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こくばん
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「急に調子づいてきたじゃん。うざいんだけど。もしかして、俺のこと疑ってる? 俺がひどいことでも言って、それが自殺の原因になったんじゃないかって」
痛いくらいの沈黙が、教室を満たしていた。私は先輩の視線が注がれているのを感じながら、依然として床ばかり見続けていた。埃と、どこからか入り込んできた砂利でうすっらと覆われた床を。
「俺が自殺の後押しをしたって証拠が欲しい? こっそりボイスメモでも回してるのかな」
「……してないです」
「本当かなあ」
「調べてみてもいいですよ。スマホだけじゃなくて、盗聴器とかをポケットに入れてないのかも」
「身体検査してもいいってこと?」
私は細心の注意を払って、視線をやや上に上げた。先輩の、口元までが視界に入る。彼と目を合わせる勇気はまだなかった。薄い唇が、軽薄な笑みを浮かべてそこにある。ついさっきまで声を荒げていたとは少しも思えない。
不意に、彼がため息をついた。ゆっくりと長く、この部屋を満たした静けさをほどくように。
「さっきさあ、警察に事情聞かれたって言ったじゃん? それで俺は最終的に、まあ間接的な原因かもしれないけど無罪放免ってなったわけだ。警察も先生も、最後にはあらかた説明してくれた。当日あったこととかね。他生徒から聞き出した話も全部教えてくれたと思う。だから俺も、あの子が自殺未遂するに至った流れは全部知ったつもりでいたんだけどさ……」
貌鳥先輩が、制服のポケットを探る。私は手足の先まで緊張しながら、じっとその様子を上目で窺っていた。
低く静かな声で話してはいるものの、さっき感じられたような苛立った様子は感じられない。その代わり、どこか気だるげな雰囲気がその話し方にあった。
「知っちゃったんだよね、それらしい別の理由」
スマホを取り出して、何度か操作した後に彼はそれを机の上に投げた。机上を滑って、私の前にたどりつく。
「見ていいよ、菜乃ちゃん」
私は爆発物にでも触るように、おそるおそるそのスマホを両手で持った。何かの画像が、映し出されている。
「……」
それは、黒板を撮った画像だった。周囲に映りこんでいる備品を見れば、それが私たちのクラスのものであると分かった。
──でも、それとは別に、これが私たちの教室の黒板であると証明するものがある。
私の記憶に強くこびりついた、あの文字列。
黒板いっぱいを埋め尽くすように、チョークで何かが書かれている。白、赤、黄色をふんだんに使って、周囲には星やハートの絵なんかも散らしながら。誰かに見せることを意識した、まるでお誕生日の飾りつけのように、不気味なほど装飾された字で、こう書かれていた。
「さやかちゃん センパイに告白 がんばってね!!」
「君のクラスの子にこの画像、回してもらったんだよね」
「……」
「朝来たら、こんなものが黒板に書かれてたんだって? 野分さやか──俺に告白してきたあの子に向けた言葉だよね」
「はい」
「これ見てさ、青春~~~って思うような性格……」
「……」
「してないよねえ。やっぱ」
彼の言う通りだった。それは一見すると、卒業式の日に教室の黒板に書かれるような、「みんな今までありがとう!」とか「卒業しても友達でいようね!」と同じ種類のものに思えるだろう。
しかし冷静に考えれば分かるはずだ、誰を好きで嫌いなのか、告白だとか何だとか、そういう内密なことを、大声で触れ回るみたいに書くことがどれだけ悪意に満ちた行為であるかを。
特に、中央に鎮座した「センパイ」。色とりどりのチョークで華やかに書かれているはずのそれから、黒々とした底無しの悪意が、滲み出ているかのように思えた。
痛いくらいの沈黙が、教室を満たしていた。私は先輩の視線が注がれているのを感じながら、依然として床ばかり見続けていた。埃と、どこからか入り込んできた砂利でうすっらと覆われた床を。
「俺が自殺の後押しをしたって証拠が欲しい? こっそりボイスメモでも回してるのかな」
「……してないです」
「本当かなあ」
「調べてみてもいいですよ。スマホだけじゃなくて、盗聴器とかをポケットに入れてないのかも」
「身体検査してもいいってこと?」
私は細心の注意を払って、視線をやや上に上げた。先輩の、口元までが視界に入る。彼と目を合わせる勇気はまだなかった。薄い唇が、軽薄な笑みを浮かべてそこにある。ついさっきまで声を荒げていたとは少しも思えない。
不意に、彼がため息をついた。ゆっくりと長く、この部屋を満たした静けさをほどくように。
「さっきさあ、警察に事情聞かれたって言ったじゃん? それで俺は最終的に、まあ間接的な原因かもしれないけど無罪放免ってなったわけだ。警察も先生も、最後にはあらかた説明してくれた。当日あったこととかね。他生徒から聞き出した話も全部教えてくれたと思う。だから俺も、あの子が自殺未遂するに至った流れは全部知ったつもりでいたんだけどさ……」
貌鳥先輩が、制服のポケットを探る。私は手足の先まで緊張しながら、じっとその様子を上目で窺っていた。
低く静かな声で話してはいるものの、さっき感じられたような苛立った様子は感じられない。その代わり、どこか気だるげな雰囲気がその話し方にあった。
「知っちゃったんだよね、それらしい別の理由」
スマホを取り出して、何度か操作した後に彼はそれを机の上に投げた。机上を滑って、私の前にたどりつく。
「見ていいよ、菜乃ちゃん」
私は爆発物にでも触るように、おそるおそるそのスマホを両手で持った。何かの画像が、映し出されている。
「……」
それは、黒板を撮った画像だった。周囲に映りこんでいる備品を見れば、それが私たちのクラスのものであると分かった。
──でも、それとは別に、これが私たちの教室の黒板であると証明するものがある。
私の記憶に強くこびりついた、あの文字列。
黒板いっぱいを埋め尽くすように、チョークで何かが書かれている。白、赤、黄色をふんだんに使って、周囲には星やハートの絵なんかも散らしながら。誰かに見せることを意識した、まるでお誕生日の飾りつけのように、不気味なほど装飾された字で、こう書かれていた。
「さやかちゃん センパイに告白 がんばってね!!」
「君のクラスの子にこの画像、回してもらったんだよね」
「……」
「朝来たら、こんなものが黒板に書かれてたんだって? 野分さやか──俺に告白してきたあの子に向けた言葉だよね」
「はい」
「これ見てさ、青春~~~って思うような性格……」
「……」
「してないよねえ。やっぱ」
彼の言う通りだった。それは一見すると、卒業式の日に教室の黒板に書かれるような、「みんな今までありがとう!」とか「卒業しても友達でいようね!」と同じ種類のものに思えるだろう。
しかし冷静に考えれば分かるはずだ、誰を好きで嫌いなのか、告白だとか何だとか、そういう内密なことを、大声で触れ回るみたいに書くことがどれだけ悪意に満ちた行為であるかを。
特に、中央に鎮座した「センパイ」。色とりどりのチョークで華やかに書かれているはずのそれから、黒々とした底無しの悪意が、滲み出ているかのように思えた。
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