みんなあたまがおかしいようです

尾持ち

文字の大きさ
7 / 29

しょうげん

しおりを挟む
「話を戻しますけど」

 私はそう言った。本当は戻したくなんてなかったけど、そうでもしないとこのお喋りがいつまでも終わりそうになかったから。
 そもそもとして、彼は何の目的があって、私を呼び出してお喋りを続けているのか。自分が自殺の後押しをしたという疑いを、彼女の親友にだけは晴らしておきたかったから?
 
「先輩が言った『別の理由』って、このことなんですか?」

 「知っちゃったんだよね、それらしい別の」と言って、彼はこの画像を見せてきた。机の上に置かれたままの、スマホを伏し目で見つめたまま私はそう訊ねる。画面には未だ、あの黒板が映し出されていた。こうやって遠目から見ると、やっぱり卒業式とか誕生日によくやるような黒板アートと同じものに見えてくる。

「うん」
「これが自殺の原因になったと」
「自殺に追い込むほどじゃないって言いたいんだ?」

 先輩がスマホを手に取る。ポケットにはすぐに仕舞わずに、そのまま手の中でもてあそんでいた。

「そりゃ、ブスとか死ねとか、直接的な言葉は書かれてないけどさ」
「……」
「でも、これが原因の一端かもしれないくらいのことは思ってたよね? だってそうじゃなきゃ……先生や警察に事情聴取されてもまだ、この嫌がらせのことを伏せてるんだから」

 先輩が、またスマホを机の上に投げ捨てた。机とスマホがぶつかり合う音が、やけに大きく部屋に響いた。

「なんで黙ってたの?」
「それは……」
「君だけじゃなくて、他にも聞き取りされてたクラスの子たちにも言えるけど」
「蒸し返したくなかったんです」
「起こった当日でさえ知らせてなかったのに、今さら話しても混乱させるだけだって?」
「はい」
「あの嫌がらせの後もクラスで特別いじめが起こることはなかった。だからあの自殺の原因であるとは思えない。後ろめたくはあるけど、これ以上自殺未遂のことで疑いをかけられるのは嫌だった──そんな感じかな?」

 彼の指摘の通りだった。
 私は何となく、あの悪戯が自殺の要因であったかもしれないと思いながらも──結局は大人たちに教えなかった。
 実際のところ、うんざりしていたのだ。今まで普通に生活していたのに、それが一変して短縮授業やらでバタバタして、警察からの聞き取りに応じなければならない。一度呼び出され、自分の知っていることを全部話し終わりホッとしたかと思えば、現場検証した結果別の可能性が浮上したから、とまた別室で聞き取りに応じるように言われる。ほんの数分で終わるような些細な確認についてもだ。
 飛び降りがあった当日は、野次馬根性というべきか、不謹慎だと思いながらもこの異様な状況を楽しんでいるような空気がクラスにはあった。

 今は、違う。
 正直に言ってしまえば、みんなうんざりしていた。早く終わって欲しいと思っていた。他のクラスからの好奇の目、教室に充満する張りつめた空気。今冷静に思い返してみると、当時クラスのみんなは、こんな風に思っていただろう。
「あいつが勝手にやったことなのに」
「野分さやかが、勝手に告白して勝手に傷ついて、勝手に飛び降りただけだ」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。

【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。

東野あさひ
恋愛
「好きって言ってないのに、なんでバレてるんだよ!?」 ──平凡な男子高校生・真嶋蒼汰の一言から、すべての誤解が始まった。 購買で「好きなパンは?」と聞かれ、「好きです!」と答えただけ。 それなのにStarChat(学園SNS)では“告白事件”として炎上、 いつの間にか“七瀬ひよりと両想い”扱いに!? 否定しても、弁解しても、誤解はどんどん拡散。 気づけば――“誤解”が、少しずつ“恋”に変わっていく。 ツンデレ男子×天然ヒロインが織りなす、SNS時代の爆笑すれ違いラブコメ! 最後は笑って、ちょっと泣ける。 #誤解が本当の恋になる瞬間、あなたもきっとトレンド入り。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ある日、憧れブランドの社長が溺愛求婚してきました

蓮恭
恋愛
 恋人に裏切られ、傷心のヒロイン杏子は勤め先の美容室を去り、人気の老舗美容室に転職する。  そこで真面目に培ってきた技術を買われ、憧れのヘアケアブランドの社長である統一郎の自宅を訪問して施術をする事に……。  しかも統一郎からどうしてもと頼まれたのは、その後の杏子の人生を大きく変えてしまうような事で……⁉︎  杏子は過去の臆病な自分と決別し、統一郎との新しい一歩を踏み出せるのか?   【サクサク読める現代物溺愛系恋愛ストーリーです】

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...