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ガラスペンが手に入った日
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「あった……ぁ!!」
世葉は、百均の店内で思わず声を上げてしまった。すかさず商品を手に取り、夢じゃないことを確かめるようにギュッと握ると、パッケージ越しに冷たく固い感触を感じた。
スマホの動画で何度も見て、憧れていた物だった。やっと手に入った。
透明の持ち手の一番先は、螺旋状の溝がくるくると刻まれていて先はそれを纏めるかのようにきゅっと尖っている。憧れ続けたそれは、世葉の目にはキラキラと輝いて見えた。
何度も何度もお店に通っては、ぽっかりと空いた定位置を見てはがっかりして帰るのを繰り返していた。諦めきれずに次こそは……!!と何度も心に誓っては玉砕される日々だったが、とうとう出会うことができた!
世葉が焦がれ続けたガラスペンは、銀色のフックにもう一本だけ残されていた。こちらは、柄の部分に花の模様が入っていた。少し大人っぽいデザインだ。本当はどちらも欲しいけれど、世葉の残りのお金では一本しか買えない。
仕方ない、本体は一本あれば十分。それと必要なものは、インクだ。……だけど、今日の幸運はガラスペンの本体を見つけたことで使い果たしてしまったようだ。ガラスペンの上、インクがあった場所には一色も残っていなかった。
世葉は小さくため息をつき、ガラスペンだけのお金を払うと家へと戻った。
「あっ、おばあちゃん」
世葉は玄関の近くで祖母を見つけると、近づいた。いつも裏の畑で野菜や花を育てている働き者のおばあちゃんだ。
「見て。ガラスペンだよ。やっと買えたんだ」
「そうかい、それは良かったね。どうやって使うんだい?」
世葉はにっこりと笑って答える。
「インクに浸して使うんだよ。これで絵も描けるの」
「世葉は絵を描くのが好きなのかい?」
「うん。……でもね、インクが売り切れてたから絵を描くのはお預けなんだ。今度のお休みに別の百均か大きな文房具のお店に連れて行ってもらう」
両親のどちらかに頼めば、きっと叶えてくれるだろう。入手困難だったガラスペンの本体は手に入れたから、インクはすぐに買えそうな気がしていた。
「……そうかい。おやつを用意しているよ。手を洗っておいで」
おばあちゃんと一緒に世葉は家の中へと入って行った。
そして望み通りお休みの土曜日——、夕方世葉は出かけた時とは真逆の様子で家へと戻ってきた。
ガラスペンのインクは……手に入らなかった。インクがなかったわけではない、文具店にはあったのだがソレはとても高価で世葉のお小遣いでは手が届かないものだった。他の百均にも行ったけど、空の売り場を見るだけで終わっていた。
……こんなにどこにも無いなんて、まるで誰かが意地悪く買い占めているように思えた。世葉の口からはため息が漏れる。玄関先でおばあちゃんに出会った。
「お帰り。インクはあったのかい?」
「お小遣いで買えるインクは無かった……」
世葉はふぅーっとため息を吐き出しながら、家の中へと入る。
インクが手に入るまでは、ガラスペンは使えない。すぐにでもやりたい事は日常の中でよく見つかるが、こうやって『お預け』をさせられることがあった。今は我慢の時なのかなと世葉はぼんやりと考えていた。
世葉に続くように家の中に入ってきた両親は、おばあちゃんに今日の説明を話すとお土産の和菓子を渡していた。
下がった気分をせめて平常心に戻そうと、世葉はスマホのSNSアプリを開いた。そこは文字や絵、写真などでたくさんの人と交流できる場所。世葉の気分を落ち着かせてくれるのは、ある一人の絵師の存在だった。
ふとした時に見た一つのイラストに一目惚れした。人気のアイドルをモデルに描いたとそこには書いてあったがその人物よりもずっとずっと素敵だった。世葉がガラスペンを知るきっかけもこの絵師さんが使用したイラストを投稿されていたから。ガラスペンで描かれたそのイラストも、目を見張るほどに綺麗だった。
こんな作品が描けるようになりたい。
技術を磨いて、世葉もこんな風に表現してみたい。
見ているだけでその世界に引き込まれるような気がして、世葉はいつも癒されていた。イラストの世界に浸っていると現実でノックが響いた。
「なに~?」
ドアを開けるとおばあちゃんが立っていた。
「おばあちゃん? どうしたの?」
「ガラスのそのペンをよく見せて貰ってもいいかい?」
「うん。おばあちゃんもガラスペンに興味があるの?」
世葉は言われた通り、ガラスペンを差し出した。
買った時に一瞬だけ見せたのだけれど、その時のおばあちゃんは興味がなさそうだったけれど。
「ありがと」
おばあちゃんはガラスペンを受け取り、じっと視線を注いでいる。その瞳が一瞬だけきらりと光を放ったような気がした。
「インクを買えたら、おばあちゃんにも貸してあげるね」
おばあちゃんはにっこりと笑った。世葉にガラスペンを返しながら……。
「大丈夫だよ、おばあちゃんは絵を描かないからね。世葉が使いなさい」
と言った。ガラスペンを受け取った世葉は頷いた。おばあちゃんはそれ以上は何も言わずに、黙って部屋を出て行った————。
世葉は、百均の店内で思わず声を上げてしまった。すかさず商品を手に取り、夢じゃないことを確かめるようにギュッと握ると、パッケージ越しに冷たく固い感触を感じた。
スマホの動画で何度も見て、憧れていた物だった。やっと手に入った。
透明の持ち手の一番先は、螺旋状の溝がくるくると刻まれていて先はそれを纏めるかのようにきゅっと尖っている。憧れ続けたそれは、世葉の目にはキラキラと輝いて見えた。
何度も何度もお店に通っては、ぽっかりと空いた定位置を見てはがっかりして帰るのを繰り返していた。諦めきれずに次こそは……!!と何度も心に誓っては玉砕される日々だったが、とうとう出会うことができた!
世葉が焦がれ続けたガラスペンは、銀色のフックにもう一本だけ残されていた。こちらは、柄の部分に花の模様が入っていた。少し大人っぽいデザインだ。本当はどちらも欲しいけれど、世葉の残りのお金では一本しか買えない。
仕方ない、本体は一本あれば十分。それと必要なものは、インクだ。……だけど、今日の幸運はガラスペンの本体を見つけたことで使い果たしてしまったようだ。ガラスペンの上、インクがあった場所には一色も残っていなかった。
世葉は小さくため息をつき、ガラスペンだけのお金を払うと家へと戻った。
「あっ、おばあちゃん」
世葉は玄関の近くで祖母を見つけると、近づいた。いつも裏の畑で野菜や花を育てている働き者のおばあちゃんだ。
「見て。ガラスペンだよ。やっと買えたんだ」
「そうかい、それは良かったね。どうやって使うんだい?」
世葉はにっこりと笑って答える。
「インクに浸して使うんだよ。これで絵も描けるの」
「世葉は絵を描くのが好きなのかい?」
「うん。……でもね、インクが売り切れてたから絵を描くのはお預けなんだ。今度のお休みに別の百均か大きな文房具のお店に連れて行ってもらう」
両親のどちらかに頼めば、きっと叶えてくれるだろう。入手困難だったガラスペンの本体は手に入れたから、インクはすぐに買えそうな気がしていた。
「……そうかい。おやつを用意しているよ。手を洗っておいで」
おばあちゃんと一緒に世葉は家の中へと入って行った。
そして望み通りお休みの土曜日——、夕方世葉は出かけた時とは真逆の様子で家へと戻ってきた。
ガラスペンのインクは……手に入らなかった。インクがなかったわけではない、文具店にはあったのだがソレはとても高価で世葉のお小遣いでは手が届かないものだった。他の百均にも行ったけど、空の売り場を見るだけで終わっていた。
……こんなにどこにも無いなんて、まるで誰かが意地悪く買い占めているように思えた。世葉の口からはため息が漏れる。玄関先でおばあちゃんに出会った。
「お帰り。インクはあったのかい?」
「お小遣いで買えるインクは無かった……」
世葉はふぅーっとため息を吐き出しながら、家の中へと入る。
インクが手に入るまでは、ガラスペンは使えない。すぐにでもやりたい事は日常の中でよく見つかるが、こうやって『お預け』をさせられることがあった。今は我慢の時なのかなと世葉はぼんやりと考えていた。
世葉に続くように家の中に入ってきた両親は、おばあちゃんに今日の説明を話すとお土産の和菓子を渡していた。
下がった気分をせめて平常心に戻そうと、世葉はスマホのSNSアプリを開いた。そこは文字や絵、写真などでたくさんの人と交流できる場所。世葉の気分を落ち着かせてくれるのは、ある一人の絵師の存在だった。
ふとした時に見た一つのイラストに一目惚れした。人気のアイドルをモデルに描いたとそこには書いてあったがその人物よりもずっとずっと素敵だった。世葉がガラスペンを知るきっかけもこの絵師さんが使用したイラストを投稿されていたから。ガラスペンで描かれたそのイラストも、目を見張るほどに綺麗だった。
こんな作品が描けるようになりたい。
技術を磨いて、世葉もこんな風に表現してみたい。
見ているだけでその世界に引き込まれるような気がして、世葉はいつも癒されていた。イラストの世界に浸っていると現実でノックが響いた。
「なに~?」
ドアを開けるとおばあちゃんが立っていた。
「おばあちゃん? どうしたの?」
「ガラスのそのペンをよく見せて貰ってもいいかい?」
「うん。おばあちゃんもガラスペンに興味があるの?」
世葉は言われた通り、ガラスペンを差し出した。
買った時に一瞬だけ見せたのだけれど、その時のおばあちゃんは興味がなさそうだったけれど。
「ありがと」
おばあちゃんはガラスペンを受け取り、じっと視線を注いでいる。その瞳が一瞬だけきらりと光を放ったような気がした。
「インクを買えたら、おばあちゃんにも貸してあげるね」
おばあちゃんはにっこりと笑った。世葉にガラスペンを返しながら……。
「大丈夫だよ、おばあちゃんは絵を描かないからね。世葉が使いなさい」
と言った。ガラスペンを受け取った世葉は頷いた。おばあちゃんはそれ以上は何も言わずに、黙って部屋を出て行った————。
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