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とびおり
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「君の友達が、二階の女子トイレから飛び降り自殺したよね? 俺に振られたのが原因で」
そこまで言って、先輩は数秒の間を挟んだ。明らかに、私の反応を窺うためのものだった。そしてその後に付け加える。
「ああでも、一命は取り留めたから、自殺未遂が正しいのかな? 意識は戻ってないみたいだけど。意識不明の重体。こういう時に使うんだね」
何でもないことのように彼が言う。いや、本当に彼にとっては何でもないことなのかもしれない。自分自身の手で起こした今までの問題に比べれば。だって、彼が直接彼女を殺したわけじゃないのだ。
頭の中に、彼女の姿が自然と思い出される。黒い髪をボブにして、クラスで一番短いスカート丈にしていたあの子。
「遺書は見つかってない。それまでの生活態度から見ても、自殺するような心当たりなんてなかった。ただ、飛び降りする直前の昼休みに、あの子は俺に告白してきた。俺がそれを振ったのが、おそらく原因なんだろうって、ケーサツの人も先生もみんながそう言ってる」
「ひどいですね。高校二年生の子供に、お前が原因だって大人が寄ってたかって突きつけるなんて」
「え。というか君はどうなのさ。お友達が死んだわけだけど」
「まだ生きています」
「いやまあね。でも、自分で死のうとした。『私には何の相談も無かった。私はあの子の友達でいたつもりなのに。悲しいなーーーーー』みたいな気持ちはないの?」
わざとらしく、煽るように語尾を伸ばして彼が言う。
「さあ」
「君たち、ずいぶん仲が良かったんだってね。いつでもべったり。二人組で」
「ええ」
「ちょっと整理しようか。事件当日、昼休みにご飯を食べ終わってすぐ、あの子は俺に告白しに行った。君は教室に残って一人で過ごしてた。昼休みが終わってもその子は帰ってこない。授業が始まっても机は空席のままなので、先生はさすがに訝しんで『野分がどこ行ったのか知らないのか、巣守』って聞いた。君はそれに『分かりません』と答えた」
「はい」
「普段、授業を抜け出してサボるような子じゃなかったから、みんな不思議に思いながらも、そのまま授業を続けた。帰りのホームルームになってもやっぱりその子は居ないから、ようやく先生たちも何かあったのかと疑い始めたんだよね」
「……」
「先生は一番仲が良かった君に、『LINEで連絡を取ってみて欲しい。もし野分から連絡が来たら学校に知らせてくれ』と言って、本格的に捜索を始めた。いや、まだそこまで真剣じゃなかったかな。知らせを受けた親御さんから警察が寄こされて、ようやくあの子は見つかった。使われてない空き教室の、ベランダ部分に倒れてたから見つかるのが遅れたんだっけね。でも午後四時半だかには見つかったからまだいい方じゃない?」
「見てきたように言うんですね」
「そりゃ、ケーサツの人に事情とか聞かれてる間、いろいろ説明されましたから」
おどけてそう言いながら、先輩は背中を軽く丸めて、こちらを下から覗き込むような姿勢になる。なにかを探るような目をしていた。
自分の友達が死を選んだ原因の男と、こんな風に対面してさして動揺もしていない私が、奇妙に見えるのかもしれない。いや、奇妙というより、物珍しい、の方だろうか。
「実は俺も、告られる前からちょっとは知ってたんだよね。君たち二人のこと。廊下でたまに見かけて、なんか印象に残ってた。飛び降りた子の方が、君によくまとわりついてたんだっけ」
「ええ、まあ」
「俺は女の子の友情とかグループっていうものがよく分からないけどさ、嫌になるもんじゃないの?いっつも同じ子と二人っきりでベタベタしてるとさ。逃げ場ないじゃん」
「そう言う先輩は友達いないじゃないですか」
「あっははははは!」
彼の言う通り、私とあの子は友達だった。いつも二人組で行動していた。お昼は二人で机をくっつけ合って食べたし、移動教室もその子と一緒だった。けど、他のクラスメイトからハブられてたってわけでもないので、私が他の子とお喋りしてるところにあの子が後から入ってくるとか、そういうことも普通にあった。反対に、その子が他の子と絡んでる姿もよく見たし。ちゃんと他の子たちとも、社交していたと思う。
女子でいつも二人組で行動してる子って、排他的な感じがして近寄りがたいこともあるけれど、私たちは、まあ、うまくやっていた方なんじゃないだろうか。
「悲しくはないです」
私はさっきの質問に答えてあげた。
「あの子が死んでたら、悲しくなってたかもしれません。飛び降りたって聞いてすぐは、すごく焦りましたし。でも、なんていうか、最悪な事態は免れたわけじゃないですか。そのおかげで、平静を保ててるっていうか、悲しくないんだと思います」
「これから一生植物状態かもしれないけどね」
そこまで言って、先輩は数秒の間を挟んだ。明らかに、私の反応を窺うためのものだった。そしてその後に付け加える。
「ああでも、一命は取り留めたから、自殺未遂が正しいのかな? 意識は戻ってないみたいだけど。意識不明の重体。こういう時に使うんだね」
何でもないことのように彼が言う。いや、本当に彼にとっては何でもないことなのかもしれない。自分自身の手で起こした今までの問題に比べれば。だって、彼が直接彼女を殺したわけじゃないのだ。
頭の中に、彼女の姿が自然と思い出される。黒い髪をボブにして、クラスで一番短いスカート丈にしていたあの子。
「遺書は見つかってない。それまでの生活態度から見ても、自殺するような心当たりなんてなかった。ただ、飛び降りする直前の昼休みに、あの子は俺に告白してきた。俺がそれを振ったのが、おそらく原因なんだろうって、ケーサツの人も先生もみんながそう言ってる」
「ひどいですね。高校二年生の子供に、お前が原因だって大人が寄ってたかって突きつけるなんて」
「え。というか君はどうなのさ。お友達が死んだわけだけど」
「まだ生きています」
「いやまあね。でも、自分で死のうとした。『私には何の相談も無かった。私はあの子の友達でいたつもりなのに。悲しいなーーーーー』みたいな気持ちはないの?」
わざとらしく、煽るように語尾を伸ばして彼が言う。
「さあ」
「君たち、ずいぶん仲が良かったんだってね。いつでもべったり。二人組で」
「ええ」
「ちょっと整理しようか。事件当日、昼休みにご飯を食べ終わってすぐ、あの子は俺に告白しに行った。君は教室に残って一人で過ごしてた。昼休みが終わってもその子は帰ってこない。授業が始まっても机は空席のままなので、先生はさすがに訝しんで『野分がどこ行ったのか知らないのか、巣守』って聞いた。君はそれに『分かりません』と答えた」
「はい」
「普段、授業を抜け出してサボるような子じゃなかったから、みんな不思議に思いながらも、そのまま授業を続けた。帰りのホームルームになってもやっぱりその子は居ないから、ようやく先生たちも何かあったのかと疑い始めたんだよね」
「……」
「先生は一番仲が良かった君に、『LINEで連絡を取ってみて欲しい。もし野分から連絡が来たら学校に知らせてくれ』と言って、本格的に捜索を始めた。いや、まだそこまで真剣じゃなかったかな。知らせを受けた親御さんから警察が寄こされて、ようやくあの子は見つかった。使われてない空き教室の、ベランダ部分に倒れてたから見つかるのが遅れたんだっけね。でも午後四時半だかには見つかったからまだいい方じゃない?」
「見てきたように言うんですね」
「そりゃ、ケーサツの人に事情とか聞かれてる間、いろいろ説明されましたから」
おどけてそう言いながら、先輩は背中を軽く丸めて、こちらを下から覗き込むような姿勢になる。なにかを探るような目をしていた。
自分の友達が死を選んだ原因の男と、こんな風に対面してさして動揺もしていない私が、奇妙に見えるのかもしれない。いや、奇妙というより、物珍しい、の方だろうか。
「実は俺も、告られる前からちょっとは知ってたんだよね。君たち二人のこと。廊下でたまに見かけて、なんか印象に残ってた。飛び降りた子の方が、君によくまとわりついてたんだっけ」
「ええ、まあ」
「俺は女の子の友情とかグループっていうものがよく分からないけどさ、嫌になるもんじゃないの?いっつも同じ子と二人っきりでベタベタしてるとさ。逃げ場ないじゃん」
「そう言う先輩は友達いないじゃないですか」
「あっははははは!」
彼の言う通り、私とあの子は友達だった。いつも二人組で行動していた。お昼は二人で机をくっつけ合って食べたし、移動教室もその子と一緒だった。けど、他のクラスメイトからハブられてたってわけでもないので、私が他の子とお喋りしてるところにあの子が後から入ってくるとか、そういうことも普通にあった。反対に、その子が他の子と絡んでる姿もよく見たし。ちゃんと他の子たちとも、社交していたと思う。
女子でいつも二人組で行動してる子って、排他的な感じがして近寄りがたいこともあるけれど、私たちは、まあ、うまくやっていた方なんじゃないだろうか。
「悲しくはないです」
私はさっきの質問に答えてあげた。
「あの子が死んでたら、悲しくなってたかもしれません。飛び降りたって聞いてすぐは、すごく焦りましたし。でも、なんていうか、最悪な事態は免れたわけじゃないですか。そのおかげで、平静を保ててるっていうか、悲しくないんだと思います」
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