、佐吉は産婆の元へ走っていきました。

産婆を連れてくると、家の外までサナの弱弱しく苦しそうな声が聞こえてきました。

急いで佐吉と産婆が家に飛び込んだその時、日がかわったのです。

三年と一日目を迎えたのです。

サナは、人間の姿になっており産婆の手伝いもあって無事に産まれた赤子は佐吉とサナのいいとこどりの愛くるしい女の子でした。

ところが、そのすぐ後二人目が産まれたのです。

こちらは、あの青オニによく似たやんちゃそうな男の子でした。

サナは女の子と男の子の双子を産んだのです。

もちろん、二人とも人間の姿をした赤子です。

佐吉は無事に赤子が産まれたうれしさと、サナの願いを叶えられたことに安堵して涙がとめどなく流れていました。

数日たつと、村の人たちがようやく佐吉の嫁に会えることがわかり、今度は赤子誕生の祝いを持って駆け付けてきました。

佐吉とサナは村人たちに心からお礼を伝え、親子4人での生活を始めました。

そして、子どもが一歳になる頃オニの館に4人で訪れました。

青オニは大喜びで、二人の子どもを赤オニと取り合うように抱きかかえて頬ずりしています。

子ども達は、オニの血を引いているせいか成長が早く、つたない言葉をしゃべり しかもヨチヨチ歩きができるようになっていました。

周りにはオニがいっぱいいるので、子どもたちは大喜び!

「オニちゃん、こっち! オニちゃん、こっち!」と言って、怖がることもなく はしゃいでいます。

佐吉は、あんなにも孤独でさみしかったのに今では多くの家族に囲まれ賑やかすぎる幸せな日々を送ることが出来るようになったのです。

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