みんなあたまがおかしいようです

尾持ち

文字の大きさ
3 / 29

とびおり

しおりを挟む
「君の友達が、二階の女子トイレから飛び降り自殺したよね? 俺に振られたのが原因で」

 そこまで言って、先輩は数秒の間を挟んだ。明らかに、私の反応を窺うためのものだった。そしてその後に付け加える。

「ああでも、一命は取り留めたから、自殺未遂が正しいのかな? 意識は戻ってないみたいだけど。意識不明の重体。こういう時に使うんだね」

 何でもないことのように彼が言う。いや、本当に彼にとっては何でもないことなのかもしれない。自分自身の手で起こした今までの問題に比べれば。だって、彼が直接彼女を殺したわけじゃないのだ。
 頭の中に、彼女の姿が自然と思い出される。黒い髪をボブにして、クラスで一番短いスカート丈にしていたあの子。

「遺書は見つかってない。それまでの生活態度から見ても、自殺するような心当たりなんてなかった。ただ、飛び降りする直前の昼休みに、あの子は俺に告白してきた。俺がそれを振ったのが、おそらく原因なんだろうって、ケーサツの人も先生もみんながそう言ってる」
「ひどいですね。高校二年生の子供に、お前が原因だって大人が寄ってたかって突きつけるなんて」
「え。というか君はどうなのさ。お友達が死んだわけだけど」
「まだ生きています」
「いやまあね。でも、自分で死のうとした。『私には何の相談も無かった。私はあの子の友達でいたつもりなのに。悲しいなーーーーー』みたいな気持ちはないの?」

 わざとらしく、煽るように語尾を伸ばして彼が言う。

「さあ」
「君たち、ずいぶん仲が良かったんだってね。いつでもべったり。二人組で」
「ええ」
「ちょっと整理しようか。事件当日、昼休みにご飯を食べ終わってすぐ、あの子は俺に告白しに行った。君は教室に残って一人で過ごしてた。昼休みが終わってもその子は帰ってこない。授業が始まっても机は空席のままなので、先生はさすがに訝しんで『野分のわきがどこ行ったのか知らないのか、巣守すもり』って聞いた。君はそれに『分かりません』と答えた」
「はい」
「普段、授業を抜け出してサボるような子じゃなかったから、みんな不思議に思いながらも、そのまま授業を続けた。帰りのホームルームになってもやっぱりその子は居ないから、ようやく先生たちも何かあったのかと疑い始めたんだよね」
「……」
「先生は一番仲が良かった君に、『LINEで連絡を取ってみて欲しい。もし野分から連絡が来たら学校に知らせてくれ』と言って、本格的に捜索を始めた。いや、まだそこまで真剣じゃなかったかな。知らせを受けた親御さんから警察が寄こされて、ようやくあの子は見つかった。使われてない空き教室の、ベランダ部分に倒れてたから見つかるのが遅れたんだっけね。でも午後四時半だかには見つかったからまだいい方じゃない?」
「見てきたように言うんですね」
「そりゃ、ケーサツの人に事情とか聞かれてる間、いろいろ説明されましたから」

 おどけてそう言いながら、先輩は背中を軽く丸めて、こちらを下から覗き込むような姿勢になる。なにかを探るような目をしていた。
 自分の友達が死を選んだ原因の男と、こんな風に対面してさして動揺もしていない私が、奇妙に見えるのかもしれない。いや、奇妙というより、物珍しい、の方だろうか。

「実は俺も、告られる前からちょっとは知ってたんだよね。君たち二人のこと。廊下でたまに見かけて、なんか印象に残ってた。飛び降りた子の方が、君によくまとわりついてたんだっけ」
「ええ、まあ」
「俺は女の子の友情とかグループっていうものがよく分からないけどさ、嫌になるもんじゃないの?いっつも同じ子と二人っきりでベタベタしてるとさ。逃げ場ないじゃん」
「そう言う先輩は友達いないじゃないですか」
「あっははははは!」

 彼の言う通り、私とあの子は友達だった。いつも二人組で行動していた。お昼は二人で机をくっつけ合って食べたし、移動教室もその子と一緒だった。けど、他のクラスメイトからハブられてたってわけでもないので、私が他の子とお喋りしてるところにあの子が後から入ってくるとか、そういうことも普通にあった。反対に、その子が他の子と絡んでる姿もよく見たし。ちゃんと他の子たちとも、社交していたと思う。
 女子でいつも二人組で行動してる子って、排他的な感じがして近寄りがたいこともあるけれど、私たちは、まあ、うまくやっていた方なんじゃないだろうか。

「悲しくはないです」

 私はさっきの質問に答えてあげた。

「あの子が死んでたら、悲しくなってたかもしれません。飛び降りたって聞いてすぐは、すごく焦りましたし。でも、なんていうか、最悪な事態は免れたわけじゃないですか。そのおかげで、平静を保ててるっていうか、悲しくないんだと思います」
「これから一生植物状態かもしれないけどね」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。

東野あさひ
恋愛
「好きって言ってないのに、なんでバレてるんだよ!?」 ──平凡な男子高校生・真嶋蒼汰の一言から、すべての誤解が始まった。 購買で「好きなパンは?」と聞かれ、「好きです!」と答えただけ。 それなのにStarChat(学園SNS)では“告白事件”として炎上、 いつの間にか“七瀬ひよりと両想い”扱いに!? 否定しても、弁解しても、誤解はどんどん拡散。 気づけば――“誤解”が、少しずつ“恋”に変わっていく。 ツンデレ男子×天然ヒロインが織りなす、SNS時代の爆笑すれ違いラブコメ! 最後は笑って、ちょっと泣ける。 #誤解が本当の恋になる瞬間、あなたもきっとトレンド入り。

ある日、憧れブランドの社長が溺愛求婚してきました

蓮恭
恋愛
 恋人に裏切られ、傷心のヒロイン杏子は勤め先の美容室を去り、人気の老舗美容室に転職する。  そこで真面目に培ってきた技術を買われ、憧れのヘアケアブランドの社長である統一郎の自宅を訪問して施術をする事に……。  しかも統一郎からどうしてもと頼まれたのは、その後の杏子の人生を大きく変えてしまうような事で……⁉︎  杏子は過去の臆病な自分と決別し、統一郎との新しい一歩を踏み出せるのか?   【サクサク読める現代物溺愛系恋愛ストーリーです】

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...